358日目 ババアロリとアバズレとマセガキのお守り
358日目
ギルの筋肉が穏やか。以上。
ギルを起こして食堂へ。なんだかんだでいつもの時間に起きてしまった自分が恨めしい。マデラさんからも『せっかく休日にしてやったのに……』って呆れにも感心にも似たコメントを頂いた。当然のごとくリアたちは未だおねむであり、そうでなくとも今日は(暦上は)休日である。
とはいえ二度寝する感じでもなかったので、暇つぶしってことでグッドビールのブラッシングを行う。穏やかなるギルの筋肉は、力ではなく技でグッドビールを拘束。『いい子だ……ほぅら、親友のブラッシングは気持ちいいだろ……?』って、なんかあいつの口調まで穏やか(?)。やっぱ脳ミソも筋肉なんだと思った瞬間だ。
『ほーれほれほれほれ! んん? ここかぁ? ここがいいのかぁ?』って、ミニリカもめっちゃグッドビールの顎をわしわしとかいてあげていた。「へっへっへっへっ!」ってグッドビールもアホ面してとても嬉しそう。何気に構いたがり&かまってちゃん同士、相性がいいのかもしれない。
いつもの時間に朝食。何とも嬉しいことに、『そろそろ恋しくなってきただろぉ?』ってロザリィちゃんが特製カフェオレを作ってくれた。もちろん愛情たっぷりの逸品。冬なのでお星さま型の氷こそなかったけれど、そもそも愛に形は原則的に存在しないから問題ない。
最高に甘くてあったかくてこれ以上に無い程美味しい……のはよかったんだけど、俺のお膝の上のちゃっぴぃが『きゅーっ♪』って結構な量をがぶ飲みしたのがわけわかめ。しかもやっぱりあいつ、カップの縁全部をレロレロにしちゃうし。そろそろマジに躾けておいた方が良いのかな?
『儂のも頼む!』ってルフ老が自らのカップを取り出してきたので、ヴィヴィディナを塗して返しておいた。悪いことをしたとは思っていない。
あえて書くまでも無いけど、やっぱりギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていた。今日も実に清々しい食べっぷり。『……普通のジャガイモ、よね?』ってアレットがそのジャガイモの一つを食べて首をかしげていたっけ。あまりにもギルが美味そうに食べるものだから気になってしまったらしい。気持ちはわからないでもない。
朝食後、ゆったりとその余韻を味わっていたところ、『の、のう……今日、暇じゃな?』ってもじもじしたミニリカに声をかけられた。どうもあいつ、ちょっと買い物に行きたかったらしく、つまるところ荷物持ちが欲しいらしい。
『俺はロザリィちゃんとイチャつくんだが?』って断固拒否の構えを見せたら、そのロザリィちゃんから『家族サービスはしっかりやんないとだよー?』って頭をぽんぽんされた。わぁい。
そんな感じでババアロリの買い物に付き合う羽目に。メンツはミニリカ、俺、ちゃっぴぃ、そしてなぜか『私も行くっ!』ってついてきたリアに、『せっかくだし私も行くわ』ってオフスタイルのナターシャ。もうこの段階で嫌な予感しかしない。
内容としては普通にショッピング。なんとも理解しがたいことに、買いたいものを決めているわけでもなければ、行く場所すら決まっていないという無計画の極みみたいな買い物。いろんなお店をチラチラみるだけで、あいつら財布を取り出そうともしない。
おんなじ場所を何度も見たり、絶対買わないだろってわかりきっているのに見たり……せめて回転率を上げようと『さっさと次行こうぜ』って言ってみれば、『これだから男ってやつは……』って露骨にため息をつかれた。なぜ?
あの余りにも虚しくて空虚なる時間を、一体どう表現すればいいのか? 買いもしない服を延々と試着するってのも俺的にはナンセンス。営業妨害としてブチギレられてもおかしくない案件ではなかろうか。
『ほれ、似合うじゃろ!』ってババアロリは嬉しそうな顔だったし、リアも『どーよっ!』って自慢げにそれを見せつけてきたけれども、俺ってば気が気じゃなかった。店主のおねーさんに本当に申し訳なくなってくるレベル。
毎回思うんだけど、女物の試着ってあれどうなんだろうね? 誰かが着た瞬間に古着扱いになって新品としての価値なんてなくなると思うんだけど。冬場はまだしも、夏場は汗だってかくだろうし。
水着の試着なんてそれこそどうなるんだ? 肌着の上からとか着る物ならばともかく、試着として普通に着用するってのは結構アレではなかろうか。俺だったら、せっかくの一張羅にどこの誰が履いたかもわからんパンツを選びたくはない。
一応書いておく。ちゃっぴぃとナターシャも色々試着しようとしていたんだけど、あいつらに合う服はほとんどなかった。ナターシャは早々に『やっぱコレ無理だわ』ってあきらめてくれたんだけど、ちゃっぴぃはそれでなお無理やり『きゅぅぅ……ん!』って着こもうとするものだから胸のボタンの所が盛大にはじけ飛んでしまった。
マジでもう、本当に恥ずかしかった。あの野郎、ボタンが吹っ飛んでるのに自慢げに『きゅ! きゅ!』って見せつけてくるし。普段から全裸なのに服を着ようとするのも意味わからんし、あの時の店の中の空気はもう、それどころではなかったというのに。
店主のおねーさんは『気にしなくて大丈夫ですよ!』って言ってくれたけど、あまりにも申し訳なかったので買い取らせていただいた。ついでにアバズレが試着して胸元がしわくちゃになった(というか伸びてたか?)ものについても買い上げる。
『試着でそうなるのなんて普通だし、わざわざ買う必要ないんだけど……ま、買ってくれるなら受け取っておくわ』ってアバズレはすまし顔。俺的にはどう見ても買い戻し案件なのに、なんであんなに平然としていられるのか。というかそもそも、なんで当たり前のようにあいつに買ってあげることになっていたんだ?
しかも、『じー……っ!』、『いいなぁ……!』ってババアロリとリアがこっち見てくるし。リアはまだしも、ババアロリはマジで年齢考えろって思ったよね。見た目はともかく、あいつが言葉で【じーっ】って言うんだぜ? 痛々しくて見てられねえよもう。
早々に立ち去ろうとしたものの、ちょう笑顔のリアにがしって腰に抱き着かれた。そして同じくちょう笑顔のミニリカが俺の腕に抱き着いてきて、『泣くぞ?』ってストレートに脅してきやがった。泣きたいのは俺の方である。
あの二人がマジに泣き出そうとしたため、仕方なく一着ずつ買ってやった。俺やギルの服だったら同じ値段で三着は買えただろうってくらいにお高いやつ。
なんだって女って生き物は生地もよわよわでポケットとかの機能性もまるでない服ばかり選ぶんだ? ぼったくりだろアレ絶対。洗濯も面倒で実用性も考えられてないとか、服としてどうなの?
一応、良いことも無いことはなかった。荷物持ちにされてはいたけれど、途中で『ほれ、今日付き合ってくれたごほうびをやろうかの!』ってミニリカがアイスクリームを奢ってくれた。すっげえスペシャルな三段重ねの奴。ナターシャなら泣いて喚いても二段までしか奢ってくれない。ミニリカのこういうところは大好きだ。
そしてやっぱり、『おにーちゃんの、一口ちょうだいっ!』、『きゅーっ♪』ってリアとちゃっぴぃが俺のアイスの『あーん♪』を強要してきた。一口とは言いつつも、あいつらマジで遠慮なんてしないから思いっきりバカでかく口を開けてかなりの量をかっさらっていくって言うね。『おいしーっ♪』、『きゅーっ♪』って嬉しそうではあったけれど、俺の心はただひたすらに寂しかった。
しかもあいつら、その後も当たり前のように口開けて待ってるの。『……? 今のは一番上だから、次は二番目のだよ?』って普通に言われたとき、マジでもう開いた口がふさがらなかったよね。まさか三段全てを一口ずつ食うつもりだったとは……。
この【食べさせあいっこ】はまだ終わらない。やっぱりミニリカが『ひとくち!』って俺のアイスに嚙り付いてきた。こいつの場合は逆に一口がめちゃくちゃ小さくて、『ほれ、遠慮するでない!』って自分のそれを押し付けてくる。『男の子じゃろ、もっと食べんか!』ってぐいぐい押し付けてきて、俺のぽんぽんはブレイク寸前。
毎度のことながら、なぜあいつは自分が食べきれる量を頼まないのか。『私のおくちはちっちゃいのじゃ』っていつも言うけど、口のデカさと胃袋の大きさは関係ないし、適切な量を買わないことの理由にもなっていない。そもそも、あいつ宴会の時は顎が外れそうなくらいにバカでかい口開けて肉に嚙り付いている。
ちゃっぴぃたちにアイスをかっさらわれていなかったら、この俺でさえ「もって」いかれていたかもしれない。
割とどうでもいいけど、ナターシャは四段のアイスを食っていた。俺と同じ味だったからか、リアもちゃっぴぃもナターシャには突撃せず。そしてナターシャ自身も四つもあれば十分だったのか……あるいは、単純に興味が無かったのか、リアとちゃっぴぃのそれを貰うようなことはしなかった。
ホントに食べたかったらあいつ普通に強奪するタイプだし。何度俺もそれでアイスを喰われたことか。
『ごちそーさま♪』ってナターシャはご機嫌。『えっ、お主は普通に自腹じゃろ』ってミニリカは唖然。
『は? だったら四段なんて頼まないんですけど?』、『いい年した大人が奢られるつもりだったとは……お主、逆に奢る立場じゃろう?』ってやり取りがいくらか続いた後に魔法戦闘が勃発。マジで他人のフリしようと思ったよね。
なんかよくわからんけど、その後は結構高級なところで昼飯を食べることに。『あたしだって奢れるし! アイスとかケチ臭いこと言わずに昼飯全部奢ってやるし!』、『遠慮せず高いのどんどん頼め。メニューの端から端まで好きなだけ頼め。おねえちゃんはミニリカと違ってお金持ちで奢れるから』ってナターシャは若干キレながら店員にいろんなものを頼みまくっていたっけ。
察するに、ミニリカに煽られて【自分だって奢れる】、【アイス以上にすごいものを奢って見せる】……と、ナターシャはそう思い至ったのだろう。実際、『でもミニリカは自分で払ってよね。だってあんた、”オトナ”なんでしょ?』ってあいつすんげえ勝ち誇っていたし。
当のミニリカは、『人のことを言えた義理じゃないが、あいつ普通の職業や主婦はできんの』って涼しげな顔をしていた。ミニリカが煽ってそう仕向けたとはいえ、結果としてナターシャは高級ランチを俺たちに奢る羽目になっている。ホントだったら折半か、あるいはもっと普通のところでの奢りだっただろうに。予定以上に金を使ったのだけは確かだ。
とりあえず、昼飯はめっちゃ美味かった。さすがは高いだけある。ちゃっぴぃもリアも『おいしーっ!』、『きゅーっ♪』って美味そうにガツガツ食っていた。マデラさんの飯の方がもっと美味いけどな!
その後は普通に帰宅。『おかえりっ!』ってロザリィちゃんがお出迎えしてくれた。『……おみやげは?』っておめめをぱちぱちされたりもした。かわいい。
ただ、俺ってば荷物持ちばかりで自分の買い物をする時間はまるでなかった。『……ハグしながらのキスでいかがでしょうか?』って聞いてみれば、『……最高のお土産じゃん!』ってロザリィちゃんにキスされた。うっひょぉぉぉ!
だいたいこんなものだろうか。夜の宴会の時に、ナターシャが『……なんか、無駄にお金を使った気がする?』って軽くなった財布をもって首をかしげていた。その自覚ができるようになっただけ、あいつも成長したのだろう。『……ま、いっか!』って流されたことにはこの際眼を瞑ることにする。
冒険者として成功して、きっちり金を稼げていなかったらあいつは普通に破滅していたと思う。いや、そもそも普通の職業ができないから冒険者にならざるを得なかったんだろうけれども。
冒険者じゃなきゃヤバかったのか、ヤバかったから冒険者になったのか。考えても仕方ないことは考えないに限る。
ギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいている。なんかあいつ寝る間際、『明日はサプライズがあるから、親友も予定空けといてくれよ?』って言っていた。サプライズなのに俺に話していいのかな?
まさかの筋トレフェスティバル開催とかそういう可能性は……無いとは言い切れないのが怖いところだ。
ギルの鼻には悪魔の牙を詰めておく。おやすみ。




