6日目 発展触媒反応学:概要と復習
6日目
ギルの乳毛が筋肉質。何を言ってるかわからないだろうが、俺にもわからない。
ギルの筋肉質な乳毛をひっぱりつつ食堂へ。あまりに奇妙すぎるそれを見て、ミルク吹きのフィルラドとティキータのゼクトが揃って牛乳を噴いていた。ケラケラ笑いながら乳毛で遊ぶミーシャちゃん、ポポル、パレッタちゃんを見習ってほしいものである。
『乳毛程度でミルクを噴くとか、あいつら本当に口のしまりが悪いよな』ってなんとなくジオルドとクーラスに話を振ったら、『いや、それが普通の反応だ』、『自覚はないだろうが、お前は既に相当染まって……いや、元からか?』等と言われる。いったいどういう意味だろうか。
なお、筋肉質な乳毛を引っ張られながらも、ギルは『うめえうめえ!』とジャガイモを貪っていた。食堂のおばちゃんは『衛生的に問題だから全部引っこ抜いといてくれ』ってミーシャちゃんたちにギルの乳毛抜きをスペシャルデザートで依頼していた。俺も欲しかった。
さて、今日の授業は発展触媒反応学。授業名的に久方ぶりにヨキの授業か……なんて思っていたら、『今のところはみんな無事みたいですね』ってにこやかに笑いながらキート先生がやってきた。ちょっとびっくり。
なんでも、キート先生の専攻は触媒反応学だったらしい。去年製図の授業を担当していたのはたまたま運悪くクジで決まってしまったからだそうな。『私とヨキ先生と、あともう一人もっと発展した触媒反応学を担当されている先生がいらっしゃいまして、この三人が触媒反応研究室の所属になります』ってキート先生は言っていた。
授業内容だけど、今日は一発目ってことで今までの復習をしましょうってことになった。やっぱりというか、これからの授業はこれまで培ってきた触媒反応学の知識が非常に重要になって来るらしく、しばらくぶりでボケているだろうからしっかり思い出しましょうねっていう寸法。
『基本的に魔系で触媒反応学の知識を使わないなんてことはあり得ません。また、他の分野でも言えますが、他分野の知識を元に展開していく理論は数多くあります。そういった意味でも、ここで復習するのは君たちにとってもいい機会になるんじゃないでしょうか』ってキート先生は言っていた。
とりあえず、単語の確認として板書されていたものをそのまま写しておく。
・魔応力
魔法体がなんらかの魔力を受けるとき、魔法体内の任意断面には連続的な魔力が分布しているものと考える。魔法体が魔法的平衡状態にあるとき、この内部からの魔力は外部からの魔力と釣り合う。この断面に分布している単位面積当たりの魔力を魔応力と呼ぶ。
・裂界魔応力
魔法体断面に対し、裂界方向に働いている魔応力。
・魔歪
外部魔力の作用を受ける魔法体には、その負荷状態に応じて浸食、封縮、ひずみといった変形が生じる。このとき、変形前の魔法体の寸法に対するこれらの変形量の比を魔歪と定義する。なお、その性質上、魔歪には単位は存在しない。
・浸食魔歪
浸食に対する魔歪。
・封縮魔歪
封縮に対する魔歪。
・裂界魔歪
平行な二断面のある距離に対する裂界方向のずれによる魔歪。
・魔変係数
魔法弾性体(多くの魔法体は概念的にこれに定義され得る)に外部魔力が加えられ変形するとき、生じる魔応力と魔歪の関係は降伏魔応力を超えない範囲で比例関係にあり、この関係を特にタームの法則という。この関係を支配する比例定数を魔変係数と呼ぶ。
・内魔変係数
浸食(封縮)魔応力と浸食(封縮)魔歪との比例定数。
・外魔変係数
裂界魔応力とその方向の裂界魔歪との比例定数。
・ペイセア比
浸食/封縮魔歪に対する裂界魔歪の比とその逆数。
・比例限度
タームの法則が成立する上限の魔応力。
・降伏魔応力(降伏点)
魔法材料が降伏を起こす魔力を原断面積(多くは魔法陣面積)で除した魔応力値。
・耐魔応力
降伏点が明瞭でない魔法材料について、それぞれ定められた永久魔歪が生じる際の魔力を原断面積(多くは魔法陣面積)で除した魔応力値。
・浸食強さ
魔法材料が耐えうる最大の魔力値を原断面積(多くは魔法陣面積)で除した魔応力値。魔法材料の強度指標の最も一般的なもの。
・許容魔応力
魔法構造物や魔法要素の設計上で安全に使用しうる最大の魔応力。
・安全率
魔法材料の安全基準の一つ。魔法材料の基準となる強さの魔応力に対する許容魔応力の割合。この基準となる魔応力は魔力の負荷状態、対象魔法構造物、対象項目によって異なり、安全率もまたケースバイケースで異なる。この安全率は(基準魔応力)/(許容魔応力)で定義される。
さすがにちょっと手が痛くなった。そういえば、キート先生って製図の時も最初の方の授業でがーっとこんな感じにいろんなことを言っていたような気がする。
そして習った覚えのない単語がチラホラ。チラッとクーラスの方を向いたら、あいつもまた神妙な顔でコクリと頷き返してくれた。
俺とあいつの記憶にないってことは、まず間違いなくヨキが教え忘れたんだろう。二人ともが忘れるなんてないだろうし、何より俺はこの日記を書いているから記憶力には自信がある。この学校、先生たちの連携をちゃんと取っているのだろうか。
もちろん、ポポルやミーシャちゃんは既に涙目。ぐすぐす鼻を鳴らしながら必死こいて板書を取っていた。ギルに至ってはすっかり諦めたようで、ヴィヴィディナ(やたらゴツいダンゴムシ形態)を使って腕のトレーニングをしていた。なんとも平和な光景である。
結局、なんだかんだで単語の確認&軽い練習問題をさらっとやって授業は終了。キート先生、『これからどんどん厳しくなるので、この程度で音をあげてると大変ですよ?』って疲れた顔して笑っていた。不吉過ぎるってレベルじゃねーぞ。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。明日は一応初めての実験。みんな早々にクラスルームから撤退した……けど、最後まで残っていたネグリジェ姿のロザリィちゃんが『明日がうまくいきますようにっ!』ってちゅっ! ってやってくれた。
とろけるような笑顔に秒速百億万回惚れ直す。しかも、『──くん、私にはおまじないしてくれないの?』って上目遣いで甘えてくるところとか最高。もちろん情熱的なキスをお返しする。ロザリィちゃんさえいれば、なんだってがんばれちゃうよね、うん。
ギルは今日も健やかにスヤスヤとクソうるさいイビキをかいている。もしロザリィちゃんがこの世に居なかったら、俺はきっとこのイビキのせいでノイローゼになっていたことだろう。ロザリィちゃんの溢れる愛に感謝をささげつつ、やつの鼻に自立の心を詰めておいた。みすやお。