316日目 家庭の味
316日目
ヒナたちが俺の懐に潜り込んでいた。あいつらあったかければどこでもいいのか?
なんだかんだでいつもと同じ時間に起床。ただ、ロザリィちゃんたちが起きた気配はしない。勝手に部屋から出てリビングで寛ぐのもアレだし、かといって一人で外に散歩しに行くわけにもいかない。とりあえず入念に寝ぐせとかがないか身支度しまくった。
で、ピーピーうるさいヒナたちの餌やりと、アリア姐さんの朝の日光浴&水浴びだけさせていただく。「なーんかちょっと、私も緊張しちゃうわあ……」とでも言わんばかりにアリア姐さんもぎこちない(?)感じ。単純に、初めて来る場所に落ち着かないのだろう。
いい加減ちょっとマジに心配になってきた頃合いになってロザリィちゃん一家の起床。『ご、ごめん……! 昨日、ついついおしゃべりが長引いちゃって……!』とのこと。楽しい時間が過ごせたのならそれで何よりである。
『よろしければ、僕が朝餉の支度をしましょうか?』ってシルフィアさんに聞いてみる。『だ、だめっ! せっかくロザリィが連れてきた子にそんな真似させられないもん……! ママの威厳がかすんじゃう……!』とのこと。別にそんなの気にしなくていいのにって思った。
ちゃっぴぃ? なんか普通にリゼルスさんの背中に引っ付いてスヤスヤ寝てたよ。『はは……ロザリィ達が小さい頃を思い出すな……』ってリゼルスさんもなんかしみじみしていた。考えるまでもなく、ロザリィちゃんも義姉さんも甘えん坊だったのだろう。
朝飯はシルフィアさんの手料理。オーソドックスにトーストとハムエッグ。『夕ご飯はとっても豪華にしてあげるから、朝はこれで勘弁してね!』とのこと。俺たちの到着がいつになるかはっきりわからなかったから、【到着の翌日の夕飯を豪華にする】と決めていたらしい。『本気出せばすごいんだから!』ってシルフィアさんは言っていた。
『……──くんの方がすごいと思うけどね?』って内緒でこっそりロザリィちゃんが耳打ちしてくれてちょう幸せ。ただ、そのうえで『……でも、楽しみにしておいてほしいのはホントかな?』とも言っていた。
ちゃっぴぃはリゼルスさんの膝の上でふんぞり返っていた。『きゅぅぅー……い……』って非常にリラックスした様子。あいつホント怖いもの知らずだなって思った。
朝飯の後は談笑タイム。昨日はあまり時間が取れなかったから、ここらで一つじっくり親睦を深めましょうっていうアレ。リゼルスさんは今日明日と仕事がお休みだからいくらでも時間が取れるらしい。『逆に言うと、娘が帰ってきているのに二日しか時間が取れなかったんだけどね』って残念そうに言っていた。
内容としては学校での俺やロザリィちゃんのことがほとんどだったと思う。リゼルスさんは『キミがいなければ留年していたくらいに、勉強面でお世話になったと手紙で聞いている』……って真面目な話をして、シルフィアさんは『そんなことよりデートは週に何回!? どんな所に行くの!?』ってノリノリ。
『二人が普段どんなふうに過ごしているのか、気になるなあ』っておめめをぱちぱちしたりも。ロザリィちゃんのアレ、シルフィアさんの癖が移った感じのアレだったっぽい。
和やかに話していたのは良いんだけど、なんかロザリィちゃんがだんだんと不機嫌に。目が吊り上がって、ほっぺが真ん丸になるのを隠そうともしない。『ママばっかり──くんと話すなんてぇ……! ──くんは私のだって、わかってる?』って猛抗議。『そんなところもかわいいっ!』ってシルフィアさんはロザリィちゃんをぎゅーっ! って抱きしめていた。
俺のことはロザリィちゃんのほうからいろいろ話してくれた。『すっごく勉強ができて、料理もお裁縫も何でもできて、それにとっても優しくてカッコいいの!』、『この前のカチコミでも大活躍だったんだから!』、『ルマルマの組長だし、ステラ先生からも頼りにされてるんだよ!』……などなど、ちょっと聞いていてこっちが焦るくらいに褒めまくってくれたっけ。
『……そうでもなければ、大事な使い魔を託されたりもしないか』ってリゼルスさんもなんか感心していた。単純に実家に連れ帰るのが物理的に無理なのと、連れ帰ると食われてしまうからだ……とはとても言えなかったよ。
そうそう、ちゃっぴぃを(いつのまにか)膝の上に抱いてぎゅっとしたシルフィアさんから、『それで、この子は娘でいいの? それとも孫? まさかの妹とか?』って質問も来た。『私たちの娘だけど、ママの娘でもいいんじゃない?』とはロザリィちゃん。当のちゃっぴぃは手土産(中身はガチっぽい感じのクッキーアソートだった)をガツガツ食ってたけどな!
結局、ほぼ一日中ずっとそんな感じで喋っていたっけ。だいたいはシルフィアさんとロザリィちゃんで盛り上がって、時折リゼルスさんが真面目な話を差し込んでいくって感じ。特にリゼルスさんはロザリィちゃんの普段の生活や勉強面でのことをかなり気にしているようで、『私はこの家でのロザリィしか知らないから、未だに学校でまじめに勉強しているところが想像できないんだよ……』って苦笑いしていた。『パパのいじわるーっ!』ってロザリィちゃんは猛抗議していたけどね。
夕飯はシルフィアさんの手料理。手伝おうかとも思ったけど『ここはママに任せて!』って手伝わせてくれなかった。あと、『息子はこんなにもいい子なのに、娘は一回も自分から手伝うって言ったことないのよね~?』ってロザリィちゃんを煽るのも忘れない。『ちょっとママぁッ!!』ってロザリィちゃんにしては珍しくマジで焦っていて、そんな姿も本当に可愛かった。
夕飯はマジで美味かった。まさに家庭料理の極みって感じ。『腕によりをかけちゃいましたっ!』ってシルフィアさんは自慢げ。『普段はここまで豪華にはしないんだぞぉ!』とも。
どれもこれも美味しかったけど、一番印象に残ったのがスープ。キャベツ、玉ねぎ、にんじん、ジャガイモ、ウィンナーが入ったどこにでもあるはずのコンソメスープ……のはずなのに、何か一味違う。上手く言葉で言い表せないけれど、何か……何か違う。
なんとなく、懐かしさを覚えるような、どこかホッとするような……マジであの気持ちをどう表現するべきか。そもそもアレが味や匂いによってもたらされたものなのかもわからない。とにかく、温かい気分になったことだけは間違いない。
で、その秘密を何とか探り当てるべくじっくり味わっていたところ、『……ね、美味しい?』ってロザリィちゃんが俺に優しく抱き着いてきて、俺の肩にそっと頭を乗せてきた。食事中、それもシルフィアさんとリゼルスさんの前で、何て大胆なんだろう……ってドキドキしていたら。
『……これが私のお家の、ママの味なの。……これ、──くんに食べさせたかったんだあ』って耳元で囁かれた。
もう、聞いた瞬間にマジで泣いたよね。ロザリィちゃん、去年俺が言ったことをきちんと覚えていてくれただなんて。俺自身、ロザリィちゃんに言われるまでそんなことすっかり忘れていたのに。
堪えようと思っても、涙がポロポロ流れて止まらなかった。『おかしいな……嬉しいはずなのに』ってカッコつけて言おうとしたのに、声がかすれてほとんど言葉にならなかった。俺ってば本当にどうしたんだろうか。
あれがおふくろの味……その家の母親の味ってやつか。そりゃあ、俺なんかがわかるわけがない。マデラさんのことは大好きだけれど、マデラさんじゃあれは絶対に無理だって……なんかもう、本能で理解したよね。
『……覚えた? たとえ──くんが記憶を失ったとしても、たとえ何かの拍子にお互いがお互いのことをわからなくなっちゃったとしても……この味を覚えていれば、もうそれだけで家族だから。こうやって一緒の食卓を囲んで、一緒にこのスープを飲んだこの瞬間から……これは──くんの家族の味にもなったんだから。……そこのとこ、ちゃあんと覚えていて、ね?』ってロザリィちゃんは優しく俺を抱きしめて、そっとほっぺにキスしてくれた。
……ふう、落ち着こう。なんか書いていてまた泣き出しそうになってしまった。もちろん、これは嬉しいほうの涙だ。やっぱり俺は、一生をかけてでも……いいや、この後未来永劫、たとえ死んだその先であってもロザリィちゃんを幸せにしなくては。
だいたいこんなもん。シルフィアさんとリゼルスさんにはちょっとカッコ悪いところを見せちゃったけど、二人ともいろいろ察して(?)特に何も言わずに普通に会話を再開してくれたから、その気遣いに乗じてその後は普通に和やかに過ごした。変に気を利かせた(?)ちゃっぴぃが俺の膝の上に乗ってきたくらいかな?
今日も俺の部屋にはエッグ婦人とヒナたちがいる。ロザリィちゃんは自室でちゃっぴぃと一緒。明日の予定は特に決まっていないけれど、せっかくだし一回くらいはロザリィちゃんのお部屋に遊びに行きたい所存。
そろそろ寝る。あ、朝飯の準備をさせていただく許可をシルフィアさんより頂いたので、明日はちゃんと支度すること。『ほほぉ……噂の実力、見せてもらうとしますかぁ……。このママをそう簡単に超えられると思うなよぉ?』って寝る前に肩をつんつんされて、そしてロザリィちゃんが『ちょっとママぁッ!!』ってぷりぷり怒っていたっけ。
じゃ、みすやお。
参考:一年目の日記 257日目 基礎魔法陣製図:立体魔法陣の立体分解組立図【3】




