1話:異世界召喚
礼暦錬達は、国王が座る玉座の前に座っていた。正確には跪いていたと言うべきだろうか。
こんな事になったのは、あの地震の後、目がさめると神殿のような場所に居たのが原因である。いや、その神殿のような場所に連れて来られるための地震か?
————————————————————
数時間前
「んっ…。」
目の前が真っ暗になり意識が途絶えた後、冷たく硬い床で目を覚ました。
「ここどこ!?」
「なんだよこれ!どうなってんだ!?」
「……ひっく…お家…帰して……。」
先に目覚めたクラスメイト達もそれぞれ困惑を口にしている。
「……何処だ…ここ……。」
礼暦錬もつい、口から漏れる。
他のクラスメイトの様に騒いだりはしない。しかし、いきなり知らない場所に居る。これは恐怖以外の何者でもない。
有名な映画で修学旅行に行くバスで眠らされ、気がつくと有名映画監督に「殺し合いをしてもらいます。」なんて言われる作品を知っているだけに、もしかしたら。と思ってしまうのだ。
周りを見渡すと、そこはRPGにでも出てきそうな、石造りの広い部屋だった。正に神殿と言った所だろう。
そこに、法衣の様な物を着ている男たちが数十人立っている。
彼らも表情は困惑している。
「全員、落ち着くんだ!」
クラスメイトの殆どが目覚め、理解が追いつかない現状に戸惑っている中、一人の声が響いた。
その声の主は、光導 祐樹だった。
「不安なのは分かるが、一先ず落ち着こう!」
更に祐樹は続ける。
皆、彼の言葉に耳を傾け、落ち着きを取り戻し始めていた。流石は主人公キャラと言ったカリスマ性を発揮している。
「我々は高昇学院1年D組の生徒です!この現状の説明をお願いしたい!」
祐樹は、怯む様子無く目の前にいる神官達に現状を教えろと要求する。
その言葉に、神官達も我に返ったようだ。
「ゴホンッ!我々はミゾルギ王国宮廷魔術師団だ。諸君らは来る大厄災から、このミゾルギ王国を護る為に私達が召喚した!諸君らにはこれから国王と謁見していただく!」
神官達は魔術師だったようだ。その中でも最も豪華は法衣を着ている60代くらいの男が説明を初めた。この男が、この団体のリーダーなのだろう。
威厳のある声で説明している。まぁ、ほとんどの内容が礼暦錬達には意味不明であった。
「ちょっと、待って!大厄災って何!?今すぐ家に帰してよ!」
クラスの1人が声を上げる。
「そうだ!そうだ!こんな意味わかんねーことやってる場合じゃねーんだよ!」
「早く帰して!」
1人の声がきっかけにクラスメイト達の不満は爆発する。
礼暦錬達は、漫画やアニメの主人公ではない。簡単にそうですか。と順応できる訳ないのである。
「……ッ!」
魔術師団の男たちも、爆発した不満に対してどう対処して良いのか分かっていない。
そもそも、召喚した者に反対されるとは思っていなかったのだろう。もしかすると、召喚した対象を間違ったと感じているのかもしれない。王国を護る為に召喚した者が、武器を持たない子供が数十人だ。本来だと、金ピカの鎧に身を包んだ、剣士なんかが理想だったのだろう。
「あのっ!」
そこで、1人が口を挟む。
裕樹だ。
「僕たちはただの学生です。あなた達のように魔法も使えないし、力もない。あなた達は間違えて僕たちを召喚したんじゃないですか?」
裕樹は魔術師団が最も避けたかった答えを突きつける。
それを聞いた魔術師団の顔色がみるみる内に真っ青になるのは裕樹だけでなく、クラスメイト全員が気づいた。
「……んっ…。そ、そなたの言う事が事実であるか確認する為にも、先ずは、国王と謁見してもらう。そうしないことには話が前に進まないのだ。」
話が前に進まない。何かしらのストーリーがあって、彼らはアクターなのだろうか?いや、話が前に進まないとは彼らには決定権や判断力がないため、このままだとお互いの意見が平行線のまま時間だけが過ぎていくと言うことだろう。
「そなたは落ち着いているようだ。先ずは、国王に会ってもらう。そう皆を説得してくれ。」
とうとう、魔術師団が裕樹に対してお願いし始めた。
威厳もクソもあったもんじゃないな。
「わかりました。」
裕樹は、うなずくとクラスメイト方に向き直り、説明を始める。
「みんな、今此処で騒いでも家に帰してくれないだろう。だったら、一番偉い国王に間違いだった事をわからせて、俺たちを帰して貰う命令をしてもらうほうが早いと思う。此処は一度向こうの要求を飲んで、国王に会おう。」
裕樹が話す内容は一理あった。そのため、クラスメイトは全員が考える。最も早く帰る方法は此処で駄々をこねることではない。総判断したものは裕樹の言葉にうなずいている。
「はぁ!?なんで俺たちがあんな頭のイカレてる奴等の命令に従わなきゃなんねーんだよ!今すぐ帰らせろ!」
裕樹の言葉に正面から不満をぶつけたのは、このクラスの問題児であり、礼暦錬をいじめている派閥のリーダー的存在である。
彼の名前は、吉上 極虎。礼暦錬と並ぶ名前のインパクトが強い男だ。彼は言わば番長といったポジションに居る。身長も180後半と高く、特別スポーツをしていないのに筋肉質な男だ。不良漫画や元不良がスポーツをする漫画なんかでは主人公になれるポテンシャルを持っているだろう。ただ、リーゼントではなく、今どきの不良風な茶髪のチャラチャラした感じである。
正統派主人公の裕樹と、不良主人公の極虎の口論はその後30分程続いた。
結局は、国王に謁見する形で話がついた形だ。
なぜ、極虎が国王に謁見する気になったかは、後ほど分かるだろう。
こうして、二人の主人公キャラが引き連れてクラスメイトは国王に会うため神殿を後にしたのだった。