44日目 バカにつける化粧水
44日目
ギルから暗黒のオーラが。それだけかよ。
ギルを起こして食堂へ。食堂は昨日のどんちゃん騒ぎが嘘だったかのように静まり返っており、人もまばらでちょっと寂しい感じ。バルトの女子がきゃあきゃあ騒ぎながらソフトクリームを食べているのを見つけたので、せっかくだから俺もチョイスしてみた。
これがまたなかなかに濃厚でデリシャスであった。ちょっぴり黄色みかかっていて、乳の風味がたいそう豊か。もちろん甘みは十分であり、ふわっと鼻に抜けていくあの感じが大変素晴らしい。
ただ、俺のお膝の上に乗っていたちゃっぴぃが『きゅーっ♪』って大半を食べてしまったのがわけわかめ。常に全裸でお腹まるだしのあいつがあんなに冷たいものを食べてしまっては、きっとお腹を壊してしまうだろう。そっと抱きしめてお腹を温めてやった俺ってちょう優しくない?
そうそう、ちゃっぴぃにソフトクリームを食わせていたために手がだいぶ派手に汚れちゃったんだけど、ここに来てロザリィちゃんが『パパったら、ずいぶんお汚ししちゃったね?』って妖しく微笑んできた。まるで出来の悪い弟をからかうような口調であり、そんな姿がマジプリティ。
しかもしかも、『もったいないこと、しちゃダメなんだから!』ってペロッて俺の指を舐めてきた。朝からの大胆な行動に思わず固まる。別に変なものじゃないはずなのに、ちらっと見えたロザリィちゃんの舌とそのくすぐったい感じにドキドキが止まらなかったよ。
当然のことながら、それはほんの一瞬のことだったんだけれど、不思議なことにやった本人であるロザリィちゃんがイチゴ以上に真っ赤になってしまっていた。『あうう……!』って顔を押さえ、うずくまってしまうレベル。
そんなに恥ずかしいのならやらなきゃいいのに……と思わなくもないけれど、そんなところがロザリィちゃんのステキなところだ。
『ごめんなさぁい……! いっつもちゃっぴぃがやっているの、ちょっとうらやましかったの……! テスト前だし、気合を入れたかったの……!』ってロザリィちゃんは言っていた。俺の指なら好きなだけぺろぺろしてくれて構わないんだけどね。
ともあれ、朝からなんかそういう気分になったので、『じゃあ、俺も気合を貰おうかな?』ってロザリィちゃんにちゅってキスをする。俺ってばマジエレガント。そしてそれ以上に、とろんとした表情のロザリィちゃんが最高に至高でありました。
……毎回思うけど、なんでちゃっぴぃはロザリィちゃんとイチャイチャしている時だけはにこにこ笑って大人しくしているんだろう? 俺の長年の疑問だ。
さて、午前中は明日の魔力学の試験に備えてテスト勉強を行う。昨日の段階でレポートは全部済ませたから、今日はマジでこれに集中するだけでいい。なんだかんだで昨日はあんまり勉強できていないし、ここらでビシッとしておこうと思った次第。
が、いっつもその日のうちに日記をつけていたおかげか、そこまで手こずることも無く勉強は終わってしまう。こう言っちゃなんだけど、今の段階じゃほぼ暗記しかすることなかったんだよね。
そんなわけで午後からは発展触媒反応学の勉強を行う。こちらもまぁぼちぼち。特別付け加えることも無ければ、珍しいことがあったわけでもない。みんなと同じようにクラスルームで勉強して、時折ちゃっぴぃをからかって遊んだくらいかな?
あ、一つだけ書くことがあった。
たしかおやつの時間頃、アルテアちゃんが『化粧水がないと肌が大変なことになってたよな』って女子のみんなと話していたんだよ。ロザリィちゃんが『たしかに……睡眠時間も去年に比べて減ってるし、ストレスもすごいもんね……』って相槌を打ち、パレッタちゃんが『課題を呪いたいと思ったことは一度や二度じゃきかぬ』って真顔。そんなもの必要そうに思えないミーシャちゃんも、『あたしからお肌の張りを取ったら何にも残らないの……』なんて言っていた。
実際、化粧水の効果なのかどうかはおいておくとして、ウチのクラスの女子のお肌は全体的にぷるぷるツヤツヤでかなりの高レベル。うなじマニアのクーラスもにっこりしているし、太ももマニアのジオルドも満面の笑み。尻マニアのフィルラドだけは『……そこの生肌を見たことが無い』って残念そうにしていたけれど。
そして、意外なことにギルが『なぁ、そんなに化粧水っていいの?』って女子の会話に交じりだす。こいつがジャガイモでも筋肉でもない話題に興味を示すってのはかなりのレアケース。アルテアちゃんもびっくりして、『なんだ、そういうのが気になる年ごろなのか?』って言っていた。
で、ミーシャちゃんが『どうせ筋肉の張りツヤが良くなるとか、そんな理由なの。……はい、あたしの少し分けてあげるの』って自前のアルテアスペシャル美容液をギルに差し出した。ギルの通訳が出来るとか、さすがはミーシャちゃんである。
ただ、いくらミーシャちゃんでも……というかこの俺でさえ、そのあとのギルの行動は予想できなかった。
ギルの野郎、『ありがとな、ハニー!』なんて言って──
──『うめえうめえ!』って美容液をガブ飲みしやがった。あれ、肌になじませるやつなのに。
さすがにみんな唖然。その場にいた全員があんぐりと口を開けていた。
バカだバカだとは思っていたけれど、まさかここまでバカだったとは。バカにつける薬は無いとはよく言うけれど、美容液をガブ飲みするバカが存在するとは。俺、一瞬自分の頭がおかしくなったのかと思ったよ。
しかも、『きたきたきたぁーっ!』ってマジで筋肉の張りツヤがよくなって輝きだすんだもん。おまけに暗黒のオーラと混じってステキに禍々しくもなっていたりするし。もう俺、なんて反応すればいいのかわからなかったよ。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。夕飯時にギルはいつも以上に『うめえうめえ!』ってジャガイモを食べていた。明日のテストに備えているらしい。ジャガイモを食べる度に筋肉のキレがよくなっていくのが限りなく不気味だった。
ギルは今日もクソうるさいイビキをかきながらぐっすりと眠っている。明日はテストだし、俺もさっさと寝ることにしよう。レポートも試験勉強もばっちりだから、もう思い残すことはないはずだ。
ギルの鼻には光のソイルを詰めておく。みすやお。
※燃えるごみは暗黒に飲まれる。魔法廃棄物は飲まれない。