312日目 馬車の旅
312日目
朝の便にて、ロザリィちゃんの実家方向行きの馬車に乗る。都合よく時間が合ったため、待ち時間はほぼなし。俺的には馬車を待つ時間もロザリィちゃんとおしゃべり出来て楽しいけれど、ちゃっぴぃやヒナたちが退屈しなかっただけよかったとしよう。
この馬車の御者、意外なことに去年俺を送ってくれただいぶ後退の進んだ影の薄いおっさんだった。影が薄いのに眩しいとはこれ如何に?
『なんとなく、去年と同じ頃にあの町であなたがやってこないか待っていたんですけどね』ってあのおっさんは言っていた。そして律儀にも、(あまり上等ではなかったけれど)クッションが三つほど追加されている。約束を守ったうえで顔見知り(?)だったなら、利用しないわけにはいかないじゃん?
んで、ロザリィちゃんと共に乗車。アリア姐さん……というかルマルマ壱號はこの馬車に並走する形で発車。常歩以上速歩未満のゆったりした速度だったから、ルマルマ壱號でも余裕で着いていけるレベル。『まさかヒナがソリを牽くとは……世界は広いんですね』ってあのおっさんは言っていたけれども、たぶんその気になれば馬より馬力あるんじゃね?
馬車はガタゴトと街道を走る。『け、結構揺れるね……?』ってロザリィちゃんが俺の腕にぎゅっと抱き着いてきてたいそう幸せ。すっげえ柔らかいのがめっちゃ揺れてるの。しかもしかも、ロザリィちゃんってば俺の肩に頭をこてんって乗っけてくるし。うっひょう。
おっさんも俺たちに気を使ったのか、特に話しかけたりしてこなかった。せいぜいが、ソリの縁に立ってヒナたちの指揮を執るエッグ婦人に『やあやあ、どうせならこっちの馬の指揮もとってみませんか?』って冗談言ってたくらい。あとは、アリア姐さんに『こんな綺麗な女性と旅ができるなんて、御者冥利に尽きますなぁ』ってお世辞を言ってたくらいか?
ちなみにちゃっぴぃは『きゅーっ!』って外を飛んでいた。何気にあいつ、ガチで飛ぶのは結構久しぶりなのではなかろうか。時折戻って俺たちの膝の上で甘えたり、アリア姐さんのお膝の上で甘えたり、あとは普通に馬にまたがったり……と、たいそう自由な感じであった。全く子供は気楽で羨ましいぜ。
その後もずーっとひたすら馬車はガタゴト。時折何度か休憩を挟んだくらいで特にイベントは無し。旅の道程も特に問題ないようで、『今のところは予定通りの進行です』ってあのおっさんは言っていた。
夕飯は例によって例のごとく簡単にシチューを作った。何気にあのおっさん、こういうこともあろうかと食器や食料を常備することにしたらしい。『自分で使ってもいいし、貴方みたいに料理が得意なお客さんがいれば、貸し出すことでご相伴にもあずかれますしね』とのこと。ちゃっかりしてんなって思った。
ロザリィちゃんが『おいしーっ♪』って嬉しそうにシチューを食べてくれてちょう幸せ。ありあわせの材料で設備も無いものだから、ぶっちゃけいつもの飲み会とかで出せるレベルじゃなかったんだけど、『愛情がたっぷり入ってるからね!』ってロザリィちゃんがぱっちりウィンク。秒速百億万回惚れなおした。
一応書いておく。ちゃっぴぃもヒナたちもエッグ婦人もシチューを結構な勢いでがっついていた。おっさんも『ああ、おいしい!』って美味そうに食っていた。普段はクソ不味い携帯食料ばかり食べているらしい。あまりにも哀れだと思ったので、そっとお代わりを渡しておいた。
この日記は馬車の中で書いている。周囲には簡単に結界を張らせてもらったから、よほどヤバい魔物が出ない限りは大丈夫だろう。この馬車自体にも魔物避けの工夫がしてあるらしい……ちゃっぴぃもアリア姐さんも普通にしているんだけど、効果あるのかコレ?
まぁいい。一日中座りっぱなしで体がガタガタだ。ヒナたちは俺の腹をベッドにしているし、ちゃっぴぃは俺のことをデカいクッションか何かとしか思っていない。
そして、俺のすぐ隣にロザリィちゃんがいる。ロザリィちゃんの可愛い寝顔がすぐ横にある。ドキドキして眠れそうにないし、なんか若干文章がおかしい気もするけれど、この胸の高鳴りをどう抑えればいいというのか。
ちょっと手を伸ばせばロザリィちゃんのほっぺに触れそう。ガキどもにのしかかられてろくに身動きができないとはいえ……逆にそれが良かったかもしれない。なんとかして理性を保たなければ。
『は、恥ずかしいから、あんまり見ないよーにっ!』って寝る前にロザリィちゃんは言っていた。その割には、『……──くんの寝顔、見たいんですけど?』ってロザリィちゃんはじっと俺を見ていた。結局ずっと見つめあって、先に寝ちゃったのはロザリィちゃんの方なんだけどね。
俺もそろそろ寝る。やっぱこの状態じゃ日記は書きにくい。明日も晴れますように。




