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302日目 手土産とディナーの手配

302日目


 ギルの影が光り輝いている。果たしてこれは影と言えるのだろうか?


 ギルを起こし、ちゃっぴぃを肩車して食堂へ。今日は休日だけれども、夜遅くまでテスト勉強していたのかコーヒーやココアのカップを片手に死んだように眠るやつらがチラホラ。さすがに凍死したらまずいと思ったのか、いつもより微妙に暖炉の勢いが強く、そして誰かが毛布を掛けてあげている。


 『ポイントを稼ぐなら、本来こういうところのはずなんだよな』ってアルテアちゃんがしみじみ。『デ、デスヨネー』ってロザリィちゃんが片言。もしあの場にフィルラドがいたら、たぶん問い詰められていたのはフィルラドの方だと思う。


 ともあれ普通に朝食。今日は俺も甘めのホットカフェオレをチョイス……しようとしたところ、『美味しいのを作ってあげましょう!』ってロザリィちゃんが作ってくれた。わぁい。


 もちろん、あえて触れるまでもなくちょうデリシャス。ミルクとコーヒーのバランスも絶妙で、熱すぎず程よい温度。ほんの少しの砂糖とクリームが味に深みを持たせていて、何よりたっぷり入っている愛情が堪らなくうれしい。


 『お味はいかが?』って聞かれたので、『言葉じゃ表せそうにない』と返す。『じゃあ、体で教えてもらおっか?』ってキスされた。わぁい。


 ちょっと珍しい(?)ことに、アルテアちゃんはレモンティーを飲んでいた。『最初はカフェオレのつもりだったけど、飲む気が失せた』とのこと。ジオルドに至っては『できればワインを飲みたい』などという朝からあまりにもぶっ飛んだ発言を。『何もかも忘れ、酔った勢いで勉強したほうがマシだ』とも言っていた。あいつも疲れているのかな?


 ギルは普通にジャガイモ。『うめえうめえ!』ってそれはもう嬉しそうにジャガイモ。今日はヴィヴィディナも一緒にジャガイモ。体の一部をジャガイモと一緒に食われていたけれど、それでもジャガイモ。ジャガイモってすげえなあ。


 さて、朝飯が一段落し、余韻に浸っているところで『実は今日、町に買い物に行くんだ』ってロザリィちゃんに告げる。『おっ……テスト前なのに余裕ですなぁ?』って脇腹をつんつんされた。もっとやってほしかった。


 『で、どうしてわざわざ? 何か欲しいものでもあるの?』って聞かれたので、『キミのお家にもっていく手土産を少しばかり見繕おうかと』って答える。ロザリィちゃんってば、『別に気にしなくていいのに……でも、できればあまぁいお菓子があると嬉しいな!』ってぱっちりウィンク。『私の家にもっていくものだから、私が食べたいものでも全然問題ないよね!』とのこと。そういうところが本当に可愛いと思います。


 ただ、残念ながらロザリィちゃんと一緒に……デートすることは敵わず。『ホントはすっごく一緒に行きたいけど、私バカだから……ちゃんと勉強しないと、再履になって──くんと一緒にいられる時間が減っちゃう……』ってロザリィちゃん涙目。なんか俺も泣きそうになっちゃった。


 最終的に、『ちゃっぴぃ、よろしくね?』ってちゃっぴぃがお供と言うことに。ちゃっぴぃのやつ、俺をエスコートしてやると言わんばかりに自信満々に『きゅ!』ってロザリィちゃんに向かってきりっ! ってしていた。実際はテスト勉強中に邪魔にならないよう、体よく俺に押し付けられただけに過ぎないのに。真実とはかくも残酷なものである。


 ともあれそのまま町へ。久しぶりの遠出(?)だからか、ちゃっぴぃも『きゅーっ♪』って嬉しそう。なんか普通にぎゅって手をつないできやがった。普段からこれくらい素直だとどれだけ楽なことか。


 肝心の手土産だけれども、なかなかいいものが見つからず。まず俺の評価に値するものがほとんどないし、有ったとしても日持ちするものが無い。確か馬車で五日くらいはかかるって話だったし、そこそこの保存性が無いとただの劇物を贈ることになりかねない。


 悲しいことに、一番保存性のある食べ物が冒険者御用達の携帯食料だった。あんなクソ不味いものを贈ったら確実に嫌がらせと思われる。逆の立場だったら、俺は迷うことなくそいつとの縁を切るだろう。


 ちゃっぴぃにアイスクリームを貢ぎつつ(執拗にねだってきてうるさかったため)歩いていたところ、いつものメンテのバイトの食事処の前に来てしまった。仕込みの時間だったのか、良い匂いはするものの客の姿は見えず。


 ちょうどいいってんで突撃させてもらう。テスト後のおつかれさまパーティのディナーの手配をしようと思った次第。最終日故にあまり時間をかけられないし、どのみち翌日には出発だから、あまり遅くまではしゃいだりお酒をがぶ飲み……って感じじゃないからね。


 『ディナーの予約を頼みたいんですが』ってオーナー兼シェフの眠そうなおねーさんに告げたところ、『店閉めてるのに普通に入ってくるその度胸にびっくりだよー』って煽られた。『僕とあなたの仲じゃないですか』って華麗に返したら、『……あの彼女さんに口説かれたってバラすよー?』って脅された。怖い。


 ともあれ真面目に相談。『この前と同じようなかんじでいいんだよねー? それなら大歓迎だよー!』とのこと。都合四十人分ほどの確実な利益が見込めて結構ありがたいっぽい。  


 そして、『わかってるとは思うけど、メンテよろしくねー?』って裏の取引を持ちかけられてしまった。『この前の冬休みの時期に来てくれなかったからさー? ちょーっと色々心配なんだよねー』っておねーさんは語る。言われてみれば、しばらくメンテに来ていなかったような気がしなくもない。


 『適正なお値段で、きっちり仕事をしてくれる人ってホントにありがたいんだよー……』っておねーさんは黄昏ていたけれども、マジで今までどれだけぼったくられていたのだろう? 魔道具って専門的な道具だし、きっと言われるがままに金を払うしかなかったのだろう。マデラさんの街でそんなことをやったら、即座にケジメ案件になっていただろうに。


 そんなわけでさっそくメンテ作業に。幸いなことに、前回のメンテがしっかりしていたからはっきりとした異常は見受けられない。経年劣化になっているところをちょちょいと直し、普通に魔力の充填だけ済ませれば完了。改良の余地ももうなかったし、普通に使用する分にはこれでまたしばらく持つことだろう。魔法回路の単位を修めた俺が言うのだから間違いない。


 『普通に使う分にはしばらく持ちますよ』って告げたら、『最近、ちょっと大火力で動かすことが多くてさー。次のお休みの時もよろしくねー』って言われた。もしかしたら、一緒に新しい魔道具を選んであげたほうがいいかもわからんね。


 その後は『お礼だよー!』ってパフェ的なものをおごってもらった。頑張ったのは俺なのに、『きゅーっ♪』って真っ先にちゃっぴぃが飛びついたのがわけわかめ。しかもあの野郎、わざわざおねーさんが気を利かせてちゃっぴぃの分まで用意してくれたというのに、俺に『あーん♪』をさせてくるし。


 この時の雑談にて、『実はちょっと手土産を探しているんですけど、良いのが無くて。おすすめのお店とか知りません?』っておねーさんに聞いてみた。『何のてみやげー? 状況や相手によっていろいろ変わってくるよー』って言われたので、『次の休み、彼女の実家に挨拶に行くことになったので、その関連です』って言ったら、『ちょっとマジでその話詳しく』ってガチな顔で凄まれた。


 『はー……そっかぁ……そういえば、もうお酒を飲める年齢だもんねー。それに、キミたちならもうそういうのがあっても不思議ではないかー……はぁ』って、おねーさんは楽しそうにも悲しそうにも見える感じで盛り上がっていた。あくまで俺の推測だけど、人の割とガチなコイバナを楽しめたという反面、自分自身に焦りのようなものを感じているのだろう。


 『おねーさん、結構モテそうじゃないですか』って慰めたら、『カネ目当てかカラダ目当てのやつしかいないんだよー……。そうでなくとも、下手に人気店のオーナーなものだから、逆に嫉妬というか僻みをもつやつもいて……もうどうすればいいのかわかんないんだよー……』っておねーさんはガチ凹み。このお店を立ち上げる時も実家の親といろいろあったのだとか。


 『キミたちみたいな、若い時の出会いが……純粋な恋愛が、本当に羨ましいよー……』っておねーさんは言っていた。どことなくステラ先生と似たような雰囲気を感じてしまったのは何故だろう?


 ちなみに件の手土産については、『こっちでいろいろ準備してあげるよー! そっちの方面に強い伝手も頼るし、私自身もそれなりにお菓子作りとかはできるからー!』って感じで、おねーさんがなんとかしてくれることになった。『やっぱり若い子のこういう話は応援したくなっちゃうよねー!』って妙に張り切っている。


 自分自身が自分自身だけに、せめて他の人を応援することで気を紛らわせたいのだろう。大人って色々大変なんだなって思った。


 そんな感じでおやつの時間の前にはクラスルームに帰還。まさかランチまでご馳走になるとは思ってもいなかったけど、結果としてメンテのバイトで手土産の手配とランチがついてきたと思えば安いもの。しかもディナーの手配まで済ませてしまうとか、俺の有能っぷりには俺自身が驚かされるばかりだ。

 

 『あっ……ちゃっぴぃってば、パパと美味しいもの食べてきたなぁ?』ってロザリィちゃんがちゃっぴぃをくすぐりの刑に処していたのを覚えている。『きゅっ、きゅうっ、きゅうう……!』ってちゃっぴぃはくすぐられまくって身を捩らせていた。ちゃっぴぃのくせにロザリィちゃんにくすぐってもらうとかマジずるい。俺もくすぐってほしかった。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談時に、『期末テストのおつかれさまパーティの予約してきたから、そのつもりで』ってみんなに告げたら、『よっしゃ奢りだな!』、『よっ、太っ腹!』、『店を潰す勢いで食ってやるぜぇ……!』ってみんなに煽られた。


 『人数はまだ確定していないから、俺とロザリィちゃんとステラ先生以外、取り消すこともできるが?』って返したら、『ごめん俺お前のこと大好きだから』、『さすが組長、ホントに助かるぜ』、『俺大きくなったらお前になりたいってくらいにお前の事尊敬しているから』ってあいつら手のひら返してきやがった。まったく、現金な奴らめ。


 ふう。長くなったがだいたいこんなもんだろう。ギルはやっぱり今日もぐっすりとスヤスヤ大きなイビキをかいている。今日は一日中脳筋の筋トレをしていたって話だから、これ以上俺が筋肉の調整をしてやる必要も無いだろう。楽になったのは嬉しいんだけど、なんだか妙に物足りないのはなぜだ?


 ギルの鼻には燃え盛る氷を詰めておく。俺ももう少し勉強してから寝よう。グッナイ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 土産はまあ、難しいか コネの使い方はおかしい気もするけどw 本命:ギルのオーラが燃えた炎 対抗:ギルの目の中に燃えた氷 大穴:凍る炎が枕元に
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