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89日目 発展魔法陣製図:自在魔法継手の製図【1】

89日目


 ギルの影が無い。ギル味が足りない。


 ギルを起こして食堂へ。朝から贅沢にフルーツのたくさん入ったゼリーを食していたところ、『もう、ちゃっぴぃってば!』って可愛らしい、されどちょっぴり焦ったマイスウィートハニーの声が耳を突いた。


 どうしたのかと思って声の方を向いてみれば、そこには後ろからちゃっぴぃを抱え込むようにして歩くロザリィちゃんが。一方でちゃっぴぃは、何が不満なのかむずがるようにイヤイヤと駄々をこねる(?)ばかり。


 『なんか、朝起きた時から機嫌が悪くって。ご飯だよーって言っても起きてくれないし、お気に入りのぬいぐるみをちらつかせても反応しないし……』とはロザリィちゃん。一応体調不良なんかを疑ったものの、特にこれと言って異常はなかったそうな。


 『子供なんだし、意味も無く機嫌が悪くなるのは珍しいことじゃないよ』……と、フォローだけ入れておく。『俺が面倒を見てるから、ロザリィちゃんも朝ごはんしっかり食べなよ?』とちゃっぴぃを抱っこ。


 なるほど、たしかに元気が無いというか、無気力感あふれるというか……いつもならゼリーを見た瞬間に『きゅーっ!』って尾っぽで背中を叩いてくるくせに、今日に限って言えば『……きゅう』って詰まら無さそうに俺の腹を突くだけ。お膝に乗せてやっても上の空。ぐでって体を預けるばかりで『あーん♪』してやっても面倒くさそうに口を開くだけだった。


 ガキは突発的にわけわかんなくなるから困る。もしここがマデラさんの宿だったら、地獄の百錬ケツビンタじゃ済まなかっただろう。あの宿は、子供だからと言ってこの手のワガママが許容されるほどぬるい環境じゃないのだ。


 なお、そんなちゃっぴぃをしり目にギルは今日も『うめえうめえ!』とじゃがいもを貪っていた。今日は珍しくパレッタちゃんもジャガイモを食していた。『ヴィヴィディナが食べとけって囁いている』とのこと。『好き嫌いしないのは偉いことだぞ』ってアルテアちゃんがパレッタちゃんを撫でてあげていた。平和な光景だ。


 今日の授業はシキラ先生の発展魔法陣製図。いつも通りに超高速で出欠を取っていたのはいいんだけど、『なーんか最近マンネリ気味でつまんねえんだよなぁ……』ってシキラ先生はちょっと退屈そうだった。出欠を取るのに面白さを求められても困るんだけど。


 なお、ホントに単位がヤバい再履の人は、こういった出欠を取るときなんかに盛大に媚を売って来るらしい。『何年か前だけど、俺が教室に入った瞬間に「お待ちしておりました、ボス!」ってギャングごっこが始まったことがあってなァ……』ってシキラ先生は語ってくれた。その日一日、ギャングのボスとその子分と言う態で授業を行ったそうな。


 肝心の授業内容だけど、今回からは新しい製図……具体的には自在魔法継手について学んでいく。これ、マジックフランジと同じく魔法陣や魔法体同士を締結させるためのもの。マジックフランジに比べて締結した際の可動域と言うか、扱いやすさは上だけれども、機能的には特別珍しいことは何もない。


 が、肝心の形状がヤバい。一般的なマジックフランジやこの手の締結要素を持つ魔法陣は平面的で概形が直線的だったり、あるいは曲線だったりしてもきっちりした円形である(製図できる)ものであるのに対し、こいつは普通の製図じゃ描けない自由過ぎる概形をしていたりする。


 具体的には、円弧じゃない曲線や曲面がヤバい感じに組み合わさった形をしている。平面図で見ても立体図がパッと頭の中に出てこない。この手の三面図って立体を平面からでも想像できるように描くものなのに。


 『自在魔法継手って名前が示す通り、この継手はただ一方向で回転体を締結するだけでなく、縦だろうが横だろうが斜めだろうが、あらゆる回転であろうと締結して魔力を伝達できる魔法要素だ。当然、今まで見たいなぬるい製図で終わるわけねえよな?』とはシキラ先生。今までだって決してぬるくはなかったと思ったのは俺だけじゃないはずだ。


 とりあえず、製図にあたっての注意事項を記しておく。



・自在魔法継手の組立図と部品図を製図すること。


・自在魔法継手の構成・機能・構成部品との関連性を理解するために、立体図および分解立体図を製図すること(詳細は教科書を参照すること)


・本魔法要素設計においては、伝達魔力よりも魔法陣回転速度を重視する。したがって自在魔法継手本体可動部にマジックベアリングを取り付けること。取付方法については各自で工夫すること。また、この魔法要素については部品図を描き、マジックベアリングと本体のはめ合い部品の寸法、寸法公差、魔法陣表面精度を明記すること。



 うん、わかっちゃいたけどクソ面倒くさい。組立図と部品図だって今回は面倒くさいのに、その上それらのパーツを組み合わせた立体図だって描かなくっちゃあならない。しかも例によって例のごとく、ガチ図面として通じるように細かい製図法を考慮しなくちゃいけないし、自分で考えることもいっぱい。


 軽く文句を言ったんだけど、『いや、これくらいやるのが普通だぜ? 逆にお前、ろくすっぽ情報が載ってない図面を渡されて、「はい、これ造って?」って言われたらキレるだろ? 少なくとも俺なら、その場でチリ紙にするけど?』と返された。


 『僕ならその場で燃やします』って返したら、『お前ならもうちょっと気の利いた答えが返ってくると思ったんだけどなァ……』ってちょっとがっかりされた。あの先生、いったい俺を何だと思っているのだろうか?


 なんだかんだでその後は普通に解説&製図の時間。必至こいて書きまくって、わかんないところはその都度先生に聞くって感じ。いずれにせよ、時間が全然足りなかったってことだけは……まぁ、これもいつものことか。


 あ、そうそう。授業の終わりにシキラ先生から特大級のドラゴンの糞が投下された。


 『再来週に今までの図面を全部提出だからな? 再履になりたい奴は出さなくてもいいけど!』とのこと。このクソ面倒くさい継手の図面、それまでに完成させなくちゃいけないらしい。余裕があるとは何だったのか。


 ちなみに、三週間後のこの時間は予備日らしい。何らかの理由により製図ができなかったと認められた人間のみ、普通に製図室を使える&提出期限がその日になるそうな。『どうせテスト期間だし、テスト勉強できるって考えれば儲けものだろ?』って先生は言っていたけれど、こっちとしては一週間余裕があったほうが楽なのは語るまでもない。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。夕飯の後もちゃっぴぃの謎のぐずりは治まらず。今日一日ずっとちゃっぴぃの面倒を見てくれたアリア姐さんも、「全然ダメだわ……」とでも言わんばかりに肩をすくめていた。いつも通り抱っこしてあやしていたのに、まるで効果が無かったらしい。


 『ホント、どうしちゃったんだろ……?』ってロザリィちゃんも心配そうにしていた。ちゃっぴぃのやつ、ロザリィちゃんに髪を梳かしてもらっている時も『きゅうん……』ってぶすっくれたツラを隠そうともしなかったんだよね。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。『ぎゅーって抱きしめて一緒に寝れば、なんとかなるはず!』って大きなお胸の前でぐっと手を握るロザリィちゃんが最高に可愛すぎて、なんだか妙に眼が冴えている。ギルの寝付きの良さがうらやましい。


 ギルの鼻には星の雫でも詰めておく。製図をちょっと進めてから寝ようっと。

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