表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/367

50日目 第五回ルマルマおつかれさまパーティー(お酒☆フェスティバル)

 お 酒 は 二 十 歳 に な っ て か ら !

50日目


 お部屋の中がアルコールの芳しいかほりでいっぱい。朝からちょっとエレガントな気分っていう。


 ギルを起こして食堂へ。朝食はなんとなくシーザーサラダをチョイス。どうせ今夜は体に悪いおいしいものをたくさん食べるつもりだし、朝餉くらいはさっぱりとした体に良さそうなものを食べようと思った次第。食事だけには金をかけているこの学校らしく、シーザーサラダもなかなかにデリシャスだった。


 もちろん、ギルは今日もジャガイモ。『うめえうめえ!』ってうまそうに食っていた。『気合を入れるときはジャガイモに限るよな!』とも言っていたけれど、あいつは休みだろうと試験の日だろうとジャガイモを食っているから説得力がまるでない。


 さて、午前中は夕方のおつかれさま会に向けてお菓子や料理の準備を行った。野菜の皮むきやその他食材の下処理なんかを宿屋スキルを用いてどんどんとこなしていく。スクワットを始めようとしていたギルのケツを叩いて手伝わせ、さらにはつまみ食いにくるポポル、パレッタちゃん、ミーシャちゃんの相手もしなきゃいけないのが悲しいところ。


 でもでも、『私も手伝うよー!』ってロザリィちゃんが自前のエプロンをつけて手伝いに来てくれて超幸せ。エプロン姿のロザリィちゃんも文句なしに可愛いし、何より二人でキッチンに立っているという新婚さんっぽさが最高だ。まさか学生の内からこんな気持ちを味わえるだなんて、一体誰が想像したことだろうか。


 ちなみに、『マデラさんのところで何度もお手伝いしたし、前よりも随分マシになったけど……やっぱりまだまだ──くんには敵わないなあ』ってロザリィちゃんがちょっぴり困った様に笑っていたので、『家事は全部俺がやるから、ロザリィちゃんは気にしなくていいんだよ?』って微笑んでおいた。傍にいてくれるだけでこんなにも幸せにしてくれるというのに、その上で家事までやろうとしてくれるとか、ロザリィちゃんってばどれだけいい子なのだろう。もしかしなくても女神なのか?


 ともあれ、そんな感じで料理&おやつの準備を進めていく。あ、この前のシキラ先生へのカチコミのお礼ってことで、ついでにノエルノ先輩のぶんのおやつセットも作っておいた。いつも通りハゲプリンとクッキー、それにちょっとしたお菓子をチョイスしてみたけれど、お礼としてはこれで十分だろうか。宴会準備のついでの品ばかりで悪いけれど、真面目に作ったから大丈夫……だと信じたい。


 ……ソルカウダの時のお礼としてティーチングアシスタントの上級生たちにもクッキーを作っておいたけど、なんだかお礼をする必要が無いように思えてきた。だってあいつら、ノリノリでソルオイルを収集していたんだもん。助けられたっていう感じがあんまりしないんだよね。


 まぁ、一応筋だけは通しておこうと思う。マデラさんも『何があっても筋だけは通せ』って言ってたし。


 午後のおやつの時間ごろに『おっじゃましまーす!』って天使が来訪。『…うっす』って兄貴もやってきた。それぞれ自分のところで作ったらしき野菜料理(めっちゃおいしそうだった! しかもピアナ先生の手作りである)と、ガチっぽい感じのロースト(疲れるから滅多に作らないというアレ)をもっている。最高かよ。


 しかもしかも、何やら二人ともがお酒の瓶を抱えている。『お酒記念日だからね! せっかくだからちょっとお高いやつ買ってきたの!』とのこと。


 が、どう見たってそのお酒の瓶は【ちょっと】どころではないレベルの高級品。マデラさんの宿屋でだってあんまり見ないくらいに高級オーラを放っている。


 当然、『まだお酒の楽しみ方も知らない僕たちが、こんな高級品を頂くわけにはいきませんよ』って遠慮したんだけど、『…こういうときでもないと、俺たちだって飲む機会が無い。俺たちが飲みたいんだから、素直に甘えとけ』ってグレイベル先生に諭されてしまった。


 先生たちのやさしさに泣きそう。まさかこんなところでこんな形で大人になったお祝いをしてくれるとか。もう一生この二人についていきたい。


 なお、まさにそんな話をしている最中に『やっほー!』ってステラ先生がやってきた。で、ピアナ先生とグレイベル先生があまりにもガチすぎる準備をしてきているのを見て、『ど、どうしよう……!? 先生そこまでしっかり準備してきてないよぅ……!』って見るからにあわあわしだした。


 『お祝いの場に一緒にいてくれるだけで、最高にうれしいですよ』……ってアルテアちゃんが先生を抱きにいったため、慰めることは叶わず。ステラ先生、アルテアちゃんの腕の中で『ホントに……?』って安心しきった表情をしていた。


 最近のアルテアちゃんのオカンオーラがマジすごい。あんな先生の表情、俺見たことないんだけど。なんで俺、アルテアちゃんにこんなにも嫉妬を覚えているのだろうか。


 あと、『先生に変な虫が寄り付く前に、こっちから動くべきだと最近気づいたんだ』って俺を見ながらアルテアちゃんが言ってたんだけど、いったいどういうことだろうね? 今度虫除けでも作ってステラ先生にプレゼントしたほうがいいのかもしれない。万が一でも先生のお肌に虫刺されなんかできたら、この世の大いなる損失になるからね。


 さて、なんだかんだで夕方ごろには準備が整い、二年次第一回ルマルマおつかれさまパーティー……通算すると第五回ルマルマおつかれさまパーティーが始まった。今回のメンツはルマルマ&ステラ先生&グレイベル先生&ピアナ先生。『中間テスト、おつかれさまでしたーっ!』ってステラ先生の合図とともに、大歓声が上がる。


 ホントは最初の掛け声とともに乾杯をしたかったんだけど、グレイベル先生が『…慣れないうちは、いや、慣れていてもすきっ腹で酒を飲むな。ある程度食べてから飲むようにしろ』って言ったため、まずは普通に料理を楽しむ。


 用意したのは唐揚げ、フライドポテト、ピザ、ムニエル、フィッシュアンドチップス、エビフライ、鳥の丸焼き、シカのローストなどなど。お菓子としてはハゲプリン、ゼリー、クッキー、タルト、ケーキ各種って感じ。それにピアナ先生が持ち込んだ野菜料理に、グレイベル先生が持ち込んだガチの肉のロースト、そしてステラ先生が持ってきたクラッカーやチーズ、スナックといったおつまみ類があった。


 あ、今回はあくまでお酒を楽しむため、甘さが際立つ煉獄ケーキは見送ることにした。時間的にもちょっと厳しかったしね。


 ポポルはフィッシュ&チップスのフィッシュばかりを『うめえうめえ!』って食っていた。ミーシャちゃんも魚のムニエルを『おさかなおいしいの!』って子供みたいにはしゃいで食べていた。ジオルドは『今の俺、最高にクールだ』ってワイングラスでぶどうジュースを楽しんでいたし、パレッタちゃんは『とりあえずおにくたべたい』って唐揚げをがっついていた。クーラスが『ほら、あーん!』って女子にピザを口に入れられて真っ赤になっていて、そしてフィルラド&アルテアちゃんが『おつかれさま』って普通にグラスをごっつんこして穏やかに食っていた。


 ギル? 『うめえうめえうめえぇぇぇぇ! やっぱ親友のジャガイモレベルはジャガイモクラスだぜ!』って言いながらただの蒸かし芋をバクバク食ってたよ。こいつはホント楽で助かるよね。


 で、いろいろ諸々端折るけど、ある程度場が温まってきたところでとうとう夢のお酒タイムに。オトナの代表ってことでグレイベル先生が『…成人おめでとう。これでお前らもおおっぴらに酒を楽しめるわけだが、酒は飲んでも飲まれるなって言葉を忘れるな。…魔系だからといって、飲み会で杖を抜くような……俺たちが堕ちてしまった場所には来るんじゃない』ってガチな顔で話しだす。


 何か嫌なことを思い出したのか、グレイベル先生の後ろでステラ先生とピアナ先生がぷるぷる震えていた。そんなところが最高に可愛かった。


 『…とはいえ、自分が飲める量を把握しなきゃ話にならん。酒が人生に深みを与えるのもまた事実。今日ばかりは細かいことは気にせず、大いに飲み、好きなだけ楽しめ。後処理は全部してやる』ってグレイベル先生は笑う。あんな風に笑うグレイベル先生を見たの、もしかしたら初めてかもしれない。


 ともあれ、みんなでグラスを装備。俺を含めた大半の人は『まずは定番からでしょ!』、『実はけっこう、憧れがあったのよね!』ってエールをグラスに注いでいた。


 やっぱり冒険者の酒場って誰しも一度は憧れるものらしい。現実でのそれもそうだし、お話なんかでも実に楽しそうに描かれていることがほとんどだ。あの陽気と活気に惹きつけられ、そして『子供が来る場所じゃねえよ!』って追い返されて悔しい思いをした人って意外と多いのではなかろうか。


 一部の男子は『俺これくらい余裕だし?』って最初から度数の強いものをチョイスしていたけれど、『…まぁ、バカやって痛い目を見るのも勉強だ』ってグレイベル先生は止めようとしなかった。


 あ、『きゅ! きゅ!』ってちゃっぴぃがうるさかったから、やつにもグラスを持たせてジュースを注いでおいた。さすがに酒を飲ませるわけにはいかないし、かといって仲間はずれにすると後で癇癪おこされるからね。


 で、『みんな、準備は出来たかなっ?』ってステラ先生がグラスを片手ににっこりと笑う。先生はぐるりと俺たちを見回し、満足そうにうなずいてから、『みんな、成人おめでとう! みんなのお酒記念日にこうして立ち会えて、先生はすっごくうれしい! ……コホン、長ったらしい話はここまでにしてぇ…………かんぱぁい!』って宣言した。


 『『かんぱぁぁぁい!』』って声がルマルマ寮に大反響。互いのグラスがごっつんこしまくりんぐ。『うぇぇぇい!』、『飲んじゃうぜえぇぇぇぇ!』って声と共にぐびぐびとその音がこだまして……


 『まっずぃぃぃぃ!』って大半の奴がエール噴いた。


 いやね、俺も危なかったよね。なんかエールってさ、あいつらが普通にうまそうにぐびぐび飲んでいるから、美味しいものだと思っていたんだよ。


 そりゃあ、ジュースみたいな甘酸っぱいものじゃないだろうとは思っていたけれど、木や花の甘い香りと言うか……ともかく、一種独特な上品な味、あるいは低俗であっても病みつきになるような味がするんじゃねーかって想像してたんだよね。


 ところがどっこい、実際のエールはとんでもなくクソマズかった。甘いどころか苦い。苦くてエグい。 鼻に抜けていくドギツイ特有の風味も最悪だし、炭酸だってことを抜きにしても妙にその一口が重い。頑張って飲んだとしても、口にエグさと苦さがいつまでも残り続ける。


 『うぇぇぇ……』ってロザリィちゃんが本気で泣きかけていた。『全然想像と違うの……!』ってミーシャちゃんも顔をくしゃくしゃに。『……これ、腐ってないか?』ってアルテアちゃんも女の子がしちゃいけないレベルで眉間に皺が寄っていて、パレッタちゃんは『ヴィヴィディナに捧げるなり』ってグラスの中身を全部ヴィヴィディナにぶっかけていた。


 ポポルは『クッソまずいんだけど!』って唐揚げを食べて口直しをし、クーラスは『オトナってこんなの好き好んで飲んでるのか……!?』って驚きの表情。ジオルドも『理解できねえ』ってプリンを食べていたし、フィルラドに至っては言葉を発することも無くエールを噴いた状態で固まっていた。


 もちろん、他の連中も概ね似たような感じ。ジュースや料理で口直しをしたり、ノーセンキューとばかりにグラスを置く奴がほとんど。度数の高いお酒はもっとその傾向が顕著だったらしく、男子数人が絶望の表情を浮かべていたっけ。


 ギル? 『ちょっと変わった水だな! でも、ジャガイモはこれよりずっとうまいんだぜ!』っていつも通りだったよ。


 『…ふ。まだまだ子供だな』ってグレイベル先生はにやにやしながらエールをぐびぐび飲んでいた。なんか最高にオトナっぽくてかなり悔しい。俺も負けじとグラスを飲み干してみたけれど、やっぱり気分は最悪に。とてもスマートに飲めたとは言い切れないだろう。


 『先生もエールはちょっと苦手なんだよね……』なんて苦笑しながらも、ステラ先生は当たり前のようにグラスを空にする。『私もエールを飲むことはあんまりないかな』ってピアナ先生は一口飲んだそれをグレイベル先生にそのまま渡していた。


 出来ればそれは俺が飲みたかった……けど、悲しいことに俺が躊躇っている間にグレイベル先生が一息で飲み干してしまう。どういうことなの。


 で、『これでお酒の怖さはわかったでしょ? 無理して飲む必要なんて全然ないからね? ……でも、慣れればその美味しさもわかるようになるから。最初はエールよりも、果実酒やカクテルのほうが飲みやすくていいよ?』ってステラ先生がお勧めだというそれを紹介してくれた。『……飲みやすい分、加減を間違えやすくもあるんだけどね?』とも付け加えられる。お酒怖い。


 とはいえ宿屋の息子的に考えて、ここで芋を引くわけにはいかない。しかも、ステラ先生のお酌である。これをみすみす逃すなんてルマルマが廃るというものだろう。


 そんなわけで、『ありがとうございます』ってお礼を言ってからステラ先生にお酌してもらう。『えへへ……こうして生徒にお酒を注ぐの、ちょっと憧れてたんだぁ……!』ってステラ先生はにっこにこ。もちろん、俺も『失礼します』って言ってステラ先生のグラスにそれをお酌しておいた。


 肝心の味だけれど、こっちのお酒は飲みやすくておいしかった。ちょっと刺激的なジュースみたいな感じで、少なくともエールの時に覚えた嫌悪感は無い。それどころか、アルコール特有(?)のあの何とも言えない感じがジュースの甘みと相まって、なんか上品な、オトナっぽい仕上がりになっていた。


 なんだろうね、あの特有の風味みたいなやつ。鼻にスッと抜けていくんだけど、体の方にも残り続けるというか……お菓子で使う時とよく似てるし、例えるなら上品なお菓子のあの感じってのが一番しっくりくるんだけど、それでもなんかちょっと違う。


 いずれにせよ、それは普通に美味しいお酒として楽しめることが発覚。さすがはステラ先生である。お酒の目利きも女神とか、最高に女神すぎやしないだろうか。


 俺が普通に飲んでいるのを見たからか、クラスの連中もステラ先生やピアナ先生が勧めたお酒を飲んでみることにしたらしい。おっかなびっくりと口をつけたと思ったら、『あ、これおいしい!』、『ようやくお酒の良さが分かった気がする!』って普通にワイワイとやりだすようになった。


 『ペースは守ってね! あと、必ず何か料理を食べながら飲むように!』ってピアナ先生が言ってたけど、何人かは酒に弱かったらしく、そんなことお構いなしに試し飲みをしまくっていた。


 俺もちょっとずついろんなお酒を飲んでみることに。やっぱりというか、俺は甘口のお酒が好みらしい。グレイベル先生が飲んでいる辛口とやらはアルコールの匂いが強すぎてダメだったけれど、ステラ先生やピアナ先生が飲むような果実酒だとかカクテルだとかは普通にイケた。


 『お酒の好みが同じだと、なんかうれしくなっちゃうよね!』ってステラ先生はこの時点でちょっとテンション高め。ほんのりと顔が赤くなっていて、しかも微妙に汗ばんでいる。色気が凄まじかったよね、うん。


 あ、そうそう。ブランデーの方も飲んでみたけれど、あれに関していえば香りはけっこう好みでいい感じだった。やっぱりお菓子作りでの風味づけなんかでは重宝しそう。味はいかにもアルコール! って感じで美味しく思えなかったけれど。


 ワインは渋くてエグみも強いように感じられたけれど、料理には使えそう……っていうか実際使っている。本当の味を確かめられたから、これからはよりちゃんとした応用をすることが出来るだろう。ただ、どう頑張ってもブドウらしさを感じられなかったのはどういうこっちゃ?


 度数が中くらいのお酒に関しては、一緒に食べる肴が重要になるのではないかと考えられる。単品で飲むとあんまりおいしく感じられないけれど、料理と一緒に食べるとこれがまたびっくりするくらいに後を引く感じになった。お酒が料理の良さを引き出し、料理がお酒の良さを引き出し……って感じの無限ループが心地いい。


 お酒の種類によってどんな料理と相性がいいのか結構がっつり変わってくるみたいだから、そこら辺はかなり研究しないといけないだろう。今回お酒を飲んだことで机上の知識と実際の感覚とのギャップをはっきり確認できたし、なにより酒というのは何百種類とある。たかだか十数種類の酒と数種類の料理の組み合わせを確認した程度じゃ、まだまだ不足と評価せざるを得ない。


 この肴として一番グレートに感じられたのはチーズだった。あの塩気と特有の風味がお酒のアルコールの感じと非常にマッチする。だいたいどんなお酒とも合うのが素晴らしいところ。もしかしたらチーズはお酒と一緒に楽しむのが最高の答えなのかもしれない。


 ただ、逆に甘いお酒はあまり肴と一緒に楽しむって感じじゃなさそうだった。単品で楽しむときは最高にグレートだったけど、お酒そのものの味や風味が強く、ジュース的な側面も強いから、肴とともに活かしあうって感じは全然しない。もちろんものに因るとは思うけれど、少なくともフライドポテトや唐揚げといった宴会の定番とあえてわざわざ一緒に楽しむようなものじゃないだろう。


 ……ああいうのは、エールのほうが合う気がする。これもおいおい確かめていくしかないか。


 さて、そんなわけで一通りのお酒を飲んでみたわけだけれど(一番おいしかったのはピアナ先生たちが持ってきた【月森精のお酌】ってやつだった。今度マデラさんに仕入れるように進言しようと思う)、ここで何やら辺りの様子がおかしくなっていることに気付く。


 うん、みんな酔っぱらったのか、いつものおつかれさま会と空気がまるで違ったんだよね。


 まず、男子の何人かが陽気になって騒いでいた。顔が真っ赤になっており、足元もおぼつかない。女子も数人が『きゃはははは!』ってパレッタちゃんみたいに笑っていて、男女問わずボティタッチしまくっていた。


 『すぴー……っ』って赤い顔をしたまま幸せそうに寝こけている奴もいれば、『まだまだ夜はこれからだぜぇ……?』って壁に向かって話しかけている奴もいる。『暑くなっちゃったぁ~っ! 脱いじゃおっかなぁ~っ?』って胸元をチラチラぱたぱたさせている女子を、別の女子が『やめときな! アンタだいぶ派手に盛っているでしょうが!』って必死になって止めていた。


 いつぞやと同じく、クーラスが『俺だってなぁ! 俺だってなぁ! レポート頑張ってるんだよ! なのに巻き添えくらってバツもらったんだよ! どうしてくれんだよコンチクショウ!』って誰彼構わず泣きながら絡みまくる。『うん、うん、わかるよ……。辛かったよね、悲しかったよね。……今日は飲んで、忘れよ?』って酔っぱらってる(?)パレッタちゃんが話し相手になって背中をさすってあげていた。


 ジオルドが『今日の俺は無敵だぜ? おら、俺とデートしたい子猫ちゃんは手ェあげろ!』って赤い顔して超ノリノリ。酔っぱらってる女子たちも『はーい!』、『デートだけで、いいのかしらぁ!?』って超ノリノリ。『踊っちゃうよ!? 俺踊っちゃうよ!?』ってなぜかその場でダンス大会が始まっていた。実に愉快で楽しそうであった。


 愉快な人と言えばミーシャちゃんもそうだった。『もっともっと持ってくるの! 樽で百個は持ってくるの!』ってケラケラ笑いながらくぴくぴ飲みまくっていた。クレイジーリボンを巧みに操り、同時に七つものグラスを手に取るという荒業を見せつける。あんな小さな体のいったいどこにあれだけの酒が入るというのだろうか。しかも途中でお腹丸出しになっていたし。


 一番びっくりしたのはアルテアちゃんだろうか。なんか普通にフィルラドにもたれかかり、こてんって肩に頭を乗せていた。フィルラドが動こうとするとくいっとそのローブの裾をつかみ、『……いっちゃ、やだ』って怒った顔をする。


 酔ってる(?)フィルラドが『そうはいっても、アティ。キミの好きなプリンを取ってこれないよ?』って耳元で囁くも、『……フィルのほうが、好きだもん』ってアルテアちゃんはそっぽを向いてデレる。


 どうやら、アルテアちゃんは酔うと無口&甘えたがりになるらしい。普段の気高きアルテアちゃんからは想像できない姿に、酔っぱらったステラ先生が『アルテアちゃんってば可愛いね~!』ってふわふわ笑いながらコメントしていた。


 フィルラドはおそらく酔うと見た目通り(?)の気障ったらしいイケメンになるのだろう。普段からそうであればと思わずにいられない。


 というか、あの二人って酔いから覚めたとき、いったいどんな反応をするのだろうか。記憶があったら大変面白いことになりそうな気がしなくもない。


 ギルは『俺ってば脱いじゃうぜえええ!』って服を脱いでテカテカ光るマッスルボディを惜しげもなく晒していたけれど、あいつは普段からあんな感じだから酔っているかどうかよくわからなかった。ただ、今回はズボンまで脱いでいたから、酔っている可能性のほうが強いのかもしれない。


 でも、『もう一枚! もう一枚!』、『うへぇ、汚いの見せないでってばぁ~! 切っちゃうよぉ~?』ってあがった声に対し、『悪いな! ここはどう頑張っても鍛えられなかったから、見せることは出来ないぜ!』って返答していたから、完全に酔っぱらってるってわけではないのだろう……いや、酔ってるのか?


 さて、そんな様子を見聞きしながら飲み食いしつつ、我らがロザリィちゃんはどうしてるのかな……なんてあたりを見てみる。『楽しんでるかなっ』っていつのまにやら隣にいた。愛魔法の気配を感じたから、たぶん俺を見て飛んできたのだろう。


 ただ、やっぱり顔が赤くて目も潤んでいる。ついでに言えば汗をかいているせいでいつもよりすごく甘くて……こう、ドキドキする匂いがした。あれが本物の色気ってやつなのだろうか?


 『酔ってない? 気持ち悪くなったりしたら早めに言ってね?』って言ってみたんだけど、『だいじょーぶ!』と返される。酔っ払いは往々にしてそう言うものだから『ホントに?』って聞き返したら、ロザリィちゃんってば、にんまりと笑って──


 ──ちゅっ! ってキスしてきた。うわーお。


 『……これでもまだ、信じられない?』って微笑まれてしまえば、俺にはもうどうすることもできない。『パパってば、もっと証拠が欲しいのかなあ? 欲張りさんなのかなあ?』ってロザリィちゃんはにこにこと笑い、いつの間にか腕の中に捕まえたちゃっぴぃに『ねー?』って問いかけていた。


 ……ちゃっぴぃのやつ、『きゅ、きゅう……?』って怯えと困惑が入り混じった表情をしていた。たぶん、ずっとロザリィちゃんに絡まれていたのだろう。


 どうやらロザリィちゃん、酔うと殊更にプリティになってしまうらしい。その後も普通にイチャイチャしたし、ちゃっぴぃにもほっぺにキスしてあげていた。


 さらには、『せっかくの記念日なのに、彼女をほったらかしにしてお酒を飲んでいたパパはいけないと思いますっ!』なんて言いながら、俺の耳に噛みついてくる始末。でも、優しく抱き締めると『うひひ……!』って嬉しそうににこにこするっていうね。


 で、ここで隣から小さな声が。『お前ら、酔ってんの?』ってポポルが普通に肉とか肴とかをバクバク食いまくっていた。みんなが酔っぱらっているのをいいことに、ハゲプリンすら独占しまくっている。


 『お前はどうなんだ?』って聞いてみたところ、『酒マズいから全然飲んでねえ。ジュースのほうがうまくね?』と返される。『甘い酒もあるぞ』と勧めたところ、『一応全部飲んでみたし、そっちは普通に美味いと思ったけど……でも、普通のジュースとあんま変わんない』等と言われた。


 実際、ポポルは甘い酒なら普通にくぴくぴ飲んでいた。どうやらお酒はあくまでジュースの一種である、という認識であるらしい。ただ、ジュースと同じ味の酒であるならば、わざわざ飲もうとは思わないようだ。


 グレイベル先生が『…限界を知るためにも、少しは強いのを飲んでみたらどうだ?』って強めの酒も勧めたんだけど、グラス半分飲んだところで『……やっぱクソマズい! もう無理! ──、残りよろしく!』ってギブアップした。

 

 ただ、あれだけ強い酒を飲んだというのに、ポポルは全然酔っていなかった。顔が赤くなってすらいない。『…これだけの度数の酒を飲んだら、少しは赤くなるもんだが』ってグレイベル先生も不思議そうな表情。『…甘い酒なら好きなんだろ? ちょっとしばらくそれを飲んでみてくれ』ってポポルにリクエストする。


 ポポルの奴、その後はしばらくずっと甘い酒を飲んでいたけれど、やっぱり全く酔っていなかった。あいつザルだったのかよ。


 さて、脱いだり眠りだしたりするやつが増えてきたので、宿屋の息子的に最後の仕上げ……具体的には、みんなが飲み残したお酒の処理に入る。さっきポポルが残したお酒を一息で呷り、ロザリィちゃんが口づけしたやつは間違いが起こる前に回収して飲み干し、ジオルドやクーラスが残した高級なお酒も飲んで、一部の男子連中がカッコつけて結局飲めなかった度数の高いそれももったいないから飲み干す。


 ……ホントはステラ先生やピアナ先生が残したお酒も飲みたかったんだけど、残念ながら二人はグラスに入ったそれはきっちり飲みきっていた。中途半端にボトルに残っていたのは俺が責任もって飲み干しておいたけれど。


 一応言っておくけれど、俺がこんな真似をするのはお酒を捨てるのがもったいないこと、さらには後片付けが面倒だという理由からである。


 宿屋的に考えてお酒を無駄に捨てることは出来ないし、俺は酒の仕入れで生産者と顔を合わせたりもしているのだ。それを知っているのに飲みかけを全部捨てるなんて真似、出来るわけないじゃん?


 ……それに、たぶんルマルマのみんなは互いに気にせず互いの飲みかけや食いかけを口にできると思う。俺自身がそうだし、もう今更だ。……ちょっと恥ずかしいけれど、みんな家族みたいなもんだし。


 そんなわけで後片付けに向けて率先して飲みかけや中途半端に余った酒を飲んでいたところ、『…おい、ちょっと待て』とグレイベル先生に声をかけられた。さすがの先生と言えどそろそろお水が欲しくなってきたのかしらん……なんて思いながら『どうしました?』と返事をしたところ、『…いつも通り過ぎたからうっかりしてたが……お前、酔ってないのか?』と聞かれた。


 そういや俺、全然酔ってねえや。


 ここでようやく気付く。宴会中は研究のためにいろんな酒を飲んだし、今だってこうして瓶やボトルの中の酒を処理しまくっているわけだけれど、俺自身に酔っ払いの症状がまるで出ていない。顔は赤くなっていないし、体が熱くもなっていない。酩酊状態……がどんなのかは知らないけれど、ふわふわした感じも気持ちがよくなるって感じもしない。


 もちろん、考え方や性格もいつも通り。普通に受け答えできるし、特別気が大きくなっているってわけでもない。片足立ちも出来れば華麗なるマンドラゴラステップも普通にできた。針の穴も見分けられるし……何より、こうして夜更かしして日記を書いていること自体が、全然酔っていない証拠になるだろう。


 『…お前、ポポル以上に飲んでるよな?』と聞かれたので、『三倍じゃ効かないくらいに飲んでますね。ウチの宿屋の常連もこれくらいは飲んでました』と返す。


 『…結構な種類を飲んでたよな?』と聞かれたので、『ワイン、ブランデー、エール、リキュール……料理の研究のためにも、一応ここにあるのは全種類二杯ずつは飲みました。気に入ったやつはボトルで飲んでますね』と返す。


 『…体に異常は?』と聞かれたので、『特にありません』と返した。俺ってばマジクール。


 ただ、やっぱりこれって結構珍しいことらしい。宴会の終盤、全員の無事を確認した後、『…この様子なら、もう大丈夫だろう。…ちょっと付き合え』ってグレイベル先生に誘われて飲み比べをすることになったんだけど、度数の高いお酒をぐびぐび飲んでも全然酔いは回らなかった。


 なんだろうね、確かに飲みやすいようにジュースと割って飲んだんだけど、それでもやっぱり『…こいつ……化け物か……』ってグレイベル先生がギブアップするのが先だった。『それなら俺も飲む』って一緒に飲んでいたポポルはグレイベル先生よりちょっと前に『なんか目がぐるぐるしてきたからやめとく』ってギブアップしていたっけ。


 一応、限界を調べるため……そしてなにより、俺も酩酊状態のふわふわした気分を味わいたかったから、その後もグレイベル先生監修のもと一番強いお酒を飲み続けたんだけど、結局酔っぱらうことは叶わず。


 何度も何度もトイレに行く(しーしーの方である)くらいには飲み続けたものの、最終的には俺の胃袋と膀胱がたぷたぷになり、そしてお酒が尽きてしまった。どういうことなの。


 今まで飲酒なんてした経験ないんだけど。『…生贄に使える、か?』って少し酔ったグレイベル先生に肩をがしっと組まれたのがちょっと怖い。そしてそれ以上に、ロザリィちゃんやみんなと一緒に酔えないのが凄く寂しい。


 俺もみんなと一緒にバカ騒ぎしたり、【酔って楽しむ】ってのをしてみたかった。今までずっと子供で飲めないのをいいことに宴会の処理やゲロの処理ばかりさせられてきたから、それに結構な憧れがあった。小さいころからナターシャやミニリカ、テッドやヴァルのおっさんが楽しそうに杯を交わしているのを見て、何度ベッドの中で悔し涙を流したことか。


 みんなを寮の部屋に送って着替えさせて簡単な後処理をしてから今に至る。何人かの女子を各々の部屋に送らせてもらったけれど、意識のはっきりしている女子から『これだけの人数は今の私たちだけじゃ運べないし、それに酔ったほうが悪い』って言葉を貰えたから大丈夫だろう。


 それに宿屋の息子的に考えて、宿屋のサービスで俺がヘマをすることなんて絶対にありえない。


 ギルは健やかに酒臭い息を吐いてぐーすかとクソうるさいイビキをかいている。詰めるものが見当たらなかったので、なぜかローブのフードに入っていたなんかの酒の王冠でも詰めておこう。


 明日はお片づけ。果たして何人がまともに活動できるのか。グッナイ。

20181027 誤字修正


 お 酒 は 二 十 歳 に な っ て か ら !


 【酒は飲んでも飲まれるな】。強要するのも無理するのも絶対だめです。適度な量に抑え、ほどほどのところで止めるようにしましょう。自分にも周りにも迷惑をかけないように、ルールとマナー、常識と法律をよく考えて楽しく飲みましょうね!


 お 酒 は 二 十 歳 に な っ て か ら !

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 宴会、楽しい!(もう何年も参加してない) [気になる点] お酒は二十歳になってから! [一言] 某コーヒーショップがプロデュースしたスパークリングコーヒー(500ミリ缶だったかな?)が、割…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ