325日目 ぶんむくれリア
昨日の告知通り、今日は2回投稿しています。読んでない方は一つ前からどうぞ。
325日目
いつも通り日記を書いていくことにする。やっぱ朝の一文がないのってちょっと不思議な気分だ。
起床は大体(宿屋での)いつも通り。休んでいていいのに普通に起きてしまう自分が恨めしい。悔しいので二度寝してやったけど、どうにもこうにも目が冴えてしまって寝付けず。無駄にちゃっぴぃを抱き枕するだけで終わってしまった。ちくしょう。
で、学校でのいつもの時間にちゃっぴいを肩車して下へと降りる。昨日結構騒いでいたからか、冒険者連中は老害らしく早起きなミニリカとルフ老しかいない。いや、これについては割といつも通りのことか。
『なんじゃもう、すーっかり男前になってのう……!』ってなんかミニリカがにこにこ笑いながら俺の隣に。『ちーっと見ない間にずいぶんと顔つきが変わりおって……!』って妙に上機嫌でベタベタ。察するにこのババアロリ、話し相手が欲しくてたまらなかったのだろう。老人はこれだから困る。
ルフ老は朝の日光浴をしているアリア姐さんを見てハァハァしていた。とりあえず盛大にケツを蹴っ飛ばしておいた。
『朝飯はそこだ』ってマデラさんに言われたので朝餉を頂く。久方ぶりだからか殊更に美味しく感じた。なんかすごくホッとする味。俺もそれなりに料理の腕前を上げたと思ったけど、高みに近づけば近づくほどその実力差に絶望しそうになるのはなぜだろうか。
あ、寝ぼけ眼だったちゃっぴぃも、マデラさんのスープを一口食わせた途端に『きゅーっ♪』って覚醒して『あーん♪』の構えをしてきた。こいつもなかなか現金だと思う。
朝食の後はマデラさんに日記を渡す。ちょうどロザリィちゃんもまだ起きていないし、チャンスはここしかないと思った次第。『思った以上に書いたね……』ってマデラさんはペラペラってそれをめくって呟いた。『こいつはちょっと本腰を入れないとね』とも。
自分で言うのもなんだけど、あのマデラさんにそこまで言わせるほどの文章量だとは。ミニリカの蔵書換算で十二、三冊分くらいあるんじゃね? この日記帳一冊分の厚さしかないはずなんだけどな。
『あっ! 私にも見せろぉ!』ってババアロリが駄々をこねてきて大変だった。『わっ、私だって読む権利はあるじゃろ!?』って当然のごとく言い切るあたり、老害と言うのは厚かましいと思う。
俺は小さい頃、ミニリカに恥ずかしいアレコレを宴会の席で言いふらされたのを絶対に忘れない。しかもあの野郎、何年経っても昨日のことのように話すし。老害は昔のことばかり覚えているから困る。
その後は普通に自由を謳歌する……つもりだったんだけど、起床してきたロザリィちゃんになぜかリアがひっついている。ひっついているばかりか、すんげえぶんむくれている。『ロザリィちゃんはお前のじゃないぞ』って声をかけても、『ふーん……』ってそっぽを向くばかり。
そのくせ、ちゃっぴぃとはぎゅ! って抱き合うっていうね。『去年よりも大きくなってる……ッ!!』ってあいつは女の子がしちゃいけない顔で歯をギリギリさせていたよ。
とりあえずロザリィちゃんに事のあらましを聞いてみる。『んーっとねぇ……今日の朝方、ベッドに潜り込んできて? 可愛かったのでそのまま抱き枕にしちゃいましたっ!』とのこと。かわいい。
その後もおやつとかで諸々ご機嫌を取りつつリアの話を聞いてみる。『…………学校終わったのに、すぐ戻ってきてくれなかったじゃん』ってリアはふくれっ面。確かに今年は例年に比べて戻るのが遅れたような気がしなくもない。
というか、今読み返してみて思ったんだけど、去年よりも授業が終わるのが一週間ほど遅れてる……アレか、いつぞやの邪竜討伐の遠征のせいでズレこんだのか。俺たちその辺何のお知らせも受けてないんだけど。そういうのって学生部が通達することじゃないの? あの学校マジでその辺ザルだよね。
あとは普通に、ロザリィちゃんの実家にお呼ばれされていたので、その辺のことをガキにもわかりやすいように丁寧に伝える。『ふーん……私よりもおねーちゃんのほうがいいんだぁ……そっかぁ、そうなんだぁ……?』ってあいつは恨めしそうな顔をして、そして俺に対するあてつけかのようにしてロザリィちゃんに抱き着いた。
良いも悪いも、そんなのロザリィちゃんを取るに決まっているというのに。このガキはいったい何を言っているのだろうか。
『大好きなおにーちゃんがすぐに帰ってきてくれなくて、寂しかったんだよねー?』ってロザリィちゃんがリアの頭をなでる。『そんなことないもんっ! おにーちゃんの方が私に会えなくて寂しがってるんだもんっ!』ってあいつは真っ赤になって弁明していた。
しょうがないのでぎゅ! ってして背中をポンポン叩いてやる。素直じゃないガキはこれだから困るのだ。
あと、ロザリィちゃんに『ほほぉ……お兄ちゃんしていますなぁ……!』ってからかわれた(?)ので、一緒にまとめてぎゅ! ってさせていただいた。『やーん♪』って身を捩らせるロザリィちゃんがとてもとてもかわいかったです。
なんだかんだでそんな感じ。割と一日中おしゃべりしたりぼーっとしたり、あるいはヒナたちを連れて散歩に出かけたり……まぁ、適当に過ごしていたっけ。
夕飯は冒険者度とも一緒のテーブルで取る。リアのご機嫌を取るために隣で色々諸々貢いでやった。ちゃっぴぃと交互に肉を『あーん♪』させていたら、いつの間にかご機嫌が直っていてラッキー。ガキは扱いやすくて楽だ。
その後は風呂。ヴァルのおっさんとルフ老に『使い魔と一緒に入るのが普通だろう?』、『むしろお主はいいからあの子の方をこっちの風呂に……!』って熱望された。ヴァルのおっさんはナターシャにぶちのめされ、ルフ老はマデラさんにケツビンタされていたことをここに記す。
風呂上がり後にて、マデラさんから『ほら、これ』って日記を返された。ロザリィちゃんもお風呂中と言う絶好のタイミングには感謝を隠せない。と言うかそれ以上に、去年よりも明らかに文章量が多いのにもう確認し終わるとは、さすがはマデラさんである。
が、これがまた問題でもあった。『去年と同じように、最後に総評を書いてあるから』って言葉通りにそれを読み進めれば、マデラさんがすんげえブチ切れしている。どういうことなの。
生きた心地がまるでしない。俺セクハラなんてした覚えが無いのに。果たしてマデラさんは本当にしっかり俺の日記を読んだのだろうか? 間違えて俺以外の人のそれを俺がやったことだと思ったりしてない?
去年でさえ、あれだけクソ痛い思いをしたのだ。しかもそれでさえ、マデラさんの中では「容赦していた」部類に入るというのだ。いったいどれだけ恐ろしいことが明日行われるというのか。
寝よう。明日に備えて少しでも英気を養っておかなくては。
明日の日記を果たして無事に書くことが出来るのか。俺のケツは果たして無事でいられるのか。今日が最後の日記にならないことを強く願う。おやすみ。




