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86日目 スーパーおともだちタイム

めりくり。

86日目


 ギルが鼻血を出していた。拭いてやろうとしたら魔法ショックが。マジ何なの。


 ギルを起こして食堂へ。今日は久しぶりのピーカンでなかなか心地いい感じ。あの独特の日差しとむわっとするような暑さに夏を覚えずにいられない。ようやっとそれらしくなってきた……ということだろうか。


 朝食のデザートにさっぱりとしたリンゴをチョイス。やっぱりここのリンゴは一味も二味も違う。マデラさんのところで出すリンゴよりも美味いってのは相当に誇れるレベル。いつか仕入れ業者を訪ねてみたいものだ。


 ギル? リンゴなんて目もくれずに『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていたよ。『今日は贅沢にデザートにもジャガイモを食べちゃうぜ!』ってすんげえ嬉しそうだったっけ。世界がみんなギルみたいな脳筋なら、どれだけ平和になることか。


 そうそう、ちゃっぴぃのためにリンゴをグリフィンさんにしていたところ(あの野郎、尾っぽで俺の背中を叩いて催促してきやがった)、『俺のもグリフィンさんでよろしく!』、『生み出せ、混沌の極みを。パパなら出来るって信じてる』ってポポルとパレッタちゃんまでもが俺にリンゴをグリフィンさんにするよう要求してきやがった。


 しかも何を思ったか、『美味しいものや楽しいものは、みんなで分けるほうがもっとよくなるよ?』、『いい子にしてないとサンタさん来てくれないぜ!』ってちゃっぴぃを懐柔(?)しだすっていうね。ちゃっぴぃのやつ、その言葉に騙されて『きゅ!』って俺の膝の上を奴らに明け渡そうとするし。


 さすがにクラスメイトをタダで膝の上に乗せる趣味は俺にはない。ロザリィちゃんだったらお金を払ってでも乗ってもらいたいけれど。


 ともあれ、『そんなに食いたいなら働け』って通達。ちょうどいい天気だったこと、さらには最近手入れも出来ていなかったため、二人を連れて畑に行くことにした。


 あいつらは俺の畑のリンゴのつまみ食い常習犯だったし、ここらで強制労働させて農家の皆さんの苦労を知ってもらおうと思った次第。


 が、ここにきて思ってもいなかった事態に遭遇する。


 うん、畑に至る曲がり角を曲がったらさ、なんか目の前にヤバそげな植物群が広がっていたんだよね。


 食獣植物、魔界植物……およそ尋常じゃあない感じの植物が畑に所狭しと広がっていて、明らかにヤバそげな瘴気やオーラを発している。異常魔力の気配もぷんぷんだし、なぜだかヴィヴィディナみたいな悲鳴も聞こえたっけ。


 『ひゃっほう!』ってパレッタちゃんが目を輝かせたと言えば、どれだけ悍ましい光景だったかわかってもらえると思う。


 さて、そんな様変わりしてしまった我が畑をみて呆然としていたところ、『あらまぁ、誰に断わってここにいるのかしらぁ!?』って聞き覚えのない声が聞こえてきた。


 はて、一体誰かしらん──とあたりを見渡してみれば、驚くべきことに魔界と化した畑の真ん中に、一人の女の子がいた。


 『断わるも何も、ここは僕の畑だからね。畑の面倒を見に来るのは当然だろう?』とあくまで紳士的に返す俺。同期の中でこんな子を見たことが無かったし、そもそもとして明らかに雰囲気がこなれていないというか……なんかこう、いかにも魔系らしさが無かった故に、一年生だと踏んだんだよね。


 こんなヤバい時でも先輩としてカッコいい姿を見せちゃう俺ってさすがだと思う。


 が、向こうはそうは思わなかったらしい。


 『はぁ!? 何をそんな……寝ぼけたこと言わないでよ……!』って敵意をむき出しにしてきたんだよね。


 で、次の瞬間に魔界植物と化した俺のナエカやコケウスなんかが襲ってきた。なんかすっげぇトゲトゲちくちくしているし、明らかにヤバそげな邪気も放っている。このままぼうっとしていたら手痛いダメージを喰らうことは確定的に明らか。


 しかも……なんか知らんけど、植物のくせに奴らはやたらと連携が取れていた。


 『ジョン! トム! サンチョ! やっちゃえ!』って後ろで女の子が杖を振るっている。指揮棒ってわけじゃあないけど、それに呼応して植物共が動いているのが見て取れた。


 『どう!? 手も足も出ないでしょ!? この子たちの恨みつらみ、今こそ思い知らしてあげる!』とは女の子。『この子たちと一緒なら、私は最強なんだから……!』とマジ狩るやるきモード全開。


 実際、植物たちの攻撃力は凄まじかった。デカさがデカさだし、ヤバい魔力を纏っているから当然ではあるんだけれど、普通に地面が抉れたりして辺りが酷いことになっている。


 攻撃を喰らったギルが胸筋丸出しセクシーショットをお披露目する羽目になってしまったと言えば……って書いていて思ったけど、あいつ普段から半裸だった。


 ともあれ、一年生の割りには激しい攻撃だったってことが伝わってくれればいい。


 さて、ここまで来るともう調合にはとても使えそうにないため、名残惜しさを感じつつも植物の大軍を炎魔法で燃やしまくる。パレッタちゃんは『きゃはははは!』ってトリップしながら植物を重枷の呪で地面に縫い付けまくりんぐ。ポポルはポポルで『おらおらおらおらぁっ!』って連射魔法で畑の一部を焦土にしたため、『お前おやつ一回抜きな』って通達しておいた。


 直後にケツを蹴られたのが未だに解せぬ。なんか俺変なこと言ったっけ?


 なんだかんだで襲ってきた植物たちの撃沈はあっけなく終わる。所詮は動けるようになっただけの植物なのだ、死線をくぐってきた俺たちの敵じゃあない。


 まさかたった三人に片手間であしらわれるとは思ってもいなかったのか(ギルは『せっかくだしこいつらにも筋肉の素晴らしさを教えてやるぜ』ってずっとポージングしていた)、女の子は信じられないものを見たかのようにしてぺたりと座り込んでしまった。


 で、ジェントルマンな俺は、優しく事のあらましを聞こうと近づく。ポポルもパレッタちゃんも、自然な流れで俺についてきた。


 ──が、これがいけなかったらしい。


 『──隙ありッ!』って女の子が杖を振る。どんな魔法かは知らないけれど、もう魔界植物たちは全部灰になった。だから、苦し紛れに杖でぶん殴ってきただけだと思ったんだよね。


 ところがところが、杖が振るわれた瞬間、地面の中から明らかにヤバそげな芋虫なんかがはい出てきた。やっぱり毒々しい色合いをしているし、触っちゃいけない感じの分泌液も出している。


 ──そんな虫が、俺、ポポル、パレッタちゃんの口の中に飛び込んできた。


 『ふふん! どうかしら! 日陰者で地面の下を這うしかない虫さんたちの味は! ずーっとずぅーっとため込んできた恨みの味は!』って女の子はちょう得意そう。


 『もしかして、私が植物を操る魔法の使い手だと思ったのぉ? ざんねーん! はいざんねーん! 全然違いますぅー!』ってめっちゃ煽ってきた。


 『私の魔法は──躾魔法! あのお花さんたちは躾けてお友達になってもらっただけでーす! こーゆー虫さんたちも操ることが出来まーす!』って勝ち誇ったかのように笑っていた。


 そんな女の子の顔が固まるのに、数秒もかからなかったと思う。


 うん、だって俺もポポルもパレッタちゃんも、普通に虫をむしゃむしゃ食べていたんだもの。


 『割とクリーミーでイケるほうじゃね?』とはポポル。実際、匂いは酷いけれど味も舌触りも悪くはない感じ。ぷちっとした食感と、そこからじゅわあっと溢れ出てくるとろける何かは、工夫次第でいくらでも化けそう。強めの香辛料で臭さをかき消し、色を付けて見た目を誤魔化せば、シチューやピザのトッピングに使えそうだと俺の中の天使も悪魔も囁いていた。


 『うそ……あんたたち絶対頭おかしい……』って女の子はドン引き。この瞬間に次の攻撃をしないあたり、魔系としてまだ染まり切れていないってことなのだろう。


 で、パレッタちゃんが『美味しいものはみんなで分け合うべきってヴィヴィディナも言っている』って口をもぐもぐ動かしながら女の子の顔をがしっと掴む。次に起こることがわかってしまったのか、『えっ、うそ、やだぁ……!』って女の子は近くにいたヤバそげな蟲どもを全部どこかへと遠ざけた。


 次の瞬間、尋常じゃない悲鳴。いや、正確には悲鳴じゃなくて、声にならない断末魔の叫びって言ったほうが良いかもしれない。


 ともあれ、『──ごちそうさま♪』ってパレッタちゃんが自らの口元と、気絶した女の子の口元を拭っていた……とだけ、書いておく。さすがは渇欲のパレッタちゃん、自らの行動に一点の曇りもない。


 さて、畑の後処理なんかを三人に任せてしばらく経ったところで女の子が目覚める。目覚めた瞬間に『うぇぇぇ……!』って涙目になって吐き出したので、優しい俺は新鮮な水をプレゼントしてあげた。


 で、今度こそちゃんと話を聞いてみることに。


 何でもこいつ──エイラは友達がいないらしい。で、休日に特にやることも無くふらついていたら、ここにたどり着いたそうな。


 『私と同じようにひとりぼっちで、でも懸命に生きているお花さんたちを見て、この子たちならお友達になれると思いました』とはエイラの談。


 さて、こうして憩いの場所を見つけたエイラは、休日どころか暇を見つけてはこの畑に入り浸るようになったらしい。その日にあったことを話したり、どこかで捕まえてきた虫をプレゼントしたり、新作の【友達出来るよダンス】のステップをお披露目したりしていたそうな。


 『そうしたら……ある日、この子たちが動き出してくれたの! ジョンも、ヨサクも、ガバチョも、シュナイダーも! 私の祈りが通じたのよ! ようやく本当のお友達になってくれたのよ!』ってエイラは目をキラキラさせながら語りだした。


 躾魔法で躾けたことについては一切触れていなかった。こいつやべぇ。


 ともあれ、そうして植物たちと蜜月の日々を過ごしていたところに、『友達』との仲を引き裂こうと俺たちがやってきたために、こうして襲い掛かってくることになったのだそうな。


 とりあえず、『私のお友達を返してください。お願いします。もうあの子たちがいないと私は生きていけないの……!』と涙目になりながら頭を下げてきたため、ギルにジャガイモを渡す。


 ギルのやつが『うめえうめえ!』とジャガイモを美味そうに食った瞬間、ある意味予想通り(?)、やつの脇から月光があふれ出した。眩しい。


 で、その月光にあてられた地面から、新たなナエカやコケウス、さらにはリンゴの木まで生えてきた。これで一件落着である。


 『ケン……! ビリー……! オズワルト三世……! また会えたね……!』って喜ぶエイラにドン引きしてしまった俺を、どうか許してほしい。ネーミングセンスはギルレベルだし、そもそもとして最初に言っていた名前と違うとか、あいつの頭はどうなっているのだろうか?


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談の時、なんとなくアリア姐さんの近くを通ったら、露骨に顔をしかめられたのがちょっとショック。『よその女の匂いがして嫌だったんだろ』とはジオルドの談。最近はあいつ、迂闊に花も触ることが出来ないそうな。


 あと、『……よその女の匂いを消しているだけです。他意はありません』って言いながら俺に頭をぐしぐしと押し付ける……ふりをしてすーはーすーはーくんかくんかしてくるロザリィちゃんがマジプリティで最高だった。


 ギルは今日もぐっすりすやすやと眠りこけている。……今ふと思ったけど、ナエカたちが魔界植物化したのって、間違いなくギル要素が原因だろう。


 最近は忙しかったとはいえ、やっぱり危険物を使った畑をほったらかしにするのはよくなかったかもしれない。俺はこの学校の中じゃ数少ないまともな人間なのだから、俺がしっかりしないといけないのに。反省しなくちゃ。


 長くなったけど今度こそ終わりにしよう。ギルの鼻には……エイラに真っ当な人間の友達が出来ることを願って、フレンド・フェザーでも詰めておく。グッナイ。


※燃えるごみは友達じゃない。魔法廃棄物は友達。

20181229 誤字修正


・生きています。

・最後に終わったのが土曜日分の日記だった→本格更新が始まった時のために区切りが良いところまで進めたかった。

・【この連載小説は未完結のまま約半年以上の間、更新されていません。】に耐え切れなかった。

・クリスマスプレゼントのつもり


 連続更新やリアルタイムリンクが誇りであったのに、こんな中途半端な更新、かつ季節感ガン無視になってしまったことが口惜しくてならない……ッ!


 さて、とりあえず近況報告をば。


 なんだかんだで、残業にも少しずつ慣れてきました。この日記を投稿していたころは『残業二時間もしているとか、お前マジ残業の神じゃん!』なんて同期と煽りあっていたのですが、最近は『良いの……? 今日、残業二時間しかしてないよ……?』って思えるくらいには身も心も社畜になりつつあります。

 そんな社畜からかつての自分に戻るため、とりあえずこの年末年始から少しずつ更新再開準備を進めていきたいと思います。再開にはもうしばらくかかってしまうと思いますが、寛大な心でお待ちいただけると幸いです。


 人間、吹っ切ればなんとかなるもんだネ!


※アンケートのおしらせ

【更新再開のパターンとして嬉しいのは次のうちどれ?】

1.しっかりストックや準備が整ってから投稿。毎日更新。

2.ある程度準備を整えてから投稿。以前よりペースを落とした定期更新。

3.翻訳できた分から投稿。不定期更新。

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えーっと、1です! しばらく読まないと忘れちゃうので(恥
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