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28日目 魔法回路実験:実験2の解説

28日目


 ギルの歯が白く輝いている。まぶしい。


 枕が昨日の血涙(?)の影響で真っ赤になっていたため、とりあえず染み抜きだけ済ませておくことに。なんとなくキート先生からもらった目薬を一滴だけ垂らしてみたところ、びっくりするくらいに枕カバーが白くなった。あの目薬、どんだけヤバい成分が入っているのだろうか。


 その後は普通に食堂へ。今日は実験だからか、バルトとアエルノの連中の顔が沈んでいる。アエルノチュッチュの連中の前で『今日は解説だから気が楽だよな』、『早めに終わるし、夜の散歩としゃれこむのもいいかもな』なんてゼクトと語っていたら、『てめえらマジぶん殴るぞ……!』、『いい度胸、してるよね……!』ってラフォイドルとシャンテちゃんにケツビンタされた。解せぬ。


 ちなみに、今日のちゃっぴぃはロザリィちゃんのお膝の上。ちゃっぴぃの癖に生意気にも紅茶をチョイスし、ロザリィちゃんに飲ませてもらっていた。


 『あっちっちーだから、ちゃんとふーふーしないとね?』って紅茶をふーふーしてから飲ませてあげるロザリィちゃんがマジプリティ。俺もふーふーしてもらいたかった。


 ギル? いつもどおり『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってたよ。ヒナたちもギルのジャガイモの山にヘドバンしてジャガイモを食っていたっけ。


 今日の授業は魔法回路実験の解説。ティキータの連中と共に教室へと赴きその時を待つ。今日の解説は……グレイベル先生。やったね。


 『…正直、専門じゃないから多少あやふやではあるが……』って前置きしてグレイベル先生は話し出す。きちんと正直に告白するところが本当に男らしい。さすがは俺たちの兄貴だ。


 さて、前回の復習兼解説として、マジックエミッタとマジックコレクタの特徴について学ぶ。グレイベル先生は大雑把に黒板にマジックエミッタ回路におけるベース魔力とコレクタ魔力の関係、マジックコレクタ回路におけるベース魔力とエミッタ魔力の関係をグラフで示した。


 この時点でティキータの何人かから悲鳴が上がったけど、つまりはそういうことだろう。奴らの絶望もヴィヴィディナが美味しく頂いてくれるから、決して無駄ではないはずだ。


 『…図は概ねこんな感じになっていればいい。細かい数値は各々の班で違うだろうが、それは誤差として処理するべきものだ。もちろん、あまりにも大きくずれているのは問題だが……変化傾向があっていればとりあえずは大丈夫だろう』とのこと。きちんとその辺をはっきり言ってくれるのってやっぱり最高だと思う。


 で、この図から何がわかるかっていう肝心な部分だけれど、『…マジックエミッタ回路の場合、ベース魔力とコレクタ魔力は最初は比例関係にあり、ある一点を超えたところでベース魔力に対してコレクタ魔力は定常の最大値をとる。すなわち、最初の方は増幅機構として、以降は純粋なスイッチ作用として用いることが出来る』……ってグレイベル先生は言っていた。


 正直よくわかんなかったけど、『…マジックライトダイオードの実験をしただろ? あの時、マジックエミッタ回路の場合は明かりはすぐにパッとついたはずだ。…つまりはそういうことだ』という大変わかりやすいお話をしてくださった。


 つまるところ、マジックエミッタ回路による制御ってのは、その【一気に最大値になる】って特性を利用し、明かりのように有か無か、あるいは魔法陣のように起動するかしないかってケースで使うのだろう。あの明かりの実験にはそういった意味が有ったってわけだ。


 さて、マジックエミッタ回路にそういう特徴があるとわかったなら、次に気になるのはマジックコレクタ回路。これについては『…こっちは逆に、ベース魔力に対してエミッタ魔力はずっと比例関係を取る。ただし、その変化傾向はマジックエミッタ回路に比べて緩やかであり、最大値を取るまでにいくらか猶予がある』とのこと。


 ここまで教えてくれれば誰でもわかる。『つまり、魔力量の細かな調整や、例えば回転魔法陣の速度制御などに使う制御回路なんですね?』って先走って答えてみた。


 グレイベル先生、たいそうワイルドな笑みを浮かべて『…その通りだ』ってほめてくれた。やったね。


 確認のため書くけど、マジックコレクタ回路による制御ってのは、その【ゆっくりと最大値になる】っていう特性を利用し、対象物を段階的に……というか、その作用量を調節するケースで使うものなのだろう。


 実際、明かりの実験でマジックコレクタ回路を組み込んだ場合、すんごくゆっくりじんわりと明るくなっていた。明るさの調整って意味ではいい感じだけれど、そもそも明かりなんて調整する場面があまりない。普通にさっさと点けよってなる。だから、明かりの点灯においてはマジックコレクタ回路は不向きってわけだ。


 ……いつもの食事処のおねーさんにメンテを依頼されるアレ、火力の調整にマジックコレクタ回路を使っているかもしれない。凄く単純な形だったとはいえ、今から思えばものすごく心当たりのありすぎる配線があった気がする。習った知識が存外身近に使われていてちょっとビビった。


 そして反対に、マジックエミッタ回路は魔力量の調整は苦手ってわけだ。すぐに増幅してパッと一気に増えるから、例えばそういった魔道具に用いた場合、いきなり全力でぶっ放してしまうってことになる。


 さっきの火力調整の竈を例にあげるとするなら、起動した瞬間に最高火力になって黒こげ料理が完成する。さすがにそれは制御法としていろいろ問題だ。


 いずれにせよ、きちんと用途に合わせて使い分けられるようにならなきゃいけないのだろう。マジックトランジスタの配線の違いでどうしてそんな現象が起こるのか、具体的な詳しい原理は知らん。


 前回の実験の解説はだいたいこんなもん。教科書よりグレイベル先生の解説の方がはるかにわかりやすくて大変素晴らしい。やっぱりあらかじめこういうことを教わり、なんのためにそれをするのか、それがどんな風に使われるのかを理解したうえで実験した方がよっぽど身に付くと思った。


 軽くそのことを愚痴ったところ、『…ただ学ぶだけならそうかもしれんが、本来、実験とは明確な答えがあるものじゃない。得られた結果から何がわかるのか……それをどう活かしていくのかを考えるのが本来の実験であり、俺たちの仕事だ。魔系の研究者としての実践修行と思え』って言われてしまう。グレイベル先生が言うとすごく説得力があるから不思議だ。


 ちなみに、『…さっきも言ったが、俺も細かく突っ込まれると自信がない。…内緒だが、今日のこれもほとんどステラ先生とキート先生の受け売りだ』ってこっそりカンペ(?)を見せてくれた。さすがは俺たちの兄貴である。


 そんな感じで解説は終了。あ、次回の実験の準備として交流魔力制御回路とマジックヒステリシス防止回路とやらの概形を作ったけど、正直よくわからんかった。この辺からさらに回路の複雑さがヤバいことになってきていて、配線を目で追うだけでやっとなレベル。もう来週の俺に全部任せようと心に決める。


 ただ、『…絶対にポシム先生から言われると思うが、次回の実験ではかなりの高圧魔圧を扱う。非常に危険だから注意するように』って警告があった。今までの実験もだいぶ危険だと思うけど、あえてこうしてグレイベル先生が注意を促すってことはそれ以上に危ないのだろう。気を引き締めておかないと。


 そして本日のハイライト。授業終わりに実験室に赴き、アエルノとバルトの連中がひーひー言ってるのを横目にレポートの返却をしてもらう。さすがに三回目の提出だし、最初の水色のレポートくらいは合格を貰えるだろう……なんて思っていた俺がバカだった。


 『ちったぁまともになったじゃん?』って渡されたそれ、全項目の七割しか達成できていなかった。あれだけ頑張って直したのに、まだ三割もダメな部分が残っていた。


 しかも、そのチェックを通らなかったところってのが考察の部分。コメントには『何言いたいのかわかんねえ』って乱雑に書かれている。


 さすがに唖然。まさかこんな評価を突きつけられるとは。思わずキイラムに抗議したところ、『あー……ソルカウダのゴタゴタのせいで、みんな時間がなくてイライラしてたんだよなァ……』って謝られた。そういうことを聞きたいんじゃねえ。


 で、中身について質問する。すると、『あのな、正直言うとお前が何を言いたいのかってのはなんとなく推測できるんだわ。でもって、お前がちゃんと物事を理解し、きっちり考察できてるんだろうなってのもなんとなくわかるんだわ。お前に関していえば、そこら辺は一応信頼している』ってキイラムは衝撃の事実を告げた。


 『じゃあチェック通してくださいよ』って至極真っ当なことを言ったところ、『俺だって学生だし、出来ることなら後輩の味方になりたい。……でもな、お前のこの書き方はレポートとしてはなってないんだわ。俺たちは教科書や実際の実験を見ているから、何を言いたいのか、何をしているのか、結果がどうなってそれから何がわかるのかってのが全部わかるけど、何も知らない人がこれを見ても話が通じねえんだよ』って返された。マジ何なの?


 ともあれ、『厳しいこと言うようだけど、最初はみんなそうだから。ここを乗り越えればこうやって突き返されることは無くなるぜ?』ってキイラムに肩をポンポンされて突っ返される。


 そして、ここからさらに衝撃の事実が発覚。クーラスとダメだったところをチェックしあっていたところ(あいつもやっぱり俺と同じくらいの出来栄えだった)、俺とほぼ同じ内容なのにあいつはチェックを通っている箇所を発見。クーラス自身、『なんでこっちが大丈夫でお前がダメなんだ……?』って首をひねっていた。


 さっそくクーラスのレポートを持ってキイラムに抗議しに行く。キイラム、俺たちのレポートを見て『あー……そういうパターンね……』って呟いた。


 『おい、このレポート添削したの誰だっけ?』って周りに聞いて、『筆跡的にお前だろ。感じからして二徹して寝ぼけてた頃のだな』と返される。なんかもういろいろヤバい。


 で、『うん、ホントごめんな。今後こんな間違いしないようにするから』って──


 ──クーラスのレポートに大きくバツを付けた。


 『悪ぃ、通しちゃダメなやつなのにそのまま通しちまったっぽい。……別にそのまま受け取ってもいいけど、先生のチェックで確実に落とされるぜ? いやぁ、気づいてよかったな!』ってキイラムは大して悪びれた様子も無く告げる。


 クーラスはただただ茫然として口をパクパクさせていた。……ちょっと罪悪感を覚えたのはここだけの秘密だ。


 結局そんな感じでレポート返却は終了。当然のごとく俺たち以外もみんな阿鼻叫喚。というか、一番進んでいる俺たちでさえあのザマなのだ。他のところがどれだけひどいかなんて、正直惨すぎてここには書けない。


 あ、ピンク色のレポート(二回目の実験のやつ)は二割ほどの項目がチェックを通っていたよ。全滅だった最初の実験に比べれば進歩したのだろうけど、それでも破滅的な状況であるということに変わりないのが困る所。まぁ、これに関しては今日のグレイベル先生の解説を反映させれば何とかなると思うんだけど……。


 夕飯食って風呂入って雑談して今に至る。今日は実験が無かったのに、夕飯時のみんなの顔が暗かった。丸々二つ分の実験レポートが溜まっているし、来週は三回目の実験もある。このままどんどん溜まっていくと考えると夜も眠れない。


 ちなみにだけど、『もう終わりなの……レポートの枚数が絶対四十枚は超えるの……』ってミーシャちゃんが雑談中に死んだ目をして呟いていた。もはや泣き叫ぶ気力も流す涙もないらしい。俺も追加修正分を考えたら下手したら三十枚を超えるかもしれない。なんとか次くらいにはケリをつけたいものだ。


 こんな大変な事態なのに、ギルは今日も大きなイビキを書いて安らかに眠っている。こっそりちょろまかしたキイラムの髪の毛を詰めておくことにしよう。どんな変化があるのかちょっと楽しみ。おやすみなさい。

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