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349日目 ポポルのお気に入りの酒を見つけろゲーム

349日目


 ピーナッツが塩ゆでされている。俺的にはもうちょい塩が効いている方が好み。


 ギルを起こして食堂へ。今日も今日とて朝の仕事は盛りだくさん。風呂掃除、洗濯、料理……と、今でこそ女子たちやリアがいるからなんとかなっているけれども、よくよく考えなくともピュアな頃の俺はこの量をひとりでやっていたってだいぶヤバくね?


 ちなみに特筆するべきことはとくになし。やっぱり今日もアルテアちゃんがフィルラドが見たら卒倒しそうなほど太ももをさらけ出したお掃除スタイルだったってのと、ミーシャちゃんとパレッタちゃんが洗濯をヴィヴィディナに任せて二人で抱き合ってスヤスヤしていたくらい。なぜかその真ん中にリアも潜り込んでいた。仕事をしていたのなら別にいいか。


 そしてギルは野菜の皮むき。『バケツ一個分までならジャガイモのつまみ食いも許そう』ってマデラさんの言葉に、『うっひょおおおおお!』ってめっちゃ野菜を剥きまくっていた。たかだかバケツ一個分程度の値段であれだけの効率を叩き出せるとか、時間単価がマジヤバい。


 あんま関係ないけど、なんか朝からグッドビールがルフ老にじゃれついていた。そのつやつやテカテカなルフ老ヘッドを「へっへっへっへっ!」ってアホ面しながら嘗め回し、さらにつやつやテカテカにするという何が楽しいんだかよくわかんない事をしていたのを覚えている。あれ以上ルフ老ヘッドをつやつやテカテカにしていったいどうするのだろう?


 ちなみにルフ老、『男でないというなら、なんかこれはこれでアリな気がしてきた』って言っていた。本格的にもう取り返しがつかないところにいるのかもしれない。


 朝飯は普通にみんなで取る。今日もうちのちゃっぴぃは俺のお膝の上でふんぞりかえっていた。野菜マシマシサラダを『あーん♪』してやるも、あいつは『きゅ!』ってそっぽを向くばかり。


 ただ、『マデラさんが見てるぞ』って告げた瞬間にすんげえ勢いで食らいついてきた。『きゅうん……! きゅうん……!』って必死に俺の指まで舐めて媚を売ってくる始末。そんなことするくらいなら最初から素直に食べろよって思った。


 ギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってた。今日は珍しくヴァルのおっさんもジャガイモ食ってた。『腹持ちだけは良いし、なんだかんだで安心できる味ではあるんだよな』とのこと。おっさんも新人時代はよく食っていたらしい。


 『こんな貧相な飯は嫌だ、もっと美味い飯を食えるように強くなろう……って、それで頑張った気がする。大体の冒険者はそうなんじゃないか?』って冒険者あるあるを語られたんだけど、それって遠回しにジャガイモをディスっているのだろうか? 今度ジャガイモ妖精に告げ口してやろうと思う。


 さて、今日も今日とて一日が始まるぞ……と思っていたところ、見慣れぬ冒険者パーティがやってきた。人数にして四人。装備からして前衛三人に弓使い一人というちょっと偏ったと思わなくもない編成。


 なんだなんだと思っていたところ、『実は、トリノさんにここを紹介されて……』ってリーダーらしき男が紹介状を懐から取り出した。どうもこいつら、トリノの宿屋に泊まっているやつらしい。


 さっそくマデラさんにそいつを渡す。内容を聞いてみたところ、『……人手が欲しいから貸してほしい、とさ』とのこと。元々こいつら六人パーティらしいんだけど、そのうち二人が腹を下しただか体調不良だかで臥せっているそうな。


 悲しいことに、その二人ってのが後衛の魔法使い。幸いにしてちょっと寝ていれば治る程度のものらしいんだけど、不幸なことに割と急ぎの討伐依頼を受けているとのこと。しかもその相手がゴーレムてきなやつと悪霊てきなやつ……要は、魔法使いじゃないと決定打を与えにくい奴ね。


 つまるところ、臥せっている二人の代わりに魔法を使える誰かを紹介してほしい、っていうアレ。トリノがわざわざ紹介状を書いてまでここを紹介したってことは、それなりに見どころのある……少なくとも、面倒を見ておいた方が良いと思える程度には信頼がある連中ってことなのだろう。


 『で、どうする?』ってマデラさんが俺達に聞いてきた。『どうせ日帰りの距離だ、誰が行っても構わない。報酬も特別に全額懐に入れることも許そう』とのこと。本当ならマージンを取るのがスジだけど、ここは一応トリノの顔を立てるっぽい。


 結果として、同行することになったのはアルテアちゃん、ポポル、パレッタちゃん、そしてギル。『え……失礼ですが、冒険者じゃないですよね?』ってリーダーは訝しげだったけど、マデラさんは『トリノがここを紹介した意味をよく考えてほしいですね。あと、お代は二人分だけで構いませんから』ってにっこり。マデラさんからして見れば、あくまで俺たちは半人前ってことなんだろう。


 なお、『……あの、彼は本当に魔法使いなんですか?』って弓使いの男がギルを見て恐る恐る聞いてきたので、『ご心配なく。魔法使い云々はともかく、彼が一番あなた方のご期待に沿えると思いますよ』ってウィンクしておく。ギルの奴『これが証明だ!』って元気にポージングしていた。


 ともあれそんなわけで四人を送り出す。あ、もちろん四人(とついでに冒険者たち)にはお弁当を作って持たせておいた。『おやつもつけてよ!』ってポポルがうるさかったので、ちょっぱやでクッキーセットとキャンディまでつけてしまうという気配りも。これで無料対応、サービスだってんだからすごい宿屋はあなどれねえぜ。


 『いいなぁ……お弁当……』、『おやつ……羨ましいの……』、『きゅう……』ってリアとミーシャちゃんとちゃっぴぃにしょんぼりされてしまったのは失敗だった。あんな顔をされたら、作ってあげないわけにはいかなくない? 女子供の涙はこれだから困るのだ。


 あ、でもでもいいこともあったり。宿屋残り組のお弁当をロザリィちゃんと一緒に作ることが出来た。『えへへ……なんか、こういうのもいいですなぁ』ってロザリィちゃんは嬉しそうににっこり。『新婚さんみたいだし、共同作業だし……!』ってなんか赤くなって照れている。なんでロザリィちゃんあんなに可愛いんだろう?


 さらにさらに、『助っ人の依頼がくるってすごいね……!』ってなぜか俺を褒めてくれたりもした。『だって、元々は──くんを期待した依頼でしょう? さすがにナターシャさんたちをお手伝い、ってわけにはいかないだろうし』ってロザリィちゃんは鋭い指摘。『私の好きな人がそんなに頼りにされているんだもん、嬉しくないわけないじゃない!』って脇腹をつんつんしてきた。わぁい。


 まぁ、ナターシャたちを想定していないのは、単純にあいつらだと「やりすぎる」からってのが理由なんだけどね。助っ人だというのに自重せずにバカスカ魔法を撃ちまくるものだから、結局目的が達成できないっていうアレ。何度マデラさんに命じられて尻拭いをしたことか。


 せっかくなので、お昼ご飯は居残り組で外で食べる。ちょっとしたハイキングってわけじゃないけど、俺、ロザリィちゃん、ミーシャちゃん、フィルラド、クーラス、ジオルド、リア、ヴィヴィディナ、ちゃっぴぃ、エッグ婦人、ヒナたち、アリア姐さん、グッドビールってメンツでルマルマ壱號で出撃。いつもの散歩道のところの日当たりの良いところで弁当を広げ、のんびりしながら日光浴した。


 リアはアリア姐さんの日傘が気に入ったようで、『……どう?』ってクーラスの前で日傘をもってポーズ。『い、いいんじゃないかな?』ってクーラスはしどろもどろ。『ちゃんと可愛いって言ってあげなきゃダメだよー!』ってロザリィちゃんがケラケラ笑っていた。可愛い。


 アリア姐さんも日光浴をしっかりできてご機嫌。最近は寒さも和らいできているから、アリア姐さんにとってもいい環境なのだろう。少しずつ、ぼーっとしている時間が減ってきているように思う。


 そんなアリア姐さんは、思う存分にジオルドを抱きしめて堪能していた。魔物とはいえグラマラスで全裸なおねーさんが往来で全力で人を抱きしめるのってどうなんだろうね?


 ハイキングは恙なく終了。帰り道はなぜかちゃっぴぃを肩車することになった。リアはフィルラドが肩車。クーラスに甘えるものだと思ったら、『……その、クーラスおにいちゃんだと……は、恥ずかしい』ってリアがガキのクセに照れたんだよね。


 『喜ぶべきか悲しむべきかよくわかんねえよ……』ってクーラスは言っていた。『「こいつなら別にいいや」って思われた俺はどうなる?』ってフィルラドはクーラスに文句を言い、『その選択肢にすら入れてもらえなかった俺の立場は?』ってジオルドもクーラスに文句を言っていた。


 俺だったらジオルドに肩車してもらっていたと思う。あいつ妹いるからその辺の扱いも上手いだろうし。リアの男を見る目はもしかしたらあまりよくないのかもしれない。


 夕方ごろにアルテアちゃんたち遠征組が帰還。討伐依頼は大成功のようで、『まさかあんなに活躍してくれるとは……!』、『出来ることならこのまま正式メンバーとしてスカウトしたいくらい!』、『ジャガイモ沢山食べて筋肉鍛えれば、ゴーストでも素手で殴り殺せるようになるってホントですか!?』……などなど、そりゃあもう大盛り上がり。我が友人たちの活躍には心躍るばかりである。


 しかも嬉しいことに、連中は今日はここで飯を食っていくらしい。『最初からそういうことになっている』ってマデラさんは言っていた。たぶん、トリノの方から今回の分のツケというか借りを返して筋を通したって所だろう。臨時助っ人一回と飯代一回なら、まぁトントンってところか。


 依頼成功のテンションアゲアゲのまま、連中はとにもかくにも飲んで食って騒ぎまくっていた。もちろん、メンバーであった四人も当然のようにそこに受け入れられている。そして関係ないのにテッドやヴァルのおっさん、ナターシャやアレットもそれに混じって大変うれしそうに騒いでいた。


 あの冒険者特有の飲み会のコミュ力が凄まじい。まるで長年の友人かのように仲良く酒を組合すところだけは、まぁ、悪くないんじゃないかって思う。マジで酔ってる時だけ、飲んでる時だけの仲の良さ……酔いがさめた後とか支払いの時になると喧嘩するやつなんていっぱいいるけれど、あれだけみれば、冒険者に子供が憧れるのも無理はない……と思わなくもない。


 そして唐突に、【ポポルのお気に入りの酒を見つけろゲーム】が始まった。きっかけとしては、祝勝会なのに全然飲まないポポルをパーティメンバーが不思議に思い、すごく自然に溶け込んでいたテッドが『こいつザルのくせに酒の味も楽しみ方も知らねえんだよ!』って零したってのが始まり。


 そこからはもう、テンションアゲアゲの連中により様々な酒がポポルの目の前に。ウィスキー、エール、ビール、ワイン、果実酒……そりゃもうたくさん。注文がいっぱいでこっちもホクホク。やったね。


 ポポルは出てくるそれらを律儀に一杯ずつ(もともと味見くらいの量だったけど)飲み、『まずい』、『にがい』、『うまくない』、『味が変』、『なんかおぇってなる』……と次々にコメントを残していく。『こいつならどうだぁ!』、『これはさっきの奴の倍の値段するぞ!』って、オススメのそれが外れるたびに、連中はますます盛り上がって次の酒を勧めていたっけ。


 最終的に選ばれたのはアルテアちゃんが選んだカクテルてきなやつ。ほんのり香る程度のアルコールな、甘みが強くて女の子でも飲みやすい一品。気になるポポルの評価は『ジュースみたいでおいしい!』とのこと。だったらもうジュース飲めよって思った。


 だいたいこんなものだろう。あ、今日もやっぱり寝る前に、『今日も一日、おつかれさまでしたっ!』ってロザリィちゃんにキスしてもらった。俺ってばこのためだけに働いている節がある……いや、よく考えたら世の中の夫婦ってみんなそんな感じか?


 ギルは今日も健やかにクソうるさいイビキをかいている。『ゴーレムぶん殴ったりゴーストぶん殴ったり……正直四人もいらなかったし、魔法使いもいらなかったと思うぜ?』ってあいつは言っていた。『むしろ筋トレには申し分なかったから、特に対霊体の筋トレしたい武系こそやっておくべき依頼だったな!』って笑顔でポージングもしていた。


 一瞬俺の頭がおかしくなったかと思ったけど、俺まともだよな?


 ギルの鼻には……魂石でも詰めておこう。今日のお土産でもらったやつ。ちなみに飴玉一つ分の価値も無い。奇跡が起きて金塊にでもならないだろうか。グッナイ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ちょっと見てない間になんかすごい冒険してた(?) あっ、ひょうたんふくろうさん、呪いおつかれさまです……ここまでは伝播してない(?)みたいで何より 体の隅々まで邪神の魔法要素に侵されてる…
[一言] ピーナッツはからごとつめてなかみを食べたんでしょうさすがに。 え?終始剥き身じゃあないですよね? 書き手ならやりかねないんですよね、もうギルの鼻を鼻ではなく錬金釜だと思っているなら……
[良い点] なんで……鼻に詰めたピーナッツの味を…… いや、言わなくていい。書き手(クレイジー)なら普通の事だ そして安定のギルマッスル 魔法使いじゃないと決定打を与えられないはずの相手に対して拳で…
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