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80日目 魔力学:マジックエンタルピーについて

80日目


 【ジャガイモうめえ!】って壁に文字が。知ってる。


 ギルを起こし、レポートを提出しに学生部へ。アエルノとバルトの連中の表情がほどほどに死んでおり、そして提出されたレポートの山が凄まじい。ある程度は合格していて減っているとはいえ、今回で四クラスの五回分のレポートが揃ったってことになる。再レポ(三回目とか四回目)のそれはページの追加しすぎて厚みが凄まじいことになっていたし、紐を通し過ぎてボロボロになっているものもあった。


 『ははっ……このカラフルさ……たぶん、今日がピークだろうね……』ってノエルノ先輩も死んだ表情で笑っている。再レポのチェックもここまで来ると相当にヤバいらしく、かなりの手間を要するのだとか。


 とりあえず、そっとアルテアスペシャル美容液とクッキーセットを手渡しておく。『いいなぁ……っ!』ってピアナ先生がキラキラした瞳で見つめてきたので、ピアナ先生にも渡しておいた。『やったぁっ!』ってぴょんぴょこ跳ねるピアナ先生が最高に天使でした。


 そうそう、バルトのシャンテちゃんが『前回の実験、実はちょっとヤバかった』って俺、ゼクト、ラフォイドルに告げてきた。なんかマジックオペアンプが魔力を異常増幅させたらしい。『幸いにもキイラム先輩が気づいたおかげで爆発とかはなかったんだけど、原因不明なんだよね』とのこと。


 どういうこっちゃと話を聞いてみたところ、『いやさ、壊れて動かないことを確認したはずのマジックオペアンプが……引っこ抜いてそこら辺に置いておいたはずのマジックオペアンプが、なんかいきなり動き出したの』ってシャンテちゃんは言った。『マジであれ意味わかんなかったよな……』、『私も近くにいたけど、本当になんだったんだろうね……?』ってキイラム先輩とピアナ先生の証言も。


 壊れたことをキート先生が解析魔法で確認していたし、その件の後にも解析魔法をかけても、特に異常は見受けられなかったそうな。不思議なこともあるものである。


 レポートの提出後はそのまま例のカビ臭い教室へ。書くまでも無く今日はアラヒム先生の魔力学。意外なことに、ちゃっぴぃほか朝飯の確保を頼んでおいた使い魔共がアラヒム先生に朝飯を貢いでいた。連中も媚の売り方というものを覚えたらしい。


 『お利口さんな使い魔に免じて、こっそり授業中の飲食を許しましょう。……ただし、バラしたらみなさんも道連れです。……もう一年お勉強(●●●)できる方がうれしいですか?』ってアラヒム先生はにっこりと笑って脅してきた。今日のパンには大好物のピーナッツバターが使われていた故、ついつい食べたい気分になっちゃったらしい。


 内容はマジックエンタルピーについて。前回までに理想魔法体やサイクルにおける変化の種類、内部魔力について学んだわけだけれど、実はあれってあくまで静止系(閉じた系)を前提にした計算だったらしい。


 もちろん、実際の魔力学的問題ってのは流れ系(開いた系。魔力学では動的なそれを流れ系って呼ぶらしい)であることもたくさんある。そうなると、単純に上記の計算だけでは辻褄が合わなくなってくるそうな。


 『例えば触媒反応学でもそうでしょうが、静的でない系の計算には様々な要因が関わってきます。そこで出てくる概念的な状態量がマジックエンタルピーです』ってアラヒム先生は言っていた。


 一応、定義としては【エンタルピー=内部魔力+魔侵圧力×魔法体容積】で表すことが出来るらしい。が、こんなこと言われても何が何だがさっぱりわからない。


 説明するのも面倒なので、以下に板書したそれ……の、要点だけを示す。説明が長すぎて、日記に書くにはだいぶ不適切なことになっちゃってるんだよね。



・状態Aから状態Bに変化させたとき、その経路(変化のさせ方)に影響を受ける要素(魔法的仕事、魔法的熱)と影響を受けない要素(魔侵圧力や内部魔力など。要は終わりさえ決まっていればどんなやり方をしても結果はわからないやつ)がある。この影響を受けない要素を特に状態量と呼ぶ。


・魔法的熱は状態量で【ない】ため、魔力学的にはかなり重要なパラメータなのに、単純な計算で出せないことが多かったりする。だから、なんとかこいつを状態量(計算ですぐに出せるやつ)で表すことが出来ればみんながハッピーになれる。


・そこでマジックエンタルピーという概念を導入する。エンタルピーは上記の式の通り、【エンタルピー=内部魔力+魔侵圧力×魔法体容積】で表すことが出来る。


・ここで重要なのは、エンタルピーの式を構成する項目は全て【状態量である】ということである。つまり、エンタルピーも状態量である。


・【ある特定の条件下】、【なんかよくわからんヤバい計算式】、【すんげえ難しい証明】


・上記三つにより、我々が普段生活しているこの定常状態(一定魔圧下)であれば、マジックエンタルピーは魔法的熱量と等しくなる。すなわち魔法的熱量を状態量で表すことが出来る。


・これにより、ある状態の魔法体を観測するだけで、その魔法体の魔法的熱量を求めることが可能になる。


・マジックエンタルピーのおかげでみんなハッピー。



 説明がおそろしくザルだけど、板書の証明がおそろしく難解だったから許してほしい。むしろ、教科書と板書、そしてアラヒム先生の回りくどい説明だけでここまで意図を汲んだ俺って称賛されるべきだと思う。


 ともあれ、マジックエンタルピーってのは観測のみで魔法的熱を求めるために導入された概念らしい。『例えば敵性魔法生物が使った魔法の解析をする際、授業のようにゆっくりと魔法を使ってくれる……なんてことはありません。しかし、このエンタルピーの概念を導入し、それを適切に使うことで、より実践的に解析や計算を行うことが可能となるのですよ』ってアラヒム先生は言っていた。


 『どうしてもわからなかったら、とりあえず定義の式だけ覚えておいてください。途中点くらいはあげますから』って言っていたけど、ポポルやミーシャちゃんの様子を見る限り、もうどうにもならないだろう。


 アルテアちゃんだって眉間の皺を隠せていなかったし、パレッタちゃんはぼーっとノートに呪の落書きをしていた。クーラスも『これ……ヤバいかも……』って青い表情。ジオルドも今回ばかりは諦めたのか、アリア姐さんに捧げるための栄養剤の調合レシピをノートに書いていたっけ。


 ……正直俺も、理解できたかかなり不安だ。概念的すぎてマジで意味が解らん。自分らで勝手に導入した概念を普通に計算に使っちゃって大丈夫なのだろうか?


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。諦めた組は普通に美味そうに夕飯を食っていたけれど、まじめ組はずっとしかめっ面をして食欲も無さそげ。かくいう俺もそんなに飯が喉を通らなかった。正直ヤバいって言われていた基礎魔法材料学よりもヤバいかもしれない。


 だけど、『……しかめっ面はよくないぞー? ご飯はちゃんと、食べよ?』ってロザリィちゃんがハンバーグを『あーん♪』してくれてちょうしあわせ。あまりに幸せ過ぎて、ついついお代わりまでしてしまった。やっぱロザリィちゃんは最高だわ。


 ギル? 『うめえうめえ!』っていつも通りジャガイモ食ってたよ。脳筋は呑気で羨ましいや。


 そんなギルは今日もぐうぐうと大きなイビキをかいている。今日はちょっと奮発(?)して、小さめの雷獣の蓄電玉を詰めておくことにする。おやすみなさい。

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