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73日目 魔力学:理想魔法体について

73日目


 触媒の欠片がオステルを彷彿とさせるヤバそげな感じになっていた。とりあえず全力でアエルノチュッチュ寮に向かってぶん投げた。あぶねえ。


 ギルを起こし、レポートを提出するために学生部へ。さすがに五回目だからか、提出されたレポートは水色、ピンク、黄色、黄緑、オレンジ……とたいそう華やかなことになっていた。水色やピンクの割合が減ってきているとはいえ、その量は膨大であり、なんかもう聳える山のような迫力を醸し出している。


 さすがにこの様相にはピアナ先生も上級生も辟易としているようで、『うげ……けっこーキツい感じになってきたね……』、『研究室に持ち帰るのが面倒なんだよなァ……』って嫌そうなそぶりを隠そうともしない。天使の中の人間らしさに思わずきゅんきゅんしてしまったのは内緒である。


 ともあれ、普通にレポートを提出。提出の際、アエルノのラフォイドルが問答無用でぶん殴ってきたのがわけわかめ。『てめえ……! 毎回毎回ヘンなものこっちに投げるんじゃねえよ……!』とのこと。何のことだかさっぱりっていう。


 なんでも今朝、アエルノ寮に奇妙な魔法体が飛来したらしい。その魔法雰囲気にあてられた人間はみんな関節痛に苛まされたのだとか。そんなの俺に関係ない……っていうか、それがたまたまルマルマ寮の方向から来たってだけでどうして俺を犯人扱いするのか。ひどくない?


 そうそう、話は変わるけど、レポートの提出の際になぜかピアナ先生から『みんな、レポートと一緒に髪を一本提出してね!』等と言われた。天使のためなら一本と言わず十本でも百本でも捧げよう……としたんだけど、髪を思いっきり鷲掴みした段階で『ごめん、そんなには要らないかな?』ってやんわりと止められてしまった。ちょっと残念。


 ……でも、髪の毛なんていったい何に使うのだろう? 聞いても『ないしょ!』ってウィンクしながらエンジェルスマイルを浮かべるばかりだったんだよね。あんなのを見せられたら、こっちに物事を考えられるほどの余裕なんてできるはずもない。あの可愛さは反則だっていう。


 さて、今日の授業はアラヒム先生の魔力学。今日も今日とて教室はカビ臭い。じめじめした季節になってきたからか、その匂いも一段と強くなっており、鼻の利く(?)ロザリィちゃんは『うぇぇ……』って涙目になりながら俺の胸元へ顔を埋め、すーはーすーはーくんかくんかしまくってきた。


 しかもそれだけじゃ飽き足りないのか、『あたまがクラクラするのぉ……これじゃあ授業を受けられないよぉ……』って縋ってくる始末。ここは恋人として全力で慰めよう……なんて思っていたら、次の瞬間に唇にやわらかいものが。一瞬で目が覚めたよね。


 あのハートフルピーチの香りの余韻をなんと表現するべきか。『……ごちそうさまでしたっ! これでばっちりすっきりできましたっ!』って真っ赤になるロザリィちゃんが本当にプリティで俺もうどうにかしそう。


 授業の方だけど、今日は理想魔法体について学んだ。前回までに内部魔力や可逆変化、不可逆変化について学んだわけだけれども、実はあそこで習った式とかって必ずしも実際の魔法体に適用できるわけじゃないらしい。様々な外乱(ノイズ)が効いてくるほか、いろんな細かい条件なんかで結構値が変わってしまうとのこと。


 『特に低魔度の時や魔侵圧力が強くかかっている時は特にその傾向が顕著だと言えるでしょう。理論上では通用するはずの諸々の法則や式が、現実においてはまるで成り立たないのです。……しかし、法則というのは突きつけられた事実そのものを指します。すなわち、法則が成立しない……なんてことは本来あり得ません。ただ単に、私たちのやり方が間違っているだけにすぎません』……ってアラヒム先生は言い切った。


 そんなわけで理論上仮定した、外乱の影響を一切受けていない、理論通りの挙動を示す魔法体を理想魔法体と定義して計算を行うのだとか。こうすることで近似的に実際の魔法体の計算を可能にするらしい。


 『幸いなことに、多くの魔法体は理想魔法体と近似することが出来ます。これを用いることで複雑な計算をすることなく、魔法体のサイクルの計算ができるわけですね。この近似的に理想魔法体とみなすことが出来る……という部分に魔力学的重要性があります』ってアラヒム先生は言っていた。


 話が概念的すぎてなんだかよくわからなかったけれど、要は【とりあえずざっくり計算できるよ!】ってことでいいんだろう。こんなことでさえいちいち難しく表現しなきゃならないっていうのだから魔系は大変だ。


 なお、この理想魔法体にもやっぱり状態を示す式ってのがある。以下にそれを示す……と思ったけど、面倒だからやめておく。詳しくはノートを見ておいてくれ。今日はグリフォンさんの落書きが見事に決まったからぜひ確認してほしい。あの翼の質感は一か月に一度の出来である。


 そうそう、『低魔度や魔侵圧力が強い時だと法則が成り立たないってことは、逆に高魔度や魔侵圧力が低い時は理想魔法体に近くなるってことですか?』って質問してみたら、『その通りです。そうなるほど次第に式を満足するようになり……つまりは、理想魔法体の性質に近づいていくわけですね』ってアラヒム先生はにっこり笑いながら答えてくれた。


 わかりきっている事実を反対から表現するだけで賢そうに見えるってんだから世の中はちょろい。いや、俺の頭がクレバーすぎるだけか。


 なんかざっくりしているけれど授業についてはこんなもん。今日の魔力学は話の内容がふわっとしすぎていた感が否めない。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。なんだかんだで今日は平和な一日だった。あ、夕飯の時、ギルが『うめえうめえ!』って朝の分までジャガイモを食べていたっけ。あいつ、本当に心の底から嬉しそうにジャガイモを食べるよね。


 ちなみにだけど、俺は夕飯にエビフライをチョイスした。俺ってばいけない子だから、二本同時に食べちゃったりもした。マデラさんの前では絶対にできない贅沢だ。アツアツの衣がダブルでサクッとはじける瞬間って本当に最高だと思う。


 惜しむらくは、ちゃっぴぃとエビフライゲームをする羽目になってしまったことだろうか。ホントはロザリィちゃんとやりたかったのに、『きゅーっ!』ってあいつってばずっとずっと俺に挑んできたんだよね。


 あいつの場合ゲームの趣旨を理解せずにバクバク食べてくるから、こっちもヒヤヒヤが止まらない。くちびるにまで噛みつかれたのは一度や二度じゃない。ガキとキスしても何も面白くもないっていう。しかもあいつのくちびる油でぺとぺとだったし。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。毎回思うけど、こいつの寝顔は本当に安らかだ。不安や恐れの影が一切見えない。羨ましい限りである。


 まぁいい。とりあえず、奴の鼻に不屈の勾玉を詰めておいた。これ、おまじないの効果があるとかないとか言われている代物で、どうやってゴミ処理しようか悩んでいたんだよね。グッナイ。

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