294日目 悪性魔法生物学:サーペストの生態について
※下ネタ注意(軽め?)
※ペットを飼っている人ならば経験がある程度の下ネタです。
294日目
ギルに涙の跡……じゃなくてヨダレの跡だこれ。どうなってんの?
ギルを起こし、ちゃっぴぃをおんぶして食堂へ。いつになく甘えんぼモードなのか、ちゃっぴぃのやつ『きゅいー……』って俺の首にだらしなくしがみついてぼけーっとしていた。肩が凝るのか知らんけど、俺の肩を乳置台にしたりする始末。意外と首元があったかくて悪くなかったのは行幸。
朝食はスクランブルエッグをチョイス。ほのかな甘みとしっかりふんわりとした食感が堪らない。スクランブル具合も程よく、見た目も結構なワザマエ。下手くそが作ったスクランブルエッグって、なんか本当に見ていて悲しくなるような感じだけど、おばちゃんのそれは『お、美味しそうじゃん?』って素で出てきそうなくらいに美味しそうな見た目なんだよね。
俺のお膝の上のちゃっぴぃもこれには『きゅーっ♪』ってにっこり。肉でもないのに結構な勢いでバクバク食べてくれた。野菜もこれくらいの勢いで食べてくれたらいいんだけど。
ちなみにポポルは『スクランブルエッグはケチャップを入れれば入れるほど美味い』という謎の持論を展開し、ケチャップのスクランブルエッグ添えをさらにスクランブルして食っていた。見ていて辛抱堪らなくなったのであろうヒナたちがそこにダイブ。朝から地獄が広がった、とだけ。
割とどうでもいいけど、アリア姐さんも意外とケチャップが好きなのかもしれない。ジオルドが普通にスクランブルエッグを食べている横で、こっそり薬指でケチャップを掬い取ってぺろっと舐めてた。その様子をロザリィちゃんに見られちゃって、「しーっ♪」って恥ずかしそうにくちびるに人さし指を立てていたっけ。
『あざとい』ってパレッタちゃんが言っていた。あれくらいならそんなでもないような?
ギルはいつも通りジャガイモ。『うめえうめえ!』ってジャガイモ。きっと明日も明後日も、そのまた次の日もジャガイモなのだろう。ギルはそういうやつだ。
さて、今日の授業は我らが兄貴グレイベル先生と、みんなの天使ピアナ先生による悪性魔法生物学。今日もほどほどにスリルがあってヤバい奴だと良いな……って思いつついつもの場所に行ってみれば、そこにはすでにガッチガチに何重にも封印が施された魔法物体が。
俺が理解できただけでも五重かつ複合属性で、裏魔界からも絡めとるような構造的にヤバい感じの大封印。封印内はたぶん時間が止まっていたし、魔力も空気も何もかも通さない、文字通りの断絶状態にあったのだろう。
意外なことに、中がうっすら透けて見えた。頭に葉っぱ(?)みたいのを生やした、マンドラゴラとオークとゴブリンを足して三で割ったくらいの見た目の貧弱そうで不細工な小人がいる。あ、あとトカゲ……というよりかはマンドラゴラの根足みたいな感じの長めの尻尾も生えていたっけ。
ただ、不細工で生理的にあまりよろしくない感じの見た目をしているとはいえ、そんな強そうでもないし、ヤバそうって感じもしない。ぶっちゃけ蹴っ飛ばせば殺せそうだったし、身体的な武器があるわけでも、奇妙な何かがあるわけでもなかった。
『どんなやつです? 強いんですか?』って聞いてみる。『…強くは無いな。タイマンだったら、どこぞの農村の男が一人いれば難なく倒せるだろう』とはグレイベル先生。『ゴブリン一匹とこいつが二匹で勝負したら、いい勝負の末にこいつが勝つかも……ってくらい?』とはピアナ先生。つまりその強さは限りなく微妙ってことなんだろう。
が、もちろんそんな奴がこの授業で紹介されるわけがないし、ましてやアンブレスワームやバンバレイル、その他もろもろ激ヤバ魔法生物たちでさえこんなガチガチ封印された状態で紹介されたりはしなかった。……というか、普通に放し飼い(?)だった気がする。
それだけでもう、こいつがよっぽどヤバい奴だってのは明らか。実際、ピアナ先生は『…………強くはないけど、ただひたすらに厄介。うっかりすると、村どころか国が一つ潰れかねないかな』って真剣な表情で言ってたし。
『……女子は特に近づかないようにね。実害はないけど、精神的にすごくダメージがあるから』ってピアナ先生がマジな警告。女子たちは当たり前のように男子の背中に隠れた。頼ってもらっていると解釈すべきか、生贄に捧げられたと解釈すべきか。前向きに考えたいところである。
そしてとうとうお披露目タイム。封印を解く直前、グレイベル先生がぽつりとつぶやいた。
『…………頼むから、セクハラで訴えてくれるなよ』って。
はて、今何を言ったんだ……と、俺たちが訝しんでいる間にも封印は解ける。「ピギャッ!?」ってびっくりしたようにその変な小人が地面にべしゃって堕ちた。あの程度の高さで受け身もとれないとか、どうやらマジに身体能力は高くないらしい。
で、だ。
地面に顔面から突っ込んだそいつは、そのまま目をぱちぱちさせたかと思うと、じっと大地を見つめて……。
その体勢のまま、カクカクと腰を振り出しやがった。マジかよ。
俺たちみんな唖然。まさか大地とおっぱじめるとは。盛った犬猫兎にしたって、大地とおっぱじめた例なんて聞いたことが無い。
『……っ!』って女子たちがなんか赤くなって目を逸らす。『いや、こんなの家畜の種付けとかでよく見るだろ。そうでなくとも犬飼ってれば嫌でも見る羽目になる』って冷静に返すフィルラド。『う、ウチの子はあんなの絶対するわけないの!』ってフィルラドにケツビンタするミーシャちゃん。デリカシーって大事だと思った。
そんな他愛もない話をしてたと思ったら、そいつの下半身がビクビクって痙攣して……まぁ満足したらしい。地面に空いた穴からは……俺の精神衛生的によろしくないのでここでは伏せさせてもらう。女子たちも……いや、男子でさえも露骨に『うげ……!』って顔をしかめていたしね。
これだけだったら、ただの盛ったヤバい奴ってだけで終わった。
問題なのは、ここから。
俺たちが見ているまさにその前で、件の穴からにょきにょきと樹(?)が生えてきた。見た目は一見普通だけれども、その成長速度は段違い。あっという間にジオルドの背丈くらいの高さまで成長したかと思えば、てっぺんの方に真ん丸の茶色い実が二つほど実った。
んなアホなって思った次の瞬間、その実がぼとっと落ちる。なんか中からカサカサという不穏な音。表面にひびが入ったな……と気づいたその直後に実がパカっと割れて。
「ピギャ」って鳴き声が。なんか例の不細工な小人が二匹ほど生まれてきていた。
しかも生まれたてのその二匹、さっきまで自分たちを包んでいた実に対して腰をカクカク振り出した。やべえ。
もう正直何が何だかわからなかったよね。最初にヤバい奴が大地とおっぱじめたと思ったら、そこから樹が生えて、実ったそれから新しいヤバい奴が生まれ、生まれたそいつらは卵(?)であったはずの実に対しておっぱじめるんだもん。マジで頭がどうにかしそうだったよ。
しかも、だ。
「ピギャ」、「ピギャ」、「ピギャ」ってまた新たな鳴き声。
ついさっき結実、落果したはずの樹にまた新しい実が生って、そこからさらにまた新しい小人が生まれていた。
ついでに言えば、一番最初に大地と盛りだした奴が、また別の場所で大地と盛っていた。当然、そこからはまた新しい樹が生えていた。
ヤバかったよね。あっという間にどんどん増えていくヤバい小人が、あちこちで腰をカクカクさせまくっているんだもの。正直見ていて気持ちが良いものじゃないし、女子たちは完全に表情が死んでいた。
あのパレッタちゃんでさえ、『二足歩行でそれやっちゃダメだろ。それもう言い訳できないだろ』ってポポルの背中に隠れていたからね。犬や猫、馬のそれだって子供に見せたくないアレなのに、小汚い小人のそれなんて、金をもらったって見たくないっいう。
ともあれ、こいつのヤバさがわかったところで、さっそく駆除を試み……ようとしたものの、『…まだ、ダメだ』ってグレイベル先生に止められた。ピアナ先生も、すごく恨めしそうな顔で『こーゆーときだけ選り好みしやがってぇ……!』って悪態をつく。はて、これ以上に地獄な光景なんてマジで勘弁してほしいぞって思っていたら。
「ピギャ!」ってそいつらのうちの一匹がグレイベル先生の腕にしがみつく。そしてそのまま猛烈に腰カクカク。マジで吐きそうになった。
当然、グレイベル先生も嫌で嫌で堪らなかったんだろう。というか、あんな気持ちの悪い生物に股間を押し付けられてカクカクされて喜ぶ変態は、いくら魔系でもいない。グレイベル先生、『…図に乗るんじゃねえ』ってそいつの頭を思いっきり地面に叩き潰して始末した。
が、すでに遅かったらしい。
『ひえっ』って女子の悲鳴。グレイベル先生の腕から、例の樹が生えてしまっていた。
そしてやっぱり、そこから立派な二つの実が。
中から生まれてきたそいつら、グレイベル先生そっくりだった。ウソだろ。
いや、見た目はやっぱり例の小人なんだよ。だけど、例の小人とグレイベル先生を足して二で割ったような顔つきで、体付きはなんか筋肉質になってるんだよ。そのうえで、簡単なものとはいえ大地魔法を使うことができていて、そしてやっぱり猛烈な勢いで大地とおっぱじめやがった。
そしてそんなヤバいのが、グレイベル先生の腕に生えた樹から次々と生まれてくる。もう泣きそう。
『うそ……』、『は、孕まされたの……!?』、『いや! いや! 絶対いやぁぁぁぁ!』って女子たちは半狂乱。なんだかんだ異種ならその危険性は無いと思っていたのに、異種でも関係ないし、何より男であるグレイベル先生からアレらが生まれてしまった。きっと彼女らの恐怖は、俺が想像した何十倍もすさまじいものだったのだろう。
『お前ら女子を囲めッ! 背中合わせになって近づけさせるな!』、『最悪男子はなんとかなるっ! 女子にアレは、とにかくマジにヤバいッ!』って、男子一同自然と結束。女子を守れるような陣営を作り、そしてとにかくひたすら魔法をぶっ放して小人たちの殲滅を試みる。
正直、一体一体はマジで弱かった。蹴っ飛ばせば普通に殺せるレベル。
だけど、殖える速度が半端ない。あいつらなんにでも発情しておっぱじめるし、そこからすぐに木が生えてどんどん新しいのを生み続けていくし、そいつの対処をしている間にはまた別の所とおっぱじめて樹を生やすし……。
そして薄々感じていた通り、おっぱじめた場所……樹が生えた場所によって、生まれてくるそいつらの性質が違う。岩とおっぱじめたやつから生まれた小人は体が岩みたいだったし、樹に腰カクカクして生まれたやつは体がマンドラゴラみたい。
なにより、水とおっぱじめることで生まれたそいつは、(こういう言い方はとんでもなく失礼に当たるけれども)水の精霊のような見た目をしていた。ウソだと思いたかった。
殺しても殺してもそいつらは減らない。こっちに攻撃してこないけど、ひたすらにクソ汚ェものを見せつけてくる。樹を燃やしても新しく盛るし、盛ったやつを殺しても樹が生み続けるし……死体とおっぱじめたやつを見た時はもう、悪い夢なら覚めてくれってマジで思ったよね。
いい加減対処が難しくなってきたところで、『……もう、我慢できないからいいよね!』ってピアナ先生が植物魔法を発動。なんかよくわからんけどでっかいサボテン的なものでまとめてそいつらをぺしゃんこにしたうえ、結構ヤバめの毒を噴霧。その毒にさえ小人共は発情して腰をカクカクしていたけれども、毒の特製を持った小人に腰カクカクした奴が死んで、その死体に腰カクカクをした小人も死んで……と、毒の連鎖でみるみる数が減っていく。
最後に、『…失せろ』ってグレイベル先生が大地魔法。これまた初めて見るよくわかんないやつ。一瞬パッと大地に大きな穴が開いてそいつらを全員のみ込んだと思ったら、凄まじい勢いで一気にそれが閉じた。雷が落ちたかのような大きな音と衝撃に混じって、小さく「ぷちッ」って聞こえたから、つまりそういうことだろう。
いったん落ち着いたところで今日の授業対象の説明。なんでもこいつはサーペストと呼ばれる魔物らしい。なんとも恐ろしいことに魔法植物に分類されるものなのだとか。どちらかというと食獣植物寄りのマンドラゴラみたいなものらしい。『…その恐ろしさは、精神的によくわかっただろ?』とはグレイベル先生。すごい勢いで自分の腕を燃やして浄化(?)しまくっていた。
以下に、サーペストのあまりにも下品で浅ましい生態を記す。
・サーペストは魔法植物の一種である。その外見は、オークとゴブリンとマンドラゴラを足して三で割ったような見た目をした小人のようであるとしばしば例えられる。頭部には一枚の葉っぱが生えているほか、臀部に根っこ状の尾が生えている。
・魔法植物の類の中では珍しく、サーペストは明確な運動能力を持つ。運動能力を持つ魔法植物の多くは食獣植物などの能動的かつ積極的な捕食活動を行う凶暴な種が多いが、サーペストは主に水や地面の栄養、小さな虫などを捕食して生きる、大人しくて臆病、かつひ弱な種である。本来必要のないはずの運動能力を有しているのは、元々は食獣植物として大型の生物を獲物としていた名残ではないかと言われている。
・サーペストは雌雄同体である。より厳密にいえば、サーペストとしての一個体の中に植物で言うところのおしべとめしべが同時に存在している。
・サーペストは何とでも【交尾】する類稀なる特徴を有している。交尾の際は発情した犬やウサギと同じように、対象に対して腰を振るという特有の行動を行う。
・交尾により、サーペストは自身の種子を対象に植え込む。この時、栄養豊富で媒介性の非常に高い特殊な魔法液も一緒に注入する。この魔法液は白濁した粘性の高いものであり、特徴的な芳香を有する。
・交尾によって植えられた種子(多くは交尾行動によって開けられた穴に魔法液と共に植えられている)は、速やかに芽吹き、速やかに成長して樹となり、そして結実する。結実した実からは新たなサーペストが生まれる。
・生まれたサーペストが交尾可能になるまで(成体になるまで)、およそ五秒くらいである。
・サーペストの交尾は長くてもだいたい三秒くらいである。
・サーペストが再び交尾可能になるまでほぼ五秒くらいである。
・サーペストの種が芽吹くのはおおよそ五秒くらいである。
・サーペストの種が樹となるまで概ね五秒くらいである。
・サーペストの樹に実が生るまでざっくり五秒くらいである。
・サーペストの実からサーペストが生まれるまでざっと五秒くらいである。
・サーペストの樹が新たな実をつけるまで約五秒くらいである。
・生まれたサーペストは、交尾されたものの特徴を有する。例えば大地と交尾して生まれたサーペストは大地の魔力を身に纏い、土塊のような見た目をしていることが多い。鳥と交尾して生まれたサーペスト(ここでの交尾とは、あくまでサーペストの特性としての交尾であり、一般的な生物学における交尾ではない)は、未発達の翼のような器官を持ち、全身に羽が生えていたりする。珍しいケースではあるが、マグマと交尾することによって生まれたサーペストは、全身がマグマで構成されていたという。
・サーペストの交尾とは、あくまで魔法植物として種子を植える特殊な形態と言うだけであり、動物における交尾とは大きく意味合いが異なる。生まれてくるサーペストが交尾されたものの特徴を有するのは、植え付けられた種が魔法液を媒介に交尾されたものの魔力を吸い取っているからである。決して交尾によって孕まされているわけではない。
・上述の通り、サーペストの交尾によって生えた樹は、次々に新しいサーペストを生み出していく。交尾された対象が生物であった場合、その樹を切り倒さない限りどんどん生命力や魔力を奪われてしまい、衰弱する。
・サーペストの性欲は旺盛であり、基本的に何にでも交尾しようとする。また、生まれてすぐに交尾可能になるほか、体力の回復もすさまじく早いため、目についたもの全てに交尾しようとする。基本的にサーペストは貧弱で攻撃力もまるでないが、尋常じゃない勢いで増えるため、あっという間にその周囲の土地を荒らすことになるという、害虫として悪質極まりない性質を持っている。また、単純に醜悪な見た目の大量の小人が発情して腰を振る姿は、その光景を見るものに尋常じゃない精神的ショックを与える。
・魔物は敵。慈悲はない。
悪性魔法生物学の名にふさわしすぎるくらいに悪質な魔法生物って感じ。全然強くないのに、ただひたすらにすごい勢いで増えてそこらで盛るという、この世の嫌がらせのために生まれてきたんじゃねーかってくらいに哀れな生き物と言わざるを得ない。
『…………何がどう悪性なのかは、あえて語るまでも無いな?』ってグレイベル先生は執拗に腕を気にしながら語る。単純にすごい勢いで増えていくってだけで、畑を荒らすことになったり山の恵みを当たらしたり……その土地が不毛の大地となる要因になるわけだし、糞尿その他問題が腐るほど生まれるのだろう。
何よりヤバいのが異種交配。基本的にこいつら弱いけど、数だけはいるし……そして、交尾が凄まじく迅速なものだから、割と凶悪な魔物に対しても交尾が成功してしまうらしい。『昔、ドラゴンと交尾しちゃったサーペストがいてね……そのときはもう、ホントに酷い被害になったんだよ……』ってピアナ先生も遠い顔。
しかもドラゴンみたいにただ純粋に強い奴ってだけなら、実はそこまで問題でもないらしい。明らかな害虫とか毒虫とか、広がって増えると被害が加速度的に増えちゃいそうなやつと交尾されるとホントにヤバいんだって。
おまけにこいつ、その守備範囲(?)がめちゃくちゃ広い。『すぐさま殺すか、ガチガチに縛って転がしておくか……あるいは、鉄の檻にでも入れておけば大丈夫ですよね?』ってクーラスが質問したんだけど、『…檻の鉄と交尾するから無駄だ。それどころかこいつは水とも、風とも、光とも、闇とも交尾するぞ』ってグレイベル先生が衝撃の追加情報をくれた。やべえって思ったよね。
『形も実態も無いのに交尾するの!?』ってポポルも驚愕。『…燃える火だろうと交尾するぞ。不思議とそれは焼け爛れないんだがな』ってグレイベル先生は淡々と呟く。生まれてきたサーペストは、全身が燃え上がっていたそうな。
ちなみに、サーペストの股間にあるのは細長く筒状に発達した花であるらしい。より厳密にいえば、すごく長い茎の先端に花がついているのだとか。 詳細な形については、この日記に書く気はない。
サーペストの驚きの生態はまだまだ続く。『じゃあ、魔法的に断絶された空間に閉じ込めれば完璧だろ!』ってフィルラドが冴えたアイディアを提案。ところがすぐさまピアナ先生が、『一緒に閉じ込められた仲間か、自分自身に交尾して増えるんだよね』って疲れた顔で反論。『「殖える」って性質のサーペストが普通のサーペストのそれとは比べ物にならないくらいに爆発的に増えて、最初のそいつは交尾のされ過ぎで衰弱死しちゃうかな』とのこと。
なお、残りのサーペストは共食いが一割、他は圧死するらしい。『衰弱死する前に増えすぎて潰れちゃうんだよね』ってピアナ先生は言ってた。
こんなクソみたいな性質を持つサーペストだけど、この性質を上手く役立てられないか……とかつては研究されていたんだって。『…飢饉対策として、食用肉の特徴を持たせたサーペストが作れれば、これ以上に無いほど効果的だからな』とはグレイベル先生。たしかに、家畜の牛や豚、鳥なんかの特徴を持つサーペストを作れれば、肉の問題は解決する。
それだけでなく、イチゴや桃、グレープの特徴を持つサーペストが入れば、真冬でも好きなだけ瑞々しい果物が食えたりもするだろう。無駄に生命力だけはありそうだし、冬だからと言って実りが無い、なんてことはないはずだ。
が、『…一応増えるには増えたが、どれも不味くて食えたものじゃなかったらしいぞ』ってグレイベル先生は言っていた。サーペストを飼育するということに付随するリスク管理に対してコストも見合っていなかった他、見た目もアレで精神的にもよろしくなかったのだとか。
『じゃあ、もう研究はされてないんですか?』ってクーラスが質問。『…案外、そうでもなくてな。家畜としてはどうしようもないが、魔法実験に使う生物としては意外と優秀だ』ってグレイベル先生。凄まじい勢いで代を重ねていくものだから、その手の生物実験や魔法薬の実験では大活躍するらしい。管理が大変なために、学生じゃ滅多に使えないらしいけどね。
そして意外なことに、『…コイツの魔法液を加工したものが、とある薬になる。また、コイツの炭焼きがやっぱりある薬になる。これが昔からそれなりに需要があり、良い値段になる』ってグレイベル先生が更なる情報を。こんなクソみたいな生物でも、一応は何かの役に立つのだと感動した瞬間だ。
ちなみにその薬については、『……今のキミたちには必要ないやつだし、知る必要も無い奴だと思うよ』ってピアナ先生が真っ赤になりながら教えてくれた。せっかくなので『後学のために、ぜひともピアナ先生に教えてほしいのですが』ってお願いしたら、『……治療薬ともいえるし、そうでないともいえるけど……とりあえず、女の子には絶対に使わない薬だよ』ってヒントだけはくれた。
女の子は使わない、治療薬ともいえるしそうでないともいえる薬……筋力増強剤とかかな?
ちなみに件の薬、良い値段になるしサーペストの特性上大量生産が容易でコストも限りなく低いから、裏でこっそり増やそうとしたブローカーがヘマをして、大惨事になる例が後を絶たないのだとか。『…地獄だぞ、あの光景は』ってあのグレイベル先生がげんなりするレベル。なんか学生時代、近くでサーペストの大量発生があったらしく、生徒全員で駆除に駆り出されたことがあるんだって。
授業についてはこんなもん。正直あまりしっかり描くとセクハラになりかねないし、そして俺の精神衛生的にも色々ダメージがデカいのでこのへんにしておく。
夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。今日の女子は雑談もあまり盛り上がらず、早々に部屋に引き上げる人が多かった。男の俺たちでさえ気分が最悪だったわけだし、女子にとってはもっと最悪な気分だったのだろう。
『……気分転換、させて?』ってロザリィちゃんが腕を開いてきたので、全力で抱きしめておく。『おねがい、何もかも忘れさせて……』って目をつむってきたので、精いっぱいの愛をこめてキスをさせていただいた。これで少しは良くなってくれると良いんだけど。
ギルは今日も大きなイビキをかいている。『……俺の筋肉、汚れてないよな?』ってあいつは風呂場で頻りに体をこすっていたっけ。何度かサーペストに腰をカクカクされたらしいんだけど、それにしては樹が生えてこなかったから不思議に思っていたらしい。単純にギルの筋肉が硬すぎて植え付けられなかっただけだと思う。
ギルの鼻にはサーペストの種……なんてものを持ってくるのもおぞましかったので、子供の夢でも詰めておこう。これで俺もギルもいい夢を見られる……と信じたい。