41日目 発展触媒反応学:テスト前自由勉強
41日目
俺の枕元に謎の卵が。味はイマイチだった。
ギルを起こして食堂へ。昨日はかなり頑張ったからか、ルマルマのメンツもお疲れの様子。ガッツリ食べるっていうよりかは、軽くサラダを食べたりヨーグルトを楽しむって人がほとんど。
そんなわけで、俺もフルーツソースのヨーグルトをチョイス。贅沢に三種類ものソースでデコってみた。ハートフルピーチの底抜けの甘さ、ラーヴァベリーの甘酸っぱさ、そしてアルジーロオレンジの爽やかさが絶妙にミックスされてマジデリシャス。思っていた以上に美味しくてびっくりしたよ。
そうそう、ロザリィちゃんが『疲れたよう……もう手を動かす気力も無いよう……』ってアルテアちゃんに甘えていた。アルテアちゃん、『ほれ、口を開けろ』ってロザリィちゃんにヨーグルトを『あーん♪』してあげていた。そのまま流れるように(というか隣に並んで口を開けていた)ミーシャちゃん、パレッタちゃんにも『あーん♪』を行い、ヒナたちにもヨーグルトを『あーん♪』してあげていた。さすがは凛々しきアルテアちゃんである。
なお、どさくさに紛れてヒナの隣に並んでいたフィルラドには『飯くらい自分で食え』って告げるだけで何もせず。歯をギリギリするフィルラドの前で、アルテアちゃんはたいそうおいしそうにホビットレモンのソースがかかったヨーグルトを食べていた。フィルラドは泣いていた。
ギル? 『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていたよ。ジャガイモを食う度に傷だらけの拳が見る見る癒えてたいそう不気味。いつからジャガイモはエリクサー顔負けの回復薬になったのだろう。この世は不思議でいっぱいだ。
今日の授業はキート先生の発展触媒反応学。キート先生、教室に入って来るなり『君たちすごいことをしでかしましたねえ……! 私の知る限り、シキラ先生にあそこまで刃向かった二年生は君たちが初めてですよ!』って何やら興奮した様子。『私も君たちくらいの情熱を持つべきだと、そう強く実感しました』ってニッコリ笑顔。いったい何がそこまで先生の琴線に触れたのか、ちょっとよくわからない。
肝心の内容だけれど、来週は中間テストってことで自由勉強時間となった。いつも通り自由に勉強をして、わかんないところは好きに質問していいっていうアレね。『前回の練習問題を解けるようにしておけば概ね大丈夫でしょう。逆に、アレがさっぱりわからなかった人は今すぐ質問に来てください』ってキート先生は言っていた。
で、ぼちぼち自習。いや、自習って言うよりかはロザリィちゃんとポポルとミーシャちゃんとフィルラドとギルの筋肉に勉強を教えていた。なんだかんだでギルの筋肉のほうがポポルより物覚えがいいのが困る所。ミーシャちゃんはすぐに諦めるクセをどうにかしたほうがいい。ロザリィちゃんは可愛すぎるのが欠点だ。教える側がドキドキしすぎて集中できないっていう。
そうそう、ロザリィちゃんたちが実践として練習問題を解いている間、ちょっと暇になったのでキート先生に昨日の戦闘──具体的には、ノエルノ先輩の鏡魔法がシキラ先生の破壊魔法で壊されなかった理由について聞いてみる。何でも壊すはずの破壊魔法なのに、どうしてアレだけ壊されなかったのか、実はずっと気になっていたんだよね。
キート先生、ことのあらましを聞いて『ふむふむ……なるほど、それは間違いなく壊れていますよ』等と言い出した。いったいどういうこっちゃ?
『実はですね、微小要素の魔法体や、あるいは単構造の魔法体を無数かつ緻密に用いた魔法体というものが存在するのですよ。こういった魔法体はいわば群体で構成されていると言っても過言ではなく、構成要素が要素ですから、局所的に見ればものすごく強度は低いのです』とキート先生は話し出す。
『しかし、逆に言えば──変に丈夫でない分、そこを壊しただけで衝撃は消えてしまいます。その一部分だけがすぐに壊れることで広がる破壊衝撃を減じ、全体を壊さないようにするのです。そこだけが壊れ続けることで、逆に驚くべき耐久性を全体に持たせることが出来るのですよ』……って続け、例として簡易的な魔法体(一体物ですんげえ頑丈なやつと、無数の微小魔法要素で構築したもの)を創り出した。
で、早速ギルにぶん殴ってもらう。頑丈なやつは跡形も無くぶっ壊れたのに対し、微小魔法要素で構成したものは拳状の穴が空いたものの、魔法体としては一応形を保っていた。こいつぁすげえ。
『簡易的なものですが、まぁこんな感じです。私たちがシキラ先生と戦うときの常套手段ではありますが……おそらくノエルノさんの発案でしょう。反射や増幅が使える鏡魔法なら比較的多重構築も簡単ですし、付与魔法やその他魔力コーティングがしっかり使われているというのなら、もっと効果はあると思います』ってキート先生はにっこり。
このあえて壊れたりすることで全体を生かすって技術は比較的最近生まれた魔法技術らしく、今後の授業でも取り扱うのだとか。上級生なら普通にみんな知っているらしい。
もちろん、メリットばかりってわけでもない。『一つ一つが脆いのは事実ですからね。バカでかい一発を耐えるのにはぴったりですが、逆に弱い攻撃でもガンガン削れてしまいます。特にポポルくんの連射魔法とは相性最悪でしょう』ってキート先生は言っていた。
そして、『……普通の破壊魔法ならこれで対抗できます。しかし、シキラ先生の魔法疲労破壊は瞬時にギガサイクルの浸食魔力を与えます。……ええ、この多重構築では相性最悪です。どう頑張っても防げないんですよ』って言葉が続く。
どうやらシキラ先生、ちゃんと破壊魔法の弱点をも克服しているらしい。文字通り、壊せないモノなんてないのだろう。あの人マジで手加減しまくっていたってわけだ。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ふと朝の卵の話をしたところ、ミーシャちゃんが驚いた顔をし、そしてめそめそと泣きだした。
どういうことかと思ったら、『それ……ぜぇったい使い魔が生まれるやつだったの……ひどいのぉ……!』とのこと。使い魔が欲しすぎて、もはやなりふり構っていられないらしい。ギル要素に塗れて過ぎてどんな化け物が生まれるかわからないってのに、それでなお構わないとか、いい加減ミーシャちゃんも限界が近づいてきているのかもしれない。
ギルは今日も安らかにクソうるさいイビキをかいている。ミーシャちゃんのリクエストに答え、今日は保冷庫にあった卵でも詰めておこう。エッグ婦人の卵だけど、何もしないよりかはマシなはずだ。おやすみなさい。
20180510 誤字修正