59日目 魔力学:内部魔力および第一法則の式について
59日目
ギルのまばたきが周期的。こいつでタイミングチャートって書けるのかな? あと、なんか微妙に疲れが取れていない気がする。
ギルをおこし、レポートを提出するために学生部へ。今回からは四回目のレポート(黄緑)も加わったため、提出ボックスがたいそうカラフルで華やかなことになっていた。微妙に水色の割合が減ったとはいえまだまだ数は多く、そびえだったそれの迫力もすさまじい。
キイラムもノエルノ先輩も、ほかの上級生もみんな眠そう。ノエルノ先輩は『くぁ……!』って大きな欠伸をして、ちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめていた。なんか、この前の実験の事故を受け、再発防止のための反省会&書類作成的なのをやっていたのだとか。
『正直なところ、これいじょう対策なんてしようがないと思うんだけどね……』とはノエルノ先輩。不測の事態なんてものは往々にして予測不可能であるからして、それに対策なんてしようがない……という考えらしい。
『対策って今は具体的に何をしてるんですか?』ってシャンテちゃんが質問。ノエルノ先輩、『んーっとね……』と、顎に手をあてて考えだす。
『ああ……気づいてるかどうかわからないけど、私たちアシスタントは常に互いに一定の距離を開けて行動するようにしているんだ。どこで何があっても、かならず誰かがサポートに動けるように。ついでに、全体を護ることが出来るようにね』……って軽く言われたとき、衝撃が走ったよね。
言われてみればあの爆発の際、二年生はほとんどが反応できていなかったのに、上級生は俺たちを一人残らず守ってくれていた。どこかに誰かが偏るということも無く、全員が満遍なくひろがって、隙間なく全体をカバーしていた。
……実験中、ずっと万が一に備えていたのだろう。常に互いの位置を確認しあって、何かあったときにすぐに動けるようにしていたのだろう。ただむやみにウロウロしていたんじゃなくて、常におたがいの魔法の範囲をカバーできるように動いていたのだろう。
実際、今回だってキイラムがすぐに行動できている。仮にほかの場所で爆発があったとしても……うん、必ずちかくに上級生がいる。俺たち二年生だけしかいないところなんて、あの実験室にはどこにもない。
もしかしなくとも、このアシスタントの人たちってものすごく有能なんじゃあるまいか。あのクソみたいな実験の補助しつつそんなことを考えているだなんて、思ってもいなかったんだけど。普段はヘラヘラしたりバカ騒ぎしているのに、こんな一面もあったとは。
あ、そうそう。帰り際に『いろいろ諸々含めたお礼です』ってハゲプリンとクッキーのセットを上級生におくっておいた。ソルカウダと、カチコミと、事故のときのお礼である。
キイラム……先輩とノエルノ先輩のだけはちょっぴり豪華エディション。他の人のもちょっと量を多めにしておいたから、感謝の気持ちとしては十分だろう。『なんか普通に貰えるっていう事実がすごく怖い……』って何人かの上級生に言われたけど、あいつら俺のことをなんだとおもっているのだろうか?
あ、もちろんピアナ先生にもジャムクッキーのセットを貢いだよ? 『わぁい!』って喜ぶピアナ先生が最高に可愛かったです。
あと、『よくお礼言っとけよ』ってフィルラドのケツを叩いたりもしたっけ。あの野郎、俺に言われるまですっかり忘れていやがった
さて、今日の授業はアラヒム先生の魔力学。今日も今日とていつも通り、カビ臭い教室で講義が始まる。
内容は内部魔力について。前回までに魔力には様々な形があることや、サイクルとして様々な条件の元に状態変化を起こすってこと学んだわけだけれど、それをくわしくつめていきましょうって感じ。
以下にその概要を示す。
・内部魔力
魔法物体の保有する魔力の総和から、物理魔力(魔法的外力や魔深魔力)、および魔法的電力を差し引いた残り。魔力学の場合、多くのケースにおいて魔法的熱に関して考慮しなくていいので、魔法的に静止しており、かつ外部魔力の影響を受けていない魔法物体の保有する総魔力を内部魔力と定義することが可能である。一般的に、ある魔法物体の保有する総魔力は内部魔力と物理魔力の総和と考えるケースが多い。内部魔力は物体の現在の魔力のみに関係する状態量であるため,純粋な魔法物体であるならば、その魔侵圧力、比容積、魔度の内の二つが決定すると内部魔力も決定される。
また、物体の単位質量当たりの内部魔力は比内部魔力と呼ばれる。
・第一法則の式(魔力の式)
内部魔力Uを持ち、かつ魔法的に静止している魔法物体あるいは系に魔法的熱量dQを加えたとき、魔法物体の内部魔力がdUだけ増加し、同時に魔法物体は外部に対する魔法的仕事dWを行うとするならば、魔力保存の法則、あるいは魔力学の第一法則から
dQ=dU+dW
……という関係式が成立する。これを、第一法則の式、あるいは魔力の式と呼ぶ。なお、この魔力の式は
一、魔法物体が外部に対して行う魔法的仕事を正に取る。
一、外部から魔法物体に加えられる魔法的熱量を正に取る。
一,dUは状態量として扱う(魔法物体の現在の状態のみ関係)
一、dQ、dWは状態量ではない(魔法物体の経路変化に関係)
という条件が前提である。
なんか難しいことをごちゃごちゃ書いたけど、つまるところ【内部魔力と物理魔力の合計が総魔力だよ!】ってだけのことである。ただ、内部魔力も物理魔力もさらに細かい区分があって、そのせいで余計にわかりづらくなってるってだけだ。
……というか、毎回のように思うけど、この手の学術的な記述ってすんげえわかりづらくない? もっと端的にわかりやすい言葉で書いたほうが絶対にみんなの理解も深まると思うんだけど。
これが具体的にどんなことに使われていくのか……ってのは次回以降の授業でやるらしい。ただ、アラヒム先生は『計算において正負を間違える人がちょくちょく出てきます。ただ単純に暗記するのではなく、その定義をよくおぼえて、現実問題と照らし合わせて考えられるようにしてください』って言っていた。
夕飯くって風呂入って雑談して今に至る。なーんか微妙に疲れが取れないし、ここのところ夜更かしもあったからか目も若干霞んでいる。少しばかりあたまも痛いような? 日記も今日はこの辺で切り上げてさっさと寝るようにしよう。
ギルは今日もクソうるさいイビキをかいている。なんとなく肩こりの素を詰めてみた。おやすみ。