297日目 魔法流学:テスト勉強
297日目
古びた紙切れに謎の地図が浮かび上がってる……けど、切れ端だから全容はわからず。……つまりこれただのゴミじゃん。
ギルを起こして食堂へ。今日も今日とてだいぶ寒い感じ。重ね着してもなお寒く、そして冬場ゆえに朝日が昇るのも遅い。『なんで夏の太陽はクソ暑いのに、冬の太陽はこんな貧弱なの? もっとやる気出せよ』ってポポルが太陽に文句を言っていたので、『太陽だってたまには休みたいんだろ』って返しておいた。
朝飯はぽかぽかスープなる一品をチョイス。なんか初めて見るスープで、朝にしてはちょっぴり刺激的な食欲がわいてくる良い匂い。『新メニュー?』っておばちゃんに聞いてみれば、『ちょっと自信あるやつ!』って笑顔が返ってきた。
で、飲んでみる。なんかあまり見ない感じの香辛料を使っているらしく、スープ全体が特徴的にスパイシー。具材も下味として同系統のそれを使っているらしく、後を引くような辛味が。見た目はコンソメみたいな感じなんだけど、けっこうパンチが効いていて初見だとかなりインパクトがあった。
『辛い』、『しょっぱい』、『……けど、水を飲んでも止められない!』ってみんながヒィヒィ言いながらもそれを楽しむ。やがては体の奥底から……おなかのあたりからすごくぽかぽかしてきて、じんわりと汗が噴き出てきた。すげえ熱い。
気づけば寒さもなんのその。男子の中にはセーターを脱ぐ奴も。と言うかマジに汗が止まらないし、それでなおスープを飲む手が止まらない。辛いんだけど止められなくて、すぐに次の辛さを求めてしまう……まさに、やみつきの味ってやつだろう。おばちゃんもなかなかやりおる。
ロザリィちゃんも熱くなったのか、『……ふうっ!』って額の汗をぬぐっていた。首元の所をちょっとパタパタもしていた。その瞬間にばっちり目が合って、『……すけべ』っておでこをつんってされた。朝から幸せ過ぎである。
ただ、ちゃっぴぃにはあまりあわなかったらしい。最初の二口、三口くらいは『あーん♪』されてくれたんだけど、その次からはマジな感じで『きゅ!』ってそっぽを向いていた。子供の舌には刺激的すぎたのだろう。代わりに普通のコーンポタージュを与えておいた。
ちなみにミーシャちゃんも同様。『か……辛すぎるの……!』って涙目。同じおこちゃまでもポポルは普通に飲んでたのに、その辺の違いがよくわからん。
ギルはいつもどおり『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていた。今思えば、ジャガイモと合わせて食えばあのスープもっと美味しかったかもしれない。
さて、今日の授業はミラジフの魔法流学。朝餉の余韻により、冬場なのに割と薄着かつ汗をかいている俺たちを見て、あいつはなんか面食らった顔をしていた。特にテカテカと輝く筋肉を見せつけるギル(スープの影響ではなく、素である)に対しては、『寒さを感じぬとは、羨ましい限りだ』って羨望(?)の声も。
『僕たち、若くて生命力と魔力に満ち溢れていますから』って笑顔で返せば、『ぜひともそれにやる気と積極性と常識と真っ当な感性も付け加えてもらいたいものだな』ってミラジフはいつも通りの嫌味。四つも要求するとかあいつ欲張りすぎない?
そんなクソどうでもいいことは置いておくとして、今日の授業は……まさかのテスト勉強。言われてみれば、もう最後の期末の時期。時の移ろいの速さに驚きを隠せない。
『期末テストの結果次第で、諸君らの単位がどうなるかが決まる。中間テストで振るわなかったものは、特にそれを念頭に置いて励むように』ってミラジフは言ってそのまま持ち込んできた事務仕事を開始。少しはやる気を見せてほしいと思ってしまった俺を、どうか許してほしい。
そんなわけでテスト勉強開始。ポポル、ミーシャちゃん、パレッタちゃんあたりに加え、ロザリィちゃんにも手取り足取り腰取り色々諸々教えさせていただいた。
相も変わらずおこちゃまやパレッタちゃんは『意味わかんない』、『問題文が命令口調なのがムカつく』、『こんなのやって何の意味があるの?』って文句ばっかりだったけど、ロザリィちゃんは『頑張るから、テスト終わったらご褒美ちょうだいね!』って積極的。そんなところもマジプリティ。
クーラスもアルテアちゃんとかジオルドに教えていた。あっちのほうが労力的にはすごく楽そう。ただ、『俺のアティと親しげにしやがってよぉ……ッ!』ってフィルラドがすんげえ顔でクーラスに因縁をつけていたけどね。ルマルマが七大罪、ヴィヴィディナの嫉妬を司るジオルドもこれにはドン引きを隠せないでいた。
なんだかんだで授業はこんなもん。テスト勉強だった故に書くことが少ない。せいぜいが、来週でようやくミラジフの顔を見なくても済むんだなって感慨深くなったくらい。来年のことは知らんけど、コイツの授業だけは取るつもりないや。
クラスルームに戻る途中にて、窓枠の所に冬場なのに普通に生きてる気合の入ったカマキリを発見。『コイツもうカマキリのヌシだろ!』ってポポルが大はしゃぎ。『なかなかいい面構えをしているな……!』ってジオルドも絶賛。『カマキリなんてどれも一緒だろ』って言ったクーラスは思いっきり指を切りつけられていた。
とりあえずすごいものを見たってことで、夕飯後の風呂の時にポポルが脱衣所にそのカマキリを持ち込んでいた。バルトやティキータの連中に見せびらかして、『今からコイツの名前最強マンティスね!』って宣言していたりもした気がする。
残念ながら、最強マンティスは床で威嚇のポーズ(俺たちに突きまわされて苛立っていた)を取っている最中に、何も知らずに普通に風呂から出てきたラフォイドルに踏みつぶされてご臨終。
プチッ、って音が聞こえた時のあの空気、日記じゃ表現できそうにない。いろんな人がそれぞれいろんな理由で、『あ』って固まったんだよね。
『お前マジふざけんなよ! 自分がなにしたのかわかってんのかよ!』ってポポルは激おこだったけど、ラフォイドルのほうも『こんなところにそんなもんもってくんじゃねえよ! 素足で虫を踏んだ俺の気持ちを考えろバカ野郎!』って足をポポルの顔面に突き付けてた。
夕飯食って……じゃない雑談して今に至る。風呂上がりの直後は不機嫌だったポポルも、夜食のハゲプリンを食べるころにはすっかり機嫌を直していた。『よく考えてみれば、こんな時期なのに普通に生きてるカマキリって絶対ヤバいカマキリだよね。さっさと殺しておいて正解だったかも』ってなかなかサイコな発言も。
『言われてみればそうだな』、『むしろあれ、素手でやって大丈夫な奴だったのか?』、『ラフォイドルに感謝しないと』……って賛同の声が上がるあたり、あいつらの感性はだいぶ吹っ飛んでいると思う。ロザリィちゃんなんて、素足でカマキリを踏みつぶしたって話を聞いただけで『うぇぇ……!』って真っ青になって俺に抱き着いてきてすーはーすーはーくんかくんかしまくってたからね。
ギルは今日も大きなイビキをかいている。『今週から来週にかけて、脳筋鍛え放題とか最強だろ……!』ってあいつはトチ狂ったことを言っていた。ミーシャちゃんにもこれくらいの気概が欲しいと思わなくもない。
俺もあと少しだけ勉強して寝よう。ギルの鼻には最強マンティスの鎌を詰めておく。おやすみにりかちゃんまじかいものじょうず。