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290日目 魔法流学:次元解析と相似則

290日目


 種にひび割れ。中から何かが孵化(?)しそう。ヤバそうだったので槌で砕いてトイレに流しておいた。セーフ。


 ギルを起こして食堂へ。週明けだからかやる気のなさそうな人がいっぱい。みんな眠そうで、女子は女子同士寄り添いあって暖を取ろうとしているし、男子は男子で使い魔どもを押しのけて暖炉に当たろうとしている。『ふーッ! ふーッ!』ってちゃっぴぃが威嚇しまくっていたから、結局当たれてなかったけどね。


 『週明けのこの日が一番ベッドから離れたくないんだよなぁ……』ってゼクトはぼやいていた。眠いし寒いし授業に出たくないしでめちゃくちゃベッドが恋しくなるのだとか。気持ちはよくわかる。


 朝食はあえて極甘ココアにしてみた。確認するまでもなくめっちゃ甘く、そしてなんかこうのど越しが重い。美味しいっちゃ美味しいけれども、一気にゴクゴク飲めるってわけではない。


 『えっ、ココアはこれがいいんだろ?』って甘党のジオルドは不思議そうにしていた。『ウチの妹の時はもっと甘いぞ』という情報も、もしかしたらあいつが甘党なのは、妹の味覚に合わせているうちに自然とそうなっただけ……なのかもしれない。


 ギルはやっぱり『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。『ジャガイモ食べさせるとこの子もけっこうあったかくなるの』ってミーシャちゃんもギルによじ登ってクレイジーリボンにジャガイモを食わせていた。あったかいリボンって防寒具としてどうなんだろうね?


 さて、今日の授業はミラジフによる魔法流学。あえて書くまでもなく今日もあいつはしかめっ面。しかもなんか手に結構な霜焼け(?)みたいな跡があって、若干指が震えているというか、かじかんでいるというか……まぁ、ぷるぷるしていた。


 『アホ共の尻拭いを朝からする羽目になった。本当に諸君らは人の神経を逆なですることにかけては天才的なセンスを持っているな』って嫌味も全開だったんだけど、マジにあれなんだったんだろうね? 研究室の上級生がまたなんかやらかしたか、アエルノの方で何かやらかしたか……まぁ、俺の知ったこっちゃないしべつにいいか。


 肝心の授業内容だけれども、今日は次元解析と相似則について学んだ。一般的に、魔法流体的なモデルってのはすんごく複雑で、その魔法的解析には理論はもちろん、実験だって有効な手段である……ものの、得られたデータをどう整理して表示するのかって問題が付きまとってくる。


 そんなときに役立つのが次元解析。より正確にいえば、得られたデータに対してそれに関与する魔法的相互関係がどうなっているかを魔法的に定めていくことそのものを次元解析と呼ぶ。基本的に魔法的な釣り合いを表す魔法式は、一貫した単位系を用いた時はどんな単位を使おうと成立していなくっちゃおかしい。そういう魔法式を完全魔法式って呼ぶんだけど、この時の各項は次元的に同次と呼ばれる状態にあるのだとか。


 『諸君らにもわかりやすく例えるとするなら、ある魔法体が持つ魔度と、別の魔法物体が持つ魔力そのものを単純に足し合わせて式にすることはできない、といったものだ』ってミラジフ。普通にわかりづらかったので、『ギルの筋トレの回数と、今日の気温を足すのは理屈としておかしいってことですよね?』って俺がミラジフを立たせる形でフォローを入れてみれば、『そう思うのならそう思えばいい』っていうアホみたいな答えが。やる気あんのあいつ?


 ともかく、次元解析ってのは同じ単位系になる様に魔法式をこねくり回して変形する作業のことを指す。同じ単位系であるならば、たとえそれが一般的に扱われないようなもの(それこそギルの筋トレ回数を俺の優しさで除したものなど)であったとしても、式として成立し、相似的な関係性として成り立つってことね。


 書いてて思ったけど、ここのところ普通に箇条書きにすればよかった。とりあえず、いかに次元解析に関わる要素の一つである相似則について記す。



・相似則

 二つの魔法的現象間に関連があり、一つの現象からもう一つの現象の推論が成立するためには、これらの間に相似性が保たれてなくてはならない。この「互いに相似である」ことを定める条件を相似則と呼び、代表的なものとして以下の三つがある。


・幾何学的相似

 対象のそれぞれの幾何学的な長さの関係性が同じであること。絶対的な数字が同じと言うわけではなくて、あくまで比率が同じならそれぞれの間に幾何学的な相似性があると言える。


・魔法学的相似

 対象同士における対応した流線が幾何学的に相似であり、そしてその魔法的な速度の比率がすべて等しいとき、魔法学的に相似であると言える。


・魔力的相似

 幾何学的相似かつ魔法学的相似関係にある対象の中で、相対応する箇所に負荷される魔力の比がすべて等しいとき、魔力的相似にあると言える。


・ライルー法

 考えている魔法現象について、必要と思われる魔法量を選定し、次元解析を用いて無次元の係数を仮定し、べき数による関係式を作成。式の両辺における基本量の指数を等しく置き、各魔法量の指数を定めることで関係式を得る手法。



 難しく書いたけど、要は形が似ていて関係性があるのなら、一方がわかればもう一方のほうも導けますねってこと。相似則を成立させるための手段の一つとして次元解析を行い、相似関係にあるモデルを作成するってのがその本質なのだろう。


 生徒を代表して俺が『具体的にはどんなところで活用するのですか?』って聞いてみる。『教科書を読みこんでから質問しろ』って言われた。ひどくない?


 ともあれ、教科書には【デカかったり複雑だったりとかで試作してちょいとお試ししてみましょ、ができないモデルに対して、相似則の成立する小型簡易モデルを作れば、手軽に実制作した際の現象を確認することができるって寸法よ!】って書かれていた。


 たぶん……というか、この前の創成魔法設計演習でステラ先生がやっていたようなアレのことだろう。あの時ステラ先生は俺たちが図面でとりあえず考えたモデルに対し、相似則の成り立つそれを簡易的に構築することで、それが実際に作られた際に起こる現象ってものを再現して見せた。


 よく考えてみれば、図面のそれをきっちり厳密に再現したわけじゃないのに、どうして簡易的に作ったそれが図面のそれを模擬していると言えるのか……って疑問が出てくるわけだけれども、それの答えが次元解析と相似則にあったってわけだ。


 何気ないところでさらっと高度な魔法的現象を使いこなしているステラ先生が最強可愛い。授業で教えられたって理解するのに時間がかかるのに、それを自身に身に着いた知恵として活用できるんだもん、さすがはステラ先生と言うほかない。


 授業についてはこんなもん。みんなミラジフの嫌味がアレ過ぎてほとんど理解できていなかったけど、俺とクーラスが『デカい風車の代わりに、それをきちんと模擬した模型の小型風車を作って性能を確かめるようなもんだ』、『丸焼きの味を確かめたいときに、架台じゃなくてフライパンで焼いて試食を作るようなものだよ。実際に架台で一日かけて試食を作るよりも、フライパンの方が時間も材料も断然少なく済むだろ?』……って教えたら『あ、そういうことね!』って理解してくれたっけ。


 中でもアルテアちゃんの理解はすさまじく、『そっか、規模を変えただけで現象そのものは同じであるってことを示すのが相似則で、それの証明と言うか、その条件の割り出しに使うのが次元解析か……!』ってほぼ完璧な仕上がり。難しい言い回しをしているだけで、結局示していることそのものは意外と単純なんだよね。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、ロザリィちゃんが『ちょっと次元解析させてください』って俺にぎゅーっ! って抱き着いてきたのを覚えている。『ほおほお……ふむふむ……』って次元解析の名のもと体中のあちこちを弄られた気がする。


 『結果はどうだった?』って聞いてみたら、『……今日もだいすきでしたっ!』ってキスされた。わぁい。


 ギルは安らかにクソうるさいイビキをかいている。こいつ、『俺の筋肉がその程度で解析できるとは思わんことだな……!』って教科書にメンチきってたんだけど、マジで何がやりたかったんだろう? こればっかりはどう解析しても真っ当な結果は出て来ないと思う。


 まぁいい。さっさと寝るとしよう。ギルの鼻には……床に落ちてた何かの蓋でも詰めておこう。酒でもないし魔法薬の瓶のでもないし……何の蓋だろうね? グッナイ。

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― 新着の感想 ―
[一言] トイレ掃除お疲れ様です どこかのバカがごめんなさい 本命:ビン本体に変わっている 対抗:フタが巨大化 大穴:ギルの目がフタっぽい
[一言] ミラジフ先生、朝からトイレ掃除おつかれっす! 本命:ギルの体液がジュース 対抗:ギルの体液が酢 大穴:ギルの体液がテトラヒドロフラン
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