表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/367

8日目 レポート書きまくりんぐ

8日目


 ギルの左目がずっと閉じられている。今日はお休みの日らしい。休みの日なら仕方ないか。


 ギルを起こして食堂へ。昨日の実験が終わるのがだいぶ遅かったからか、いつにもまして食堂には人が少ない。せっかくなので休日限定ジャンボパフェを朝から贅沢に食してみる。おっきなイチゴとチョコレートのとろけるような甘さがマジデリシャス。


 俺の膝に座っているちゃっぴぃに一番でっかいイチゴを食わせていたところ(あの野郎、目当てのものがスプーンで掬われると尻尾で俺の頬を叩いてくる)、肩にこてんって衝撃が。この甘い香りは紛れもなくロザリィちゃん。


 『私にもちょうだーい……』と、何やら表情が優れない。大きなチョコレートを『あーん♪』するも、『これだけじゃあ元気を貰えないよぉ……』と、頭をぐしぐしと押し付けてくる。プリティ過ぎて失神しそうになった。


 しかし、このチョコレートで元気を貰えないとはこれ如何に。すでにイチゴはちゃっぴぃが食いつくしたし、後は死守したウエハースくらいしかない。それとて、チョコレートとどっちがロザリィちゃんの好みに合うかと聞かれれば、間違いなくチョコレートのほうに軍配が上がるだろう。


 で、どうしたもんかと思い悩んでいたら、ロザリィちゃんはウエハースをちょこんとつまみ、『お返ししないと、ね?』って俺の口に入れてきた。至福に包まれながら食べようとするも、『食べちゃダメ』と割とガチめなトーンで残酷なことを言われる。


 そして、『ぱぁぱ、ご飯!』ってそのまま俺のくわえたウエハースにかじりついてきた。真っ赤になって照れるロザリィちゃんの顔が目の前に。


 正直ウエハースの味はわかんなかった。ただ、ウエハースの最後にはとても甘く柔らかな感触と、いつものハートフルピーチの香りがあったことをここに記しておこう。


 なお、俺たちがイチャイチャしている間もギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。その恍惚の表情は、たぶん恋人たちが醸し出すそれよりも上等だったと思う。


 ちなみにだけど、珍しく舌打ちの音は一つも聞こえてこなかった。アルテアちゃんは『今はもうバカ娘の頭を叩く気力もない』、ミーシャちゃんは『ジャガイモじゃロマンチックの欠片もないの……』、パレッタちゃんは『二年次になってママの色欲はさらなるステップへと進みました。ヴィヴィディナの第二光臨が楽しみでなりません』って言っていた。一部不穏な単語が聞こえたけれど、まぁなんとかなるだろう。


 午前中は昨日の実験のレポートをまとめる作業に入る。メモ書きだった実験データをパパッとまとめ、レポートとしての体裁に整えていく……のはいいんだけど、何をどう書いたらいいのかさっぱりわからない。いや、傾向とかそういうのは書けるんだけど、だからなんなのっていう考察ができなかったんだよね。


 この前の実験終わりにレポートの表紙(水色)を貰ったんだけど、一応その裏に評価項目(検討課題や載せるべき図など)が書いてあったから、その通りに作っていけば問題ないはずではあるんだけど、その結果や考察がわからなきゃ意味がないっていうね。


 というか、そもそもまとめるべきデータが多すぎる。集中力が削られまくりんぐ。図やグラフを作るのがあそこまで面倒だとは思わなかった。常時変化し続ける魔圧波形を手書きでそれと分かるように描写しろってなかなか無茶ぶりだと思う。


 午後もそんな感じでレポートをまとめて過ごす。ロザリィちゃんを含め、あまりにも陰鬱で泣きそうになっている女子が多かったため、俺とクーラスが図形の概形を描き、各々それに自分の実験データを適用させて図を作るという手法を取ることにした。


 どうせ結果なんてほとんど変わらない……それこそだいたいの値と傾向はみんな一緒なのだから、こうする方がはるかに手っ取り早いって思った次第。『一切のお世辞抜きに、あなたと同じクラスでよかったって心の底から思ってる』、『……ちょっとくらいなら、何でもお願い聞いてあげなくもないことも無かったり?』ってクーラスは女子に言い寄られていた。


 『クラスメイトなんだし、当然だろ?』ってあいつは格好をつけていた……つもりなのだろうけど、めっちゃゆるゆるデレデレした顔で全然決まってなかった。そんな顔を見てなお影でハァハァと興奮している女子がいるから怖い。『実際に回路を組んだのは俺だぞコラァ……!』って歯をギリギリしているジオルドはもっと怖かった。


 ちなみに、一部の人間はなぜかお手本のそれと自分のデータがおもっくそ違っていて悲鳴を上げていた。『ヴィヴィディナの祝福あれ』ってパレッタちゃんが慰め(?)ていたから、たぶん大丈夫だろう。


 ギルは自分の力でレポートを片付けるのをすっかり諦め、ポポルとミーシャちゃんを背中に乗せて腕立て伏せをしていた。『俺は俺の筋肉を信じる』って言ってたけど、お前の筋肉に物事を叩きこんでいるのはこっちだということを強く自覚してほしいものである。


 なんだかんだで夕方ごろにはだいたいの図表の作成、およびレポートの最初の方の作成を終わらせることが出来た。あとは最後の面倒そうな考察を書くだけ。今日はほぼ全員ずっとクラスルームで作業していたから、何か休んだって気がしない。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。夕飯&風呂場にて、バルトとアエルノの連中から『お前ら昨日どうしてたんだ? そんなに実験ヤバかったの?』と不安そうに聞かれた。


 『超楽勝だった。早く終わりすぎて時間が合わなかったんだよ』と答えておく。ゼクトも『実際、脅された割には大したこと無かったな。予習も復習も要らないぜ?』と瞳の奥に狂気の光を宿しながら相槌を打ってくれた。ギルも『語るより見たほうが早いぜ!』って惜しげもなくそのマッスルボディを晒した。平和な魔系の日常である。


 ギルはスヤスヤと大きなイビキをかいている。なんだかんだで今日はあまりロザリィちゃんとイチャイチャできていないし、ステラ先生とおしゃべりすることも叶わなかった。レポートだって残ってる。もう絶望しかない。


 朝起きたらレポートの存在が抹消されていることを願い、ギルの鼻には破滅の厄踊石を詰めてみた。ミニリカのところの一族で縁起が悪いとされているものらしい。これだけの曰く付きならきっと何とかしてくれる……と願いたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ