337日目 連射と呪
337日目
今日は普通に俺に抱き着いて寝ていた。生きたゆたんぽとはなかなかに便利。
ちゃっぴぃをお姫様抱っこして食堂へ。今日も今日とてクソ寒く、暖炉の前はリアとアリア姐さん、そしてヒナたちが占拠。老害らしく早起きなミニリカは『ほれ、子供は体を冷やしちゃいけんからのう……』って暖炉を譲ってあげていたけれども、俺から言わせてみればクソ寒いのに腹とか背中とか出ている舞踊衣装を着ているあいつのほうがよっぽど体を冷やしちゃいけない筆頭だと思う。
実際、あいつは『……へくちっ!』ってくしゃみしていた。そのくせ『寒くないの?』ってリアの問いには『鍛え方が違うんじゃ!』ってなぜか自慢げ。老害は変に見栄っ張りだから困る。
ともあれ俺も寒かったので、ちゃっぴぃを抱きつつ暖炉の前に。あとスペース的に問題があったので、アリア姐さんにミニリカを抱かせ、ついでに邪魔だったヒナたちとエッグ婦人もミニリカの頭とか膝の上に追いやった。
おかげでスペース超確保。俺ってばちょうぬくぬく。暖炉があったかいのもそうだけど、子供や生き物のぬくもりってのもなかなか侮れない。
なんか早起きしていたアレットに『あなた、本当にひねくれものよね……』って微笑ましい感じに笑みを浮かべられたのだけはわけわかめ。ミニリカも妙ににこにこしていたし。女って生き物は時折よくわからんことで笑い出すから意味が解らん。
一応書いておこう。『儂も寒いから混ぜてくれ!』って突撃してきたルフ老には俺の全力をもって疲労魔法をぶっ放した……のはいいんだけど、『なんのこれしき!』って【旋廻流転】で受け流されてしまった。ちくしょう。
『頭が寒いんじゃ! 頭が凍えそうなんじゃ!』ってルフ老は自らのルフ老ヘッドをここぞとばかりに強調し、ハァハァしながらつっこんできた。『ひぇっ』、『ひっ』って、リアとミニリカのマジ悲鳴が響いたのを覚えている。ホントにあの老害、ろくなことしねーなって思った。
最終的に、ルフ老はマデラさんの手によって粛清された。なにをどうやったかわからんけど、気づけばルフ老の頭に大きなたんこぶができていたっけ。『いい年した爺にガキの躾をするような情けないことをする私の気持ちがわかるか?』ってマデラさんは静かに切れていた。なんであの位置からゲンコツを飛ばせたのか、そこのところがマジでよくわからん。
朝飯はロザリィちゃんと共に取る。『朝から賑やかだったみたいだねー?』って今日もロザリィちゃんの笑顔が素敵。恥ずべき身内の行いを、そういう風にフォローしてくれるところとか気配りの女神と言わずしてなんと表現するべきか。
割とどうでもいいけど、今日はリアに混じってナターシャもアリア姐さんに水を上げていた。『絵面的にいけないことしている気分なんだけど、なんか逆にそれがクセになりそう』とのこと。たしかに痴女が全裸の植物おねーさんに水をぶっかけているとか、絵面としても字面としてもだいぶヤバい。
『すげえ迫力』って思わずつぶやいたアレクシスは、アレットに蛇鞭で思いっきりしばかれていた。この世は無常である。
さて、今日はせっかくのお休みなので、久方ぶりにロザリィちゃんとゆっくり過ごそうってことに。『何かリクエストでもある?』って聞いてみれば、『……今日は寒いなあ?』ってロザリィちゃんはおめめをぱちぱち。
こいつぁ手を握ってほしいってところだろう……と思って手を握ってみる。『は・ず・れ・♪』ってロザリィちゃんは指を絡めてきた。きゃあ。
それならばと肩を抱いてみる。『す・け・べ・♪』ってめっちゃ首元辺りをすーはーすーはーくんかくんかされまくった。いやん。
最後の手段ってことで俺の全力をもって抱きしめてみた。『ばぁか♪』って耳元で囁かれたうえ、軽く耳を噛まれた。正気を保てた俺の精神力ってマジすごい。
しかしながら、さすがにここまで来たらもうお手上げ。『正解は?』って聞いてみれば、『寒いときはマフラーって相場が決まってるよね!』ってロザリィちゃんはにっこり。いつのまにやら俺のマフラーを片手に持っていて、そして俺の首にふわりと巻いてくれた。
もちろん、ロザリィちゃん自身も俺の肩に頭をこてんって乗せて、そしてマフラーを巻いていく。『うひひ……♪』って、それはもう大変幸せそう。照れてお顔が真っ赤になっちゃって、恥ずかしがってこっちとなかなか目を合わせてくれない……けど、時たまばっちり合ったときなんてもう、見ているこっちが恥ずかしくなるくらいにもじもじして、言葉にできないくらいに最高に可愛かった。
『見んなよぉ!』って照れ隠しして脇腹を突いてくるところなんてもう……なんて言えばいいんだ? 俺はあれ以上に可愛い生き物を、きっと後にも先にも見ることは無いのだろう。
『かーッ! 人様の前でイチャイチャイチャイチャイチャイチャしやがってのぉ……ッ! これだから最近の若いもんはッ! 乱れに乱れてろくなもんじゃないわあッ!』ってルフ老はなぜかガチ切れしていた。『ち……違うんじゃあ……! 目の前でイチャイチャされるのは違うんじゃあ……!』ってミニリカもなんかめそめそしていた。
『そんなに寒いなら暖炉の前行けばいーじゃん。それともあたしが魔法使ってやろうか?』ってナターシャはロマンの欠片も無い発言を。情緒のわからない人ってこれだから困る。
気になったことが一つ。最初は『うひゃああ……!?』って真っ赤になって顔を覆っていた(ただし、指の隙間からちらちらこちらを見ていた)リアだけれども、しばらくするうちには慣れたのか、『ほうほう……こういう技があるんだ……』、『おねーちゃん、マフラーってどれくらいで作れるの? 編み棒使えれば大丈夫?』、『ちょっといろいろ、その辺教えて!』って不穏なことを言い出していた。変に色気付いたわけじゃない……よな?
なんだかんだで午前中はそんな感じ。俺とロザリィちゃんの愛のマフラーだけど、ちゃっぴぃがうるさかったのと、リアが『参考に!』ってうるさかったので二人も一緒に巻いてやったっけ。『しょーがないなぁ!』って慈愛の笑みを浮かべておねーさんぶるロザリィちゃんが最高に可愛かったです。
で、午後にちょっとしたイベントが。
そう、あれは今日のおやつをどうしようか考えていた時のこと。材料を眺めつつレシピを頭の中で組み立てていたら、突如として形容しがたきおぞましい悲鳴と特有の異常魔力波が外から。反射的に杖を手にしちゃうレベル……っていうか、今日もそわそわしておやつ待ちをしていた例のパーティが『なんだっ!?』、『この感じ……ヤバすぎるだろ……ッ!』ってマジ焦りして武器を手にしていたっけ。
が、もちろんこの程度で動じる俺じゃない。リアも慣れたもので、最初こそびくって震えたものの『あ、この感じは……』ってすぐに落ち着きを取り戻した。何気にきっちり魔力の判別が出来ていることに驚きである。
次の瞬間には、『きちゃった♪』ってパレッタちゃんが扉を景気よく開けてやってきた。その後ろにはヴィヴィディナ(ムカデのごときすがた)に巻き付かれたポポルも。『俺が一番乗りしたかったのに……!』ってあいつはグチグチ文句言ってたっけ。
『離れろッ!!』ってリーダーが一瞬で距離を詰めてヴィヴィディナに切りかかっていた。判断の早い奴は嫌いじゃあない。
もちろん、ヴィヴィディナは体から触手を生やして普通にそれを受け止めていた。というかたぶん、触手なんか生やさなくてもダメージなんて負わなかっただろう。それでなおあえてそうしたのは、下手に受けたことによって生じる自動反撃による浸食を防ぎたかった……という、ヴィヴィディナの慈悲に他ならない。
『クラスメイトとその使い魔なので、問題ないですよ』ってにこやかに返したら、『え……えっ? これが? この化け物が?』ってリーダーと財布にドン引きされた。『まぁ、化け物だなんて……♪』ってパレッタちゃんはなぜか嬉しそう。おねーさん二人からは、『クラスメイト……? この子たちと……?』、『こっちが見た目に反して若いのか、あっちが見た目に反して老けているのか……』って別の意味で驚いていたけどね。
あえて確認するまでもなく、二人とも例の招待状を使ってやってきたらしい。『これでも気ぃつかって去年より遅めにしたんだからな!』ってポポルはなぜか偉そう。ホントなら割と早い段階でこっちに遊びに来たかったらしい。
そしてパレッタちゃんは、厨房の方からやってきたマデラさんを見るなり、『ふっかふかグランマ!』ってちょう笑顔でダッシュ。その勢いのまま思いっきりマデラさんに抱き着いた。普通の老人だったら押し倒されているところだけど、マデラさんはふくよかボディかつ足腰が強い。普通に受け止めていた。
『ふかふか! グランマ! ふっかふか!』ってパレッタちゃんはたいそう幸せそう。『あらまあ、よく来たねえ!』ってマデラさんも笑顔でパレッタちゃんを抱きしめ返す。俺の時とは違い、『ほら、もっと手ェ伸びるだろうが?』ってやらないのはいったいどうしてなんだ?
相も変わらず、パレッタちゃんの実家の闇は深いらしい。『あのクソババア、何度言っても聞きゃしねェ。毎日毎日骨と皮ばかりの薬草臭い体のクセして、ヴィヴィディナを的確に見つけて鍋で煮込みやがった』とのこと。度重なるストレスによりヴィヴィディナの産卵ペースも乱れがちらしい。パレッタちゃんの実家、マジでどんなところなんだろう?
ともあれ、旧交を温めた(?)あとはさっそく部屋に案内。パレッタちゃんはロザリィちゃんが泊まっている客室へ、ポポルは去年と同じ男子用のそこへ。最上級グレートのそこに案内される二人を見て、例の四人組は『マジか……友達特典ってすげえな……』、『い……今からでもお友達になればあるいは……!』って羨ましそうにしていたっけ。
あえて書くまでも無いけど、パレッタちゃんはふかふかのベッドを見るなり『ひゃっふぅ!』って飛び込んでいた。うちのちゃっぴぃも『きゅーっ!』って飛び込んでいた。
ポポルの方もふかふかのベッドに『ひゃっほう!』ってダイブしていた。もちろんこっちもちゃっぴぃが『きゅいーっ!』ってダイブしていた。あいつホント自由だな。
だいたいこんなものだろうか。あ、宴会の時にヴィヴィディナが大活躍していたのを覚えている。久しぶりに目にしたからって、冒険者共が面白がってヴィヴィディナにいろんなものを捧げていたんだよね。食べ残したエビフライの尾っぽはもちろん、魔物素材のクズだったりそこらへんで拾った石だったり……『こんな極上な糧を捧げられるとは……!』ってパレッタちゃんはうっとりしていたし、ヴィヴィディナも嬉しそうに天井をカサカサ這い廻っていたっけ。
テッドの奴が、『お前ら喜べ。あの化け物に贄を捧げるとモノに応じた加護があるぞ』って四人組に適当なことを吹かしていた。『そ、そうなんですか……?』っておずおずと捧げられた銅貨はそのままそっくりパレッタちゃんのおこづかいに。『だいじょぶ、ヴィヴィディナの加護はあなたたちとともにある』って言ってたから、たぶん大丈夫だろう。
今日は俺のベッドが空いている。ちゃっぴぃはロザリィちゃんの所だし、リアは『抱かせろ』ってパレッタちゃんが連れて行ってしまった。ヒナたちは久しぶりにポポルの腹巻だろう。というか、最上級グレートの部屋をひとりで使えるポポルってマジで贅沢だ。
なんかまとまりが無いけど今日はこの辺にしておこう。たぶんだけど、明日もきっと誰かしらがウチに来るだろう。俺の安眠もあと数日のこととなると、ちょっぴり寂しいような気がしないことも無いことも無い。
眠れるうちに眠らなくては。最後になるけど、風呂場でのシャボンカーニバルにてヴァルのおっさんが盛大にこけてケツを打っていた。やはり俺とポポルの連射魔法の相乗は最強である。グッナイ。




