47日目 発展魔法陣製図:マジックスパーギヤの製図【3】
47日目
ギルがずっと首をかしげている。寝違えたのだろうか?
ギルを起こして食堂へ。あいつがずっと首をかしげているからか、よじ登りに来たミーシャちゃんもポポルもずっと不満そうだった。もはや条件反射のレベルで人の背中によじ登るとか、あいつらっていったい何を考えているのだろうか。
朝食はなんとなくバナナをチョイス。ほどよい甘みとそれなりの食べ応えがグッド……ではあるものの、やっぱりバナナはバナナである。特にこれと言って特筆するべきことはない。
しいて言うなら、ちゃっぴぃとはんぶんこ(?)しながら食べたことだろうか。俺が一口食べて、ちゃっぴぃがバカでかい口で食べて、そして俺がまた一口食べて……って感じ。バナナくらいなら自分で食えそうなものだけれど、それでもあいつは頑なに『きゅーっ!』って言って俺にバナナの『あーん♪』を強要してくる始末。パパはお前が独り立ちできるか酷く不安だよ。
すごくどうでもいいけど、フィルラドがデザートのバナナを頬張るアルテアちゃんを見てなんか真っ赤になっていた。アルテアちゃんも、アルテアちゃんにしては珍しく、『大きな口を開けて食べてるところを見られた……』って赤くなって俯いていた。『どんまい!』って明るく背中を叩くロザリィちゃんがとってもキュートだったです。
書くまでもないけど、ギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。首をかしげているのにそんなの関係とないばかりに猛烈な勢い。しかも、『なんか今日のジャガイモはちょっと変わったテイストだな!』って妙に嬉しそう。あいつの頭、ホントにジャガイモになっちゃってるんじゃあるまいか。
さて、今日はシキラ先生の発展魔法陣製図。前回にカチコミをかけただけに、果たして普通に授業を受けることが出来るのかな……なんて思いきや、『よーっす、おはよう!』って割といつも通りな感じ。『たまにはクーデターでもやんなきゃ、魔系はやってらんねえよな!』って腕まくりして出欠を取っていた。
なんでも、クーデターやカチコミを受けたことは一度や二度じゃないらしい。過去にはもっとガチなカチコミをかけられたこともあるらしく、『留年が確定した人間はなにをしですかわからねえって、あの時改めて思ったぜ!』とのこと。過去の上級生たちがいったい何をやったのか、ちょっと気になる。
ともあれ、それ以降は特にカチコミの件について話題になることも無く普通に授業。良くも悪くも、シキラ先生にとってあの程度のことは日常茶飯事のそれと大差ないらしい。この人どんだけ業が深いのだろう。
製図の途中、キー周りの精度について質問してみることに。キーってちょっとへっこんでいるだけで大して重要そうな場所とも思えないんだけれど、俺の中のエンジェルが『こいつぁ罠だぜ?』って囁いてきたんだよね。
で、実際聞いてみたところ、『ここは伝達部として他の魔法要素と魔法的に接触する大事なところだかんな。最高のサービスをしてくれるねーちゃんの肌みたいにとぅるとぅるツヤツヤの仕上がりにしとけ』との助言を頂いた。
ロザリィちゃんの肌レベルの艶やかさとか、果たして魔法設計便覧の規格で対応しきれるのだろうか?
そうそう、ちょっと話は変わるけどシキラ先生は雑談としてこの前の週末について語ってくれた。『なんかシューン先生がやたらと絡んできてよぉ。「どうすれば生徒にカチコミにきてもらえるの!?」ってうるさいんだよなぁ……』とのこと。
どうやらシューン先生、俺たちにカチコミに来てもらいたいらしい。そんなことを望む先生がいるなんて初めて知った。あの人、生徒と触れ合えればなんだっていいのだろうか?
というか、もしかして俺たちのカチコミって学校全体の周知の事実になっているのだろうか? 学生部云々の話は聞いてないから、公にはなっていないと思うけれど……。下手に広がりでもしてマデラさんに連絡が入ってしまえば、それこそソルカウダ以上の、いいや、シキラ先生が百人襲ってきた以上の脅威となるだろう。
まぁ、この学校のことだ。あえて学生部には通達せずに、先生たちだけで変に盛り上がっている可能性もある。ピアナ先生やグレイベル先生だってほとんど何も言っていなかったし、ステラ先生に至っては完全にスルーだった。
……『よくがんばったね!』ってステラ先生が笑いかけてくれるだけで、この先一生の何もかもを捧げてしまいたくなるんだけれど。というか、今回は頑張ってみんなのためにカチコミを企画したのに、ステラ先生から一言も褒めてもらっていない。ちょうショック。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。なんか内容にまとまりがないし、ついでに少し短めの気もするけれど、明日はテストだからこんなもんにしておこう。明日さえ終わればゆっくりできる……いや、おつかれさま会の準備がある。忙しいけれど楽しいことだし、憂いなくバカ騒ぎするためにも、万全の準備の元にテストに臨まねばなるまい。
ギルは安らかにクソうるさいイビキをかいている。最後にこいつの筋肉の調整をしてから寝るとしよう。鼻には……ちょうど今、床をカサカサしていたクモを詰めておく。
考え得る限り最悪の最期だろうけど、どうか俺を恨まないでほしい。魔法の発展には犠牲がつきものなのだ。赦せ。