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79日目 仕草のジャスティス

79日目


 ギルの背筋がまっすぐ。美しかった。


 ギルを起こして食堂へ。休日だからやっぱり人は少なめで、そしてなぜかアエルノの連中が騒いでいる。そっと聞き耳を立ててみれば、『幽霊が出た』、『魔物かもしれない』、『いや、ルマルマの組長の嫌がらせだろ』……なーんて話が聞こえてくる。いったいどういうこっちゃ?


 ともあれ、『毎回毎回てめえはよぉ……!』って因縁をつけてきたラフォイドルに話を聞いてみることに。なんか昨日、アエルノ寮の方で謎の魔法の気配と、すすり泣く声(?)が聞こえたらしい。それは日中であっても夜であっても聞こえたようで、複数の人から証言が得られたのだとか。


 『何のことかわからないな? 俺は昨日、デートをしていたんだ。それに、今までに一度だって俺がアエルノに何かをしたことがあったか?』って純真な瞳で告げたところ、『そういうところだよ!』ってラフォイドルは暗黒魔法でぶん殴ってきた。おっかない人ってやーねぇ。


 ……でも、マジで心当たりがないんだけど。まぁ、どうせどこぞのバカが何かやらかしたんだろう。魔系じゃよくあることとはいえ、ちょっとは自重してほしいものだ。


 なお、俺たちがそんな話をしている間も、ギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていた。たぶんこいつ、『幽霊はジャガイモの味がするんだぜ』って言ったら喜んで幽霊も食うと思う。


 午前中は一昨日返却されたレポートの修正作業をすることに。昨日は一日ずっとデートをしていたから、さりげなく期限的にいろいろヤバかったりする。毎回思うけれど、正味二日しかレポートを造る時間が無いっていろいろ理不尽じゃない?


 当然のことながら、ロザリィちゃんも一緒にレポートをやることになったんだけど、ロザリィちゃんってば昨日のデートを思い出したのか、俺の顔を見た瞬間にかぁって赤くなって、テレテレしながらはにかんできたよ。こんなにもプリティなのってちょっと卑怯じゃない?


 珍しいことに、アルテアちゃんやクーラスもレポートを終わらせていなかった。『昨日はずっとちゃっぴぃの面倒を見ていたからな』、『あやすの、けっこう大変だったんだぜ?』とは二人の談。ちゃっぴぃのやつ、昨日はずっと拗ねていたらしく、アルテアちゃんにずっとしがみついたり、クーラスにボール遊びの相手をさせたりとワガママの限りを尽くしたそうな。


 なお、当のあいつは『きゅっきゅっきゅうんっ!』ってアリア姐さんの前でヒナたちと共にケツフリフリダンスを披露していた。エッグ婦人が指揮者(?)を務め、バッグダンサーであるヒナたちはエッグ婦人の翼の動きに導かれるようにケツフリフリのキレを加速させていく。ヴィヴィディナ(蝶形態)は演出役らしく、ちゃっぴぃたちの上から虹色に輝く鱗粉を振りまいてステージを演出していたっけ。


 どうやらあいつ、新入りであるアリア姐さんにケツフリフリダンスの指導をしているらしかった。あいつの考えることは未だによくわかんねえや。


 ちなみにアリア姐さんは、「かわいいわねぇ……!」とでも言わんばかりににっこりとしていた。愛おしそうにヒナたちの首をこしこしとこすり、ちゃっぴぃの頭を撫でる。愛に関わる魔物だからか、慈愛の表情もけっこう様になっていた。


 ただ、「ほら、私の足、あまり動かないから……」って言わんばかりにその綺麗でセクシーな足を見せつけ、ちゃっぴぃを諭していたっけ。


 アリア姐さん、どうして仕草の一つ一つがあんなにも色っぽいのだろう。色っぽくなかった瞬間って一度もないと思う。


 一部の男子がここぞとばかりにガン見したのは書くまでもない。直後に女子たちにケツビンタされていたけどね。


 さて、そんなことがあったからか、なぜか【異性のグッとくる仕草のジャスティス】へと話題がシフトする。レポートをしながらも話をする余裕があるとか、二か月前には考えられなかったことだ。


 クーラスは『髪留めを口にくわえて、後ろで髪をまとめようとしているところって……なんかイイよな』っていきなり定番中の定番をぶっこんできやがった。初っ端からチェックメイト級の意見を言っちゃうとか、あいつはちょっと空気を読むべきだと思う。


 一方でジオルドは、『……こう、足を組み替える瞬間ってよくないか? スカートをはいているいないにかかわらず、あのドキッとする動きが』ってぽーっとしながら告げる。目の付け所がなかなかニッチだけど、気持ちはわからなくもない。


 フィルラドは『やっぱ何気ない上目使いだよなぁ……! 出来れば両手でお願いのポーズも取ってくれると最高だぜ……!』って熱く語っていた。それはもはや仕草の範疇から逸脱していると思わなくもないけれど、気持ちはよくわかる。


 あと、フィルラドは尻マニアだけの男じゃなかったらしい。愛でる対象と愛でる仕草はあくまで別物ってことなのだろうか。こいつ中々やりおる。


 ポポルは何もないだろ……って思っていたけれど、『髪をふぁさってやってるのはなんか好きだ』との意見が。『なんかいい匂いがするし……なんだろ、自分でもよくわかんね』とのこと。ポポルの意見に頷きまくる男子が数名いたことをここに記しておこう。


 ギル? 『美味そうに食っているところかな!』ってちょう笑顔で言っていたよ。シンプルながらも真理を着いたその考えは、男子一同に大きな衝撃をもたらしたっけ。


 ほかにも『ネクタイとか襟とか、服の乱れをさりげなく直してくれるところが……!』、『直すっていうか、ネクタイを結んでくれるのって憧れないか……!?』、『ポニーテールが、振り向いたときにふわって揺れるのが……!』、『仕草じゃないけど、ポニーテールはくいって引っ張りたくなるよな……!』、『やっぱぺたんって女の子座りしているところだろ!』、『両手を使ってちまちまものを食べるところ!』、『眠そうに片目をこする所が我がジャスティス』、『逆にしゅるしゅるって髪を下ろす瞬間が最高なんだよな……!』……などと、それはもうたくさんのジャスティスが出そろう。やはり男子たるもの、己が心の中には譲れないものがあるらしい。


 俺? もちろん、『ロザリィちゃんの仕草はすべてがジャスティス。あえて言うなら、にこって笑うところ。そして、ステラ先生の仕草もすべてがジャスティス。あえて言うなら、ついつい杖をコンコンしちゃうところ』って答えたよ。


 『ステラ先生のそれ、すげえよくわかる』……って、なぜか男子からも女子からも大いなる賛同を得られたっけ。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。なんだかんだで夕方ごろにはレポート終了。今回も一応は無事滞りなく終わらせられたことに喜びを隠せない。


 あと、雑談中、ジオルド派女子やクーラス派女子がわざとらしく足を組み替えたり、『なーんかうまく決まらないなぁ……!』って髪留めを口にくわえて何度も髪を結び直そうとしていたっけ。


 あれだけ露骨なアピールなんだからガン見してもいいと思うんだけど、ジオルドもクーラスもこそこそとチラ見していた。もちろん、全部女子にはバレていたけれども。


 意外だったのは、アルテアちゃんも『……なんだよ、こういうのが良いんだろ』ってフィルラドを上目遣いで見つめていたことだろうか。アルテアちゃんの心境にどういった変化があったのか知らないけど、気高きアルテアちゃんなのに最近ちょっとデレ過ぎていやしないだろうか。


 パレッタちゃんは髪をふぁさふぁさしまくっていた。両手で高速でやっていた上にトリップしたかのように恍惚の表情をしていたものだから、ゴーストに憑りつかれて狂った人間みたいになっていたっけ。


 そんなパレッタちゃんに見つめられたポポルはガチガチと歯を鳴らしていた。せっかくなので俺もガチガチしておいた。俺ってばちょうおちゃめ。


 あえて書くまでもないけど、ロザリィちゃんは『うひひ……!』ってにこって笑いながらぎゅーっ! って抱き付いてきた。しかもしかも、『こーゆーのがいいんだろぉ?』って悪戯っぽく俺の脇腹を突いてくる始末。もう可愛すぎて目の前がクラクラしたよ。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。あいつはいつも自分の食事に夢中になっている……と思ったけど、もしかしたら意外と周りのことを見ているのかもしれない。あえてあのように振る舞うことで、自分に注目を引きつけさせず、目当ての人をじっくりガン見している可能性が浮上してきた。そうでもなきゃ、あんなジャスティスを語ることなんてないだろう。


 こいつも意外と隅に置けない。せっかくだから今日は【素直な心】を詰めてみることにしよう。おやすみにりかちゃんまじかわいい。


※燃えるごみは捨てましょう。魔法廃棄物もきちんと分別して捨てましょう。

 私ですか? もちろん、ステラ先生の仕草はすべてがジャスティスですし、ステラ先生さえ隣にいてくれればそれ以上に望むことなんてありませんが……。


 ルマルマの皆さんが述べてくれた以外のものをあえて挙げるのだとしたら、【膝枕をしながらぱたぱたと団扇で仰ぐ仕草】でしょうか。その際に垂れた髪をすっと耳の後ろにかけ直すとなおポイントが高いです。なんでしょうね、あの仕草ってすっごくグッてくるんですよ。


 惜しむらくは、それを主観で見たことがないことでしょうか。これだから世の中ってクソゲーだと思います。


 みなさんも、【女性の仕草のジャスティス】を語ってみてくださいね!

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