350日目 女神顕現
350日目
魂石にヒビがはいっている……それだけなの?
いやっほぉぉぉぉ! ステラ先生! ステラ先生が今年も遊びに来てくれた! 我がルマルマの女神、永遠のアイドルであるステラ先生がこの宿屋に泊まっている! 私服姿ステラ先生も超絶エクセレントプリティ&キュートで最高に可愛い! もうマジで最高! ステラ先生ちょう素敵!
落ち着こう。あまりにも嬉しかったために少々取り乱してしまった。なんだかんだでステラ先生と会うのも一か月ぶりくらいだろうか。たった一か月でこれとか、ステラ先生はどこまで俺のことを惑わすのだろう。
さて、ここからは真面目に書いていこう。ハイライトの部分をしっかり書くため、他は少々ざっくりと仕上げていくことにする。
ギルを起こし、身支度を整えてからマデラさんの元へ。今日も女子組はしっかり準備ができており、普通の宿屋だったらもう一端の店員としてやっていけそうな感じ。各々得意なスキルを持っているって言うのは良いことだと思う。
マデラさんからの指示も『いつも通りでよろしく』といったもの。今日もこれといってお使いやネズミ捕りなどの業務はないらしい。平和なのは良いことである。
風呂掃除は俺とリアとアルテアちゃん。俺が男風呂の処理をしている間に二人が女風呂の掃除をしつつ、最後に俺が総仕上げをするいつものパターン。『今日はレモンと乳白色の合わせ技で行く』ってアルテアちゃんは入浴剤をチョイスしていた。アルテアちゃんが手伝い始めてからレモンのそれの消費が激しいので、在庫管理はしっかりしておくこと。
その後はロザリィちゃんとギルと共に朝飯の仕込みの支度。ロザリィちゃんが俺の宿屋の厨房でエプロン姿で働いているとか、この世で一番の絶景。髪をまとめて後ろで縛っているのも最高に可愛い。ちらちら見えるうなじがまぶしくって、マジに見とれちゃったよね。
『みぃーるぅーなぁーよぉー!』ってロザリィちゃん、俺のこと突いてくるんだもの。朝から新婚さんみたいなイチャイチャができて最高に幸せだった。
ミーシャちゃん、パレッタちゃん、リアの洗濯はいつも通り。よくよく考えたらミーシャちゃんにリアと言う明らかなおこちゃま体形(そもそも一人は名実ともにおこちゃまである)に、比較的小柄なパレッタちゃんという洗濯物干しにはあまり向かない人選とはいえ、その分踏み洗いについてはなかなかに感心できる部分がある。やっぱ小柄で小回りが利くのは悪くない。
今日の洗剤はヴィヴィディナだったんだけど、パレッタちゃんは楽しそうに、ミーシャちゃんは特に変わりなく、そしてリアは非常におそるおそる踏み洗いを行っていた。
『え……、これ、素足で踏んで大丈夫なの……!?』ってリアが震える声でパレッタちゃんに問いかければ、パレッタちゃんは『だいじょぶ、私たちまだ若いからヴィヴィディナもむしろその方が喜ぶ』って笑顔。
ヴィヴィディナではなく自分の足の心配であったことを告げるべきか、非常に悩んだっけ。空気の読める俺は聞かなかったことにしたけど。
そうそう、注意点が一つ。ミニリカとナターシャの下着が外側に干されていたので、そこだけは注意させていただいた。あと、微妙に洗濯物の皺が伸び切らずに干されていたのもあった。こういう細かいところは経験を重ねるしかないか。
それと、『ナターシャの下着と、アレット、ミニリカの下着は可能な限り離して干してくれ』とも伝えておく。以前二人に泣いて頼まれたからなんだけど、『そこまで熟知して気遣いできるのは逆に怖いの』ってミーシャちゃんに引かれた。なぜ?
一応書いておこう。ナターシャはぼんっ! きゅっ! ぼんっ! で、ミニリカはきゅっ! きゅっ! きゅっ! ……の、まさにちゃっぴぃである(ただし体型的な意味ではない)。そういう意味ではアレットもきゅっ! きゅっ! きゅっ! ……のちゃっぴぃ(ただしミニリカよりはマシ)で、我らがマデラさんは貫禄のぼんっ! ぼんっ! ぼんっ! のふくよかボディである。
そしてちゃっぴぃはスタイルだけならぼんっ! きゅっ! ぼんっ! のちゃっぴぃではない。ちゃっぴぃなのにちゃっぴぃではないとはこれ如何に?
朝飯はみんなで取る。嬉しいことに朝のカフェオレ、ロザリィちゃんが作ってくれた。『愛情たっぷりこめました!』とのこと。あったかくってあまくって、一口飲んだだけで心も体もぽっかぽか。『これを望めば毎日飲める人って、幸せだと思いませんか?』って甘えてくるロザリィちゃんが最高に可愛い。思わずぎゅっと抱きしめてしまった。
一応書いておこう。ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってた。今日は珍しくポポルもケチャップのジャガイモ添えを食っていて、ヒナたちがそいつを負けじとヘドバンして食っていたっけ。体中ケチャップ塗れになるものだから、アルテアちゃんが『もう、やんちゃなんだから……』ってハンカチでふいてあげていたのを覚えている。
フィルラドはそんなアルテアちゃんを見てにこにことだらしなく笑っているだけで何もしなかった。アルテアちゃんもよくあいつに愛想を尽かさないものだと思う。
さて、ここで一気にハイライトに行こうと思う。そう、アレはちょうど……そろそろ昼餉の準備でもしようかなって思っていた頃合いだろうか。
ばん! っていきなり扉が開いたの。懐かしい魔力の匂いと気配に思わず振り返ってみれは、そこには我が愛しのステラ先生がいた。
もう、一目見た瞬間にめっちゃ嬉しくなっちゃったよね。ハイネックの縦セーターと言う冬の装いのステラ先生は最高にステキだったし、お外がちょっぴり寒かったのか、ほっぺが少し赤くなっていて、なんかかわいい感じのマフラーまでつけてるの。
ただね、ステラ先生めっちゃ泣きそうだったの。マジかよって思った。
当然、俺達みんな一瞬面食らった。そしてステラ先生、『あ゛い゛だがっだよ゛ぉ……!』ってわんわん泣きながらアルテアちゃんに抱き着いた。
仕事なんてしちゃいられねェってんでみんなでステラ先生を囲む。『み゛ん゛な゛ぁ……!』ってステラ先生ずっとぐすぐす泣きながらアルテアちゃんに抱き着き、そしてポロポロと涙をこぼしながら笑っていた。
『もう大丈夫ですよ、先生……ここにはみんないるし、もう先生はひとりぼっちじゃありませんから』って優しくステラ先生の背中をぽんぽんと叩くアルテアちゃんの母性が凄まじかった。俺はあれ以上の慈愛の微笑みを未だかつて見たことが無い。
ステラ先生が落ち着いたところで(女子が四人いっぺんに抱き着いて慰めていた)話を聞いてみる。『こ、今回は一人でお見合いの話をなんとかしてきたんだよぅ……! 先生、すっごく、すっごくがんばったんだよぅ……!』とのこと。
どうやら件のお見合いの件、こじれにこじれて未だに潰れていなかったらしい。お義父さんは俺と言う相手がいると知っていながらも、『とりあえず会うだけでもいいから! 縁を広げる程度の認識でいいから! お前、あいつと上手くいかなかったときのこと何も考えてないだろ!』って、あくまで男友達を増やして保険とするためにこの手の話を持ってきたそうな。
ただ、今回はどうにかこうにかステラ先生は一人で何とかお義父さんを言いくるめることに成功したらしい。『みんなに迷惑かけちゃいけないって思って、先生、泣きそうになったけど頑張ったんだもん……!』って先生は目に涙をいっぱいに溜めながらも、やり切った表情であった。
どうも、問題自体は(先延ばしとはいえ)解決したものの、ここに来るまでの途中で色々諸々感極まったというか、今までに溜めていたものが込み上げてきてしまったらしい。『な、なんか……みんなに会えると思ったら、ちょっと安心しちゃって』ってステラ先生は恥ずかしがっていた。そんなところもマジプリティ。
『見た目はともかく、しっかりしている印象があったんだけど……オフの時の差が激しくないかしら……? 去年、こんなに子供っぽかったっけ……?』ってアレットが首をかしげていた。俺たちが大人になった分、相対的にステラ先生が子供っぽく見えるようになっただけだと思う。
なぜかマデラさんも、『あの娘だいじょうぶかな……』って悩まし気に眉間をもんでいた。あのステラ先生を「あの娘」呼ばわりだなんて、マデラさん以外にはできない所業である。
なお、ステラ先生が『あの……頑張ったから、ほめてくれるとうれしいなあって……!』って恥ずかしそうに甘えてきたため、その後はみんなで盛大にステラ先生を甘やかす。女子たちはほぼずっとステラ先生をぎゅっ! って抱きしめてあげていたし、男子はずっとステラ先生のおしゃべりの相手になってあげていた。
かくいう俺も、僭越ながらステラ先生のおやつの準備をさせていただ……こうとおもったけど、非常に口惜しいものの『先生のためにジャムクッキーを作ってください。この借りは一生をかけても返すから』ってマデラさんにお願いする。俺のジャムクッキーよりも、マデラさんのジャムクッキーの方が百億万倍美味いのは確定的に明らかだし。
マデラさん、『そのくらいなら、貸し借りなしでいいだろ』ってクッキーを焼いてくれた。やったね。
もちろん、ステラ先生は大喜びで『じゃむくっきぃ……!』って食べていた。もうね、ホントに幸せそうにジャムクッキーをほおばるの。あの笑顔、一生をかけても守り通そうと思ったよね。
クッキーの良い匂いにつられてか、それともステラ先生の美味しそうな顔を見たからか、通りの方から入店してくる人が結構いっぱいいた。ホントはあくまで宿屋のサービスとして提供しているものだけど、今日は特別にってことで臨時でクッキー屋さんを開く。マデラさんと俺&ロザリィちゃんの二大体制。最強の布陣である。
もちろん、ぶっちゃけこんなのただの建前。焼いたクッキーのほとんどがステラ先生(とおこちゃまと我がルマルマ)のおやつに、『えへへ……! みんなと一緒におやつを食べられるなんて、先生は幸せだなぁ……!』ってステラ先生はずっとにこにこしていた。眼の端には、きらりと光るものがあったことをここに記しておく。
『やめろよ……ッ! 儂、こういうのに弱いんだよ……ッ!』って珍しくルフ老が真っ当な感じで泣いていた。色々思い出すことでもあるのだろうか。
夕飯ももちろんステラ先生と一緒。『うふふ……! 久しぶりに、みんなと一緒のあったかいご飯……!』ってステラ先生が笑ったとき、俺たちマジで泣きそうになった。『もう、一人の暗い部屋で、冷たいご飯を食べなくてもいいんだぁ……!』って言葉で完全に止め。アレットが、『つらかったね……! つらかったね……!』って泣きながらステラ先生を抱きしめていた。
そしてミニリカも……あのナターシャでさえ、なんか無言でステラ先生を抱きしめていた。『いや……なんじゃろ、他人事とは思えないし、胸の奥がぎゅうってなって……母性が疼いたというか』、『あたしも子供がいたらこんななのかなってなんか思った』って二人は言っていた。ババアロリとアバズレとはいえ、やはりあいつらも女としての母性を兼ね備えているのだと驚いた瞬間だ。
当然のごとく、お風呂もステラ先生はみんなと入っていた。『俺も女の子だったらステラ先生とご一緒できるのにな』、『まったくだ』ってクーラスとジオルドがアホなことを言っていたので、『じゃあ、なってみるか?』って軽く脅しておく。
『お前が言うとシャレにならねえんだよ』、『よく考えたら女の子でご一緒するより、男のままご一緒したほうがはるかにいいよな』って二人はビビって逃げやがった。魔系にあるまじきチキンである。
だいたいこんなものだろう。ホントはもっとステラ先生とお話したかったんだけど、ステラ先生はいろいろあって疲れていたのかすぐにアルテアちゃんたちに寝室に連れ込まれていた。あの様子だと、ベッドを繋げて一緒に寝るのだろう。リアもちゃっぴぃも向こうに行っていたから、今夜はきっとさぞかしステラ先生好みの夜が繰り広げられるに違いない。
ああ、一応書いておこう。ステラ先生、ちゃんとマデラさんに挨拶していた。『すみません、今年もお世話になります……!』、『いいええ、自分の家だと思って寛いでくださいね!』っていう、マデラさんの声のトーンが一つ上がった大人同士の会話のアレ。
『いつ見ても、あの声どこから出してるんだって不思議に思う』ってチットゥが言ってた。『声真似しようとしたんだけど、なんかしっくりこない』とも。実際、チットゥはマデラさんの普通の声真似だったらほぼ完璧(裏に潜む凄みは再現できず)だったけど、あの声は変に上ずるというか、違和感バリバリだったんだよね。
いけない、無駄に長くなってしまった。とりあえず今日は、ステラ先生ががんばって一人でこの一か月と少しを乗り切ったってことだけ伝わればいい。あとは俺たちがそれを労って存分にステラ先生を甘やかすだけだ。ステラ先生は我がルマルマでしっかり守らないとね。
ギルの鼻には幼子の喜びを詰めておこう。明日もステラ先生が笑顔でいられますように。みすやお。




