52日目 魔力学:テスト返却
52日目
何もない。どういうこっちゃ?
みんながすっきり爽やか快調になっていた。『生まれ変わったみたいな気分だぜ……!』、『体が凄く軽いの!』とのこと。あいつホント便利だな。
ギルを起こし、ちゃっぴぃをお姫様抱っこしつつ学生部にレポートを提出しに……行こうと思ったところで、先週は実験をしていないことに気付く。もはやレポート提出が習慣になってしまったことに悲しみを隠せない。自分がどんどんピュアじゃなくなってしまうようで、そこはかとない恐怖すら覚える。
あと、ノエルノ先輩にこの前のお礼のハゲプリンを渡すことが出来なくてちょっとショック。プリンもケーキもそんなに日持ちしないんだけれど……先生の誰かに保存魔法でもかけてもらうべきだろうか。
ともあれ、今日は普通に食堂へ。なんか久しぶりに週明けに食堂で朝餉を食べる気がする。おばちゃんも『せっかく腹いっぱい食える日なんだからしっかり食べときなっ!』って気合を入れていろんなの作っていたっけ。
で、朝食としてオーソドックスにトーストと目玉焼きをチョイスし、さぁ、食べてやるぞ……と思ったところでクラスメイトの様子がちょっとおかしいことに気付く。みんなすっきり爽やかな顔をしているのに、俺を見た途端にサッと露骨に顔を反らしたんだよね。
ロザリィちゃんなんて特にそれが顕著。羞恥と絶望が入り混じった表情を浮かべ、『あは、あはは……』って乾いた笑みを浮かべていた。そんなところも最高にステキだった。
どうやら、昨日の一件をかなり気にしているらしい。『ごめんね……手間取らせちゃったよね……。私なんて、どうしようもないダメ人間だよね……。こんな酒におぼれるダメ娘なんて、誰もお嫁に貰ってくれないよね……』とか、いつもとは考えられないくらいにネガティブな発言をする始末。
もちろん、『俺はロザリィちゃんとステラ先生以外、嫁に貰うつもりはないよ』って微笑んでおく。
嘘偽らざる俺の本心だ。今更確認するまでもない。
残念だったのは、いつもならここでキスする流れになるはずなのに、『ごめん、しばらくは勘弁して……』ってロザリィちゃんに言われちゃったことだろうか。別に俺、そんなこと気にしない……っていうか、例えその直後だったとしても、ロザリィちゃんなら問題ないんだけど。
そうそう、アルテアちゃんも真っ赤になって、怒っているようにも恥ずかしがっているようにも受け取れる表情をしていた。『昨日あんな無様な真似を晒したのもそうだし、酔ってフィルに醜態を晒したのはもっと屈辱だ』とのこと。
アルテアちゃん、飲み会の時の記憶がばっちりあるらしい。普段の凛々しきアルテアちゃんからしてみれば、許せないものがあるのだろう。というか、人前でゲロを吐くよりも人前でフィルラドに露骨に甘えるほうが屈辱なのか。
一方でミーシャちゃんは普通。『気にするような人じゃないから別にいいの』とのこと。ある意味羨ましい生き方だ。
女子全体がそんな感じ。醜態を見せたことを酷く悔やんでいるのだろう。男子は自分たちのことを含めてまったく気にしていないって人がほとんどだけど。
……ここだけの話だけれど、一部の男子が『……昨日の女子、なんかよかったよな』って言っていたのを聞いてしまった。変に歪みきる前に、組長として矯正しておこうと思う。そんなの、不幸しか生まないのだから。
ギル? 今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってたよ。昨日散々いろんなやつのをぶっかけられたのに、そんなこと気にした様子も見せなかった。そういうところがギルのいいところであり、憎めないところでもあるのだろう。
申し訳なさそうにしていた男子も、ギルに『暗い顔してないで、一緒にジャガイモ食おうぜ!』って声をかけられてパッと顔を明るくしていたよ。
さて、今日の授業はアラヒム先生の魔力学。今日は前回行われた中間試験の返却。相も変わらず部屋がカビ臭くて困る……けれど、昨日のルマルマ寮よりかは遥かにマシ。『むしろなんか落ち着いてくる気さえしてきたなり』ってパレッタちゃんが言っていた。
総評として、アラヒム先生は『全体としては思ったより出来ていましたけど、最後の問題の正答率が予想以上に低かったのがちょっぴり悲しいです』ってコメントしていた。先生的には学んだロジックをきちんと活用したうえで実力を発揮してもらいたかったらしい。
肝心の俺の結果だけど、まぁぼちぼちって感じ。とりあえず九割取れたから文句はない。ただ、やっぱり細かい定義の説明のところで理解の浅いところがあったらしく、微妙に減点を喰らってしまっていた。
クーラスのほうもそんな感じ。『割とぬるくて手応えが無いな』って余裕そうな表情。直後にミーシャちゃんとポポルに手をガジガジされていた。
ちなみにロザリィちゃんは『すっごいよかった!』とのこと。具体的な点数こそ『ないしょ!』って教えてくれなかったけれど、あの様子だと八割近く取っていたのではなかろうか。クレバー&ジーニアスなロザリィちゃんもプリティ過ぎるから困る。
そうそう、最後にアラヒム先生がギルの答案を返却していた。『……本当にあなた、呪われてませんか?』って頻りに確認も。今回の呪は全裸になる呪らしいんだけれど、ギルが半裸だから呪われているのかいないのかよくわからなかったらしい。
『どう見ても……筆跡まで一致しているのに、どうしてカンニング判定の呪が発動しないのか……』ってアラヒム先生にしては珍しく眉間に皺を寄せて悩んでいたっけ。『全部筋肉のおかげですよ!』ってギルは超笑顔だったけど。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。なんか今日はあっさりしているけれど、休日は忙しかったし、週明けで気分も乗らないからこんなものにしておこう。最近は日記の文章量がごちゃごちゃと増えすぎてきているから困る。昔くらいにすっきりまとめたいところだ。
ギルは今日もぐっすりとクソうるさいイビキをかいている。今日は奮発して星の涙を鼻に詰めることにする。おやすみなさい。