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284日目 発展魔法材料学:魔度処理について

284日目


 紙やすりがなんか荒々しいかんじになっていた。グレたのかな?


 ギルを起こして食堂へ。今日はなんかどんよりしていて全体的に薄暗い感じ。雨こそ降っていなかったものの風が強めで、まさに暗くて寒い冬って感じの気候。


 そんな天気だったからか、今日も使い魔たちが暖炉の一番あったかいところを占拠していた。使い魔に混じってポポルとミーシャちゃんもいた。毎度のことながら、なんであいつらあんなにナチュラルに使い魔たちに混じれるんだろうね?


 『人間のための食堂なのに、なんで暖炉は使い魔しか使えないんだろうな』ってゼクトがぼやいていたのを覚えている。『そっちのグッドビールもウチのメリィもあったかそうな毛皮あるじゃん。暖炉無くてもいい奴じゃん』ってずっとグチグチ。


 どうしてあいつはさりげなく隣を確保し、赤くなった手を所在なさそうにプラプラさせているライラちゃんに気づかないのか。そんなんだから惚れ薬を飲まされる羽目になるのだと思う。


 朝食にてブラックコーヒーをチョイス。ここらで一つ、眠気をさっぱりさせたかったゆえである。相も変わらず俺のお膝の上のちゃっぴいは『きゅう……』ってすんげえぶんむくれたツラして不満たらたらなんだけど、それでなお一口は必ず飲むって言うからわけがわからん。


 あと、ロザリィちゃんが『今度こそ……!』って俺のカップを手に取ってブラックに挑戦。『うぇぇ……!』って三秒で撃沈。『口直しちょうだい……!』ってそのまま普通にキスされた。きゃあ。


 俺たちの様子を見ていたクーラスが、『末期かな、最近アレみても何も思わなくなった』って言ってた。同じくジオルドは『なんかもう、アレらはそういう生き物なんだなって思えるようになった』って言ってた。『てめえが言うな』、『毎朝見せつけやがってよぉ……ッ!』ってジオルドだけケツビンタされていたことをここに記す。


 ギルは普通に『うめえうめえ!』ってジャガイモを貪っていた。何気にコイツ、滅多にミーシャちゃんといちゃつくところ見せないよね。


 今日の授業はシキラ先生の発展魔法材料学。『この前の保健室は最高だったぜぇ……!』ってシキラ先生はご満悦。『何て言うのぉ? 俺のカッコいい白衣姿を見たがる奴が続出でな? かーっ、普通の先生ってだけでもこんなに人気なのに、白衣まで着こなしちゃう俺ってマジ最強じゃね!?』って戯言も。


 あの人の場合、純白の天使じゃなくって純白の悪魔だろう。それもだいぶタチの悪いほうの。


 『何人保健室送りにしたんですか?』って聞いてみる。『泣いて楽にしてくれって頼む奴がけっこういてな……二十を超えた先から数えてねえや!』とのこと。【楽にしてくれ】が治療の前に言われたのか、あとに言われたのか、それが問題だ。


 ちなみに、ドクター・チートフルはもう全快したらしい。『あの人も仕事人だよな……「私が早く復帰しないと、ケガした学生が困ることになる」って気合でなんとかしたんだよ』ってシキラ先生は言っていた。単純に、悲鳴が多すぎて落ち着いて休めなかっただけだと思う。


 肝心の授業内容だけれども、今日は魔度処理について学んだ。前回までに魔法疲労破壊について学んだわけだけれども、今回はそれに対する対策……ってわけじゃないけど、比較的手っ取り早い方法で材料を強化するにはどうすればいいのってやつね。


 『去年の授業でも教えたが、魔法材料の強度を決める要因の一つとして、魔晶の構成や組織の状態が挙げられる。魔度処理ってのはうまい具合に良い感じの魔度を与えてやることでこの組織そのものを制御し、目的の性質を材料に与えることを指す』……ってシキラ先生は言っていた。いきなり昔の話を出されてもこっちとしては困るって言う。


 ……というか、どこかで聞いたと思ったら、この前のドラゴンテールステーキの時に調べたアレだった。


 とりあえず、魔度処理として代表的なものを以下に示す。



・マジックノーマライジング

 いわゆる焼きならしと呼ばれる魔度処理。ある程度の魔度まで上昇、保持させた後はそのままほったらかしにして魔度が落ち着くのを待つっていう操作。主に流造品や撃造品などにおける粗大な魔晶・組織を微細化し、粒形を均一化させることでそれそのものの魔法的性質を改善させる。


・マジックアニーリング

 いわゆる焼きなましと呼ばれる魔度処理。適当な魔度まで上昇、保持させた後にゆっくり「冷やしこむ」操作のことを指す。魔法加工後の材料の均質化、残留魔応力の除去、すなわち魔法材料の平衡状態化を目的とする。また、十分に魔度を保持し、非常にゆっくり冷やしこんでいく操作をフルマジックアニーリング(完全焼きなまし)と呼び、一般的なマジックアニーリングは大体全部これを指す。他にも亜種があり、魔法合金などの材料の濃度の不均質部分を除去して均質化させるディフュージョンマジックアニーリング(拡散焼きなまし)や、マジックアニーリングという操作の関係上どうしても避けられない魔度の上昇に伴う魔法材料の変質を避けるため、不活性魔法雰囲気や封印状態の中で行うブライトマジックアニーリング(魔晄輝焼きなまし)などがある。


・マジッククエンチング

 いわゆる焼き入れと呼ばれる魔度処理。いわゆる一般的な魔法鋼に対し、みんな大好きオステルを急冷して硬化、マルテルにさせる操作のことを指す。決してカチコミのソフトな言い回しではない。主に硬化による耐魔耗性の向上が見込める。材料を硬化させるという目的に対し、物理的な材料の大きさにより、表面はマルテル化しても内部はマルテルにならないことがある(質量効果)。また、魔法伝達率の関係より材料に魔度勾配が生じるため、材料によってはマジッククエンチングのしやすさが大きく異なる。このような、マジッククエンチングのやりやすさを一般的に焼入性と呼ぶ。


・マジックテンパリング

 いわゆる焼き戻しと呼ばれる魔度処理。マジッククエンチングしてマルテル化した魔法鋼は硬いが脆い(魔靭性:淵性に欠ける、あるいは崩性がある)ため、コイツを良い感じに魔度処理してしなやかさを持たせ、扱いやすくすることを目的とする。基本的にマジッククエンチングとセットで扱われるため、これ単体を実施することはない。いつぞや何かの授業で習った、魔法処理をすることで内部はしなやかに、表面の魔硬はがっつりとした理想の状態を作り出す……ってのがこれのはず。



 ざっくりこんなもん。いろんな種類があるけれども、結局やっていることは魔度を上げたり下げたりして目的の組織を創り出し、望みの魔法的性質を付与しようとしているだけ。いちいちそんなのに名前を付けるのはどうかと思わなくもない。


 ちなみに魔度処理はこれ以外にもあるらしく、『中間焼きなましや魔応力除去焼きなまし……目的によって割と名前が付けられているな』とのこと。考えた人は暇だったのだろうか。『画期的かつ独創的な魔度処理を見つけたら、たぶん自分の名前が簡単に付けられると思うから、魔法材料学界に名を残したいなら挑戦するのもいいかもしれねえなァ』ってシキラ先生は言っていた。


 あと、魔度処理として具体的にどれくらいまで魔度を上げるか……ってのは、対象となる材料によって異なるらしい。『基本は魔平衡状態図だな。それわかってないやつは再履だろ』ってシキラ先生。魔度操作と材料の組成の問題だから、アレが理解できていなければ意味が無い……逆に言うと、理解していればそこまで悩むものでもないらしい。


 『俺終わった』ってポポルが絶望の表情。『悲しいなあ、俺があんなに丁寧に教えてやったのに、お前らにはちっとも伝わらなかったんだもんなぁ!』ってシキラ先生がニヤニヤしながら煽ったと思ったら、パレッタちゃんが真顔で『一年前の夕飯のメニュー、思い出せるとでも?』って突っ込む。


 その一言をきっかけに、『そうだそうだ!』、『オラ言ってみろよ!』、『一週間だって怪しいのに、一年前のなんて覚えてるわけないじゃん!』って教室中から不満の声が。どうやら連中にとって、本業であるはずの学業は夕飯のメニューと同じくらいどうでもいいものらしい……いや、ある意味じゃ重要なのか?


 さすがのシキラ先生も、これには『今度からその言い訳、学生部の連中に使わせてもらうわ!』ってにっこりだった。『そうだよな、俺だって一週間前の夕飯覚えてられねえもん! こいつぁうっかりだったぜ!』ってすんげえルンルン。もしかして、教えちゃいけない人に教えちゃいけないことを教えちゃったのかもしれない。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談中、パレッタちゃんがちょっとした英雄扱いを受けていた。『俺も今度からあのフレーズ使うわ』、『学生にばかりトンチキなことを覚えさせようとする方が悪いんだよ。その都度教科書見たり調べればいいだけじゃん。何のための教科書だよ』って、みんなが吹っ切れた様子。板書の量が多かったし、もしかしたら疲れていたのかもしれない。


 パレッタちゃんはただ一言、『讃えよ』って言ってた。とりあえず讃えておいた。


 ギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいている。なんとなく『一年前の夕飯を覚えているか?』って聞いてみたら、あいつはちょう満面の笑みで『昨日はジャガイモ、一昨日もジャガイモ、その前も、ずうっと前も……当然、一年前もジャガイモだ! 俺の脳筋すげえだろ!』って言ってた。ちょう賢いなって思った。


 久しぶりにガッツリめにメモを取ったからか指が痛い。俺もさっさと寝るとしよう。ギルの鼻には……シンプルに結界石でも詰めておくか。


 最後に一言。


 『そういえば、新年会の後は大丈夫でしたか? ずいぶん飲み過ぎていたようですが』って授業後にシキラ先生を煽ったら、『てめえ、覚えてろ。必ずリベンジするから』って割とガチめに凄まれた。今度はもっと美味しいお酒&おつまみを食べられると良いなあ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 出た、面倒くさいやつ 本命:異常魔力物質 対抗:結界の構造が変質 大穴:ギルの体表に結界生成
[一言] 昨日は煽って大変申し訳ございませんでした 明日から働きたくありません タイムマシーンの開発をお願いします シキラ先生みたいに酒で人を潰す作業したい
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