74日目 危険魔法生物学:サキュバスの生態について
一応下ネタ(?)注意。
74日目
……あれっ? マジで何もない? いったいどういうこっちゃ?
ギルを起こして食堂へ。何もないという奇跡が起きたのにもかかわらず……というか、逆に何もないがゆえに不安を拭い去ることが出来ず、食堂に微妙な瘴気(?)、あるいは悪意のそれのようなものが渦巻いている気がしてならなかった。もしかしたら、あれこそが今日のびっくりドッキリイベントだったりする……のか?
ともあれ、景気をつけるために今日はリンゴフェスティバルを開催することにした。デザートのリンゴを俺のテクで片っ端からグリフォンさんに仕立てていくというだけの簡単なお仕事である。
『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃはにこにこと嬉しそう。グリフォンさん五体編成のそれをお人形さんのようにして遊んでいた。最終的に五体ともを翼をもいで頭から食べていたけれど。子供って本当に残酷だ。
あと、ロザリィちゃんも『すっごーい!』ってめっちゃ褒めてくれた。せっかくなのでリンゴを薔薇のように彫り込みプレゼントしてみる。『食べるの、もったいないなぁ……!』なんて目をきらっきらさせるところが本当に可愛すぎて、一瞬何もかもを忘れてしまったよ。
しかもしかもロザリィちゃん、『ちゃんとお礼をしないとね?』なんてはにかみながら、リンゴの薔薇(の、はなびら)をぱくっと噛み千切る。で、くわえたそれを──
『──ん♪』って俺に口移ししてきたの。わーお。
いやはやまさか、朝からこんなラブラブイベントがあるとは。はにかみながらも耳まで真っ赤になっているロザリィちゃんが本当に愛おしい。軽くくちびるが振れる程度だったけど、心臓のドキドキが半端なかった。
なお、ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモを嬉しそうに食っていた。俺がせっかくジャガイモをグリフィンさんや薔薇にしてもまるで気づいちゃいなかった。脳筋は芸術を理解してくれないから困る。
ちなみにだけど、ミーシャちゃんとパレッタちゃんもリンゴの薔薇は気に入ってくれたようだった。意外(?)にもアルテアちゃんも『……こういう細工、結構好き』って嬉しそう。
『俺だってそれくらいできるし』って張り合ったジオルドは、「わたしのためよね、ダーリン♪」……と言わんばかりに身をくねらせるアリア姐さんにリンゴを全部食われていた。……共食い、じゃないのだろうか?
さて、そんなこんなをしていたところ、『おっはよー!』って朝から天使の声が。珍しいことにピアナ先生が朝餉の時間に食堂へとやってきていた。『先生にもそのリンゴいっこちょうだい!』ってリンゴの薔薇を手に取って、美味しそうに頬張る姿がマジキュート。あの無邪気さを見たら、きっと冥府の邪鬼も裸足で逃げ出すことだろう。
で、落ち着いたところで先生は要件を告げる。『今日の授業なんだけど……女子のみんなだけ今すぐ来てくれる? 男子のみんなはいつもよりちょっとだけ遅れてくるよーに!』とのこと。びっ! ってポーズを決めるピアナ先生がとってもかわいかったです。
ともあれ、言われた通りルマルマ女子は先行し、ルマルマ男子は時間になるまでクラスルームで待機することに。なんでわざわざ男女で集合時間をずらすのか、いったいこれから何が起こるのか……などと、話題はまるで尽きなかった。
で、そこはかとない期待感(?)に胸を膨らませつつ、ぼちぼちの時間になったところでいつもの場所へと赴く。
そこには、夢のような光景が広がっていた。
『うふ……ん♪』って、おっきくてやわらかな二つの星が輝いている。
『きゃは……っ♪』って、グラマラスなぼでーが躍っている。
『いやぁ……ん♪』って、艶めかしくて妖しい笑みを浮かべている。
きれーで可愛くてべっぴんさんな女の子が、俺たちを見つめている。なかなかにきわどい格好をした、お肌がすべすべで柔らかそうなおねーさんが、こちらを誘うように見つめている。
いやもう、目の前が信じられなかったよね。おこちゃまポポルでさえ、そのあまりに刺激的でオトナな光景に、『うぁ……っ!』って声を漏らして真っ赤になっていたよ。
めちゃくちゃ可愛くてきれいでおっきくてせくしーなおねーさんたちが、俺たちの目の前で妖しく笑い、誘うように身をくねらせる……こんなのを見せられてしまってはもう、こちらとしてはたまったものじゃない。男子全員真っ赤になって、それから目が離せないでいた。
しかも……自分の意思とは無関係に、いや、本能に従ってそれを追い求めてしまう。気付けば一歩、二歩と前のめりになっておねーさんの方へと足を進めてしまっていた。心臓のドキドキが激しくて、目の前もクラクラして、他にはもう何も考えられなかったっけ。
近づくにつれ、おねーさんたちからなんか……こう、うまく言葉にできないけどすっごく良い匂いが漂っているのがわかった。甘くてむせかえるような、嗅いでいると気持ちが高ぶってくるような、そんな匂いだ。匂いに溺れるって表現がしっくりくる……って言えばちょっとは伝わるだろうか。
完全に余談だけれども、男子全員それぞれ別のおねーさんに惹きつけられていた。クーラスはちょっと子供っぽい感じのおねーさん、ジオルドは見るからにオトナの色気が漂うおねーさん、ポポルは童話の世界から飛び出してきたかのようなおねーさん、ギルは……あいつの名誉のためにここに書くのはやめておこう。
何とも恐ろしいのは、そんなせくしーおねーさんの集団の中にアルテアちゃんがいたことだろうか。今まで見たことが無いくらいに妖しく笑い、その健康的な太ももを惜しげもなく晒している。『……おいでよ、フィル♪』って色気たっぷりにフィルラドを誘って、抱きしめようと大きく腕を開いていたっけ。
言葉にできない原始的な本能の高ぶり。ドキドキとうるさい心臓。甘い匂いと、目に焼き付いた蠱惑的な微笑み。俺の前にいるおねーさんの肢体にごくりと自然と喉が動き、胸の内に秘めていたそれが暴れ出しそうになって。
何もかもを忘れて、それを抱きしめようとした瞬間。
『う、うっふ~ん……!』ってロザリィちゃんの声が遠くから聞こえた。
いやね、一瞬で目が覚めたよね。なんかもう、こっちが見ていられないくらいにロザリィちゃんが真っ赤になっているの。ぎこちなく微笑んで、ああこの娘、本当に勇気出して頑張ってるんだなってのがありありと伝わってくるの。
何より……ロザリィちゃん、襟のところをくいって下げて、ちらって胸元&魅惑の谷間を見せつけてきた。うっひょおおおおおお!
が、ここで俺の腕に柔らかくて暖かなものが。おねーさんが俺の腕にがっしりとしがみつき、大きな大きなそれを文字通り当ててきていた。『イイコト、し・ま・しょ・♪』と言わんばかりに微笑んでいたっけ。
思わず見とれる。ついついロザリィちゃんに背を向けてしまう。
しかし、ロザリィちゃんは『ちゅ、注目っ!』って可愛い声をあげ、そして──
──『あ、あは~ん……?』ってちらっちらってスカートをぴらぴらしてきたの! 弾けるふとももがちらちら見えたの! なんかもう、いろいろもろもろ見えそう……ではなかったけれど、普段なら決して見えない肌色がすんげえマーベラスにビューティフルでエクセレントだったの!
これにはもう目が釘付けになってしまった。腕のことなんて全く気にならなくなって、自然と足がロザリィちゃんの元へ向かってしまっていたっけ。
ところが、ここでやっぱり急展開。俺の腕にひっついたおねーさん、『行っちゃ、だぁめ……♪』と言わんばかりに──
──俺の耳に甘く噛みついてきた。わーお。
いやはやもう、頭の先からつま先までヤバい魔力が流れたかと思ったよね。もう耳の感覚以外の一切がわからなくなって、おねーさんのことしか考えられなくなっちゃったよ。
もう一生このままでいいや……なんて思っていた。けれど、この世の中にはもっと素晴らしいことがあった。
『い、イケナイコト……してもいいんだよっ?』ってロザリィちゃんが──
──両手を頭の後ろに回して、くいっと腰をくねらせて、いかにもって感じのせくしーぽーずを取ってきた。胸元をパタパタさせて、スカートをぴらぴらさせて、そしてブラウスの裾をチラチラめくる。
夢の詰まった大きな巨星がまぶしくて、魅惑の谷間に引き込まれそうになって、腰のラインが最高で、珠のようなお肌がぴかぴかで、おへそまでちらちら見えちゃったりして……ああもう、アレをどう言葉で表現するべきか、さっぱりわからない。
おまけに誘うような流し目をしつつ、『ず、ずっきゅーん!』ってウィンクも。色気も可愛らしさも何もかもが詰まった至高の一撃。見事に心を撃ち抜かれちゃったよ。
そして、止めとばかりに『──ちゅっ!』って投げキッス。心が撃ち抜かれるどころか、完全にバラバラにぶっ壊れちゃったっていう。
さて、そんな素敵なロザリィちゃんがこちらを誘っているとあれば、俺に選択肢なんてあるはずもない。自分でもみっともないとわかるくらいにだらしない顔をして、全力でそっちの方へと向かう。で、熱くハグして情熱的なキスをしてしまったよ。
……俺の目の前にいたおねーさん、『えっ、うそ、うそでしょ……!?』と言わんばかりの絶望(?)の表情をしていた。目の前の光景が信じられなかったのか、目をまんまるに見開いていたっけ。
で、ここでようやく気付く。
俺たち男子(と、おねーさんたち)を、ルマルマ女子が囲んでいた。そりゃあもうびっくりするくらいに冷たいまなざしで、腑抜けた表情の男子を見ている。
あ、これヤバい奴だ……と思ったところで特徴のある魔力が高まる気配を感じた。この感じは間違いなくちゃっぴぃ。
『きゅぅん……?』って、あいつはすんげえしかめっ面をして俺の前にいたおねーさんにメンチを切っていた。ぱたぱたとおねーさんの周りを飛びつつ、これでもかってくらいに下からねめつける。
おねーさん、『な、なにかしら……?』って感じで優しげな笑みを浮かべた。ちゃっぴぃは一瞬にこっと笑い──。
──『ルァァァァァッ!』ってガチ威嚇。おねーさんの顔面に容赦ない全力ビンタを叩きこんだ。あいつマジ怖い。
『きゃっ!』っておねーさんは後ずさる。『ふーッ! ふーッ!』ってちゃっぴぃは威嚇&ビンタをやめない。おねーさん、涙目になって逃げていたっけ。
その後もちゃっぴぃの勢いは止まらなかった。『ルァァァァァッ!』、『ふーッ!』ってその場にいたおねーさんたち全員にメンチを切り、その美しい顔面に容赦なくビンタを叩きこみまくる。その勢いはかなりのもので、炸裂音がぺちっ! じゃなくてスパァン! って感じだった。あいついつの間にあんなにビンタがうまくなったんだろ?
最終的に、あの魅力的なおねーさんは全員退散。我を失ってだらしない顔をしていたルマルマ男子もだいたいが正気に戻る。『なんであのまま夢を見させてくれなかったんだよ……!』ってガチ泣きしている奴が何人かいたっけか。
で、いくらか落ち着いたところで物陰から我らが兄貴グレイベル先生と、『あ、あうあう……!』って真っ赤な顔をした天使ピアナ先生がやってきた。
『こ、ここまでやるとは……!』ってピアナ先生は驚愕の表情でロザリィちゃんを見つめていた。ロザリィちゃん、『おねがい……! 見なかったことにしてぇ……!』って涙目で言っていたよ。
そして種明かしタイムに入る。もはや書くまでもないけれど、我らが兄貴グレイベル先生は、『…今日はサキュバスだ』と神妙な顔で宣った。
男子一同、テンションが高まったのは語るまでもない。次の瞬間には女子の殺気でチビりそうになったけれど。
やはりというか、先生たちはサキュバスのことを実戦形式……要は、最もわかりやすい形で学ばせたかったらしい。だからこそ、魅了や誘惑の効かない女子をあらかじめ呼び出し、男子だけをサキュバスの餌食にしようとしたのだとか。
『…男子はサキュバスのやり方を直接体験できる。…ちょっとは良い思いもできたんじゃないか?』、『女子は誑かされるおバカさんたちの様子を学べたよね! 魅了された人間の特徴、これでばっちりでしょ?』って先生二人は言っていた。
『男はみんなアホだってことしかわかりませんでした』、『男の間抜け面は想像以上に想像以下でした』、『大きいのがそんなにいいんですか? 大きさなんて関係なくないですか!?』って女子たちからは大きな声が。まるでこっちがいけないことをしたかのように非難してきたのがわけわかめ。本能なんだからしょうがなくない?
ちなみにだけど、『…解説はあえてしないことにする。下手するとセクハラになりかねん。…それに、お前らもサキュバスなら詳しいだろ?』ってグレイベル先生は言っていた。
そりゃあそうだ。男でサキュバスについて調べないやつはいない。『男ってほんっとサイテー』って女子の視線がヤバかったよ。
ピアナ先生も『先生も……サキュバスの解説はちょっと苦手かな……。女の子だけにするのならいいんだけどね……』って言っていた。たぶん、ステラ先生だったら女の子相手でもアウトだっただろう。こういうところがあの二人の違いだと思う。
そうそう、女子の一人が『……グレイベル先生もサキュバスに詳しいんですか? 学生時代はサキュバス博士だったんですか?』って聞いていたんだけど、グレイベル先生、『…………嗜む程度だな』って明後日の方向を向いて答えていた。
男子一同、グレイベル先生との親近感が急上昇したのは書くまでもない。たぶんだけど、あれは相当がっつり調べ込んだクチだろう。
あ、夢魔と淫魔の違いについては教えてくれた。どちらも一括りでサキュバスと呼ばれるものだけれど、淫魔は己の肉体のみを使って相手を誑かすのに対し、夢魔は相手の夢に入り込んで誑かしたり、誰かに憑りつき、それを媒介にして誑かすこともできるらしい。
『…現実世界において、肉体的接触により誑かしてくるのが淫魔だ。夢魔はそれに加え、精神世界においても誑かしてくる。純粋な上位互換だと言っていい』ってグレイベル先生は教えてくれた。アルテアちゃんがいつになくせくしーだったのも、夢魔が憑りついていたからだったってわけだ。
当のアルテアちゃんは『授業でしょうがないとはいえ、あんなふしだらな格好……! なにより、フィルがだらしなく笑っていたのが本当に許せない……! そこは普通、異常を感じて助けるところだろうが……!』って憤っていたっけ。フィルラドにそんなのを求めたところで意味ないけどな!
あと、『きゅ!』ってちゃっぴぃが自慢げだったのが謎である。……そういやこいつ、夢魔の魅惑種の最上位だった。全然夢魔らしい色気ないけど。
ちなみに、サキュバスの魅了から逃れることが出来たのはクラスで俺一人だけだった。それ以外はみんなサキュバス相手にデレデレになっていて、ちゃっぴぃが追い払うまでずっと無防備だった。中には女子が顔面をひっぱたくまで正気に戻らないやつもいたとか。
これはもう俺たちの愛の純粋さを褒め称えられるところだろう……なんて思っていたけれど、【誘惑勝負でサキュバスに勝った女】、【色気と淫靡さでサキュバスより上の女】、【見た目と仕草だけでサキュバスのおっぱいと体のテクを超えた女】ってロザリィちゃんが男子からも女子からも言われる羽目になっていた。
ロザリィちゃんマジ真っ赤&涙目。一応ピアナ先生が『ほら、ロザリィちゃんの場合、相手が──くんだったから。愛魔法もあるし、ちゃっぴぃちゃんのマーキングもあったから』って慰めていたけれど、『もうお嫁にいけない……! 絶対ふしだらな女だって思われたぁ……!』ってぐすぐす鼻を鳴らしていたよ。
『俺が貰うから心配しなくていいよ。むしろ誰にも渡さないから』って優しく抱き締めたら、『……恥かしいことを言うのはこの口かな!』ってすんげえ情熱的なキスで黙らされた。まったく、これだからロザリィちゃんは最高だ。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。今日はいろんな意味で色気にあてられたからか、なんか文章がごちゃごちゃな気がしなくもない。まぁ、これもある意味では臨場感になるだろう。そういうことにしてくれ。
あ、『きゅーっ!』ってちゃっぴぃが俺のベッドにもぐりこんできたことをここに記しておこう。おまけになぜかいつになく甘えん坊で、ひしっとしがみついてくるばかりか、体を執拗にこすりつけてきたり、指をぺろぺろしてきたり、『きゅう……ん♪』ってすんげえほおずりしたりしてくるの。
……そういやこいつのマーキングってなんなんだろ? 俺、された覚えはないんだけれど。明日ロザリィちゃんに聞いておくとするか。
ギルは今日も大きなイビキをかいている。こいつは授業後や雑談中、ずっとミーシャちゃんに全身をガジガジされていたっけ。あんなトロールみたいなアホ面さらして笑っていたんだから、怒られるのも無理はない。
ギルの鼻にはさりげなくちょろまかしておいたサキュバスの頭翼……の、欠片でも詰めておく。なんかちゃっぴぃがビンタしたときに飛んできたんだよね。不思議な質感でちょっぴり甘い匂いがする……鱗でも毛でもないし、なんなんだろう?
まぁいい。とりあえず、ちゃっぴぃを一晩抱き枕の刑に処しつつ寝ることにする。おやすみ。
20180612 誤字修正
さりげなくこの日記で【おっぱい】って単語が出てきたのは初めて。いつもは胸とか、ぼかした表現だったりするのに。なお、私が投稿した作品群としても、【おっぱい】って単語が出てきたのはこれが初めてです。なんか汚れちゃった気分っていう。