336日目 ロザリィちゃんとデュエット!
336日目
あいつなんで俺のパンツに手をつっこんでるの?
ケツを触られている感覚で目覚める。どうにも冷やっこいと思ったら、ちゃっぴぃのやつが俺のパンツに手を突っ込んで暖を取ってやがった。なんか普通にさわさわと撫でてきて、『きゅいー……』って幸せそうに寝ていやがる。俺もうマジで何されたかわかんなかったよ。
その後は普通に食堂へ。今日も一段と冷え込みは激しく、ロザリィちゃんはだいぶおねむな感じ。『……ちょっと、おはようのキスがほしいかも』とのことだったので朝からアツアツのキスをさせていただいた。
心臓がドキドキしてあったかくなったのは良いとして、マデラさんに盛大にケツを叩かれて別の意味でケツがひりひりして熱を持っている。『ひゃんっ!?』ってロザリィちゃんも同様。『やるならよそでやれ』ってマデラさんはため息。愛に場所を選べなんて、あまりにもナンセンスすぎる。
リアだって『ひゃあ……!?』って真っ赤になって、結果として寒さを吹き飛ばしていたというのに。誰も困っていないのに何でマデラさんはあんなことをいったのか。まさか嫁いびりとかそういうのじゃないだろうな?
朝の仕事はぼちぼち。幸いなことに今日は取り立てて特筆するべき点は無し。むしろ俺、ロザリィちゃん、リアの三人掛かりだったものだから、いつも以上にさっさと終わって時間的な余裕すらあったと言えよう。
昔はこれを俺一人でこなしていたと思うと、改めて俺の子供時代は修羅過ぎると思った。人権の無い宿屋だからよかったようなものの、まともな子供に朝からあれだけ働かせていたら、まず間違いなく虐待として訴えられているんじゃね?
割とどうでもいいけど、アリア姐さんの朝食(水浴び)の時に、ミニリカがなんか美容液(?)てきなものをアリア姐さんの足に塗ってあげていた。栄養剤とかそういうのじゃなくて、『お肌に優しい天然由来の非魔法加工製法のお高い一品じゃ!』とのこと。アリア姐さんの足があまりにきれいだったのと、『同じ美肌仲間として、妙なシンパシーを感じてのう……』……と言う理由かららしい。
『アリア姐さんのは天然のそれだけど、お前のそれは人工的に作られた虚栄だろ』って言ったら、『こンの、バカタレがぁッ!!』ってめっちゃキレられた。しかもあろうことかなんかあいつ、めっちゃ目に涙をためている。マジで泣きだす五秒前って感じ。
中身自体は良い年したババアとはいえ、見た目が見た目だけにさすがの俺もこれには参る。そして、ちょっとぎょっとしている間にもロザリィちゃんが『今のは──くんがいけないねえ?』ってパシッて俺の頭を叩いてきた。『私も一緒に謝ってあげるから、ちゃんとごめんなさいしようね?』って肩をポンポン。
ちゃんとしっかり謝ったのに、ミニリカはずっとめそめそしていた。ロザリィちゃんの胸に顔を埋めて、『最近すっかり扱いが酷いんじゃあ……! 昔は素直でかわいかったのに、今じゃああいう酷いことばかり言うんじゃあ……!』ってずっとずっとグスグス泣いていた。
いやまぁ、悪かったと思わなくもないけどさぁ……。あいつ、子供扱いしたらしたでキレるし、年相応の扱いをしてもキレるし……結局どう扱えばいいのかマジでよくわからん。宿の中と外とでも割とその辺変わってくるし、気まぐれなババアロリの気分を察して都度対応しろって不可能じゃない?
あ、あと、『そうだね、そうだね……うん、酷いよね……きっと反抗期だと思うの。照れてそうしているだけで、心の中ではすっごく大好きだって、私は知ってるから……』ってミニリカの背中をポンポン叩くロザリィちゃんが最高に可愛かったです。
日中は普通に宿の仕事。今日は珍しく大体の冒険者が仕事に出ていた。リア曰く、『おにーちゃんがいつ戻ってくるかわかんなかったから、みんなちょっと前までホントに全然仕事してなかったんだよね』とのこと。
これだけ聞けば泣かせる話だと思わなくもない。が、実際は『貯金なんてろくにせず、飲むだけ飲んでたまったツケが酷いことになってるってマデラさんが言ってた』ってリアが言っていた。あいつらの稼ぎだったら、一か月や二か月くらい何もしなくてもいいくらいの蓄えはあってもおかしくないのにね。これだから計画性のない連中は困る。
午後のちょっと早めの時間にて、四人組の新規客がやってきた。しかもなぜか俺を見るなり、『あっ……あの、覚えてます……?』なんて意味深な発言。生憎男の顔はあんまり覚えていなかったけれども、女の方の顔は覚えている。
『無事に中級上位で活躍されているみたいですね!』ってウィンクしたら、『おっ……その、ありがとうございます……!』って男の方がなんか照れていた。『まさか、覚えてくれているとは思わなくて……なんだろ、すげえ嬉しいや』、『やっぱり一流の宿屋は店員さんもすごいのね!』ってパーティで盛り上がっていたっけ。
『今年こそは一人一部屋でいいですよね?』ってにこやかに宿帳に記録しようとしたら、『ごめん待ってそれだけはやめてくれ』って財布を握っている方の男に必死に止められてしまった。稼ぎ自体は去年よりも増えたものの、まだまだここで贅沢の限りを尽くせるほどではないらしい。『今度昇格のかかった大事な依頼があって……その景気づけなんだ』ってリーダーの男が言っていた。
おねーさん二人が期待に満ちた眼差しでこちらを見ていたため、その後はサービスのおやつ作りに入る。ちょうどエッグ婦人もポンポン卵を産んでいるし、ちゃっぴぃの乳搾りもばっちり。そしてここは元々俺が修行した台所。設備的にも完璧。まさに無敵だったと言えよう。
で、シンプルにハゲプリンとクッキーを作っていたんだけど、なぜかロザリィちゃんもお手伝いしてくれた。ちゃっぴぃやリアはすでに机にスタンバイして出来上がる瞬間を今か今かと待ち構えていたというのに。
『別に深い意味はないけどねー?』ってロザリィちゃん。『ミニリカさんにも作ってあげるんだよ?』っておでこをこつんってしてくれて、秒速百億万回惚れなおした。
良い匂いが宿屋に満ちるころには、例の四人組も旅装を解いて食堂にいた。一応はこれからのことについての打ち合わせなんかをしている……という態ではあったけれど、おねーさん二人の方はぶっちゃけそわそわしていてそれどころじゃない。『おまえら……』って財布を握ってる男はあきれ顔で、リーダーは『まぁまぁ、景気づけのために来たんだから』って窘める。なかなかバランスが取れてるなって思った。
完成したところで、『従業員用のおやつなのですが、作りすぎてしまったのでいかがですか?』って宿屋モード(スタイル:エレガント)でクッキーとハゲプリンを持っていく。『やったぁ!』、『この一年間、ずっとこれを楽しみにしていたの!』っておねーさん二人はうっきうき。喜んでくれて何よりである。
……と思ったところで、『こちらの紅茶もサービスです♪』ってロザリィちゃん。なぜかぴとって俺の隣にくっついてにこにこ。今日も可愛い。素敵。最高。抱きしめたい。
『えっ……そういうことかぁ……!』、『ここの宿屋も安泰ですなぁ……!』っておねーさん二人はめっちゃにこにこしていたのを覚えている。なぜかロザリィちゃんとアイコンタクト(?)を取り合って、すごく打ち解けていたっけか。
リーダーと財布? 軽くこむら返りの呪をかけようとしたんだけど、その前に二人とも『い゛っ……!?』ってすげえ悶絶していたんだよね。おねーさんたちのサービスのクッキー、ちょっと増量しようと決めた瞬間だ。
そわそわしていたミニリカと、あと『おやつよこせ』ってどこからか匂いを嗅ぎつけてきたナターシャにも同様におやつを振舞った。しょうがないのでミニリカには特別にクリームとサクランボもつけてあげた。『~~っ!』ってあいつすんげえ嬉しそう。プリン一つで機嫌を直してくれて助かったっていう。
『おにーちゃん、私のは?』、『きゅ!』ってリアとちゃっぴぃに見られてしまったのだけは失敗だった。しかもあいつらまさかのお代わりでそれを所望するって言うね。『俺の時は泣いて騒いでねだってもおやつ自体がめったに食べられなかったんだぞ』って諫めれば、『昔は昔、今は今』って開き直られるし。いったい誰に似たのやら。
厚かましいと言えば、ルフ老とテッドも『プリンはいいから肴よろしく!』、『酒に合って女子にモテモテになるメニューでよろしく!』とかアホなことを言っていたっけ。しかもあろうことかサービスで作ってくれと来た。もちろんガン無視である。
夕餉のメニューはいつもよりちょっぴり豪勢。『また無事にお会いできてうれしいですわ!』ってマデラさんが優しいグランマの皮を被って接待したためである。おねーさん二人が『実はここのお料理が忘れられなくって……!』って話せば、『まぁ! 嬉しいこと言ってくれますね!』ってマデラさんはにっこり。
『毎回思うが、アレどこから声出てるんだろうな』ってヴァルのおっさんは言ってた。『ブチ切れた時とかはもっと低いドスの効いた声なのにな』ってアレクシスも言ってた。そして隣に座っていたアレットとチットゥはすたこらさっさと逃げだした。賢い判断である。
『おほほ……! この街はチンピラも多くて。あることないことフカすから困りますよねえ!』ってマデラさんは上品に笑う。撃沈したおっさんとアレクシスを見て、四人組は渇いた笑みを浮かべていたっけか。
そうそう、宴会の最後の方にいくらか酔いの回ったおねーさんより『去年みたいに、若旦那が歌ってくれたりしないの~?』ってリクエストがあった。宴会自体は終盤であったこともあり、そのリクエストに応えることに。
久方ぶりに俺の美声を披露。今回もやっぱりおひねりは結構もらえた。盛り上がってきたところで二曲目に入ろう……としたところで、『デュエットいきまーす♪』ってロザリィちゃんの乱入。わぁい。
いやはや、おひねりをもらうための作業があんなにも楽しいものになるとは。ロザリィちゃんってばホントにノリノリで歌いながら俺に抱き着いてきたり……まぁ、ダンスとかミュージカル風のパフォーマンスをめっちゃ入れてくるし。『若女将もやるねえ!』って声に対し、『まだ看板娘でーす♪』って答えるし。
しかもしかも、『この歌を聴けるのは一年間でこの時期だけだぞぉーっ! 学生の生歌が聞けるのは今この瞬間だけだぞぉーっ!』ってめっちゃ会場を盛り上げてくれるって言うね。『ふっひょぉぉぉぉ!』って金貨の袋を投げ入れたルフ老を筆頭に、いつも以上にたくさんのおひねりをもらえたっけ。
なお、その大半は【マデラさん銀行】により徴収されてしまった。悲しい。
だいたいこんなものだろうか。なんか思いのほか長くなってしまった気がする。それなのにロザリィちゃんの可愛さはあまり表現できていないような。自分の文才の無さが恨めしいぜ。
ちゃっぴぃは今日は俺のベッドに潜り込んでいる。こいつは宴会中、いろんなところを渡り歩いていろんなものを食わせてもらっていたっけ。いつもの常連の連中ならともかく、例の四人組からも色々ものを貰えていたあたり……何気にコイツ、甘える才能とでもいうそれが凄まじいのだろうか?
とりあえず、最後の片づけ中と寝る前の二回、トイレにはいかせておいたから大丈夫だと信じたい。あとマデラさんから『明日は休みでよろしい』って通達があった。どうせいつもの時間に起きちゃうだろうけど、ロザリィちゃんと存分にイチャ着けるのは嬉しいところ。グッナイ。




