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339日目 射撃と召喚

339日目


 いつのまにやらちゃっぴぃが俺のベッドに潜り込んでいる。こいつ昨日ロザリィちゃんのところじゃなかったっけ?


 ちゃっぴぃを起こさないように身支度を整え、そのまま食堂へ。今日も一日の連絡事項を聞こうとしたところ、『そいつはいいからちょっとこっちこい』ってマデラさん直々に呼び出しを喰らった。恐怖でしかない。


 『おにーちゃん、今度は何やったの?』ってリアが煽る。『──くん……素直にごめんなさいしようね?』ってロザリィちゃんはぎゅって俺を抱きしめてきた。わぁい。


 が、マデラさんは『何言ってんだ、あんたらもだ』って非情なる宣告。『ひぇっ』、『え゛っ』って二人の悲鳴が朝の静かな食堂に響いた。


 俺の背中にぴったり張り付くリア。微かに震えながら俺の腕にすがるロザリィちゃん。(リアはともかくとして)ロザリィちゃんのためにも先陣を切ってマデラさんの元へ行けば。


 『ほら、飲んでみろ』って、朝餉としてマデラさんが仕込んでいたスープを目の前に差し出された。どういうこっちゃ?


 とりあえずブチギレケツビンタは回避できたので一安心。味見をしてほしいなら先にそう言えよと思いつつも、おてしょに口を着けてみる。


 シルフィアさんの味だった。マジかよ。


 『え……ママの味……!?』って(俺と同じ所に)口を着けたロザリィちゃんがびっくり仰天。同じくおてしょに口を付けたリアも、『材料は同じだけどマデラさんの味じゃない……もっとこう、良くも悪くも家庭的で独創的な感じがする……!』って舌の感覚が敏感な所を見せつけた。


 『どうやったの?』って聞いてみる。『材料も作り方も、あんたたちが教えてくれた通りだよ』ってマデラさん。それで作れなかったからこんなにも苦労しているというのに……という俺の心なんて一瞬で見透かしたのだろう、『ただし、意図して入れていない材料が一つだけあった』と早速のネタ晴らし。


 『こいつだ』ってマデラさんが俺に見せてきたおたま……よくよくみると、すんげえうっすら愛魔法要素が纏っていた。わーぉ。


 『ロザリィもロザリィのママも、体質的に愛魔法要素がすごく濃い(・・)。だから、知らず知らずのうちにそれがスープに染み渡っていたんだろう。他の料理はわからないが、このコンソメスープの場合、ほんのちょっぴりのそれがフレーバーに大きな影響を与えたんだろうね』……ってマデラさんは解説。実際こうして謎技術で愛魔法要素を再現してみたところ、見事にロザリィちゃんが作ったそれとドンピシャのものができたそうな。


 そして悲しいことに、俺にはどう頑張ってもロザリィちゃんの家のそれと全く同じものは作れないことが判明。『あんただって愛魔法を使えば限りなく似たものは作れるだろう。だが、万人は気づかなくても、ほかならぬあんたたち自身が違和感に気づくだろうね』ってマデラさんが悲しすぎる宣告。


 愛なんて恋愛か親愛か友愛か……それこそ家族愛だってある。愛魔法要素としては特に恋愛とはいえ、それだって誰に対するものかでも違うし、何より男の愛と女の愛は明確に異なる。


 実際、俺が愛魔法を使って作ってみたスープ、『すっっっっごくそっくりなんだけど、なんか……なんか、上手く言葉にできないけどちょっと違う……かも?』ってロザリィちゃんからコメントを頂いた。リアは『……おんなじじゃない?』って違いが判らなかったようだけど、まぁつまりそういうことなんだろう。


 たぶん、シルフィアさんのそれとロザリィちゃんのそれも、マデラさんが味を見たら違いが判るのだと思う。それくらい、これは繊細な技術(?)だってことだ。


 ただまぁ、『……でも、これはこれで私はすっごく好きな味だよ!』ってロザリィちゃんは喜んでくれた。『気づける奴だって勘違いと思うくらいの微妙な違いなんだ、それはもう違いと言うよりも、個性と言うべきものなのだろうね』ってマデラさんも味そのものとしてはこれで完成である旨を告げてくれた。


 ちなみに、今の俺がよりロザリィちゃんのそれに近づこうとするならば、『名実ともに家族になるか、女の子になるかのどっちかだね』ってマデラさんは言っていた。


 『もぉ……気が早いですぅ……っ!』って真っ赤になるロザリィちゃんに見とれてついついスルーしていたけれど、何気に結構恐ろしいこと言ってなかったか?


 そんなわけで朝食はロザリィちゃんの家のコンソメスープ。ミニリカからは『家庭的な味でなんかホッとするのう!』、ナターシャからは『……なんかお袋思い出した』、ルフ老からは『新婚の人妻の味がする……!?』とのコメントを頂いた。あのジジイの味覚どうなってやがる?


 ポポルは普通に『うまい』って飲んでた。ジオルドは『ああ……かーちゃんの味って感じだ』、クーラスは『あと一週間後にこれ飲んでたら、ホームシックにかかってたかもわからんね』ってコメント。パレッタちゃんは『なるほど……これがママリィの味なのね……!』ってなんかうっとり。


 『ロザリィのママなんだからママリィでしょ? ママリィが引き継いだそれもママリィのママリィが作ったんだから、やっぱりこれはママリィのスープじゃん?』って、パレッタちゃんはなかなかに哲学的なことを言っていたっけ。みんなに振舞ったのは俺が作ったやつなんだけどね。


 午前中はそんな感じ。俺とリアはぼちぼち宿の仕事をして、そしてアリア姐さんがこの一か月の分を埋め合わせるべくジオルドにべったり。もうずーっとぎゅって抱きしめていて、ジオルドが離れようとすると「いっちゃヤダぁ……!」って言わんばかりに目を潤ませるの。


 『お、お前ここまでべたべたするタイプじゃなかったよな……?』ってジオルドが逆に心配するレベル。『オンナゴコロがわかってないねえ……』ってリアは椅子に乗りながらアリア姐さんの頭に水をぶっかけていた。ガキが女心を語るとは笑わせおる。


 『見せつけやがって! 見せつけやがってッ!!』ってルフ老がキレていた。仕事もせずに若者に嫉妬する老害とか救いようがない。


 さてさて、そんな感じで仕事をしつつ午後を迎え、パターン的にそろそろかな……って思ったところで外から例の魔法の雰囲気が。


 ちゃっぴぃと追いかけっこして遊んでいたヒナたちがピクッと何かに気づき、そして猛烈にケツフリフリしながら外へとダッシュ。そらもうすさまじい勢い。床が一部抉れて捲れたんだけど、やっぱアレ直すの俺かな?


 扉を開けた先にいたのはやっぱりアルテアちゃん。『お久しぶりです、お世話になります!』って真っ先にマデラさんに挨拶。この宿のヒエラルキーをしっかり理解しているらしい。


 んで、足元にすり寄ってくるヒナたちの首元をちょこちょこと撫でて、『よう、元気にしてたか?』、『あんまり迷惑かけてなかったよな?』ってにっこり。ヒナたちもそれはもう嬉しそうにピーピー鳴きながらアルテアちゃんの前でケツフリフリしまくっていたっけ。


 『い、一匹くらい俺のところに来てもいいじゃんか……』ってその後ろでフィルラドが腕を開いたまま泣いていた。日頃の行いだろう。


 ともあれまぁ、久しぶりってことで互いに旧交を温める。『やっぱ実家はダメだな。最初は良いんだけど、三日もすりゃ人のことを馬車馬か何かのように扱いやがる』ってフィルラドはグチグチ。一方でアルテアちゃんも、『悪くは無いんだけど……お節介気味と言うか、なんというか。こっちのほうが刺激的だし、みんながいるから』ってなかなかの嬉しい(?)発言。


 『それは誘ってんのかぁ?』ってロザリィちゃんがぎゅーっ! って抱きしめに入り、『……ママ!』ってパレッタちゃんもアルテアちゃんに抱きしめに入る。ある意味予想通りうちのちゃっぴぃも『きゅーっ!』ってアルテアちゃんの背中に張り付き、『……いや、なんとなくそうしなきゃいけない雰囲気だったから』ってリアもアルテアちゃんに抱き着いていた。


 『どれ、儂も!』ってアルテアちゃんに抱き着こうとしたルフ老は、エッグ婦人に盛大にケツを突かれていた。実に懲りない老害だと思う。


 アルテアちゃんもフィルラドも、去年と同じく最高級グレートの女部屋&男部屋に案内。『やっぱり最高級宿屋のベッドは最高だな……!』ってフィルラドはさっそくベッドにゴロゴロ。珍しくヒナたちもフィルラドのベッドに飛び乗ってポンポン跳ねたりしていた。あいつらなりの甘え方(?)なのだろうか。


 夕餉はやっぱり盛大に飲み食い。『若いのが多いと華やかでいいのう!』ってミニリカも上機嫌だったし、『まぁ飲め。さぁ飲め。遠慮せず飲め』ってナターシャも上機嫌でアルテアちゃんに酒を注ぐ。『二人揃って来たってことは……ええおい、たいそう楽しい春休みだったってことか? 良いから吐けよオラ』ってテッドもフィルラドに絡みまくっていた。


 よくよく考えてみれば、ジオルドもクーラスも『は? 去年もそうだったの?』、『許せねェ。許せるわけがねェ』ってキレてフィルラドに絡み、そして酒を注ぎまくっていた。そういや去年はフィルラドたちの方が来るの早かったんだっけ?


 『実家に行って親の挨拶まで済ませてきたもっとヤバいのがいるだろ!?』ってフィルラドは必死の抵抗。『それはそれ、これはこれ』、『お前の場合はこっちに近い分別方向でムカつく』ってクーラスもジオルドもキレるのを止めない。怒りっぽい人たちってやーねぇ。


 ちなみにアルテアちゃんは、『実家での話、詳しく!』ってロザリィちゃんに詰め寄っていた。『別に、普通だよー?』ってロザリィちゃんはちょっと赤くなりながらもじもじ。ミニリカ、リア、アレットも交えてきゃあきゃあと楽しそうにおしゃべりしていたよ。


 ざっくりこんなもんだろう。あ、アルテアちゃんもしっかり『これ、つまらないものですが……』って地元の銘菓らしきものをマデラさんに捧げていた。より正確にいえば、フィルラドのケツを叩いて促し渡させたともいう。『まぁ、ありがとうねえ! ……あと、そっちの気遣いはまだしなくてもいいやつじゃないか?』ってマデラさんは言っていた。


 大方、フィルラドの方は何も用意していなかったんだろう。アルテアちゃんが咄嗟に二人で一緒に、って形式にしたに違いない。最近はもう、ヒモクズとそれに騙される女というよりかは、ダメ息子と肝っ玉かーちゃんみたいな感じになりつつあるのが怖い。そこはせめてダメ夫の方がまだマシ……いや、どっちにしろどうしようもないのは変わらないか。


 さっさと寝よう。ちゃっぴぃは今日はリアと一緒にアレットたちの所にいったっぽい。ヒナたちは男子部屋へとピーピー鳴きながら歩いていたからきっとポポルの腹巻の中だ。となると、エッグ婦人はフィルラドに抱かれているのだろう。今日ちょっと冷えるしね。


 最後の安眠だ。せいぜい楽しむとしよう。おやすみにりかちゃんまじそうるふるだんさー。

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[一言] 料理にまでくっ付いてくる愛魔法、ヤバい(w
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