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87日目 魔力学:等魔変化と定魔圧変化

87日目


 ギルのまぶたがちょう仲良し。……なんであいつ、アレで前が見えてるんだ?


 ギルを起こして食堂へ……行く前に、最後のレポートを提出しに学生部へ。文字通りこれが最後だからか、ルマルマとティキータの連中の表情が凄く晴れやか。レポート明けで徹夜のやつもいただろうに、なぜだかみんな目がきらっきらしている。同じくらいに頬もげっそりこけていたけど。


 『清々するぜ……!』、『こいつのせいでどれだけ休みを潰されたことか……!』ってみんながみんな、呪詛の言葉を吐きながらその灰色のレポートを箱にぶち込んでいく。これにはピアナ先生も苦笑いを隠せていなかった。


 なお、『こんなクソ忌々しいレポートを、明日中にチェックしなきゃいけないこっちの身になってから言え』、『お前らは義務だし単位ももらえるだろうけど、こっちはマジでボランティアなんだぞ』、『このレポートに私のお肌以上の価値があると思ってんの?』などなど、上級生もまた呪詛の言葉を吐き散らしていた。


 『ホントごめんねぇ……!』ってピアナ先生は苦笑いを通り越して虚ろなる笑みを浮かべていた。そんな姿もマジエンジェルでかわいかった。


 ともあれ、これで最後のレポート提出は終了。うずたかく積まれたレポートの山はヤバいけど、終わってみれば案外あっけない。後はポポルやミーシャちゃんが無事に合格できることを祈るのみだ。


 そうそう、『かーっ! これでレポート全部終わったなー! これからは休みの日に遊べるなー!』って喜びを口に出して噛みしめていたら、たまたま偶然俺の近くにいたラフォイドルが声にならない叫びをあげてブチ切れていた。おっかない人ってやーねぇ。


 レポートの提出後は例のカビ臭い教室へと向かう。今日も今日とて使い魔たちが朝餉を調達していてくれた。『きゅうん?』と、ちゃっぴぃが撫でてもいいんだぞ、と言わんばかりに頭を差し出してきたので、全力を持って撫でておいた。うちの子ってばマジクレバー。


 ちなみに、今回調達してくれた朝餉はチキンサンドだった。朝からけっこうガッツリだけど、俺たちは若いから問題ない。これがミニリカやルフ老だったら最後まで食えなかっただろう。


 すごくどうでもいいけど、アリア姐さんがジオルドに「はい、あーん♪」とでも言わんばかりにチキンサンドを『あーん♪』してあげていた。が、肝心のジオルドは無表情でコップの水をアリア姐さんの頭にぶっかけるばかり。たいそう心配になってくる光景である。アリア姐さんが嬉しそうだったのだけが救いだ。


 さて、今日の授業はアラヒム先生の魔力学。賄賂のチキンサンドを頬張りながら、アラヒム先生は語りだす。ちゃんと口元を隠しながら話すあたり、上品なじいちゃんだなって思った。


 今日学んだのは等魔変化と定魔圧変化。前回までに魔力学におけるサイクルや変化の種類について触れられたわけだけれど、この二つもその変化の一種らしい。どういった変化なのかは……まぁ、文字通りだけれども、一応板書のそれを下に記しておく。



・等魔変化


 魔力学的サイクルにおいて、常に一定の魔度の下で行われる変化。等魔変化において変化するのは、主に魔圧や魔法体の体積である。ざっくり言えば魔度の変化が起きないくらいにゆっくりと魔法体を変化させるっていうアレ。


・定魔圧変化


 魔力学的サイクルにおいて、常に一定の魔圧の下で行われる変化。定魔圧変化において変化するのは、主に魔度や魔法体の体積である。要は普通に魔力を与えると魔度の変化や魔法体の変化が起きるっていうアレ。



 ざっくりしているけどマジでこんなもん。一応注釈として、上記二つとも理想魔法体における可逆変化ですよってことが挙げられるくらい。こういった議論上での魔力学的問題においては、逆に理想魔法体じゃないことの方が珍しいんだけどね。


 『概念そのものは非常にわかりやすいと思います。魔力学的サイクルにおいて、何が変わって何が変わっていないのか……それだけのことに仰々しい名前を付けているだけですから』ってアラヒム先生は言っていた。実際、マジでその通りだから困る。


 当然のごとく、この二つの変化はあくまでサイクル上での特徴的な変化ってだけで、これその物を研究対象にするわけじゃない。わかりやすく言えば、これは問題を解決する際に必要な道具であって、これその物が答えなわけじゃない。


 『覚えた道具は使わないと意味がありません。言葉だけの説明では、みなさんもしっくりこないでしょう』……なんて言いながら、アラヒム先生は練習問題を黒板に書いていく。ポポルとミーシャちゃんは泣きそうな顔になり、そしてアルテアちゃんの眉間の皺が深くなった。


 『取れなくなるよ、アティ』って声をかけたフィルラドが、次の瞬間に悶絶。どうやら思いっきり足を踏まれたらしい。どうしてあいつ、こうも女の子の触れちゃいけないところにやすやすと触れてしまうのだろうか。


 ともあれ、その後は板書された練習問題を解きまくる。サイクル上の任意の点の状態(パラメータ)がわかっているから、それを元に状態式を作成し、~変化後の指定されたパラメータを求めるだけの簡単な作業。で、新たに判明したパラメータを式にぶち込み、再び未知のパラメータを求めていく……ってだけである。


 『難しそうなことを言ってた割に、やることは結構単純だな』とはクーラス。『まぁ、練習問題ですからね。実際はこう上手くいくことはありませんし、そもそもとしてこの形に落とし込むことが大変ですから』とはアラヒム先生。理論派の魔系が社会に出て、一番にぶつかるのがこの【現場と理論のギャップ】なんだそうな。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ロザリィちゃんが『膝枕をよこせーっ!』って俺のお膝に飛び込んできた。なんかすごく膝枕な気分だったらしい。おまけに『今日ばっかりはちゃっぴぃでも譲れないよっ!』ってちゃっぴぃと仁義なきくすぐりあいっこをしだす始末。もちろん、ちゃっぴぃのボロ負けだったけど。


 勝者の特権として俺の腹に顔を埋めてすーはーすーはーくんかくんかしてくるロザリィちゃんのなんと愛おしいことか。髪の毛はふわふわでやわらかくて、おまけにすんげえ甘くていい匂いがする。


 その上、『パパってば、サービス悪いねえ?』……なーんて真っ赤になりながら、俺の手を取って自らのおでこにあててくるところとかマジ最高。この子どうしてこんなに可愛いんだろ?


 ギルは今日も腹を出して大きなイビキをかいている。敗者のみせしめとしてロザリィちゃんの抱き枕にされていたちゃっぴぃも、腹を出して俺のベッドでスヤスヤと寝こけている。寝る子は良く育つとは言うけれど、この二人はどこまで育つのだろうか。ちょっと楽しみな気がしなくもない。


 こんなものだろう。ギルの鼻には……壊れた羽ペンでも詰めておく。一応言っておくけど、ギルが握り砕いちゃった奴ね。おやすみ。

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