表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/367

3日目 魔力学:魔度平衡および魔力学第ゼロ法則について

3日目


 ギルの肉体が大きな魔法抵抗性を示している……いつも通りじゃね?


 ギルを起こして食堂へ。一応今日は二年生一発目の授業だからか、みんなそれなりに気合が入っている様子。朝食のハムエッグもハムが三枚も使われていた。マジ贅沢。これで白身が無ければ最高だったのに。


 で、今日も俺の膝の上に乗って暴虐の限りを尽くすちゃっぴぃに白身を『あーん♪』してやる。あの野郎、『ふーッ!』とか言って俺の頬をひっぱたきやがった。しかもそのまま『きゅーっ!』って黄身とハムの一番うまいところまで食ってしまう始末。


 ちょっとマジで教育方針を変えたほうがいいかもしれない。ガキのうちから好き嫌いするとか、一度しっかり根性を叩き直さないといけないだろう。


 そんなことをロザリィちゃんに話したら、『好き嫌いする──くんもかわいいよ♪』ってちゅっ! ってしてくれた。最高に幸せだった。直後にアルテアちゃんが『そこで甘やかすからいつまで経ってもこのザマなんだ』って呟いていたのが未だに解せぬ。……あ、俺じゃなくてちゃっぴぃのことか?


 もちろん、ギルは『うめえうめえ!』とジャガイモを貪っていた。あいつに限って言えば、『好き嫌い』という概念そのものが無いのだろう。野菜嫌いのおこちゃまポポルに見習わせたいものだ。


 さて、今日の授業は魔力学。今までに習ったことのない新しい分野。再履の人間はほんのちょっとしかいなかったけど、あてがわれた教室(地下の教室だけど結構広めでいい感じ)が限りなくカビ臭くて辟易する。なんだろうね、ずっと掃除していない冒険者の宿の匂いがしたんだよ。


 これにはちゃっぴぃも参ったらしく、『きゅぅ……』って俺のローブの中に入ってきて、ぐしぐしと鼻を押し付けてきた。鼻が敏感なのか、ロザリィちゃんも『うぇぇ……』ってちゃっぴぃと同じようにしてきた。さりげなくすーはーすーはーくんかくんかするところがめっちゃかわいかったです。


 この授業、担当はアラヒムっていうそれなりに年の取った先生だった。ヨキやシューン先生よりかは上だろう。ポシム先生よりかは下かもしれないけれど。


 見た目としては髭が無くてすごく誠実で出来る人オーラを纏ったルフ老って感じ。ただ、ちょっと冷たい感じがしなくもない。


 実際グランウィザードらしく、立場としてはステラ先生やシキラ先生と同じらしい。ただ、『あくまで私は実技よりも理論派なので、授業も理論や考え方を学ぶ方向で進みます。座学がメインになることでしょう』って言っていた。グランウィザードと言ってもいろんなタイプがいるらしい。


 さてさて、ここで魔力学について触れておこう。俺たち魔系は広義での魔法を使うにあたり、必ず魔力を使うわけだけれど、この魔力を何の特性も無い一般的な魔力として見たとき、それにどんな特徴があり、どんな性質があって、どんな風に物事に作用するのか……ってのを研究する学問ね。


 『厳密に言えばもっとしっかりとした定義があるのですが、今この段階ではざっくりとこの程度の認識でも構いません』ってアラヒム先生は言っていた。


 今日は最初の授業と言うこともあり、これの根幹の一つである以下について学んだ。例によって例のごとく、板書の一部をここに記しておく。



・魔度平衡

 魔度の異なる二つの物体を充分に長い時間魔法的接触状態に置いたとき、あるいは二つの物体を魔法的接触状態に置いても魔度の移動が起きないとき、それらの物体は魔度平衡状態にあるという。


・魔力学第ゼロ法則

 ある物体A、ある物体Bがそれぞれ魔度平衡状態にあり、同時に物体B、物体Cが魔度平衡状態にあるならば、物体Aと物体Cも魔度平衡状態にある。(ただし、各々の系はそれらの系以外からの干渉を受けない状態であるとする)



 難しく書いたけれど、要は『同じ魔度であること』にちゃんとした名前を付けただけだろう。第ゼロ法則に至っては、なんでそんな当たり前のことについて言及しているのかよくわからん。魔法に限らず、論理的に考えてそれって普通のことじゃないのだろうか。


 『なんでそんな当たり前のことをわざわざ定義しているんですか?』って聞いたら、『当たり前だからこそ、重要なんです。当たり前を当たり前と思えるその感性は、時に有用で、時に私たちに牙をむきます。わかっていることをはっきりさせ、当たり前だと思うそれがどうしてそうなのか……当たり前であるはずのことに疑問を向けるその心こそが、大きな手がかりになることもあるんですよ?』ってアラヒム先生がちょっとだけ優しく笑ってくれた。


 『まあ、次回に学ぶことの原理ですからね。理論においてはこういった基本的なところをおろそかにするわけにはいかないのですよ』……と、ぶっちゃけたことも話してくれる。アラヒム先生、話し方も顔もちょっと冷たい感じがするおっさんだけど、中身は割と普通のようだ。


 とりあえず、【第ゼロ法則】って名前の響きはすっごくステキ。こういうネーミングセンスはちょっと好きである。そこはかとないわくわく感が堪らない。


 なお、『お察しの通り、魔力学の法則は第三まであります。諸君らもなぜ最初が【第ゼロ】法則なのか気になるとは思いますが……実は、第一、第二、第三法則が判明した後に、より魔力学の根幹に関わるこの法則が見つかったから【第ゼロ】になったんですよね』ってアラヒム先生が教えてくれた。案外理由が間抜けでちょっとがっかりする。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、今日は珍しくポポルもミーシャちゃんも居眠りしないで板書を取っていたな……と話したら、『あの部屋、カビ臭くてとても寝られないの!』、『ちょっと今度掃除しといてくれよ! 授業中に寝られなかったら夜更かしできないじゃん!』と言われた。友人たちの情けなさに悲しみを隠せない。


 ギルは今日も大きなイビキを書いている。久しぶりの授業だからか、座学とはいえちょっと疲れた。内容が薄っぺらい気がしなくもないが、今日はこの辺にしておこう。


 とりあえず、奴の鼻には黄昏の腕を詰めておいた。意外なことにジャストフィット。こいつの鼻穴マジでかい。おやすみすと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ