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361日目 出発準備

361日目


 針がふにゃふにゃになってる。ふっしぎー!


 ギルを起こして食堂へ。相も変わらず体に染みついてしまったこの習慣が恨めしい。お仕事なんてしなくていいのに、気づけば普通に朝の報告をしようとしてしまう自分がいる。女子はみんな寝ているというのに。『妙なところで律儀なんだから……』ってマデラさんも困ったように笑っていた。


 なお、仕事の連絡こそなかったものの、『明日学校に送るから、今日中に荷物をまとめておくように。あと、夕餉は豪華にしてやるからそのつもりで』ってお達しがあった。『ジャガイモは……!? ジャガイモはあるんですか……ッ!?』ってギルがアホなことを聞いていたのを覚えている。当然のようにマデラさんが首肯すれば、『うっひょぉぉぉぉ!』ってあいつは狂喜のポージングを決めていた。


 クソどうでもいいけど、なんだかんだで人間たちよりも使い魔たちの方が早起きだ。みんなが起きる前にはすでにグッドビールとヒナたちがおいかけっこしているし、ヴィヴィディナに至っては宿屋中をカサカサしてなんかいろんなものを集めている。エッグ婦人はこの段階で暖炉の前の一番あったかいところを陣取っているし、アリア姐さんも朝の日光浴をしている。ぐうたらなのはウチのちゃっぴぃだけだ。


 朝食の時間にて、みんなにマデラさんからの通達を伝える。『もう春休み終わりなの!?』ってポポルがびっくり仰天していた。『俺まだ全然休んだ気がしてないんだけど!』って猛抗議。そんなの言ってもしょうがないし、何よりステラ先生が『ごめんねえ……!』って申し訳なさそう。


 『でも先生は、あのクラスルームでルマルマのみんなとまた会えるのもすっごく楽しみなの……!』って言われたとき、ホントマジで一生この人についていこうって思ったよね。ステラ先生以上に先生な先生を俺は未だかつて見たことが無い。


 そんな話を俺たちがしている間も、ギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。今日はなぜかチットゥもギルの大皿からジャガイモを取って食べていた。『すごくおいしそうに食べているから、つい』とのこと。『……やっぱりジャガイモはジャガイモだ』って当たり前すぎるコメントを残していたっけ。


 午前中は出発準備を進める。教科書とかの役に立たない嵩張るものは置きっぱなしだから気にしなくて問題なし。どちらかというと衣服類や小物なんかがメイン。


 準備で手間取らないように、こっちに帰ってきてからなるべくトランクは弄らないようにしていたのに、なぜか盛大に荒れているのが不思議と言えば不思議。ちゃっぴぃが適当に漁ったか、ヒナたちがかくれんぼでもしたのだろう。あいつらはそういうやつだ。


 そしてそれ以上に、この俺の技をもってしてもなぜかトランクにものが入りきらない。どうにもイマイチ美しさに欠ける。ちゃっぴぃの分の荷物をさりげなく弾こうとしたら、『ふーッ! ふーッ!』ってガチギレされた。使いもしないおもちゃをトランクに入れられてしまうこの俺の悲しさよな。


 いかにちゃっぴぃを欺いてあいつの荷物を置いていこうかと画策していたところ、マデラさんがやってきた。『まだまだ甘い』って一言だけ言って、そらもうびっくりするくらいに的確に俺のトランクにものを詰め込みまくっていく。俺の服や荷物はもちろん、ちゃっぴぃのそれまで完璧。これが熟練の技能の成せる業か。


 ちなみにマデラさん、ギルのトランクも仕立ててあげていた。『なんでこのトランクこんなに重……仕込んであるのか』ってなんかびっくり。どうやらギルのやつ、トランクを筋トレ用具として用いるべく鉄か何かを入れていたらしい。


 『ホントは鋼鉄のトランクが欲しいんですけど、どこにも売ってなくて……筋トレもできて頑丈なんだから、誰かしら造っていてもよさそうなんすけどね』ってなんか恥ずかしそうにあいつはコメントしていた。「軽くて丈夫」を目指してトランク職人は頑張っているというのに、あいつは何を言っているのだろうか?


 そしてやっぱり、ポポルやフィルラド、ジオルドやクーラスもマデラさんにトランクを仕上げられていた。『ばーちゃんのテクマジヤバい』、『同じように畳んで同じように入れたのに、マデラさんがやると俺の半分のスペースで済む』……などなど、奴らは如何にマデラさんが凄かったのかを語る。


 『なんか気づいたらパンツのヒモが新しいのに変えられてたんだけど……』ってクーラスはコメント。『そういや俺のも変わってるな』ってジオルドまでも。よくよく気づいたら男子全員パンツが新しい。マデラさんなりの気遣いだろうか?


 ぼちぼちしたところで食堂に戻る。マデラさんは女子の方へ向かったらしく、そこにはケツフリフリして踊るヒナとちゃっぴぃ、そしてそんな使い魔どもを楽しそうに指導するミニリカしかいない。『この子らもなかなか仕上がってきたの!』ってミニリカはご満悦。これがマジに魔法舞踊の基本の動きってんだから泣けてくる。


 『さすがにちょっとあのダンス、子供っぽいと思うの……』ってリアは胡乱げな表情で踊るちゃっぴぃを見ていた。『お前がやるんなら違和感ないぞ』ってありのままを告げたら、思いっきりケツを蹴られた。ひどくない?


 ミニリカの奴、できることならアリア姐さんにも踊ってほしかったらしい。『悔しいが、容姿のポテンシャルは凄まじいものがあるしのう……』とのこと。アリア姐さん、「衣装だけなら興味が無いことも無くは無いわ」……とでも言わんばかりに、踊るちゃっぴぃとヒナたちを見つめていたっけ。


 暇だったので一緒に踊っていたところ、それなりに時間が経った後に女子たちがやってきた。『やっぱりマデラさんはすごいねえ!』、『トランク二つ分の荷物が、トランク一つに収まったの!』ってみんなが笑顔。いくらなんでもそれは最初の段階でいろいろ問題があったと思わなくもない。


 ちなみに、男子に比べて長引いたのは女子の方が色々荷物があったから。『夏服とか水着とか、絶対使わないやつは学校に置いてきてるんだけど……ただでさえ冬物は厚手で嵩張りやすいし、お休みのときくらい、おしゃれで可愛い恰好したいし……ね?』ってロザリィちゃんはにっこり。女の子はお洋服がいっぱいないと生きられない生き物だからしょうがないらしい。そりゃ尤もである。


 きっと俺が知らないだけで、スキンケア用品とかアクセサリー類とか、色々諸々一杯あるんだろう。あのミーシャちゃんでさえ、『案外化粧箱って嵩張るの。トランクに入れる時は一番頭を悩ませるの』って言っていたし、パレッタちゃんも『化粧品の小さなボトルの扱いがむつかしいのよな。下手に詰めたら割れるし、パウダー系はもっと扱いを慎重にしないとならぬ。ステラ先生から貰った化粧箱が無ければこんなものじゃ済まされなかった』って言ってた。


 なんかあんまりそんな気しないんだけど、あの二人が化粧品を使っているって所がちょっと不思議というか、驚きというか……女の子なんだから当然とはいえ、なんかこう……なんだ? 上手く言えないんだけど、ともかくなんかアレだ。


 なお、ステラ先生だけは自分で支度をしたとのこと。『さ、さすがに生徒の親御さんに先生の支度までしてもらうのは恥ずかしいもん……!』って言っていた。あと、『……その、先生、服もお化粧品とかも、最低限しかないから』とも言っていた。


 『ううん、悲しくなんてないの。あったところで、着飾る機会も、見てもらう相手もいないし……あれっ?』って、ステラ先生の目からはポロリと涙が。『あれ……おかしいな、なんで……?』って、ずっとずっと先生のおめめから涙がぽろぽろ。


 とりあえず今度、ステラ先生に何か贈り物をしようと思う。あのマデラさんでも降参するほどに、トランクからあふれ出るほどに贈り物を贈って、思い出でいっぱいにしてあげるのだ。先んじて、今の倍の大きさのトランクを贈るってのもいいかもしれない。


 あえて触れるまでもなく、アルテアちゃんとロザリィちゃん……というか、女子全員がステラ先生を抱きしめていた。『なんとなくチャンスだと思った』って、リアもどさくさに紛れてステラ先生に抱き着いていた。あいつマジずるい。


 なんだかんだで日中はそんな感じ。夕餉は宣言通り、いつもよりだいぶ豪華。肉もステーキもローストも丸焼きもエビフライもある。もちろんプリンやピーチパイといったお菓子もあるし、夜なのに特製ジャムクッキーまであるというゴージャスっぷり。


 もちろんお酒もいっぱい。『最後くらい付き合えよぉ!』ってナターシャに絡まれ、『前回はまぐれだったって教えてやろう』っておっさんにも絡まれた。ミニリカは『さぁさぁ、お酌してやるから遠慮なく好きなだけ飲めぃ!』ってにこにこしながらどんどん注いでくるし。俺ってばロザリィちゃんとステラ先生と一緒に過ごしたかったのに。悲しい。


 そしてルフ老とテッドが凄く悲しそう。『この華やかな夕飯も、今日で終わりか……』、『下心無しに、ホントに惜しくてならない。いつもの下品でアホみたいな連中と飲むより、普通に女の子がいる空間で飲んだほうが絶対精神衛生的に良いのに……』ってすごくしょんぼり。


 そう言っている自身が【下品でアホみたいな連中】なのに、なぜあいつらはそのことに気づかないのだろうか?


 あと、たしかチットゥが……『そういえば、今年は化け物出なかったね。なんかちょっとつまんない』って言っていた。『そういやそうだな!』、『あのジャガイモ魔神のシチュー、また飲みたくなってきちゃった!』って各地から歓声(?)も。あんなふざけたことそうそう起きてたまるものか。


 結局、最初から最後までほとんど飲みに付き合わされる結果となった。あいつら俺が酔わないことをいいことにどんどん飲ませてきやがって。どうして酔っ払いって言うのは、自分で飲む以上に人に飲ませるのが好きなのだろうか。


 なんか内容が適当だけど、明日は出発だしこれくらいにしておこう。ギルはやっぱり今日もぐっすりと大きなイビキをかいている。こいつ、宴会の時にリアとちゃっぴぃをまとめて肩に乗せてポージングしていたっけ。アレクシスには絶対にできない芸当だ。


 ギルの鼻には龍の魂を詰めておく。たぶんパチモンだろうけど気にしない。みすやお。

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― 新着の感想 ―
[一言] > 【下品でアホみたいな連中】 ブーメランかな?w 本命:ギルの鼻息がドラゴンの咆哮 対抗:ギルの髪がドラゴンの彫像(的な形) 大穴:ギルがドラゴンブレスを吐く
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