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279日目 保健室の天使

279日目


 フラッグが折れてた。それだけ?


 ギルを起こして食堂へ……行く前にクラスルームへ。昨日のお土産を悪くしてしまうのもアレなので、温め直して軽くつまめる感じに仕上げておく。朝飯としては若干重いと思わなくもないけれど、俺たちは若いから特に問題ない。


 そうこうしている間に匂いにつられたのか、いつもより早い時間にみんなが起きてきた。『美味そうな匂いに混じって度し難い程の酒臭さがする』と眉を顰められたのだけは未だに解せぬ。


 さすがに全員がおなか一杯になるほどの量は無かったけど、みんなそれなりに満足していたっぽい。『一晩おいてもこの美味しさなの……!?』、『めっちゃ金使ってるなあ……!』などなど、一口食べただけでクオリティが全然違うことにみんなが気づいていた。


 『ちくしょう、舐めやがって!』、『こんなに美味しいのが食べられるなら、私も行きたかったの』ってパレッタちゃんとミーシャちゃんは言ってた。『連れて行きたいけど、お酒に強くないとあの場にいるだけで大変なことになるよ……』って死んだ表情で語るステラ先生を見て考えを改めていたけれども。


 食堂にて、朝飯としてヨーグルトをチョイス。だいたいみんな、デザートとかで軽く済ませていた気がする。俺もちゃっぴぃにオレンジソースのそれを『あーん♪』してやったんだけど、あいつは今日はいつもほどは食べなかった。まず間違いなく、お土産の肉を食いすぎたせいだろう。


 『良い肉ついてんな!』ってちゃっぴぃの腹をむにむにして遊んだら、『ふーッ! ふーッ!』ってガチギレされた。ひどくない?


 ギルは今日も普通にジャガイモを『うめえうめえ!』って食ってた。みんなが食べなかったせいで残った朝飯も『みんな食わないなら俺食っちゃうよ!』って断りを入れたうえで『うめえうめえ!』って食いまくっていた。健康的なのは良いことだと思う。


 さて、そんな感じで朝のひと時を楽しんでいたところ、『みんな、生きてる……?』って若干疲れた顔のノエルノ先輩がやってきた。


 休みの日の、それもこんな朝の時間にやってくるなんて珍しいな……なんて思いつつ話を聞いてみる。『ドクター・チートフルが倒れちゃったから、しばらくは絶対にケガとかさせないように』とのこと。マジかよって思ったよね。


 『え……うそ……!?』ってこれにはステラ先生もびっくり。『ドクター、なんだかんだで今まで一度も倒れたことはなかったんだけどなぁ……』って不思議そう。倒れたこと【は】無かったといったところに魔系の闇を感じた。


 どうも、昨日一昨日で新年会を開催してバカをやらかした上級生が運ばれまくり、オーバーワークとなってしまったらしい。『私もあまり人のこと言えないけど、年末からずっとバカ騒ぎが続いていたから……けっこうエグく呪った奴もいれば、酒の勢いで研究対象の魔物を半殺しにしようとしたり……』などと、ノエルノ先輩が若干目を逸らしながら教えてくれた。


 とはいえ、これだけなら割といつも通り。狂おしい程呪われたり、体の一部が炭になったり、全身がヤバめの寄生蟲に寄生されるくらいなら、上級生には割とよくあること。


 問題なのは、『シキラ先生が二日酔いで弱っているのをいいことに、追い詰められた卒研生が一か八かの決死のカチコミをかけて……そりゃもう、泥沼の抗争が』っていうノエルノ先輩の証言の方。どうも俺たちの見えないところで、割とガチな魔法戦闘があったらしい。


 そんなわけで、今現在保健室にはいろんな意味で大変なことになっている上級生と、意外にも(?)軽傷を負ったシキラ先生、そしてそんな彼らの治療のために心身共に限界を迎えてしまったドクター・チートフルが横たわっているそうな。


 ちなみに、ノエルノ先輩曰く『まぁ、上級生の大半はシキラ先生に返り討ちにされた人たちなんだけどね。二日酔いのせいで加減ができなかったものだから、そりゃもう……』とのこと。シキラ先生が保健室にいるのも、ケガと言うよりも二日酔いのせいなのだとか。


 とりあえず、良いこと聞いたってんで保健室に行ってみる。タチの悪い亡霊みたいなうめき声が外からでも聞こえてきてびっくり。ここが保健室だなんて信じたくなかった。


 で、そのツラ拝ませてもらおうかと扉を開けてみる。『いらっしゃい。どこかケガしたの?』……って、白衣を纏ってにっこり笑うピアナ先生がいた。


 いや、ビビったね。ローブ姿じゃない……純白の白衣を纏ったなんとなく大人っぽいピアナ先生が、いつものドクターの椅子に座って俺を迎えてくれるんだもの。保健室の女の先生とか、はっきり言って反則じゃない?


 『どこもケガしてなくない?』って言われたので、『実はちょっと熱が』って言ってみる。先生、俺のおでこに手を当てて『……ないじゃん』って頭をぺしって叩いてきた。もっとやってほしかった。


 『実は恋の病なんです』って言ったら、『それはウチの管轄外かな!』ってあしらわれた。こういうところがステラ先生とピアナ先生の違いなのだと思う。


 ともあれ、なんでピアナ先生がお医者さん姿でここにいるのか聞いてみる。『ドクターが倒れちゃったし……私なら、専門じゃないとはいえ回復魔法使えるしね』とのこと。確かに言われてみれば、今まで何度もピアナ先生が植物魔法で治療行為をするところを見てきた気がする。


 『ドクターの快復のためにも、心残りとかはないほうがいいでしょ?』ってピアナ先生はにっこり。肝心のドクターは、ピアナ先生の植物魔法による聖花の寝台で、心身ともにリフレッシュしてもらっているのだとか。リラックス効果のある良い匂いのする花でできたベッドで、良質な睡眠により心も体もしっかり休めることのできるものらしい。『過労にはぴったりなんだけど、普段からこれを目当てにされると困るから、あんまり使わないんだ』ってピアナ先生は言っていた。


 ホントはもっとピアナ先生とお話したり、色々諸々治療してもらいたかったんだけど、『元気がある人はまっすぐ帰る様に!』って追い返されてしまったため断念。『せめてシキラ先生のお見舞いをさせてもらえませんか?』って食い下がってみたものの、『そうやって闇討ちしようとした人が今日だけで六組いたよ?』って言われてしまった。


 六組しかいなかったことにちょっと驚き……いや、大半はそもそも返り討ちにされて寝込んでいたんだっけか。


 クラスルームに戻った後、いろんな奴にどうだったって聞かれたのでありのままを伝えておく。『闇討ちに行くか』、『いや、ここは守って恩を売る方向の方がまだ可能性が』、『それより白衣ピアナ先生のほうが……』とわがクラスメイトも盛り上がっていた。


 『……白衣、好きなの?』ってロザリィちゃんに聞かれたので、『男子なら嫌いな奴はいないと思うよ』って答えておく。『男はみんなアホだってことだろ』ってアルテアちゃんがあきれたようにしてフィルラドのケツを蹴っ飛ばしていた。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。雑談はもちろん白衣のジャスティスで盛り上がった。『少し大きめでぶかぶかの白衣が最高』、『袖が長くて手が隠れ気味なのもグッド』、『白衣の下が意外と無防備なのも破壊力ヤバい』……などなど、男子一同己がジャスティスを語りまくった。


 最終的には、『大きめ白衣で、白衣の下はノースリーブのちょっと無防備なスタイルこそが至高』ということで落ち着く。女子たちの大半は蔑んだ目でこっちを見ていたけれど、何人かはきっちりメモを取っていたっけか。


 ギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいている。『俺バカだから風邪ひかないし、ケガもあんまりしないから白衣の先生に会える機会全然ないんだよな』ってあいつは言ってた。あいつがたまにまともっぽいことを言うとすごく怖く思うのはなぜだろう。


 まあいいや。ギルの鼻には……灰でも詰めておく。なんか俺のローブのフードに入ってた奴ね。グッナイ。

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― 新着の感想 ―
[一言] むしろよく今まで倒れなかったな……ブラック企業の社畜より酷い状況だったのか 本命:部屋が灰だらけ 対抗:ギルの髪が灰まみれ 大穴:灰の塊が存在
[良い点] この作品が最近読んだ作品の中で一番好きです。 毎日ありがとうございます。 [一言] 白衣にノースリーブ、凄くいい
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