304日目 魔法流学:後期期末テスト
304日目
鉄くずが金の欠片になっている。錬金術はここにあった。
ギルを起こして食堂へ。今日はテストの日だからか、やはりミルクの消費量がいつもと比べて明らかに少ない。コーンフレークを食べている奴もいなければ、ホットミルクを飲んでいる奴もいない。テスト中の腹痛を恐れるがあまり、みんなが腰が引けてしまっている。
そんな現状に警鐘を鳴らすべく、今日はコーンフレークとホットミルク、そしてあえての冷たい牛乳をチョイス。『おまえマジなんなの?』ってクーラスに煽られたけれども、目の前で美味そうに全て平らげてやった。人にできないことをできる俺ってマジすごい。
あと、ちゃっぴぃも『きゅーっ♪』って美味そうにホットミルクと冷たい牛乳を交互に飲んでいた。子供だからこそできる芸当である。『お前はいいよな……テストなんか無くて』ってジオルドがすごく切なそうにちゃっぴぃを見ていたので、『単位のことを気にするからいけないんだ。ちょっとした腕試しと思えば楽勝だぞ』ってアドヴァイスしたら、『イヤミかこの野郎ッ!』ってケツを叩かれた。ひどい。
そしてロザリィちゃんも『じゃあ、私も飲んじゃおうかな!』ってホットミルクを飲んでいた。ホントは特別な時の夜寝る前にだけ飲んでいいことにしているらしいんだけど、今日はあえての特例を認めるとのこと。
『……テスト前の、“がんばって”の激励がまだなんですけど?』って甘えられたので、俺自身の英気を養うために朝から熱々のキスをする。今日も甘かったけど、ハートフルピーチのそれではない。たまにはこういうのも悪くないもんだ。
ギルはやっぱり『うめえうめえ!』ってジャガイモ食っていた。今日もすさまじい食べっぷりだと感心していたら、『形振り構っていられないんだよぉッ!』、『やれることは全部やっておくの!』、『たまには流されるのも一興なり』ってポポル、ミーシャちゃん、パレッタちゃんに髪をブチィッ! ってやられた。
毎度のことながら、撫でるだけならまだしもなんであいつらは引っこ抜いていくのだろう。俺がハゲたらどう責任取ってくれるのだろうか。効果があるかもわかんないのに。
さて、テスト一発目である今日はミラジフの魔法流学。『少しでも怪しいそぶりを見せたら、即刻退室の後にすべての科目において今期の評価を無効にする』とかあいつはいつも通り嫌味たっぷり。せめて最後くらい、激励の言葉の一つでも言えないものだろうか。
肝心のテスト内容だけれども、前回と同じくひっかけ問題みたいなやつが多数。一見簡単そうに見えて、その実実にいやらしい問題ばかり。教科書の例題に微妙に似せているけど中身は全然違ったりとか、微妙に符号や数値を変えないと解けなかったりとか。
なにより、油断して適当に進めても、それっぽい答えは出てきてしまうというから恐ろしい。これで出てきたのがクソみたいなものなら間違っているって気づけるのに、なまじ普通の解答に見えるから自身の過ちに気づくことなく進んでしまう。
さらにさらに腹立たしいことに、一問だけ【教科書の例題にそっくりのサービス問題に見せかけて、実はちょっとだけ図の前提が異なり、うっかり引っかかった場合に出てくる答えが教科書の例題のそれと同じ】という性格の悪さがこれでもかと醸し出されている問題があった。あいつのこういうクソの役にも立たない性格の悪さとそのセンスだけは、一周回って逆に感心してしまうレベル。
なんとなくテスト中に気配を探ってみたところ、かなりの人間が青ざめている感じがした。ポポルなんかはもはや震えることすらできないレベル。まぁ、あの問題で青ざめることができたってことは、見かけ通りの易しい問題ではないことに気づけたって証でもある。そういう意味では、悪くないことだったのかもしれない。
ちなみに、ギルは普通に猛烈な勢いで解いていた。カリカリカリカリ……って音が絶え間なくずっと聞こえていて、訝しんでそれを覗き込んだミラジフが『……っ!?』って思わず息をのむ音が聞こえたっけ。
直後にあの野郎、執拗に俺の周りをぐるぐる回ってあちこち色んな所を調べていたけれど、ちょっとマジにこれはひどくない? いったいどれだけ俺のことを疑ってるの?
ギルがテストで余裕なのはギル本人の努力の結果なのに、その実力を疑ったばかりか俺がカンニングの協力をしていると疑うだなんて。性格悪い云々を置いておくとしても、教師としてそれはやっちゃいけないことだし、これはマジで学生部にタレ込んでいい案件なのではないか?
なんだかんだで無事にテストは終了。ミラジフの奴、『……これでようやく顔を合わせずに済む』ってあいつにしては朗らかな顔をしていた。失礼の極みだけれども、お互いさまと言えなくもないので俺は普通に『僕はあなたに合えなくなって寂しいですけどね』って社交辞令。俺ほどできた学生もそうはいないだろう。
『お前のそのクソ度胸とオリハルコンメンタル、少しでいいから俺に分けてくれよ……』ってジオルドには言われた。どうやらあんまり結果はよろしくなかったらしい。『アリア姐さんに後で慰めてもらえよ』って煽ったら、『ちょっとマジでそうしてもらおうかな……はは……』ってあいつは弱弱しく笑う。
それを見たジオルド派女子が女の子がしちゃいけない顔でハァハァ息を荒げていた。あいつらはもうダメかもしれない。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。明日もテストであるため、雑談もあまり弾まず。しょぼくれたジオルドをアリア姐さんが「もう、しょうがないんだから……!」とでも言わんばかりに優しく(!)抱きしめていたのと、ロザリィちゃんが『いいもん、最悪永久就職があるもん……!』って泣きそうになりながら俺に抱き着いてきたくらい。
もしロザリィちゃんの点数が足りないなんてことになったら、俺の点数をロザリィちゃんに分けてもらうよう打診しようと思う。単位さえ落とさなければこっちの勝ちだ。最悪、マデラさんに言いつけてやればなんとかなると俺は信じている。
ギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいている。こいつ、寝る前に『最後のテスト勉強しておくぜ!』って普通にスクワットや腕立て他筋トレをやりまくっていた。脳筋を鍛えるならまだしも、なぜあんなことをしたのかマジでわからない。
もしかしたらギルの場合は脳ミソまで筋肉なのではなく、筋肉そのものが脳ミソの役割を持っていて、(頭のそれも含めて)今まで脳としての機能が眠っていただけなのかもしれない。そう考えれば、体の筋トレが脳筋の筋トレになるのもうなずけるし、全身が脳ミソだから普通の人間より処理能力が高いのもうなずける。いや、むしろそうとしか考えられないか。
クソくだらないことを書いてしまった。時間がもったいないしさっさと終わらせよう。俺ももうちょっと勉強してから寝ることにする。
ギルの鼻には今朝がた採れた金の欠片を詰めておく。グッナイ。




