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5日目 発展魔法陣製図:概要

5日目


 ギルの体から爽やかな風が。こういうのでいいんだよ。


 ギルを起こして食堂へ。奴の全身から爽やかな風が吹いているのにもかかわらず、ルマルマのメンツの表情は暗い。みんな頬がげっそりとしているというか、目にクマがあるやつもけっこういる。どうやら昨日の体験があまりにもショッキング過ぎて、ろくに眠れなかったらしい。


 そんな中、パレッタちゃんは元気にバクバクとおばちゃん特製ウィンナーパンを食べていた。その頭にはヴィヴィディナ(今日は珍しく普通に綺麗なちょうちょだった)が止まっている。一応みんなに配慮(?)したのだろうか。


 『みんな食欲無さそうなのに、大丈夫なの?』って聞いてみたら、『今更芋虫の一匹や二匹どうってことない。だいたい、今までにそれ以上のことをしてきたのに、なんで今回に限ってみんなこんなザマなのかまるでわからぬ』って言っていた。


 言われてみれば確かにその通りと思えなくもない。ラフォイドルもポポルもかつてヴィヴィディナを口内で噛み潰していたし。


 ともあれ、今日はさっぱりヨーグルトをチョイス。未だに真っ青なロザリィちゃんの隣にさりげなく座り、無言でその背中をさすった。『食欲がないのはわかるけど、ちょっとでも食べておいた方がいいよ?』って俺特製のフルーツソースでデコった逸品をさっと前に置く。


 ロザリィちゃん、無言で俺にしがみついてきた。びっくり仰天していたら、『……おねがい、もうちょっとだけこのままで』って割とガチめなトーンでつぶやかれる。どうやら想像以上にロザリィちゃんの精神的ダメージは大きかったらしい。言われた通り、そのままずっとぎゅってしておいた。


 なお、余りまくった朝食はギルが『うめえうめえ!』って喜んで平らげていた。もちろんいつものジャガイモの大皿もしっかり完食。俺たちルマルマのただならぬ様子を気にしていたティキータやバルトの連中も、ギルのいつも通りな姿を見てなんか安心していた。


 さて、今日の授業は発展魔法陣製図。これも名前的にキート先生が担当かな……と思ったら、『よお、待たせたな! やっぱ再履がいない教室は広くて最高だ!』って満面の笑みのシキラ先生がやってきた。マジびっくり。


 なんでも、皆が覚えている必須技能だけに、製図の専門の先生ってのはいないらしい。だから、毎回ほんのわずかでも余裕のある先生が持ち回りで受け持っているとのこと。『ぶっちゃけみんな余裕なんてないんだけどな! 運が悪く担当になったら無理にでもやらなきゃいけねえのが魔系なんだぜ!』ってシキラ先生が言っていた。


 肝心の内容だけれど、一年生の時に製図の基礎となる技術は培ったから、今度はより現場に近い、ちゃんとした魔法陣についての製図をやっていきましょうって感じだった。やることそのものは今までよりちょっと難しくなったってだけで、特別変わりはしないらしい。


 しかも、『前期の間に四つの製図を終わらせればいいだけだから、労力そのものは一年の時よりはるかに楽になるんじゃねえの?』ってシキラ先生が話してくれた。どの課題も最後の授業にまとめて提出すればいいらしい。一応それぞれについて授業で触れるけれども、実力があるならさっさと先に進めてしまってもいいそうな。


 明確な締め切りが無い分、割と余裕はありそう。『究極な話、出欠さえなければ一回も授業に参加せずに単位を取ることも可能だろうな』ってシキラ先生が言うくらいだし。まあ、知らない魔法陣についてちゃんとした製図が出来る人なんているわけないんだけどさ。


 初回だったため、全体の説明だけで授業は終了。その後はなんとなく雑談タイムに入る。


 シキラ先生、顔色の悪い俺たちを見て腹を抱えてゲラゲラ笑っていた。『なに!? あのアンブレスワームの洗礼を受けたの!?』、『毎年最初の授業であれやって、みんな心をバッキバキに折られるんだよな!』、『昔は吐く奴いなかったけど、最近は無事なやつももらいゲロして大惨事になるんだよな!』……などと、たいそう楽しそうに語っていた。


 ただ、『一応、あれで根性を鍛えるっていうか、気を引き締めさせる目的もある。ついでに、あれ以上に精神に来るのはしばらくはない。最初にガツンときついのをやらせることで、「あれよりマシだ……」ってあとの授業に耐性ができるんだよ』との情報もくれた。


 その鍛え方は人道的にどうなのかと思ったけど、ここは魔系の連中の巣窟だ。まともな考えを期待する方がおかしいのだろう。俺みたいなまともな人間は本当に貴重だと思う。


 なお、シキラ先生は『いずれそのうちあのワームでさえ笑い話にすることができる。俺の研究室の女子生徒はデートのための化粧をしながら、実験用にあのワームを噛み潰している。一年後にはみんなあの程度のことは楽勝でできるようになるし、もっとヤバいことを笑いながらできるようになるから』……って妙なフォローを入れてくれた。


 それって人間としてなにか大事なものを失っているように思えるんだけど、そこのところはどうなのだろうか。やっぱ魔系ってみんなクレイジーだ。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。みんなもなんだかんだで夕飯は普通にガツガツ食っていた。ミーシャちゃんもポポルも『そのおさかなあたしの!』、『その肉俺が予約してたんだけど!』って今までの分を取り戻すかのように食っていた。


 立ち直りが早いというべきか、本能に忠実と言うべきか。いずれにせよ、元気なのはいいことだろう。


 ロザリィちゃんも、ずっと俺にひっついていたのは変わらなかったけど、風呂上がりごろには『……♪』ってすーはーすーはーくんかくんかする余裕を見せていた。風呂上がりロザリィちゃんはめっちゃぬくやわこくて良い匂いがして、本当にもう言葉に出来ないほど最高でした。


 寝る間際なんて、『……おねがい、何もかも忘れさせて』ってめっちゃ情熱的なキスをしてくるっていうね。ロザリィちゃんのキスがあまりにも素晴らしすぎて、正直もうあのワームの味なんて思い出せそうにない。


 しかもしかも、今回のキスはちょっぴりオトナのキスで、さらにはやたらと時間も長かった。『──ぷはっ』ってくちびるを離した時のロザリィちゃんの表情はあまりにもスウィート過ぎて、夢魔のちゃっぴぃが『きゅ、きゅう……!』って赤面して固まるくらいだった。


 まったく、ロザリィちゃんはこれだから困る。いったいどれだけプリティになるのか、ちょっと想像がつかない。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。何があってもいつも通りなこいつがちょっとうらやましい。とりあえず、健やかなる筋肉の成長を願って秘蔵のマッスルオーガの乳毛を鼻に入れておく。見分けがつかなくてびっくり。グッナイ。

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