298日目 発展魔法材料学:テスト勉強
298日目
窓にカマキリの鎌がびっしりついてる。怖い。
ギルを起こして食堂へ。なんかアリア姐さんがマフラーをつけたり手袋をしたりしているのを発見。いつもは全裸なのに珍しいこともあるものだと思ったら、『見かねた女子たちがお古を分けてくれてな』ってジオルドが教えてくれた。
基本、アリア姐さんは魔物だから全裸でも問題ない。植物故に寒さには弱いけれども、だからと言って人間と違ってそれで凍え死ぬってことは(よほどのことが無い限りは)まずありえない。
が、このクソ寒い中全裸のおねーさんがいるって光景に女子の方が耐えられなかったのだろう。『見ているこっちが寒くなっちゃう』、『マフラーとかも、箪笥で眠ってるよりかはこっちのほうが嬉しいでしょ』……って女子たちは言っていた。
……マフラーや手袋はわかるし、縦セーターもまぁわかるけど、腹巻もセットってのはどうなんだ? そりゃあ、ぽんぽん冷やしちゃいけないのはわかるんだけど、なんというか絵面があまりよろしくないというか。
なお、そんな感じで今日のアリア姐さんは装飾過多であったため、頭から水をぶっかけられるのではなく、足から水を吸い取っていた。「よろしくね、ダ・ー・リ・ン・?」……と言わんばかりに魅惑のおみ足を晒してジオルドに突き付けるアリア姐さんのその姿は、朝としてはあまりに刺激的だったことをここに記しておく。
クソどうでもいいけど、そんなアリア姐さんの真似をしたくなったのか、ちゃっぴぃも『きゅうん?』って同じポーズをとってこっちに足を突き付けてきた。当然、微笑ましくはあるものの大人な魅力なんてあるはずもない。とりあえず足首をひっつかんでそのまま足裏を全力でくすぐったら、『ふーッ! ふーッ!』って顔面をひっかかれた。解せぬ。
ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていた。以上。
さて、今日の授業はシキラ先生の発展魔法材料学。シキラ先生、教室に入ってくるなり『【オークの瞳に恋してる】はマジで傑作だぜぇ……!』ってルンルン。『いやはや、まさかあの展開であんなことがあろうとは……! かーっ! 今すぐここでネタバレ感想会を始めたい気分だ! ぶっちゃけ授業よりもそっちの方が大事じゃね!?』って先生とはとても思えない発言も。
『生憎、僕たち誰もそれを読んでいないので……』ってやんわりと告げたところ、『ネタバレできないじゃん……ちぇっ』ってシキラ先生はしょんぼりしていた。この人、俺たちが読者だったら躊躇いなくネタバレするつもりだったのだろうか?
肝心の授業内容だけれども、『来週からテスト期間だから、今日はテスト勉強で』とのこと。『来年も俺と一緒に授業を受けたいっていういじらしいやつは、好きに遊んでいてもいいぜ?』とも言っていた。今日の授業態度次第で、シキラ先生は奥手で恥ずかしがり屋さんな俺たちの心の底を見透かし、あとで個別に校舎裏で待つとか何とかふざけたことを言っていた気がする。
ともあれ普通にテスト勉強。まぁ、この授業に関してはマジで暗記しかないからやることは少ない。意味を理解させたうえで単語の本質を理解させるか、あるいは意味なんてわかってなくていいから、とりあえず単語の説明だけ覚えさせるか、それだけの違いだ。
幸か不幸か、計算問題に比べればおこちゃま二人もこっちはマシ。魔度処理の所の理解はまだまだだったけど、意外なことに魔法疲労破壊関係についてはそこそこまとも。
『ここらへんはきっちり覚えておかないと、いざって時に対抗できなくて困るの』ってミーシャちゃんは言っていた。やはり、人は実用に駆られると必死になるものらしい。もしかしたらこれが本来学習としてあるべき姿なのかもしれない。
一方でフィルラドの方はお察し。あいつは暗記系はまるでダメだ。『意味は分かる。やってることもわかる。でもそれを言葉で説明するのは難しい』とのこと。それって何もわかっていないってことじゃね?
なんだかんだで授業は早々に終了。テスト勉強だったからって言うのもそうだけど、『んー……いや、ちょっとやることがあってよぉ。こう見えても俺って結構忙しいんだ。ただでさえ再履のケツ叩き屋さんの副業もあるし』ってシキラ先生が意味深な発言をしたゆえである。
あの感じだと、ろくでもないこと……ではないはず。どちらかと言うとマジに授業関係のそれっぽい感じではあった。シキラ先生がその関係で動くとなると、それはそれで不穏ではあるけれど、いつもの【なんかつまらないから学生同士の抗争の種を蒔く】ようなことに比べればマシだろう。
再履の学生の顔が真っ青になっていたことをここに記す。どっちに転んでも、あの人たちにとっては良い話なわけがない。再履に人権が無いとはよく言ったものだ。
夕飯にておっきなエビフライを食す。何気に夕飯で出てくるのって結構久しぶり。イキの良いのが入ったのか、今回のそれはいつもより二回りくらい大きな立派なもの。思わずついつい三本も食べてしまった。俺ってばマジ食いしん坊。
『いざ、尋常に!』ってロザリィちゃんがエビフライゲームを仕掛けてきたので受けて立つ。都合二回ほど勝負をしたけれども、結果としては試合に勝って勝負にも勝ったような気がする……あれ、つまりこれって完全勝利か?
とりあえず、エビフライゲームそのものにも勝ったし、とっても素敵なご褒美も貰えた、とだけ。ロザリィちゃんは『……この、ケダモノぉ♪』って負けた(?)のに満更でもなさそう。というか、ロザリィちゃんもそういった意味では普通に勝利していた。敗者がいない勝負ってなんて平和で素晴らしいことか。
あと、ちゃっぴぃにも『きゅ!』ってエビフライゲームをせがまれたので一回だけ付き合ってやった。あの野郎、俺の顔までかじってきやがった。子供はこれだから困る。
なお、余ったエビの尾っぽは全部ギルの口の中に。『捨てられるよりかは、エビの尾っぽも本望だろ』ってクーラスがしみじみと呟いていたのを覚えている。なんかあいつ、昔喉に詰まらせたことがあるらしく、以降親から絶対にエビの尾っぽは食べるなって厳命されているらしい。
雑談して風呂に入って今に至る。明日はとうとう創成魔法設計演習の発表日。なんだかんだで、明日さえ終わってしまえば授業らしい授業はもうないはず。振り返ってみれば二年目も意外とあっという間だったような気がしなくもない。
あともうちょっとだけ頑張れば春休み。ロザリィちゃんのお家にもっていくための良い感じの菓子折りを探しておかないと。こっちで見つけるか、道中の街で見つけるか……いや、こっちで用意したほうが確実だな。次の休みにでも探しに行くか。
ギルの鼻にはエビフライの衣を詰めておく。グッナイ。