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329日目 真実のラブレター

329日目


 寒くて目が覚めた。ゆたんぽがないとこれだから困る。


 いつもの時間に下へ降りる。珍しくアレットとアレクシスが早起きして飯を食っていた。今日はこれからちょっと遠出してくるらしい。娘をほったらかしにして冒険に出かけるなんて冒険者は本当にクズだ……と思ったところで、『いや、今はお前がいるから』ってアレクシスは開き直りやがった。アレットさえも『今年は去年よりちょっと帰ってくるの遅かったでしょう? リアったら、毎日ずっとそわそわしてたんだから!』って美談風にまとめて開き直っていた。とんでもない親もいたものである。


 そうそう、今日もまたアリア姐さんは魔性の花で、眠そうにぼーっと食堂の隅に立っているだけなのにルフ老をハァハァさせてしまっていた。『おっほ……眼福眼福……!』ってあのジジイ、アリア姐さんが全裸であるのをいいことにずっとガン見。『足の魅力に目覚めそうじゃあ……!』ってアホなことも言っていたっけ。


 とりあえず、エッグ婦人とヒナたちが盛大にお仕置きしてくれたため俺の出番はなかった。そしてアレクシスもアレットに蛇鞭で躾けられていた。


 『な、なにも言ってないだろ……!』ってアレクシスの弁明に対し、『言ってないだけで、思ってたでしょ?』ってアレットはにこにこガチ笑顔(目は笑っていない)。さすがにこいつぁ理不尽だと思わないことも無いことも無い。


 朝飯は早々に終わらせる。そしてロザリィちゃんもちゃっぴぃもリアも起きてこない。老害らしく早起きなミニリカも、普段から自堕落なナターシャも起きてこない。ありていに言って俺ってばちょう暇。


 そんなわけで宿屋の一員として、起きてこないナターシャを叩き起こしに突撃。マデラさんからも『まぁいいだろ』って許可をもらったから全くもって問題ない。


 相も変わらずナターシャの部屋はぐちゃぐちゃだった。ただ、今日は狭いベッドにぎゅうぎゅうになるようにしてロザリィちゃんがスヤスヤ寝ていてめっちゃ可愛かった。寝顔もあんなに可愛いとか、ロザリィちゃんはいったいどれだけ可愛くなれば気が済むんだ?


 一応書いておこう。ナターシャはやっぱり下着姿で寝ていて、そして寝相が悪く(?)リアに抱き着いていた。ナターシャ自身はとても心地よさそうだったけれども、万力の力で締め上げられたリアは色んな所がうっ血していてたいそう苦しそう。なんか震える手で必死にベッドをタップしていたっけ。


 色々諸々絡み合っていたので、まずはミニリカの肩を揺さぶって起こし、次にロザリィちゃんを優しく揺さぶって起こし、そして最後にナターシャからリアを取り外しにかかる。ヨダレ臭いのを我慢してあいつの鼻と口を手で塞いだら、『ほにょぉぁっ!?』って割とすぐに目覚めてくれた。


 『俺の手と言う尊い犠牲に感謝しろ』ってリアに言ったら、『私は絞め殺されるところだったもん……』って反論された。ナターシャからは『殺す気かバカ弟ぉ!』って盛大にケツを叩かれた。この世はあまりにも理不尽だと思った。


 やはりというか、昨晩みんなで俺の恥ずべき過去を読みあっていたらしい。『ナターシャ宛てのは、また別の意味で情熱的だったよね……!』ってリアがこっちをみてすんげえ煽ってくるし、ミニリカも『「僕が愛するのは世界であなたただ一人」……なーんて言葉をこっちでも使ってるとはのう。いやはや、ショックで水も喉を通らんわぁ……!』って煽ってきた。ナターシャも『昔のあんたはまだちょっとは素直でかわいかったのに……』ってわざとらしいため息ついて、ニヤニヤこっちを煽ってくるって言うね。


 ロザリィちゃんに至っては、『私も言われたことのない愛の言葉がいっぱいだったんですけど?』って俺に抱き着いて首筋に噛みついてきて……あれっ、これ最高じゃね?


 割とどうでもいいけど、唯一それに参加してなかったちゃっぴぃ(そもそもあいつ字が読めないし)は、『きゅーっ!』ってそこらへんに脱ぎ捨てられていたナターシャのブラジャーを盛大に振り回して遊んでいた。そらもう風を切る音が出るレベルの勢いでなんとも豪快。あいつのブラジャーそのものが派手かつデカいこともあって、なかなかの迫力だったと言えよう。


 『おうコラ』ってナターシャはちゃっぴぃからそれを取り上げていた。『散らかすほうが悪いだろ』ってすかさずフォロー。『……こっそり持ち帰ってた奴が偉そうに言うな』って言われたとき、マジでぶん殴ってやろうかと思ったよね。


 『わかっているとは思うけど、こいつの悪ふざけだからね』ってロザリィちゃんに弁明。『……わかってるって!』ってすごい優しい顔で肩をポンポン叩かれた。……だいじょうぶ、だよな?


 その後は普通にみんなで下に戻った。で、今日は何して過ごそうか、このままデートにでも誘ってしまおうかとロザリィちゃんに話しかけよう……としたところで、『……ん!』ってロザリィちゃんが紙とペンを俺に渡してきた。


 しかもその紙、だいぶ可愛らしい感じの便箋だった。つまりまぁそういうことである。


 『だってぇ……私、──くんから貰ってないもん……』ってロザリィちゃんは拗ねていた。そんなところも本当に可愛い。思わずぎゅっと抱きしめちゃったよね。


 ともあれ、ここらでいっちょ俺の「本気」をお披露目しようと思った次第。ピュアな頃よりはるかに成長した俺なら、真実のラブレターをロザリィちゃんに送ることだってできる。というかむしろ、なんで今まで一通も送ってなかったのかと自分のことをぶん殴りそうになった。


 ただ、なぜかロザリィちゃん、俺が手紙を書くところをずっと横からにこにこして眺めてるのね。俺が一文書くたびに『ほほぉ……! それは熱いね……!』とか、『おやおやおやぁ……! い、いきなりそんな盛り上げちゃう……!?』とか、隣で小さく盛り上がっていたり。それはそれは嬉しそうだったっけ。


 『キミ宛ての手紙なのに、書いているところを見ちゃっていいの?』って聞いてみる。『完成したそれが欲しいのはもちろんだけど、今この瞬間、──くんが私のためだけにお手紙を書いてくれているのが堪らなくうれしいの!』ってロザリィちゃんはにっこり。俺もう一生ロザリィちゃんについていこうって思った。


 最終的に出来あがったそれはしっかりロザリィちゃんに渡させていただいた。ロザリィちゃんの希望により、「直接渡す勇気はないけど、それでもこの気持ちだけは伝えたいシチュエーション」ということで、ちゃっぴぃに伝書夢魔役をやってもらうことに。俺の部屋からスタートして、食堂にいるロザリィちゃんに届けるだけの簡単なお仕事。それだけでお駄賃としてクッキーを貰えるってんだから、子供って得な生き物だ。


 しばらく待ってから食堂に行ってみれば、ほっぺを真っ赤っかにしたロザリィちゃんが、すごく嬉しそうに俺のラブレターを胸に抱いている姿を目撃してしまった。本当にすごく幸せそうで、ああ、この娘今マジで本気の素敵な恋愛してるんだなって……一切の冗談でも何でもなく、思わずそう思ってしまったくらいの素敵な笑顔だった。


 『……どうだった?』って聞いてみる。にこーっと笑ったロザリィちゃんがそのままキスしてきた。『言葉じゃ表現できそうにないから、これで……ね?』とのこと。


 俺が今までロザリィちゃんにラブレターを書いていなかったのは、もしかしたらそれ以上のことをすでに行っていたからかもしれない。くちびるとくちびるが触れ合うだけで、どうしてあんなにも心と心で通じ合えるのか。世の中には不思議で素敵なことが多いらしい。


 そのまま余韻に浸っていた……のに、気づけばくいくいと服の裾を引っ張られていた。『私にも書いて!』ってリアが便箋を持っていて、『ひ、久しぶりに私も欲しい……のう?』ってミニリカが年甲斐もなくほんのり赤くなってもじもじ。挙句の果てにナターシャまでもが『二通も三通も変わらないでしょ。暇つぶしに書け』って便箋を渡してきやがった。どういうことなの。


 一応リアには理由を聞いてみる。『私だけ貰ってないのは不公平だし、ちょっと参考にもしておきたいし……あと、書かせてもらえるってすごい光栄なことでしょ?』とのこと。


 『そういう態度を取っているといつかここのクズ共みたいになるぞ』ってガチに窘めたら、『ごめんなさい、ホントはちょっと憧れててぇ……! おにーちゃんくらいしか、当てが無くてぇ……!』って割と素直に泣きついてきた。まぁ、そもそもリアと同年代自体がこの辺全然いないしね。


 ともあれ、リアにはリクエスト通り割と無難な感じのラブレターを書いてやった。『いつか誰かに自慢するんだ!』とのこと。『面倒だから、アレクシスだけには見せるなよ』って言っておく。誰が見ても冗談でしかない内容(例:キミの妖艶で豊満な姿が目に焼き付いて忘れられない、など)だけど、あいつ冗談が通じないヤバいやつだからね。


 ミニリカにも割と普通に「いつもお仕事お疲れ様です。これからも元気に頑張ってください」的なノリで仕上げたものを渡した。老い先短いババアロリなのだ、それくらいのリクエストくらいなら応えてやらないことも無い。


 『ラブレターと言うよりかは感謝の手紙のようじゃが……ふふ、これはこれで、の?』って意外にもあいつは嬉しそう。大事そうに何度も読み直して、なんか涙ぐんだりも、『ほんのりと愛の言葉を「わからせる」文章になっているのが粋じゃの!』って目の端をこすりながら笑っていた。あのババアロリ、なんか重くてちょっと怖い。


 ナターシャには便箋に俺秘蔵の【簡単☆ゴブリンでもできる時短でボリュームたっぷりスタミナレシピ!】を書いて送る。こいつもそろそろ料理の一つくらいはできるようになってほしいと願った故である。『……縦読みで「あいしてる」って、ひねくれすぎでしょ』ってなぜか頭を優しくなでられた。無茶苦茶なこじつけをしてくるからアバズレは怖い。


 なんだかんだでこんなもん。最後になるけど、ちゃっぴぃがすんげえキラキラした顔で自分の番を待っていたのだけは失敗だった。ナターシャが終わった後、俺の方をじっと見て手をパッと開いていて……俺の手元に何もないことに気づくと、「えっ、私だけ仲間外れなの……?」みたいなすんげえ悲しそうな顔して泣きそうになるし。


 おかげであいつの機嫌を直すのが大変だった。読めもしないラブレターを十通くらい書かされたし、その後もずっと甘やかす羽目になったっていう。しかもなんでかあいつ、適当に文章を書くと『ふーッ!』って猛烈に抗議してくるし。……実は読めてたりとか、しないよな?


 夕飯食って風呂入って雑談して今にいたる。なんか思い出したらドッと疲れが出てきた。今日はもう何も考えずに寝てしまおう……欲を言えば、俺もロザリィちゃんからのラブレターが欲しかった。明日おねだりしてもいいだろうか? グッナイ。

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[良い点] 可愛いがいっぱい 書き手もみんなが大好きで、みんなも書き手が大好きな本当に幸せな空間だと思う 絶対書き手はなんだかんだ言いながら宿屋組とかちゃっぴぃにラブレター書く時の口元は笑みの形だった…
[一言] 書き手が面倒臭いのはいつもの通り ロザリィちゃんも大概な気がするけどね……これくらいならまだマシと思えてしまうのが……
[一言] 書き手の彼が素直になる日は来るのだろうか…… 当然のようにロザリィちゃんがラブレターを用意しているに1票
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