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66日目 魔力学:可逆変化と不可逆変化

66日目


 ギルの目じりにカラスの足跡。なぜ。


 ギルを起こし、レポートを提出するため学生部へ。ジオルドもアリア姐さんを抱っこして学生部へきていた。絵面が絵面なだけに二年生および上級生一同のざわめきが半端ない。ジオルドを狙っていたらしき別クラスの女子が『拗らせすぎて植物に手を出しちゃったの……!?』ってめちゃくちゃ驚いていたっけ。


 なお、当のジオルドは『普通にクラスルームで水をあげようとしたのに、一緒に連れてけと促され……』って疲れた顔でつぶやいていた。アリア姐さんは「一人は寂しいし、顔見せ……いいえ、見せつけたいじゃない♪」とでも言わんばかりのにこにこの表情。


 実際、ジオルドはレポート提出の隙を見て普通にアリア姐さんに水やりをしていたんだけど……まぁ、ないすばでーの全裸に等しいアリア姐さんが気持ちよさそうに水浴びしているようなものだったから、ほとんどの男子がドギマギして赤くなっていたっけ。


 なお、ちゃっぴぃは昨日はロザリィちゃんと寝ていたらしい。ジオルドと一緒にいるアリア姐さんを見て、『きゅ……!?』って驚いていた。どうやらあいつ、アリア姐さんがジオルドの使い魔になったと認識していなかったようだ。


 いずれにせよ、使い魔同士仲良くやってもらいたいものである。アリア姐さんなら、ちゃっぴぃの面倒も上手く見てくれるかも?


 今日の授業はアラヒム先生の魔力学。アリア姐さんを抱えて移動しなきゃいけないためにジオルドはだいぶ大変そう。『今度からクラスルームで留守番してもらうか……』って割とガチに呟いていた。アリア姐さん、「いや……! あなたと離れたくなんてない……!」とでも言わんばかりにジオルドを抱きしめていたけれど。


 アラヒム先生、アリア姐さんを見ても『おや、新しい使い魔ですか。ちゃんと責任もって最後まで面倒見るんですよ』っていつも通り。特にこれと言って変わった様子はない。アリア姐さんの色気に何も反応を見せなかった男ってアラヒム先生が初めてかもしれない。


 内容は可逆変化と不可逆変化について。魔力学においては前回までに学んだサイクルや内部エネルギーの考えをいろんなことに利用するわけだけれども、その状態変化を行う際に少しばかり気をつけなきゃいけないことがあったりする。そのうちの一つがこの可逆変化と不可逆変化ってやつね。


 『例えば、コーヒーの中にケーキの最後のお楽しみに取っておいたイチゴをうっかり落としてしまったとしましょう。このとき、カップの中はコーヒーとイチゴが混ざったものと定義することができます。この場合なら、イチゴを取ってあげれば元の【イチゴ】と【コーヒー】に戻すことができると言えるでしょう。これは可逆変化です。……しかしながら、コーヒーにうっかり砂糖を四つもマシマシで入れてしまった場合、これを元の【コーヒー】と【砂糖】に戻すことはできません。つまりは不可逆変化です』……ってアラヒム先生は言っていた。言いたいことはわかったけれど、それが魔力学にどう関わって来るのかさっぱりわからん。


 詳しく聞いてみたところ、これと同じことが魔法のサイクル……具体的には、魔法体の容積膨張(縮小)における外部魔法仕事の計算について言えるのだとか。


 以下に、ざっくりとその概要を示す。



・可逆変化


 常に魔法的な力のつり合い、および魔法熱的なつりあいを保ちながら行う変化。魔法体の可逆膨張時においては、魔法体の全ての部分は速度ゼロ、かつ同一の魔度や魔侵圧力であり、魔法体と他の物体との間で魔法的熱交換があるとき、魔法体とその物体は同一魔度である。

 可逆変化である場合、基本的に変化途中の任意の瞬間にそれを止めても、状態に変化は現れず、逆の変化をさせても最後には完全に元の状態に復帰することが出来る。また、このような変化は限りなく緩やかな変化であることが前提であり、実際の自然界および魔法界において、厳密な意味で可逆変化を起こすことは不可能であるが、近似的に成し得ることは可能である。


・不可逆変化


 普通はこっち。変化を加えたのに完全に元に戻る方が珍しいっていう。ギルに顔面をぶん殴られたゴブリンが、元の顔に戻ると思うか? つまりはそういうことだ。



 あんまりよく意味はわからなかったけど、【元に戻る簡単なのが可逆変化、元には戻らない、一般的な変化が不可逆変化だよ!】……ってことなんだろう。先生の説明も教科書の説明も堅苦しすぎてわかりづらいから困る。


 アラヒム先生は、『そもそも変化にはどういったものがあるのか……そういった基本を押さえると言った意味で今回の講義は重要ですが、現実的な問題においてはこれら二つの変化に分類される変化の種類その物が大事になってきます。もしどうしてもわからないというのであれば、変化とは大きくこの二つに分かれるってことだけを覚えてくれれば今は大丈夫です』って言っていた。


 サイクルの計算においては、(これも大事だけれど)構成要素のうちの何を固定して何を変化させたのか……それが大事になって来るらしい。今はまだ詳しいことはわからないけれど、そのうち頑張って覚えておこうと思う。


 今日も夕飯はみんながっつり食った。ポポルもミーシャちゃんもパレッタちゃんも、ますます難しくなっている授業を忘れるように貪っていた。ジオルドはステーキを食いながらもアリア姐さんに水をあげていたっけ。あいつ、なんだかんだ言って結構マメだよね。


 ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってた。アリア姐さんが隣で食事(水浴び)していても全然興味を示さない。それだけジャガイモに夢中になっていたのだろう。もしそうじゃなかったら、トロールみたいな笑顔を浮かべていたはずだ。


 風呂入って雑談して今に至る。週明けであまりやる気がないから、今日はこのくらいにしておこう。頭を使いすぎたって言った方が正しいかもしれない。


 ギルは元気にスヤスヤとやかましいイビキをかいている。しかめっ面の太陽を鼻に詰めておこう。おやすみすていく。

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