48日目 発展触媒反応学:前期中間テスト
48日目
クモが白骨化していた……ん?
ギルを起こして食堂へ。ルマルマに限らずどのクラスも今日が中間テスト最終日だからか、嬉しそうな顔をしている奴と絶望の表情を浮かべている奴が半々くらいでいた。『さっさと終わってくれねーかなぁ……』って一部開き直っている人間もいたけれど、ああいう生き方も悪くはないと思えてしまうのが怖いところだ。
朝食はなんとなくオニオンスープをチョイス。今日もどっしりしっかりしていて、飲むと体がぽっかぽか。優しめの味付けとあのボリュームはなかなかにクセになると評価せざるを得ない。ウィルアロンティカの名物にしてもいいレベル。
もちろん、マデラさんが作るオニオンスープのほうがはるかに美味しいし俺の好みではあるけれど……。これだけの大人数のご飯を毎日休みなく作ってくれたうえでこのクオリティだというのだから、おばちゃんには頭が下がるばかりである。
そうそう、『おまじない、よろしく』ってパレッタちゃんが俺の髪の毛を引っこ抜こうとしてきたので全力で防いでおいた。ポポルも『一本や二本くらいじゃハゲねーよ!』って俺の髪の毛を引っこ抜こうとしてきたのでちゃっぴぃを盾にして回避する。
『ふーッ!』って思いっきり顔面をビンタされたのが未だに解せぬ。使い魔なら主人のことを護るべきじゃないの?
ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。『お前もなぜか地味に筆記悪くないんだよな……ちょっとあやからせてもらうぜ』ってゼクトもギルの皿からジャガイモをちょろまかして食べていた。ゼクトの脳みそが脳筋にならないことを強く願うばかりだ。
時間になったところで教室へ。今日はキート先生の発展触媒反応学の中間試験。『わかっているとは思いますが、カンニングは厳禁ですよ?』って言いながら先生は問題用紙と解答用紙を配る。もちろん、俺はいつも通りギルの近くにスタンバイしたから特に問題なし。
ピアナ先生の話を思い出し、なんとなく解答用紙を魔法的に調べてみたところ、なかなかにエグくて根性のひねくれ曲がっている呪がかかっていることを発見。しかも、【お? カンニングか? こんなの調べる余裕があるなら、最後まであがけよな!】って文字が一瞬浮かび上がって消えるっていうね。
無駄に高度な魔法が解答用紙全てにかかっているとか、どれだけ遊びに全力になっているというのだろうか。
肝心のテストだけれど、これがまた結構に鬼畜な仕上がりであった。びっくりするくらいに問題が多く、その全てが計算問題で、一問解くのにだいぶ時間がかかる感じ。テスト範囲から満遍なく出題されていて、最初の基本問題は簡単だったけれど、後半の応用問題はちょっと頭を捻らないと解答への糸口をつかむことが出来なかった。
なにより、時間が足りない。パッと見てさっと計算式を書いていかないと間に合わない。教室をうろうろと歩き回っていたキート先生は、『往々にして、時間なんてないのが当たり前です。その中でどれだけのパフォーマンスを発揮できるのか……それこそが実力だと私は思っています。……大丈夫、死にはしませんよ』って言っていた。
途中、答えに詰まって焦ったらしきポポルが貧乏ゆすりをしだした。直後に後ろにいたパレッタちゃんが奴の椅子を蹴り上げ、『虫歯の呪でいい?』ってボソッと呟く。
貧乏ゆすりは収まったけれど、今度は歯のガチガチ音が始まった。せっかくなので俺もガチガチ歯を鳴らしておいた。
なんだかんだでテスト終了。クーラスが『最後の一問だけちょっとミスった』ってぼやいていたくらいで概ねいつも通り。フィルラドは『やっと遊べるぞぉぉぉぁあああ!』ってエッグ婦人を抱きかかえて狂喜乱舞していたっけ。
エッグ婦人も満更でもなさそうだったのがちょっと意外。思えば、エッグ婦人はいつも(?)ヒナたちの面倒を見ていたし、純粋に使い魔としてフィルラドと触れ合っていることってほとんどなかったような気がする。婦人も主人に甘えたくなる時があるのだろうか。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ロザリィちゃんが『テストおつかれさま!』って悪夢椅子に一緒に座ってくれた。そのまま何となく二人で無言で手を繋ぎ、ゆったりとした夜を過ごす。
言葉を交わさない幸福ってのは、言葉でどう表現すればいいのだろう? もしかしたら俺は、あの幸せな気持ちを表現するためだけに、この先の一生を使うことになるのかもしれない。
そうそう、ロザリィちゃんってば、『明日はお休みだから、おつかれさま会の準備もいっぱいできるね!』なんてにっこり笑って教えてくれた。『ちょっと気が早いんじゃないかな? 休日は明後日からだよ』って優しく微笑み返したら、『……明日は実験予備日だから、特に何もなければお休みだよってピアナ先生が言ってたよ?』って返される。マジかよ。
なんでも、大きな事故を見越して実験には予備日が設けられるらしいんだけれど、今年は奇跡的にどの班も事故を起こさなかったため、予備日が丸々フリーになったそうな。『そーいえば、全体にアナウンスはされてなかったような? この前一緒にドーナツを作った時に聞いたんだよね』って小首をかしげて笑うロザリィちゃんがめっちゃプリティでした。
ギルは今日も大きなイビキをかいてスヤスヤと寝ている。こいつもある意味カンニングに近いことをしているけれど、あくまで筋肉の条件反射と筋肉の感覚による逆解析だから、厳密な意味でのカンニングではないのだろう。俺の協力が不可欠とはいえ、奴自身の実力と言っていいものなのかもしれない。
明日からはおつかれさま会の準備をしなきゃいけない。役割分担はいつも通りでいいだろう。出来ればグレイベル先生とピアナ先生も誘いたいけれど、どうなることやら。
そうだ、大事なことが一つある。
今年で俺たち全員、十八歳になった。つまりはもう、おおっぴらに娯楽としてのお酒を飲んでいいということでもある。初めてのお酒だし、記念として思い出に残るような何かを考えてみるのもいいかもしれない。
やべえ、なんかちょっとワクワクしてきた。ステラ先生やロザリィちゃんにお酌してもらえたら、それはもうさぞかし幸せな気分になれるだろう。今まではアバズレやババアロリ共にお酌するばかりだったし、自分がされる側になるのってなんか不思議な気分。
今日はこのワクワク気分のまま眠りに着こうと思う。ギルの鼻には亜竜のヒゲでも詰めておく。おやすみなさい。
お 酒 は 二 十 歳 に な っ て か ら !
書き手の彼たちの国では大丈夫なようですが、お酒は二十歳になってから楽しむようにしましょう。いいですね? もう一度言いますよ?
お 酒 は 二 十 歳 に な っ て か ら !