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49日目 魔法回路実験:実験予備日(お誘いとお酒チョイス)

49日目


 ギルの鼻から炎が。それだけなの?


 ギルを起こして食堂へ。今日は平日なのに事実上の休日であるという奇跡の一日。故に食堂にいるみんながそれはもう幸せそうな顔をしており、いつもは陰険なアエルノの連中でさえウキウキした様子を隠せていなかった。休日限定のデザートがなかったことだけが、今日が平日であるという唯一の証拠だろう。


 朝食は贅沢にミックスサンドをチョイス。肉や野菜、いろんな具材がこれでもかとたっぷりに使われたボリュームたっぷりな逸品。ボックスで頼む奴がチラホラいたところを見るに、ハイキングやデートに繰り出す人間がそれなりにいるのだろう。レポートも無い、テストも終わった、そして休日はまだ二日もある……これだけの好条件がそろう日なんてそうそうないのだから。


 そうそう、珍しくフィルラドがヒナたちに食べやすく千切ったミックスサンドを与えていた。『たくさん食って大きくなれよ……!』っていつになく慈愛の表情を浮かべていたけれど、そもそもヒナたちって拾った時からほとんど姿が変わっていない。それどころか、一向に飛ぶ気配すら見せていない。


 おそらく度重なるギル要素の摂取により、体構造がギル・クリーチャーのそれに近くなってしまっているのだろう。フィルラドがそれに気づくのはいったいいつになるのやら。


 あと、『こっちゃこい、こっちゃこい』ってヒナたちを呼んだのに無視されてしまったアルテアちゃんがショックを受けていた。『いつも面倒を見ているのは私なのに……!』ってアルテアちゃんにしては珍しく悔しそうな表情。ヒナたちも、なんだかんだで真の主はフィルラドだと認識しているのかもしれない。


 ギル? 『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってたよ。鼻から吹き出す炎でジャガイモにちょっぴり焦げ目をつけるという器用な真似さえ見せていた。案外あの位置からの噴射はいろいろ諸々便利だということに気付く……も、そもそもそんな知識何の役にも立ちはしない。


 朝食の後は明日のおつかれさま会に向けてみんなで準備をすることに。例によって例のごとく、ギル&ミーシャちゃんは湖に魚を獲りに、フィルラド&アルテアちゃんは山へ獣を狩りに、ポポル&パレッタちゃんは会場の設営、ジオルド&クーラスはその他全体サポートや雑務をこなすってことに。他のメンツは各々の判断で動くか、あるいは上記の人たちについていってサポートって感じね。


 ちょっと驚いたのは、ジオルド&クーラス班に結構な数の女子が同行したことだろうか。『向こうにはこれがデートなのかどうかとドキドキさせつつ、こっちはデートのつもりでからかいながら楽しむのが良いのよね』とのこと。お互いが楽しめるのならそれでいいか。


 さて、俺とロザリィちゃん、ついでにちゃっぴぃは諸々の許可と買い出しのお誘いのためにステラ先生のお部屋へと赴く。コンコンとノック……をしたかどうかの瞬間に、『まってたよっ!』って既におめかしバッチリのステラ先生が笑顔で扉を開けてくれた。最高かよ。


 どうやら、俺たちが来るのをまだかまだかと待ち構えていたらしい。『昨日は楽しみ過ぎて全然寝られなかったんだよね!』ってそれはもう嬉しそう。書類なんかもすでに作ってあるらしく、『早く提出して買い出しに行こうよ!』ってすんげえノリノリ。


 なんか年々ステラ先生が若返ってる……というか子供っぽくなっている気がする。そんなステラ先生も最高にステキだけれど、たまには出会った当初のナチュラルにおねえさんぶるステラ先生とお話ししてみたくもある。


 今から考えると、あれも必死に俺たちとの距離感をつかもうと努力した結果なのだろう。あるいは、いつぞやみたいに暗示魔法を自分にかけていたのかもしれない。いずれにせよ、こうしてステラ先生が当たり前のように素の表情を見せてくれるというのは喜ばしい限りである。


 学生部に諸々の申請を出した後は買い出し……の前に、グレイベル先生とピアナ先生の元へ。やっぱりこの二人を誘わずにルマルマの宴会なんてできるはずもない。ステラ先生も『人がいっぱいいるほうが楽しいもんね!』ってちゃっぴぃをおんぶしながら言っていた。


 何ともエレガントなことに、グレイベル先生は朝からハンモックに揺られて読書をしていた。俺たちの気配を感じ取ったのか、『…そうか、そろそろそんな季節だったな』って本から目を離す。


 読んでいた本、【オークの瞳に恋してる ~龍帝襲来! 可愛い豚ちゃんは我のもの!~】ってタイトルだった。俺たちの兄貴にしてはずいぶん低俗な本だな……なんて思っていたら、『…シューン先生から強く勧められてな。案外面白く、つい続刊も借りてしまった』とのこと。今度俺も読んでみようと思う。


 さて、落ち着いたところで早速宴会のお誘い。ピアナ先生は『ほ、ホントにいいの? 先生たちがお邪魔したらゆっくりできなくない?』って遠慮しまくっていた。そんなところが最高に天使だと思います。


 で、この調子じゃ来てくれる可能性は薄いかなって思いつつも説得していたんだけど、『記念にお酒を飲むので……出来れば先生方もご一緒してくれるとうれしいです』って告げたところ、意外にもグレイベル先生が『…なんだと? …それなら邪魔させてもらおう』って食いついてきた。


 『…初めての酒だしなあ。何をしでかすかまるでわからん。対応できるのが一人はいないと困るだろう』とのこと。よくよく考えてみれば、俺たちみんな(クーラスを除く)お酒は初めてなわけで、どれだけ飲めるのか、酔うとどうなるのかまるでわかりはしない。


 普通にお酒を飲めるオトナなステラ先生がいるから大丈夫……って言えないのが悲しいところ。先生、酔っぱらうとふわふわしてさらに可愛くなっちゃうし。


 ともあれ、そんなわけで保護者という名目でグレイベル先生とピアナ先生が仲間に加わってくれた。たぶん、ピアナ先生は普通に飲んで食べて楽しむ方に回るだろう。グレイベル先生には悪いけれど、今回ばかりはその好意に大いに甘えるとしよう。


 その後は先生たちと別れてお酒やジュース、ちょっとしたおつまみ類を買いに町へと赴く。なんだかんだで町に繰り出すのも結構久しぶり。『デートみたいで楽しいね!』ってぎゅって手を繋いでくるロザリィちゃんが本当にプリティ。どうしてこの子は俺をこんなにも幸せにしてくれるのだろう?


 なお、『もう片方の手も空いているんですけど……』ってさりげなくステラ先生に手を差し出したところ、『きゅーっ♪』ってちゃっぴぃに手をつかまれてしまった。ステラ先生も『こんなおばさんをからかってないで、ちゃんと恋人を大切にしようね?』って頭をポンポンしてくる始末。ちょうかなしい……けど嬉しくも感じてしまう俺はおかしいのだろうか。


 肝心のお酒だけれど、みんな初めてでどんなものが好みかわからなかったため、俺の独断と偏見で満遍なくチョイスした。強いものから弱いもの、甘いものから辛いものまで……宿屋の息子的な観点でも、悪くない選択だったと言えよう。


 実をいうと、お酒の飲み比べってのをやってみたかったんだよね。お酒の味は知識としてしか知らないから、宿屋でも人にお勧めするときにちょっともやもや感があったんだよ。やっぱり人に選んであげるなら自分の舌で確かめたものにしたいじゃん? すごい宿屋の息子的に考えてさ。


 もちろん、ステラ先生たち用にお高めのお酒も用意する。先生も最初は遠慮していたけれど、『僕の仕事のためでもありますから』って説得したら、最後には『じゃあ、お言葉に甘えちゃおっかな!』って折れてくれた。『先生とピアナ先生は果物を使った甘めのが好みかな? グレイベル先生は辛口の強めを飲んでるのをよく見るよ!』とのこと。概ね想像通りの好みでなんか安心した。


 お酒を購入し、せっかくなので四人でランチし(いつものところは満席で寄れなかった。残念。でもステラ先生が『クラスのみんなにはナイショだよ!』って奢ってくれた)、ぼちぼち町を散策して買い物したところで寮に戻る。すでに大半の人間は帰ってきていて、それぞれ戦果を報告しあっていた。


 フィルラドのところは大きめのシカを一頭にほどほどのサイズの鳥が数匹。エッグ婦人が空から索敵し、アルテアちゃんが射撃魔法で仕留め、そしてフィルラドが召喚魔法で呼び出した魔物でここまで持ってきたらしい。


 ミーシャちゃんのところは小さめの魚が大量。『大物はいなかったの……一年のバカがいろいろやらかしていたせいでコンディションが最悪だったの……』とのこと。でも、これだけあれば大量のフィッシュ&チップスが作れるから問題ない。


 クーラスのところはエビ、ジャガイモ、ハーブに上等のチーズなど。『初めて酒を飲む記念日だって言ったら、オマケして良いチーズを売ってくれた』ってジオルドが言っていた。ちょいと調べてみたところ、マジで上等なチーズでそう簡単には手に入らない代物だった。マデラさんのところでも一週間に一度くらいしか見られないレベル。


 『えっ、三割引きって話だったんだけど……』ってクーラスたちに言われたので、『三割引きじゃなくて、三割以下の値段だ』って答えておく。今度そのお店の人にはお礼を言っておかねばなるまい。


 ポポルのところは割と普通。飾り付けや設営だけだからそんなにてこずることも無いらしい。ただ、『グレイベル先生が途中でやってきた。なぜか執拗に年齢確認をされた』とのこと。そりゃ心配にもなるか。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。少々お酒の話をし過ぎていたためか、微妙に準備が遅れているのが悲しいところ。雑談中も下準備をしていたとはいえ、お酒記念日にヘボい肴を提供するなんてことはすごい宿屋の息子のプライド的に許されない。お菓子も作らなきゃいけないし、この日記を書き終えたらこっそりもう少し準備をしておこうと思う。


 ギルは今日も大きなイビキをかいている。ちょっともったいないけど、製菓用のブランデーでも垂らしておこう。残り少ないし、処分するのにちょうどいいや。

 お 酒 は 二 十 歳 に な っ て か ら !

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