表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/367

36日目 悪魔のプラン

36日目


 ギルが盛大な鼻血を吹いている。えっちな夢でも見たのだろうか。天井の掃除が果てしなく面倒でやーねぇ……ん?


 気分をさっぱりさせるため、ギルを起こした後は久しぶりに朝風呂へと赴く。顔面血塗れだったギルもすっきりしたい気分だったらしく、『やっぱ朝風呂すると筋肉の輝きが違うよな! 脳筋もいい感じにキレてるぜ!』ってたいそうご機嫌。


 もちろん、湯船を猛烈な勢いで泳ぐギルを華麗にスルーし、俺は朝のアレの件について考えを巡らせる。字面だけ見たらかなり無茶な案件だけれど、なぜか不思議と失敗する気がしない。これが朝風呂の効果だろうか。


 さっぱりしたところで食堂へと赴く。『うめえうめえ!』とギルは風呂上がりのジャガイモを堪能していた。俺はエレガントにフルーツ牛乳をチョイスする。ミルクの甘さとフルーツの甘酸っぱさが最高に素晴らしく、そして風呂上がりと言う絶好のコンディションも相まって実にデリシャスであった。


 で、ちょっと贅沢に二杯目も頼んじゃおうかな……なんて思って席を立ったところ、背中に軽い衝撃が。あったかくてやわらかくて、そして荒い息遣いが耳に届く。


 『うへへー……♪ いいにぉい……♪』って満面の笑みを浮かべたロザリィちゃんが俺に抱き付いていた。人前だってのに我を忘れたかのようにすーはーすーはーくんかくんかしてくる。まったく、ロザリィちゃんってばいったいどれだけ可愛くなれば気が済むのだろうか。


 どうやらロザリィちゃん、昨日の実験のせいでストレスがかなり溜まっていたらしい。『──くんがすーはーさせてくれなきゃもうやってらんないよぉ……』ってずっと俺の胸に顔を埋めてすーはーすーはーくんかくんかしていた。『昨日はフラフラしながらすぐに部屋に行っちゃったし、ちょっと寂しかったんだよ?』ってほっぺにキスまでしてくれた。


 物理的にも心情的にもめっちゃくすぐったくってこそばゆかった。愛されてるって本当に素晴らしいことだと思う。


 この笑顔を守る為にも、俺はやり通さなくちゃならないだろう。


 関係ないけど、『朝風呂入った後でよかったよ。寝汗で汗臭かったら申し訳ないし』ってなんとなく話を振ったら、『……そっちのほうがよかったです』って真っ赤な顔で言われてしまった。今度、時間があったら寝る前に全力で筋トレしようと思う。


 午前中は昨日の実験のレポートを作成することに。面倒な考察は後回しにし、とりあえず図表だけをどんどんと作成していく。これまた面倒で大変な作業であり、泣きそうになっている奴や絶望の表情を浮かべている奴があちこちにいた。


 アルテアちゃんは『クソが』って吐き捨てながらグラフを描いていたし、パレッタちゃんも『呪ってやる』って言いながら一つ一つに呪を込めつつ描いていた。ジオルドは無言だったけど、筆圧の強さが半端ない。クーラスは心が折れたのか、『この魔圧の曲線、リアちゃんのうなじみたいじゃね?』ってヤバい顔して呟いていた。


 で、真面目にこなしているみんなに『レポートをうまく片づけられるかもしれないプランがあるけど、乗ってみるか?』と聞いてみる。『責任は全部俺が持つ。協力してくれるだけでいい』と続けたところ、『バカなこと言うんじゃねえ。……クラスメイトだろうが』って拳と拳でごっつんこする男の友情のアレをクーラスとすることになった。


 『どのみちクソなんだ。なら、少しでもマシなクソを選ぶ』とアルテアちゃんも妙にやる気。気高きアルテアちゃんにしては珍しいと思ったら、一回目のレポートも二回目のレポートも結構悲惨だったとのこと。両方とも未だに三割もクリアしていないらしい。なんか微妙にお肌の張りが悪いことからも、相当にストレスが溜まっていることが伺えた。


 ともあれ、『今回のレポートだけは提出してくれ。最低限の体裁が整っていればそれでいい。再レポに関しては適当で。プランについてはまた追って連絡する』とだけみんなに伝えておく。


 明日の自分を犠牲に遊んでいたポポルやミーシャちゃんにも『今のうちにレポートをやるのならイイコトしてやるよ』って通達しておいた。俺のただならぬ覚悟を感じ取ってくれたのか『……信じてるぜ?』、『──のそういうところ、尊敬するの』ってやつらも真面目にレポートに取り組みだす。覚悟は人を変えるのだと実感した瞬間だ。


 そんな感じで午前を過ごし、午後はティキータ・ティキータ寮へと赴く。何気にあそこに行くのって初めてかもしれない。


 おおっぴらに寮に入るわけにはいかないので、適当にうろついているやつを捕まえてゼクトを呼び出してもらう。しばらくしたら、『いまちょっといいところだったんだけど?』って妙にいらいらしたゼクトと、ちょっぴり顔を赤くして残念そうにしているライラちゃんがやってきた。


 『イイコト教えてやろうと思ってきたんだけど』って用件を伝えたところ、『それはライラが俺に甘えてくれる時間よりもイイコトなのか?』ってゼクトは答える。ライラちゃん、真っ赤になりながら『あ、甘えてなんかないからねっ!? ふ、普通に二人でレポート頑張ってただけだからねっ!? か、勘違いしないでよねっ!?』って苦しい弁明をしだした。


 目の前でいちゃつかれて舌打ちをしなかった俺をどうか褒めてほしい。


 表面上の冷静を繕いつつ、『レポートをうまく片づけられるプランがある。乗るか?』と提案する。ゼクトのやつ、『なにそれめっちゃイイコトじゃん! 今すぐ教えてくれよ!』ってライラちゃんそっちのけでめっちゃ乗り気になった。『……ゼクトのバカぁっ!』って言葉と共に凄まじいビンタの音が響いたのは書くまでもない。


 とりあえず、ティキータの連中の時間割を教えてもらう。何とも都合がいい感じのアレになっていた。『責任は俺が持つ。お前たちは傍観か、出来るのであれば……な』とだけ伝えておいた。


 『……本気、なんだよな。わかった、乗るぜ!』、『えっ……でも、それって……』ってゼクトとライラちゃんで反応が別れたのがちょっと怖い。


 このプランに裏切りは許されないのだ、最悪の場合はライラちゃんをどうにかすることも考えておかなくては。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。午後の記述がごっそり削れているけれど、これは今朝天井に血で描かれていた夢のプランの準備をしていたためだ。まさかギルの鼻血からあんな斬新なアイデアを貰えるなんて、一体誰が思ったことだろう。


 詳細については伏せるけれど、そのおかげでみんな三回目のレポートを最低限の体裁で整えることが出来た。内容はヘボくて再レポ間違いなしの代物なんだけどね。


 明日はプランの最大の懸念をなんとかすることにする。逆に言えば、これさえどうにかできれば物事がうまくいく可能性はかなり高くなるはずだ。少し……いや、だいぶ申し訳ないし心が痛むけれど、それ自体はほんの一瞬。その後の最高のおもてなしで償おうと思う。


 改めて日記を見返してみると、肝心なところが書けないせいで酷く読みづらくてわかりづらい。まぁ、隠して書いているから当たり前ではあるんだけれど。


 ギルは今日もスヤスヤと大きなイビキをかいている。明日の成功を願い、溢れる自信を鼻に詰めておいた。


 明日は本格的に悪い子になろうと思う。今から少しずつピュアな頃の俺に近づけていかないと、本番で失敗しかねない。遠慮や躊躇いなんて、絶対にあってはならないのだから。

20180506 誤字修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ