296日目 発表対策
前日は二話投稿しています。ご注意ください。
296日目
ギルの筋肉がフリーダム。そして日記にステラ先生の可愛らしい文字が。うすうすそんな感じはしていたけれど、やはり昨日の俺はどうにかしていた……どうも、子供になっていたっぽい。この日記を見る限り、変なことはしてない……よな?
朝起きて、真っ先になんか腹のあたりが苦しいことに気づく。なぜかポポルの腹巻を俺がしていて、そしてちゃっぴぃが俺にぎゅーっ! って抱き着いていた。はて、なんでこんな状況になっているのだと記憶を漁ろうとしたところで、昨日の記憶がまるでないことに気づく。
で、慌てて日記を確認。なんか微妙にいつもと位置と言うか、置き方が変わっていた。まさかとは思いつつ確認してみれば、昨日の俺が子供になっていたことが発覚。
いやはや、そんなアホなって思ったよね。なんか最近、ギルじゃなくて俺に被害が出ることが多くない?
その後はギルを起こし、ちゃっぴぃをお姫様抱っこして食堂へ。食堂に行った瞬間、結構な人数が『あっ……』って残念そうな顔をしていたのを覚えている。失礼の極みをこんなところで味わうとは。
しかも、ラフォイドルの奴が『人に迷惑かけちゃいけないってわかるか? ルールをちゃんと守るのは普通のことだと思うか?』って聞いてきやがった。『人と認めなければ何をしてもいいし、ルールを守るよりもスジを通す方が大事だ』って返したら、『ダメか』、『何も変わっちゃいねえ』って露骨に失望された。
『小さい頃にしっかり教え込んでおけば、戻った後も可能性あると思ったんだけどな』ってあいつは舌打ち。俺は未だかつて、あいつ以上に失礼な人間を知らない。
なお、俺がそんなやり取りをしている間もギルは『うめえうめえ!』ってジャガイモを食っていた。『今の親友があるのは、小さい頃にジャガイモをたくさん食ってたおかげだぜ?』って俺にジャガイモを進めてきたりもした。『覚えてないだろうが、昨日の親友は「ジャガイモだいすき、もっとたべたい!」ってはしゃぎまくってたんだぜぇ……?』ってあることないことでっち上げたりも。
マジな話、嫌いじゃないけど好きって程でもない。なぜあいつがそうまでして俺をジャガイモの道へ進めさせようとしてきたのか、マジでよくわからん。
朝食の後はクラスルームへ。何をしようかと悩んだけれども、今度の創成魔法設計演習の最終確認をすることに。『子供は子供らしく休日は遊べって昨日おしえただろ?』ってフィルラドがグチグチ文句を言ってきたので、『大人なら大人らしくやるべきことをきちんとやれ』って返しておいた。
『素直な子供らしいお前が恋しいよホント……』ってあいつに言われたんだけど、たぶん子供の俺でも同じことを言っていたと思う。
ともあれ最終チェック。図面やその他についてはもう提出しているから、あとは如何に発表を上手くこなすかというだけ。何も完璧を目指す必要はなく、アエルノの度肝を抜くことができればそれでいいのだ……と言う旨を告げたところ、『それって結局一番になれるくらいに完璧じゃないとダメじゃん』って冷静にパレッタちゃんに返された。結果的にはそういうことと思えなくもない。
んで、色々諸々考えてみる。『口先で騙くらかすのは任せるの』ってミーシャちゃん。『筋肉なら任せろ!』ってギル。『賄賂でも渡しておくか?』ってフィルラド。頼る人選を間違えたというほかない。
が、ここで我が永遠の恋人であるロザリィちゃんが『実演販売みたいにしたらどうだろう?』って素敵すぎる提案をしてくれた。しかもそれだけに止まらず、『いっそのこと、演劇風にしちゃう? インパクトはすっごいと思うよ!』って未だかつて誰も想像すらしなかった革新的なアイディアも。神かよって思ったよね。
『設計面とか、機能面とか……そういう難しいのは──くんが一番うまく説明できるし、下手に私たちが手を加えないほうがいいと思うの。だから、あとは実際の使用感覚をなるべくインパクトのある形で……──くんが接客をするときみたいな感じで、実演販売風の演劇形式でやればいいかなって』……ってロザリィちゃんがはにかみながら告げる。ロザリィちゃんからの熱い信頼に俺の心臓ドッキドキ。人目が無かったら、そのまま抱きしめていたかもしれない。
意外なことに、ミーシャちゃんもギルも結構乗り気。『逆に質疑応答の時間を潰せそうだな?』ってフィルラドも乗り気。学生としてその考え方はどうなんだろうと思わなくもないけど、マジな話、印象にだけは強く残るし、プレゼンとしては結構有効な方法だ。
なにより、今までずっと、ほとんどが堅苦しい内容の発表ばかりだった。ここらでいっちょぶちかませば、それだけで大注目されることになるし、先生方の細かいところへの注意力もいくらか落ちる……はず。
ということで、俺たちの発表はアドリブを装った演劇風実演販売テイストで行うことに決定。普通に発表すると見せかけ、巧妙に計算されたアクシデントを発生。それへの解決手段として例の魔道具を使えば完璧ですね……みたいなことを大袈裟に伝えていく所存。これで優勝間違いなしだろ。
ただ、それにあたって問題点が一つ。『実演販売風は良いけど、実物どうすんの?』ってフィルラド。こいつはうっかりと言わざるを得ない。
さて、今から作るにしても結構面倒だぞ……と考えあぐねていたところで、ちょっとフラフラなステラ先生を発見。なんかソファのところでうつらうつらとしていてだいぶ眠そう。たぶん、絶好のお昼寝ポイントを求めてさまよっているうちにここへ来てしまったのだろう。
ステラ先生のお膝で、ステラ先生に抱かれているエッグ婦人がめっちゃ羨ましかった。マジずるい。
ともあれ、ステラ先生に突撃。事情を話したところ、『……ううん、今から用意するのはちょっと……ふわぁ』ってあくび交じりの回答が。かわいい。
『せんせい、昨日眠れなかったの?』って心配そうなロザリィちゃん。ステラ先生、急にハッとした表情で『う、うん! 実はそうなの!』ってあわあわ。
こういうところがステラ先生の可愛いところだけど、俺ってばちょっとマジに心配になってきちゃったよ。
『夜更かしはあまり関心しませんね』って告げたうえで、こっそり耳元で『……閲覧料として、お願いしてもいいですか?』って囁いてみる。『……ハイ』って先生、しっかり頷いてくれた。やったぜ。
結局、魔道具についてはステラ先生が何とかそれっぽいのをでっちあげるってことで落ち着いた。実演するだけなので、中身そのものはだいぶ簡素に作り上げ、見た目だけそれっぽくすれば何とかなると思った次第。『ガチガチに詰めなければ、簡易モデルで十分だと思うよ』ってステラ先生も言ってたし、そう思うことにする。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ロザリィちゃんがぎゅって抱き着きながら『……昨日の約束、覚えてる?』って耳元で囁いてきて腰が砕けそうになった。
『何のことかよくわからないから、ぜひともキミの口から教えてほしいな』ってウィンクしたら、『……そういうとこだぞっ!』って情熱的にキスされた。『……ホントは覚えてるくせに』って耳を噛まれたときなんてもう、今すぐその場でプロポーズしちゃいそうになったよね。
ギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいている。毎度のことながら、コイツの寝付きの良さが本当に羨ましい。ステラ先生にそれを少しでも分けてあげたいくらいだ。
……ギルの寝つきの良さを分け与えるよりも、アルテアちゃんとベッドを同じにしたほうがよっぽど手軽で効果的だと思ってしまった。ステラ先生、アルテアちゃんにぎゅ! ってされると安心するのか、お昼寝の時とかすぐにスヤスヤしちゃうからね。
まぁいい。ギルの鼻には……古びた紙切れでも詰めておこう。なんかちゃっぴぃがどこからか見つけて持ってきちゃった奴ね。おやすみなさい。
※燃えるごみは燃やし尽くす。魔法廃棄物も廃棄し尽くす。