82日目 発展魔法陣製図:マジックベアリングスタンドの製図【4】
82日目
ギルの髪がねじねじつんつん。何を言ってるかわからないだろうが、俺もわからない。
ギルを起こし、ちゃっぴぃを肩車して食堂へ。今日はそんな気分だったのでスクランブルエッグをチョイス。ちゃっぴぃにケチャップを任せたところ、あいつは『きゅーっ♪』ってスクランブルエッグにケチャップをぶちまけやがった。マジ何なの。
でも、あいつはそれでなお『きゅん♪』って嬉しそうにスクランブルエッグを食べるからわけわかめ。もしかして味覚がおかしいのだろうか。こいつも一応はマデラさんの宿屋の一員である以上、確かな舌と味覚を備えておいてほしいんだけど。
そうそう、ポポルもスクランブルエッグに盛大にケチャップをぶちまけていた。意外なことに、そんなポポルの皿をエッグ婦人が突いていた。エッグ婦人もたまには童心に戻りたい時があるらしい。
あ、ヒナたちは久しぶりにポポルの腹巻に収まってスヤスヤしていた。あいつらも童心(?)に帰りたい気分だったのだろう。あるいは、エッグ婦人の行動に触発されたのかもしれない。
ギルはもちろん『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。たぶんこいつは死ぬその日まで元気にジャガイモを食べていることだろう。ギルが死ぬのが先か、ジャガイモがこの世から食いつくされるのが先か、ちょっと気になる。
今日の授業はシキラ先生の発展魔法陣製図。前回が前回だっただけに、どうせ今日もグダグダな感じで過ごすんだろうな……なんて思っていたのに、なぜだか時間になってもシキラ先生が教室にやってこない。いったいどういうこっちゃ?
当然のごとく、『なんかあったのか……?』って教室がざわめく。なんだかんだでシキラ先生がここまで遅れたことって一度もないし、そしてシキラ先生が化け物相手に後れを取るとも思えない。もしそんな化け物が出たとしたら、それこそステラ先生くらいしか太刀打ちできないだろう。
もう少しだけ待って、それでもこなかったら……って話していたところで『わりぃ、遅れた!』ってシキラ先生がやってきた。まったく、心配させやがって。
『まぁ、大したことじゃねーんだけどよぉ……なーんかおかしいっつうか、不穏っつうか、奇妙な気配があってなァ……。急遽対応することになったんだけど、それ、ルンルンの追跡を撒いてどこか行っちまったんだよな』ってシキラ先生は言っていた。それって本当に大丈夫なのだろうか。
さて、授業は前回(?)に引き続き、マジックベアリングスタンドの製図を行う。今回でマジックベアリングの時間は最後だから、質問があるなら今のうちにしておけとのこと。『毎年毎年ギリギリになって泣きついてくるやつが多いからな! すんげえ渋滞になって大変なんだぜ!』ってシキラ先生は超笑顔で言っていた。
ちなみに、そんなギリギリのヤバい時だからこそ、あえて丁寧にゆっくり時間をかけて解説は行うらしい。『ギリギリになって聞いてくるってのは理解の浅いヤバいやつらじゃん? 解説が丁寧になるのは当然じゃん?』ってシキラ先生は言っていたけど、たぶん、解説待ちで並んでいる人を焦らして楽しんでいるだけだと思う。後になればなるほど、期限がヤバくなるわけだし。
最初はそんな感じで真面目に授業をしていたんだけど、やっぱり辛抱堪らなくなったのか、『なんか面白い話しろよな!』ってシキラ先生は俺たちに絡みだしてきた。ちょうど昨日インキュバスの授業をやったことを告げると、『アレだろ!? 女どもが首痛め集団に発情して間抜け面するやつだろ!?』って腹を抱えてゲラゲラ笑いだす。あの人本当にぶれないと思う。
『うっせぇ! そういうのが好きで悪いかバカヤロー!』って女子の一人が容赦なく魔法をぶっ放していた。その魔法、破壊魔法でぶっ壊されたけど。
さて、さすがはグランウィザードと言うべきか、シキラ先生はインキュバスにまつわるちょっとしたお話を披露しだす。『インキュバスってのは確かに女にとって恐ろしい魔物かもしれないが、女はそれ以上に恐ろしいんだよ』とのこと。それって完全に私見じゃないのかと思わなくもない。
が、どうやらきちんとした根拠があるらしい。
『夢魔の方のインキュバスをあえて男に憑りつかせてな? 歯止めが効かなくなった男を使って……ねえ? 貴族の政争なんかじゃよくあったらしいぜ』……とのこと。しかも、その手の手段を用いたのは圧倒的に女の人の方が多く、両方の意味でインキュバスを襲わせたのだとか。
政争までは簡単に想像できたけど、女の方がけしかけていたってのはちょっと驚き。女の人ちょう怖い。
『魔物の仕業ってことにすればいろいろ諸々うまい具合に話を進められるからなァ……。政敵の地位を落とすのにも、自分が成り上がるのにも使ってたらしいぜ?』ってシキラ先生は言っていた。なんだかんだであの人、すんげえ知識の幅が広いよね。
ただ、本当にヤバかったのはこれじゃないらしい。『ちょいと前に女の中で流行った小説があったんだよ。そこにインキュバスを使った……テクニック? でライバルを蹴落とし、意中の相手をモノにするシーンが出てきたものだから……』ってシキラ先生はにやりと笑う。
ある意味予想通り、その主人公の真似をする女性がいっぱい出てきて問題になったそうな。女の人マジ怖い。
ちなみにこの小説、恋愛小説を謳ってはいるものの、中身は発禁スレスレ……というかぶっちゃけアウトな過激すぎる描写がいっぱいの代物だそうな。『子供に見せたら確実に趣味が特殊になっちゃうこと請け負いのヤバい本だぜ! ジジイやババアでも新しい扉を開くかもな! もし自分の娘があの本を読んでたら全力で取り上げるし、総力を挙げて焚書にしてくれるわ!』ってシキラ先生はコメントしていた。
ただ、倫理を度外視してみればかなりクオリティの高いものであるらしい。『あの耽美と官能と退廃と禁忌と……なんだろ、うまく説明できねえけど、【触れちゃいけないインモラルの素晴らしさ】ってのがすごくうまく表現できてたな。あの禁断の刺激そのものは嫌いじゃねえ』という高評価判定も。
発禁を決める査問委員会(?)においても、調査のために本を読んだ判定員がファンになっちゃったために、明らかにアウトなのに発禁判定を下されなかった……なんて噂があるらしい。
せっかくなのでその本のタイトルを聞いてみようとしたところ、『お、男の子が見てもつまらないから!! ……と、思うよっ!』、『そ、そうそう。教科書でも読んでいたほうが有意義だから』って赤くなったロザリィちゃんとアルテアちゃんに止められてしまった。
……アレか、例の【純潔のアルケニー】シリーズってやつか。マジであの本、いったいどんなことが書いてあるのだろう?
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。今更ながら思い出したけど、インキュバスの説明において随分とグレイベル先生が刺々しかったって話をしたら、『ありゃあ照れ隠ししてるだけだよ!』ってシキラ先生が教えてくれた。
『あれであの人恥ずかしがり屋でシャイだからな! お前らの前でアレな単語を連呼するのに耐えられなかったんだろ!』ってシキラ先生は腹を抱えてゲラゲラ笑っていた。嘘かホントかわからないけれど、なんかちょっと意外……かも?
ギルは今日も大きなイビキをかいている。最近本当に暑くてじめじめしていてなかなか寝付けない。こいつの寝付きの良さが凄く羨ましい。
ギルの鼻には万年氷の欠片を詰めておく。おやすみ。