2話:謁見
礼暦錬達は馬車に揺られ神殿から王城まで移動する。
神殿は王城のある場所から少し離れた場所に設けられており、馬車でも4時間程かかる。
神殿はまさに神殿といった建物で、古代ローマを思わせる石造りだった。正確には、神殿ではなく、魔術師達が使う聖域みたいなものらしい。この建物は魔力が増幅される作りになっている。そのため、魔術師達が大きな魔術を執り行う際によく使用されているそうだ。
馬車が王城に到着する。その頃には、皆顔が真っ青だった。
なにせ、この国の道は舗装されていない。その上を、木製の車輪で出来た馬車が走るのだから揺れも多い。
最先端な自動車に慣れ親しんだ現代っ子にはかなりきつい乗り物である。
真っ青な顔で、宮廷魔術師団の団長である男について歩く。
大きな門をくぐり、何段あるか分からない階段を登り、長い廊下を抜けてようやく目的の場所へ到着する。
大きな扉の前には、二人の鎧を着た男が立っている。鎧は西洋の甲冑に似ている。色はややくすんだ銀色で、長い槍と斧を足して二で割ったような武器を持っている。
「サビエロ魔術師団長、要件をお願いします。」
扉の前に差し掛かると、長い武器を二人が交差させ、宮廷魔術師団長に声をかける。
この団長はサビエロと言うらしい。ファーストネームはフランシスコだろうか。
「先の早馬にて伝えた通り、例の召喚術にて召喚した者達を連れてきた。国王との謁見を要求する。」
ザビエロは威厳ある声でそう兵士に告げる。どうやら、礼暦錬達が来るより前に、伝達されているようで、スムーズに謁見の間に入ることができた。
先程の問は一応形式的に必要なのだろう。
謁見の間は、体育館程ある部屋の真ん中に赤い絨毯が惹かれている。その先には階段があり、玉座がある。
左右の壁際には、先程扉の前に居た兵士達と同じ格好をした兵士達が一列に並んでいた。
良く、アニメなどで見る謁見の間その物である。
「国王が来られるまでお待ち下さい。くれぐれも無礼のないように。」
ザビエロは緊張した面持ちで礼暦錬達にそういうと、スッと玉座の方へ向き直り何かに意識を集中し始めた。
10分程経過した頃だろうか。玉座の裏から男が現れた。
仕立ての良い服にきらびやかな装飾がなされ、マントがついている。
腰にある剣にも宝石による装飾がなされていて、見るからに高価な物だ。
金髪で男にしては長めの肩まである髪をオールバックにまとめており、毛先のみ、少しウェーブがかかっているようだ。
年齢で言うと30代後半くらいだろうか?。国王と言う割に若く思える。日本の総理大臣にこんな若いのいなかっただろう。
国王が現れた瞬間、サビエロは膝をついて頭を下げた。それは、国王が、サビエロを視界に入れた時には、すでに頭が下がっていただろう。これのために先ほどまでの凄まじい集中をしていたのか。
「ふん……。サビエロ、面をあげよ。」
国王は玉座に腰をかけると、ザビエルに向かって威厳ある声で告げた。
「その者達はなんだ?サビエロ。報告を許可する。」
「はっ!」
国王には、事前に報告があったはずだ。サビエロがなぜ此処に居るのかは知っている。そして、サビエロが連れてきた礼暦錬達が何者なのかも知っているだろう。
それでもあえて報告させるのは、形式的なものなのか、それとも、国王が想定していた結果と違っていたのか。
国王の許可に、サビエロが返事を返し発言する。
「キースベル国王の指示通り、聖域にて召喚術を使用しました。今までにない、大量の人員と魔力を用いての召喚した結果。この者達が今回の大厄災の『助け人』として召喚されました。しかし、彼らは、自らをただの学生であり、力ないものだと言っています。助け人が助け人としての自覚無いまま召喚されたことは今だかつてありません。そのため、キースベル国王の指示を仰ぎたいと思い、この様な謁見の席をお願い致しました。」
キースベルとは、目の前の国王のことのようだ。この口ぶりでは、過去の大厄災でも同じ様に召喚を行い、その度に『助け人』なる者達に助けてもらっていたようだ。
「それは、真か?」
キースベルはサビエロの後ろ、生徒達に向けて問を発した。礼暦錬はキースベルと目があった気がした。気の所為だろうけど。
「はい。本当です。」
キースベルの問に裕樹が答える。
「僕たちは、そこに並んでいる兵士達より弱い一般の人間です。」
裕樹は謁見の間に並んでいる兵士を視線で指し、話を続ける。
「今回の召喚とやらは失敗して僕たちを召喚してしまったのでしょう。ですから、僕たちを元に戻すよう指示を出してくれませんか?」
裕樹は、石造りの聖域でクラスメイト(主に極虎)に話した通り事を進める。これで、すぐに返すと言う指示を出せばそれで良し。もし、返さないと言う事なら極虎が好きなように暴れると言う内容だ。
極虎は初めは乗り気では無かったが、自分勝手にこんな所につれてきた黒幕の顔に一発ぶちかましたくないか?と言う誘い文句にまんまと乗って現在に至る。
「ふむ。なるほどな。だが、それは出来ん。」
裕樹の提案を聞いたキースベルは即否定した。
それを聞いた瞬間、1人の人物が立ち上がる。
「その言葉待ってたぞクソ野郎っ!!!」
極虎だ。
キースベルの否定を聞いた瞬間、玉座に向かって駆け出した。
「どけっ!!!」
兵士達が、極虎が王に触れることがないように壁を作る。
そこに極虎が突っ込んだ。
ドンッ!!!
「ぐぁっ!」
極虎が兵士に突っ込んだ瞬間、ぶつかった兵士がものすごい勢いで吹っ飛んでいき、壁に亀裂を入れて床に落ちた。
「なんだよ…これ……。」
その光景を見て、最もショックを受けていたのは極虎自身だった。
極虎は兵士たちを見て、いくら自分でも勝てないと思っていた。
だからこそ、少しでも相手が嫌な思いをするように大暴れしてやるつもりだった。
それが、突進しただけで人間が吹っ飛んだ。そんな力が無いことは自分が一番知っていたのだから。
「やはり、そなたらは助け人なようだな。」
その光景を見て、国王は顔色一つ変えることなく言った。
さも、起きて当然の出来事を見たかのようだ。
「そなたらは、自身の力を理解していないようだ。鑑定の用意をせよ。」
キースベルはそう告げると、玉座の裏に消えた。