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78日目 メモリアルデート

予約投稿の時間間違えていました。なぜか17日になっていたよ……。

78日目


 ギルの腹筋がカッチカチ。まな板にできそう。


 いつもよりかなり早めに起きてギルを叩き起こし、いつも以上に丁寧に身だしなみを整える。歯磨きは倍近い時間をかけて、髪のセットも気合を入れた。ナターシャやミニリカのお気に入りでもある香水を軽く使い、そしてヴァルヴァレッドのおっさんが『デキる男はこいつで決めるもんだ』って買ってくれたジャケットを羽織る。


 もちろん、指輪とイヤリングも忘れない。こいつらこそが今日の主役であるのだから。


 『最高にイカしてるぜ、親友……!』ってギルからはお墨付きの言葉を貰えた。筋肉やジャガイモにしか興味を示さないギルがわざわざコメントしてくれたってことは、それだけ俺の格好が決まっていたということだろう。


 『こいつは餞別だ! ばっちり決めて来いよ、親友!』ってギルは秘蔵のジャガイモを俺に託してくれた。渡された物はともかくとして、あいつの気持ちや気遣い自体はすごくうれしかった。バンバン背中を叩いてくるのはノーセンキューだったけどね。


 で、ジャガイモを齧りつつ玄関ホールでその瞬間を待つ。


 もし、これだけ気合を入れてなにも無かったら……俺は、立ち直れなかっただろう。


 でも、そんなことあるはずがない。だって、俺たちには愛という深いつながりがあるのだから。


 『──ごめんっ、おまたせっ!』って超かわいい私服姿のロザリィちゃんがやってきた。うっひょおおおおおおお!


 もうね、朝から衝撃が走ったよね。ロザリィちゃんってばおめかしばっちりで、私服姿にすんげえ気合が入っているの。ちょっぴりお化粧もしていて、なんかもう見ているだけで心臓ドッキドキ。いつぞや俺がプレゼントした麦わら帽子も被ってくれていたし、俺とお揃いの指輪とイヤリングもばっちり。


 もちろん、『待つ時間も、楽しかったから』ってにこやかに返す。『……どうして、待っててくれたの?』ってロザリィちゃんは悪戯っぽく笑いながら聞いてきた。


 『──今日はキミと初めてデートをした記念日だから。よければ、エスコートさせてもらえませんか?』って手を差し出す。


 『よろこんで……!』って頬を赤らめながら手を取ってくるロザリィちゃんがブリリアントにプリティ過ぎた。『覚えていてくれて、うれしいなぁ……っ!』って甘く囁かれた時なんて、まだ始まってもいないのにクライマックスになりそうな雰囲気醸し出しちゃっていたよね。


 で、早速二人で手をつないだまま町へ繰り出す。今日は文字通り完全二人っきりの学外デート。ちゃっぴぃはアルテアちゃんに預けてきたらしい。『お土産よろしくって言われちゃった!』ってロザリィちゃんは言っていた。


 まずは適当に出店を冷やかす。小物を見たり雑貨を見たり……したけれど、イマイチピンとくるものは見つからない。でも、『……えへへ♪』って手をぎゅっ! って握ってくるロザリィちゃんが本当に愛おしかった。


 隣を歩いてくれるだけでこんなに幸せにしてくれるというのだから、ロザリィちゃんはすごいと思う。もう何度もこうやって一緒に歩いているはずなのに、その度に俺はロザリィちゃんに惚れ直している。文字通り、夢のようなひと時だったと言えよう。


 『ちょっと喉乾いちゃったかも!』ってロザリィちゃんのリクエストにより、その後は屋台でトロピカルジュースを買う。もちろん俺の奢り……なんだけど、ロザリィちゃんは遠慮したのか『いっこでいーよ!』って言ってきた。


 二人で一つの飲み物を頂くことの何と幸せな事か。ナチュラルな間接キスにもう心臓ドッキドキ。やっていること自体は普段と大して変わらないはずなのに、久しぶりのデートだからかいつもと全然雰囲気が違っていろいろとヤバかったよ。


 お昼の時間にロザリィちゃんの手作りサンドイッチを食す。『めしあがれ! 今日のはちょっと自信作なの!』ってロザリィちゃんはいつになく自慢げ。実際、その言葉通り今日のサンドイッチは今までのそれと比べて見た目が華やかで、確かなレベルアップが感じられる逸品だった。


 もちろん、味は超デリシャス。愛情がたっぷり詰まっていて言葉じゃ表現できないレベル。ロザリィちゃんの手料理を食べられるだなんて、きっと俺は世界で一番幸せに違いない。


 たった一つだけ残念なところをあげるとするならば、ロザリィちゃんの手調理はあまりにも素晴らしすぎるが故に、他の料理で満足することが出来なくなってしまうことだろうか。あれを食べてしまったらもう、マデラさんレベルの料理でもないと楽しめないだろう。


 『……おいしい?』って聞かれたので、『一生食べていたい』ってありのままの本心を告げる。『うひひ……!』って照れくさそうに笑うロザリィちゃんが本当に可愛い。『この前ピアナ先生のところで練習した甲斐があったよー』って自身もおいしそうにサンドイッチを頬張っていた。


 宿屋の息子的な観点から見ても、あのサンドイッチは大変素晴らしい逸品であった。トマトにキャベツに卵……と、彩もよかったし栄養バランスもグッド。どれもが食べやすい大きさに均一に切られていたし、全体的なクオリティは一年前とは比べ物にならない。


 俺とロザリィちゃんの愛の宿屋が完成したら、看板メニューにこのサンドイッチを入れてもいいかもしれない。飛ぶように売れる姿が簡単に想像できる。


 でも、俺以外の男にロザリィちゃんの手料理を食わせたくない。この味を知ってていいのは俺一人で十分だ。


 午後は流行りの演劇でも見ようか……とも思ったんだけど、残念ながらちょうどいい演劇をやっていなかったため諦めることに。どこかいい感じのデートスポットを探してみるも、めぼしいものは見つからず。


 さすがに町の外に出かけようって気分にはならない。魔物が出て戦闘にでもなったらせっかくの一張羅が台無しになってしまう。かといってずっとウィンドウショッピングを楽しむというのも芸がない。


 これほど己の無計画さを嘆いたことがあっただろうか。俺の隣にはロザリィちゃんが歩いているというのに、俺には何もすることが出来ない。無力な自分を呪いたくさえあった。


 でも、ロザリィちゃんは『……こうやって、一緒に歩けることが何よりも幸せなんだから』って俺の手をぎゅって握り、そしてにこーってとろけるような笑顔を浮かべたの。『……それとも、──くんは私と歩いているだけじゃ、いや?』なんてちょっぴり拗ねたよう唇をつんと付き出す。


 そのままぎゅっと腕を組まれて、唯々二人で、無言ではにかみながら街を歩く。お互い顔がまっかっかで、ちょっと歩くのがぎくしゃくしていて……なにより、ずっとずっとぐるぐるぐるぐると同じところを歩いていたから、傍から見ればだいぶ滑稽な光景に見えたことだろう。


 手のひらから伝わってくるロザリィちゃんの温もりが愛おしい。腕から感じる、ロザリィちゃんのとくとくという心臓の鼓動が愛おしい。その息遣いも、匂いも、何もかもが──ああ、俺はこの娘を一生かかってでも幸せにしなきゃいけないって決意させるのには十分なものだった。


 ぶらぶら歩いていたところ、『初々しい子たちだねえ! もう見てらんないよ!』って屋台のおばさんがアイスクリームをサービスしてくれた。ぎくしゃくしながら何度も屋台の前を通る俺たちにしびれを切らしたらしい。

 

 『特別に三段にしてやるから、二人で仲良く食べな! ……ひひ、どうせならこのおせっかいババアの前で食べてくれると嬉しいんだけどね?』なーんて言いながら、そのおばさんはスペシャルなアイスクリームを手渡してくる。『老人にゃこれくらいしか楽しみが無いのさ』ってウィンクもしてきた。


 どうやら何歳になっても、女の人ってのはこの手の話題が好きらしい。下はリアから、上はミニリカまで、しょっちゅうコイバナをしている。例外なのはマデラさんくらいだ。


 ともあれ、せっかくなので二人で『あーん♪』しながら食べあいっこするところをおばさんに見せつける。さすがにもう手慣れたもので、俺たちはナチュラルかつアツアツに『あーん♪』させることができた。


 アイスクリームの完食後、『もう、おててが汚れちゃってるよ?』ってロザリィちゃんは俺の指をぺろっと舐めてきた。指に走ったくすぐったい感覚に思わず背筋がぞくっとする。一瞬ちらりと見えたピンクのそれが目に焼き付いて、なんかよくわかんない背徳感じみたものを覚えてしまったっけ。


 で、ドキドキをごまかすように、『キミも口が汚れているね?』ってロザリィちゃんの口の端にちゅっ! ってキスをする。『……ホントかなぁ?』ってニヤニヤしながら俺のおでこをつんっ! ってするロザリィちゃんが最高にキュート過ぎた。


 『あれ……なんか思ってたのと違う……?』っておばさんが呆然としていたのだけはわけわかめ。俺ってばきちんとリクエストに応えたつもりなんだけど。もしかしたらあのおばさんが若かった時代と今とでは、恋愛の様相もだいぶ違っていたのかもしれない。


 黄昏の時間になったところで街を後にする。真っ赤な燃えるような夕焼けを背景に、ロザリィちゃんってば辺りをきょろきょろと見まわした。なんか忘れ物でもしたのかな……なんて思っていたら。


 『──去年は、邪魔されちゃったもんね』って情熱的なキスをしてきた。わーぉ。


 あの幸福な気持ちをどう表現するべきか。時間が確かに止まって、もうこの世界には俺とロザリィちゃんの二人しかいないんじゃないか──そんな気分になった。


 しかも、今回はちょっぴりオトナのキス。『──ぷはっ』って口を離したロザリィちゃんは、とろんとした顔で『……ごちそうさまでした』って告げる。その顔は夕焼け以上にに真っ赤になっていて、なんか艶やかで妖しい魅力さえあった。


 もちろん、俺からもキスをする。俺の気持ちの全てを込めた全力の一撃。これでなお、ロザリィちゃんからもらった愛の千分の一すら返せないというから怖い。


 ちょっと残念だったのは、キスしている途中に『きゃ……!』って小さな女の子に見られてしまったことだろうか。慌てて振り向いたら、その女の子が真っ赤な顔を小さな両手で隠して、チラチラこっちを見ていたんだよね。


 ロザリィちゃんってば、『しぃー……っ♪』って照れながら人差し指をくちびるにあてていたよ。その女の子はこくこく首を振って、胸を手で押さえながらとてとてと去っていったっけ。


 俺たちのアツアツのイチャイチャが刺激的すぎたのだろう。キミにもいつかきっとステキな恋人が現れるよ──と、心の中で告げておいた。


 なんだかんだで遅くなる前にルマルマ寮に戻る。帰った瞬間、『きゅうううう!』ってちゃっぴぃが俺の腹に頭突きをしてきやがった。『きゅ! きゅ!』ってしがみついて来て離れようともしない。マジ何なのあいつ?


 無理矢理引き離してみたら、それはもう見事にぶっさいくなふくれっ面をしていた。『二人だけで出かけたもんだから、一日中ずっと拗ねてたんだぞ?』ってアルテアちゃんはケラケラ笑う。『今度は一緒に行こうね、ちゃっぴぃ!』ってちゃっぴぃを抱きしめるロザリィちゃんが最高に聖母だった。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、『今日のデート、何やったんだ?』って聞かれたので『ずっと街を歩いていた』と正直に答えた。『えっ? 歩いていただけ? ずっと? 一日中?』って聞き返されたので、『ああ、ずっと歩いていた』と返したら、『……一周回ってなんか尊敬するわ』、『それだけなのに楽しめるって、もう敵わないわ……』って言われた。


 言われてみれば、デートなのにずっと歩いているだけってちょっとアレだったかもしれない。『えへへ……なにやってたんだろうね、私たち?』、『あはは……キミに夢中で、全然気づかなかったや』って二人で笑いあった。まったく、これだからロザリィちゃんは恐ろしいぜ。


 ギルは今日も大きなイビキをかいてぐっすりと寝ている。こいつもミーシャちゃんにそれとなくデートに誘われていたみたいだけど、鈍いこいつが気付くことはなかった。脳筋をもっと鍛えるか、あるいは直球で誘わないとダメだろう。


 まぁいい。とりあえず、ギルの鼻には帰り道で見つけた木の枝を詰めておく。まっすぐ具合が良い感じだったから思わず拾っちゃったんだよね。グッナイ。

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