324日目 出発と帰郷
324日目
いつもの時間に起床。今日も今日とて朝餉の支度をさせて頂こう……と準備をしていたところで、『おはよっ!』って笑顔の素敵なロザリィちゃんが参戦。さらにシルフィアさんまでもが『今日も頑張りましょうか!』ってエプロンを装備。まさか朝から三人で朝食を作ることになろうとは。
ちなみにシルフィアさん、『娘と一緒にご飯を作るのが夢ではあったけれど……こんな形で叶うことになるとは思わなかった』って言ってた。最近はもう、俺がシルフィアさんと一緒にご飯の支度をすることが多いから、なんかそれでもういいやって気にならないことも無かったらしい。『──くん、良いお嫁さんになれるよね』っていう評価(?)もいただけた。わぁい。
なお、起床してきたリゼルスさんは『夢のような光景だな……!』って感激。愛する妻と娘、さらにはその恋人までもが一緒にご飯の支度をしてくれているというのだ、嬉しくないはずがない。
『パパもママも、大袈裟過ぎーっ!』ってロザリィちゃんは終始ぷんぷんしていた……けれども、あの二人があそこまで感激するってことはマジで家事はほとんどやっていなかったのだろう。つまりそれだけ俺がロザリィちゃんのために尽くせるということでもある。最高かよ。
残念ながら、やっぱり今日もスープの味を再現することは叶わず。『似てはいる……似てはいるんだけど……やっぱりなんか違う』とのコメントを頂いた。ここまでくるともう、単純な腕前とかそういうレベルの話ではなくなってるくのかもしれない。
『でも、スープは私が作れるから大丈夫だよ! いつでも好きな時に言って!』ってロザリィちゃんがほっぺにキスしてくれて最高に幸せ。『それはこれから一生、どんな時でもって意味かな?』って聞いてみれば、『……もう、ばか』って真っ赤になってさらにキスしてくれた。わぁい。
失敗したことが一つ。『……改めて思ったけど、──くんを認めたこと自体は間違いないが、しかしそれはそれとして娘が目の前でイチャつくのを見るのは結構堪えるな……!』ってリゼルスさんをしょんぼりさせてしまった。『やーねぇ、あなただって私のパパに同じこと言われたでしょう?』ってシルフィアさんがリゼルスさんの背中を叩き、「とりあえずイチャつかれるのは困るわよね」……とでも言わんばかりにアリア姐さんがリゼルスさんの背中を叩いていたっけ。
なお、ちゃっぴぃとヒナたちは普通にガツガツ飯を食ってた。あいつら本当にブレないと思う。
さて、今日は出発の日。ロザリィちゃんからしてみれば、また一年間家族と離れ離れになってしまう日でもある。『寂しいならいくらでも滞在期間を延ばしても平気だけど……』って話を振ってみれば、『寂しいけど、でも──くんのお家にもいきたいもんっ!』って言われた。
ただまぁ、そこではいそうですかとうなずく俺ではない。『出発は夕方前くらいにしよう。それまで家族水入らずで過ごしたほうがいいんじゃないかな?』ってロザリィちゃんの肩をぽんぽん。『……うんっ!』ってロザリィちゃんはたいそう笑顔であった。かわいい。
そんなわけでちゃっぴぃ、ヒナたち、エッグ婦人、アリア姐さんを連れて外にお散歩。空気の読める俺ってマジすごい。いくらなんでも、最後くらいは家族だけで過ごすべきだろう。家族だけでしか話せない……俺の前では話せないことだっていろいろあるはずだしね。
適当に散歩していたところ、仕事中であったロザリィちゃんの顔なじみ連中と遭遇。男たちの方は『あっ……』ってなんか気まずそう。女の子たちの方は『やだぁ、ロザリィの旦那じゃん!』ってたいそう気が早い感じ。まだ結婚してないっていう。
ちょうどいいってことで雑談。『そっか……もう学校に戻っちゃうのか……』って女の子も男の方も寂しそう。『ちょっと前まではあたしたちと一緒に遊んで、一緒に泥だらけになって怒られてたのにさあ……すーっかり都会に染まっちゃってぇ……』って微妙に涙ぐんでいたりも。別にあの学校の周辺、都会ってわけじゃないんだけどね。
『俺が言うのもなんだけど、ロザリィのこと頼むよ。あと、この前は……悪かった』って男連中には頭を下げられた。『何のことかはわからないけど、任せてください』って華麗に返しておく。『あの子、昔っから「運命の人が絶対いるもん!」って言って聞かなかったからねー。それなのに未練たらしく諦めきれなかったこいつらの方が悪いんだよ』って女の子の方はケラケラ笑っていた。
その後は普通に和やかに……ロザリィちゃんの子供時代のことをちょいちょい聞かせていただいた。お話している間暇だったのであろうちゃっぴぃとヒナたちは、男連中によじ登ったりして遊んでいた。いつのまにかおやつ(?)まで貰っていたけれども、あいつホントに外面が良いというか、得する性格をしているというか……。
ぼちぼち話したところで切り上げる。『もし何かの用事で僕の宿に来ることがあったら、その時はお友達価格でサービスしておきますよ』って言っておいた。『そこは友達価格でタダにしてほしいところだな』って冗談を言える程度にはみんなと友好度を稼げたと思う。
あと、女の子からは『友達でフリーなのがいたらマジで紹介して! なんか絶対生来安泰になりそうだもん!』ってめっちゃ熱烈なコールを頂いた。『ロザリィちゃんと同じ程度の実力を持つ女の子にカチコミされても大丈夫だというなら、喜んで』と返しておく。途端に女の子たちの顔が青くなったのはなんでだろうね?
お昼ちょっとすぎくらいにロザリィちゃんの家に戻る。なんか普通にご馳走がいっぱい。『ママの料理は食べ納めだろうから、いーっぱい食べてね! ……もちろん、──くんもね!』ってシルフィアさんはにっこり。親心として、やっぱり最後は自分の手料理を娘にいっぱい食べてもらいたかったのだろう。
意外なことにリゼルスさんも、『まだ昼間だが……一杯だけ、お酒を飲んでしまおうか』ってワインの栓を開けていた。微妙に涙ぐんでいたのを俺は見逃さない。『パパってば、去年もあなたが──くんの家に行った後泣いてたんだよ!』ってシルフィアさんがケラケラ笑いながらロザリィちゃんにバラしていた。
『……キミだって、夜にベッドでぐすぐす泣いていたじゃないか』ってリゼルスさんが反撃。『わぁぁぁーっ!?』ってシルフィアさんは真っ赤になってリゼルスさんの口を塞ぐ。『もう、恥ずかしいからやめてよねっ!』ってロザリィちゃんはもっと真っ赤になっていた。
その後、ちょっとゆっくりしてからいよいよ出発の時間に。幸いにして旅支度はもともとできているようなもの。ロザリィちゃんの手にはいつぞやの招待状があって、あとはそれを使えばいつでもマデラさんの宿まで行ける状態に。
『……元気でね!』ってシルフィアさんはロザリィちゃんをぎゅーっ! って抱きしめた。ロザリィちゃんもまた、無言でシルフィアさんのことを抱きしめた。リゼルスさんはそんな二人をさらにまとめて抱きしめて、ロザリィちゃんの背中をぽんぽん叩いていた。
油断していたら、『──くんもだぞ!』ってシルフィアさんに抱きしめられた。『ちょっとママぁッ!!』ってロザリィちゃんがびっくりしていたけれども、『なぁに? しばらく会えなくなる息子を抱きしめることの何が問題なの?』ってシルフィアさんは悪戯っぽく笑う。『……ま、そういうわけだ』ってリゼルスさんも苦笑しながら俺のことを軽くハグしてくれたっけ。
『もういいもんっ! 早くいこっ!』ってロザリィちゃんが俺の腕をとる。『あっちのお家ではくれぐれも粗相しないようにねー!』ってシルフィアさんはケラケラ笑っていた。『普通に宿屋のお手伝いさせちゃっていいから! むしろそうしてほしいから! そうでもないとこの子、学校始まるまでずっとぐうたらしているんだもの!』って言ってたけれども……。
お昼の時のリゼルスさんと同じように、シルフィアさんもやっぱり涙ぐんでいた。たぶん、ロザリィちゃん気づいてなかったな。
そしてロザリィちゃんが招待状を使った。なんか光の魔法陣的なのが俺たちの足元にぶわっと広がって、特有の魔力酔いみたいな気配が。
最後の瞬間。
『──くん。娘をどうか、頼む』、『ママからも……ロザリィのこと、よろしくお願いします』って、二人が頭を下げているのを、俺たちは見た。
気づけば俺たちはマデラさんの宿の前にいた。『え……最後の、見た?』ってロザリィちゃんがぽかんとしていたので、『本当に、心の底から素敵なご両親じゃないか』って肩を抱いてみる。『……そんなことじゃ、ごまかされないんだから』って口では言いながらも、ロザリィちゃんはめっちゃ嬉しそうだったっけ。
そして忙しい時間だというのに、マデラさんが普通に出迎えに来てくれた。『……おかえり』って、問答無用で抱きしめられた。相も変わらずのふくよかボディ……いいか、安心感があったのはちゃっぴぃが思わず抱き着きたくなるようなふくよかふわふわボディだったからだというだけで、別に俺が甘えたい気分だったからとか、そういう理由じゃない。
とりあえず流れで抱きしめ返すも、やっぱり腕は回りきらず。『こら、そこはちゃんと最後まで回りきるだろうが?』っておもっくそ引っ張られてマジ痛い。ロザリィちゃんも『──くんってば、ひどーい!』ってケラケラ笑ってるしさぁ……。
ただ、悲しいことにロザリィちゃんもこの餌食に。最初は普通に『ただいま、マデラさん!』、『ああ、おかえり!』って二人はぎゅ! って抱きしめあってたんだけど、おもむろにマデラさんがロザリィちゃんの両腕をガシッと掴んだのね。『……えっ?』ってロザリィちゃんがマジでびっくりしてたよ。
『あんたも、腕は回りきるだろう?』ってマデラさんがにこって笑ってロザリィちゃんの腕を引っ張ってた。『いたたたた!?』ってロザリィちゃんは涙目……だったけど、実際はマデラさんはそんなに力を入れていなかった。あれはきっと、マデラさんの悪癖にロザリィちゃんがわざわざ付き合ってあげたって所だろう。そんなところもマジプリティ。
なんやかんやしている間には『おう、おかえり!』、『よく戻ってきたのう!』ってテッドとミニリカが。『ちょっとはマシなツラになったな』、『はよこい。今日の夕餉は豪華だぞ』ってヴァルのおっさんとナターシャが。
ミニリカはぴょんぴょん飛んで俺に抱き着いてきた。ババアロリに抱き着かれて喜ぶ趣味はないし、いい加減歳を考えろって思ったけど、優しい俺は老い先短いババアロリのためにされるがままにされておいた。
テッドが普通に子供扱いしてきたのはいただけない……けど、トランクをもってくれたから許すとしよう。何気にあいつ、なんであんなヒナたちに懐かれていたんだ?
ヴァルのおっさんはさっそくアリア姐さんにモーションをかけていた。あいつはもうどうしようもないクズだと思う。アリア姐さんに思いっきりサバ折りされてたけどな!
そしてナターシャは相変わらず。『あっちの家で迷惑かけてなかっただろうなぁ?』ってガシッと肩を組んできた。ただでさえ暑苦しくて邪魔くさいものがあるというのに、すでに酒臭いという……あんなに酒臭い息を吹き付けられるこっちの身になってほしいものである。
ともあれ、旅装を解いて夕餉の時間に。今日も今日とて冒険者のクズ共は盛大に宴会。アレクシスもアレットも、チットゥもルフ老も盛大に飲み食いして騒ぎまくっている。『おかえり!』、『土産話はあるわよね!』ってテンションがヤバい。
なにより、『実家に連れてったってマジ!?』、『ねえ、ちょっとその辺詳しく……!』って連中はロザリィちゃんに絡みだす。『どうなの!? やっぱ将来ここで働くことになるの!?』、『それとも向こうに家を構えるとか?』、『いやいや、案外二人で新しい巣立ちを……!』……なんて、酔っぱらったクズ共は頭に思いついたことをポンポン口に出すものだから、ロザリィちゃんの方が困ってしまっていたっけ。
ただまぁ、準備も後片付けもしなくていい宴会ってのは最高だ。マデラさんも、『しばらくは休んでいい。とりあえず今日は何も考えずに好きなだけ食べな!』って言ってくれたし。ロザリィちゃんも、『おいしーっ♪』って嬉しそうに色々食べてくれていたしね。
不思議なことが一つだけ。『悪いけど、酒だけは飲むな』ってマデラさんに厳命されてしまった。『飲める歳だってのはわかってるけど……なに、ちょっとこっちにも都合ってものがあるから』とのこと。マデラさんが言うならそうなんだろう。
だいたいこんなものだろうか。宴会の後は普通に風呂入って今に至る。ロザリィちゃんは去年と同じ客室の一つを貸し切り。『おやすみ!』って寝る前におやすみなさいのキスをしてくれた……その感触が未だに残っている。
ロザリィちゃんの家で寝泊まりするってのもドキドキしたけど、あのロザリィちゃんがこの宿屋で寝泊まりしてるってのはもっとドキドキする。この何とも言えないこの感じ、どう表現するべきだろうか?
ホントは宴会中のこととかもっといっぱい書きたいんだけど、いい加減気力がなくなってきたと言うか……だいぶ眠くなってきた。やっぱ自分の部屋だと安心してしまうのだろか。それとも単純に、なんだかんだでロザリィちゃんの実家では俺も相応に気を張っていたということだろうか。
今更ながら、至らぬ点があったのではないかと……もっと家事とかいろいろやっておくべきだったのではないかと不安で堪らない。果たしてアレで、俺がロザリィちゃんに相応しい人物だと認めてもらえたのだろうか?
家事はあまりしてないし、金を稼ぐところも見せていない。害獣駆除こそしたけれど、普通じゃない害獣駆除とか仕入れ交渉なんかは見せられなかった。次があればその辺もしっかり見てもらって、俺がロザリィちゃんに相応しい人物であるということをアピールしなくては。
ちゃっぴぃは俺のベッドでスヤスヤ眠っている。あの野郎、帰ってきた瞬間にトランクを漁り、ウサギのぬいぐるみ、クマのぬいぐるみ、そして俺のこの部屋からかっぱらった夢魔のぬいぐるみを俺のベッドにセットして自らの寝床を整えやがった。肝の据わり方だけは超一流である。
さっと読み返したけれども、なんか宿に帰ってきてからが適当なような気がする。まぁ、これからしばらくはここでの生活となるし、これくらいでも構わないか。
この二年目の日記もだいぶ長くなった。確か去年は、これが最後だってことで恥ずかしい感じで締めたんだっけ? 明日マデラさんに日記を提出するのは間違いないけど、今年は別に普通に終わらせる感じでいいか。
どうせ俺はもう、日記を書かないとまともに眠れない体になってしまっている。や、学校での二年時の集大成と言う意味では、区切りとして間違いないんだけどさ。
まぁいい。いい加減夜も遅いし寝るとしよう。イビキに邪魔されず、自分のベッドで眠れる……最高の睡眠が俺を待っている。これでロザリィちゃんとステラ先生が隣で一緒に寝てくれたら最高なのに……なんてな!
明日は変則的に17:00と20:00で2回投稿します。




