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72日目 侵襲のシューン先生

72日目


 ギルの肌がぴかぴか。しかもなんかぺリぺリ剥ける。どことなくヤバそげだったからまとめてトイレに流しておいた。


 ギルを起こして食堂へ。なんだか妙に女子が多い……と思ったら、ロザリィちゃんが『今日の休日限定メニューはおっきなパフェなんだよ!』って教えてくれた。レポートや実習で頑張っている俺たちへの、おばちゃんからのささやかなご褒美らしい。なぜ男子にはその情報が伝わっていなかったのかは謎である。


 ともあれ、せっかくなので俺もそのおっきなパフェを頼んでみることに。『おまちどうさん!』って渡されたそれは、いつもの休日限定パフェの三倍近い大きさがあった。マジかよ。


 よくよく見れば、ロザリィちゃんはアルテアちゃん、パレッタちゃん、ミーシャちゃんの四人で一つのパフェを食べていた。互いに『あーん♪』って食べさせ合う姿は大変仲良しさん……に見えたけれど、イチゴとチョコを誰が食べるかでちょっと揉めていた。


 『パレッタはいつもポポルくんのを食べてるからいいじゃん!』、『あたしは一口がちっちゃいの! だからこれくらいはわがまま言っても許されるの!』、『ママもミーシャも普段からずっと甘いものを食べている。ここは我に捧げるなり』ってきゃあきゃあ言いながらアルテアちゃんの持つスプーンに食いつこうとしていたっけ。『食べ物でケンカするんじゃない、このバカ娘どもが!』ってアルテアちゃんが三人ともにゲンコツを落としていたけれど。


 『ふぇぇ……!』、『い、痛いの……!』、『ぬ、ゥ……!』って三人は涙目になっていた。あ、件のチョコは『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃが『あーん♪』してもらっていて、イチゴはアルテアちゃんが一口でぺろりと平らげていたっけ。


 ともあれ、俺は俺でパフェを平らげなきゃならない。が、半分程度食べてところでだいぶお腹いっぱいに。『そのチョコ、任せろ』、『俺この前そのイチゴ予約しといたよね?』って匠とおこちゃまがだいぶ受け持ってくれた。男三人でパフェを食うとか悲しくて泣けてくる。


 なお、ギルは『うめえうめえ!』っていつものジャガイモを貪っていた。贅沢なパフェには目もくれず、ひたすらにジャガイモを貪っていた。なんかもう、あいつはそれでいいような気がしてきた。


 午前中はぼちぼち適当に時間を潰そう……と思ったところで『おっはよーっ!』って女神の声が。まさか休日の朝っぱらからステラ先生が会いに来てくれるだなんて、こんな幸せなことが他にあるだろうか。いや、ない。


 が、わくわくしながらお出迎えに行ったところ、そこにいたのはステラ先生と……『何で直接声をかけてくれなかったんだよー? ……お、実は照れ屋さんなのかぁ~?』ってにこにこしたシューン先生が。マジかよ。


 どうやらゼクトはきちんと仕事をこなしてくれたらしい。昨日の風呂の時に伝えたことだから、てっきり修理は来週になると思っていたんだけれど。


 ……アレか、もしかして昨日の夜の雑談タイムの時にシューン先生がティキータ寮に行ったのだろうか。というか、それくらいしか思いつかない。


 ともあれ、『困ったときはいくらでも先生に頼ってくれちゃっていいんだぞ!』ってノリノリでシューン先生は魔法陣の修理を始めだす。『おー……思ったより酷使してたんだな……気に入ってもらえたようで、先生は嬉しいぞ!』ってなぜかシューン先生はにこにこ。おこちゃまと鳥の玩具になっていただなんて、口が裂けても言えなかった。


 さて、シューン先生はいつぞやの秘蔵の触媒と特殊魔法刃を持ち出……すのだと思ったら、触媒しか取り出さなかった。『触媒だけで直せるんですか?』って聞いてみたところ、『いや、魔法刃で刻まなきゃだめだ』と返される。いったいどういうこっちゃ?


 『思った以上に酷使されていたから、今回は消耗した部分を重点的に強化する方向で改修する。そうすればより長く、より扱いやすくなる……ものの、一般的なタイプの魔法刃でそのための魔法陣を刻むのは先生であっても少々難しい』とはシューン先生。空気の読めないかまってちゃんだけれど、やっぱり魔法に関してはプロだった。


 『覚えておきなさい。無ければ作る。それが魔系のやり方だ』ってシューン先生は触媒を片手に、魔法を発動させる。次の瞬間には、先生の手に複雑形状をしたいかにもスペシャルエディションな魔法刃があった。


 シューン先生の得意魔法、加工魔法だったらしい。聞けば、例の三連魔銃とか戦闘用の魔道具は全部先生の手作りだとのこと。こいつぁすげぇ。


 スペシャルエディションの魔法刃を片手にシューン先生は魔法陣をガリガリと刻んでいく。結構大規模で複雑な魔法陣なのに、その動きには一切迷いや乱れが無く、なんか芸術家っぽい雰囲気さえ放っていた。『やっぱりこの手の魔法陣の構築は敵わないなぁ……』って感心するステラ先生が最高に可愛かったです。


 でもまぁ、魔法陣を刻んでいた時のシューン先生はマジでカッコよかったよね。シューン先生の来訪を知って部屋に引きこもっていたルマルマたちもクラスルームの微妙なざわつきにつられて出てきて、そしてシューン先生の神業に見入っていたよ。


 なんだかんだで小一時間ほどで魔法陣の修繕は終了。試しにポポルが乗ったところ、以前と同じようにふあ~って浮かぶことに成功した。『先生的にはもうちょっと面白ギミックをつけたかったんだが……』ってシューン先生はちょっと不満げだったけれど、高そうな触媒を惜しげもなく使って修理してくれたことに感謝を隠せない。


 そんなわけで、お礼を込めて午後のおやつのティータイムまで雑談することに。最近の授業について話したほか(現在シューン先生は二年生の科目を受け持っていないため、あまりこちらの近況は知らないらしい。たまに実験解説で呼び出される程度だとか)、なぜか使い魔についての話まで発展する。


 『学生時代の先生の寮にもいろんな使い魔がいたぞ! まぁ、夢魔やアビス・ハグなんて珍しいのはいなかったけどな。普通に梟や猫……あとは、寮の番人みたいな犬くらいか?』って言っていた。やはりというか、俺たちルマルマの使い魔環境ってだいぶ特殊なことになっているらしい。


 あと、『なぁなぁ、シキラ先生にはカチコミしたんだろ? 先生にもカチコミしたっていいんだぞ? 今なら加工道具の素晴らしさだとか、何なら魔法便覧の素晴らしさについて熱く語ってあげるから!』ってシューン先生は執拗に俺たちにカチコミをするように求めてきた。あの人ちょう怖い。


 『絶対だめですっ! シューン先生だって手加減苦手じゃないですか!』ってステラ先生がぷんぷん怒っていたけれど、やっぱりシューン先生も強いのだろうか。ルマルマの全員で袋叩きにすれば何とかなると思うんだけど……なんだかんだでこの学校の先生たちの実力の底が未だにつかめないのが怖い。


 結局、シューン先生はしゃべりにしゃべった後、おみやのハゲプリンをしこたま抱えて去っていった。『これはティキータのみんなと一緒に食べるからな!』って超笑顔。ゼクトたちの安息が消え去った瞬間である。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中は久しぶりにステラ先生とカードゲームをした。最近俺たちもステラ先生も忙しいから、こうやって触れ合える機会が目に見えて減っているのが本当に悲しい。ずっとずっと、楽しい時間が続けばいいのにと何度思った事か。


 なお、当然のごとくステラ先生は今回も俺たちのケツの毛まで毟り取っていった。取られたお金の半分はクラス財産に、半分は戻って来るとは言え、さすがにこうも毎回負けるのはちょっと悔しい。


 でも、『口ほどにもないね!』ってキリッ! ってした表情のステラ先生が可愛いから別にいいか。あの笑顔のためにお金を払っているのだと考えれば、たかだかお小遣い程度の金額なぞ全然惜しくない。むしろもっと払わないとつり合いが取れないようにも思える。


 ギャンブルをしている時だけ見せるステラ先生のあの表情、実を言わなくてもとっても好きである。あの溢れる自信とちょっぴりの茶目っ気、そして隠し切れない可愛さであふれるステキな表情は、どんなに金を詰んでも見られない代物だ。そんな表情を(ほぼいつでも)見られる俺たちは、きっと世界で一番幸せなのだろう。


 ……卒業までに一回くらいは勝ちたい。勝ってステラ先生にお願いを聞いてもらいたい。膝枕でもデートでもしてあげるって言ってたし、お願いすればほっぺにちゅーくらいはしてもらえるかもしれない。ウブなステラ先生でも、ギャンブラーとしての誇りは本物だ。自分が言ったことを違えるような真似はしないだろう。……それくらい、自分の実力に自信があるってことなんだろうけれども。


 ギルは今日もスヤスヤとクソうるさいイビキをかいている。思えばこいつは一日中部屋の端でスクワットとか腕立てをしていたっけ。せっかくプロによるガチの陣造が目の前で行われていたというのに筋トレを優先するとか、魔系としてそれはどうなんだろうと思わなくもない。


 めぼしいものが見つからなかったので、シューン先生が持っていた秘蔵の触媒……の欠片でも詰めておくことにする。みすやお。


※燃えるごみは滅する。魔法廃棄物は見逃す。

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