278日目 年明けのサバト
278日目
【あけましておめでとうイモ! 今年もジャガイモ妖精をよろしくイモ!】ってジャガイモに浮かび上がっていた。ちなみに夢は特に見ず。タイミング読めよって思った。
ギルを起こして食堂へ。新年二日目と言うこともあり、やっぱり今日も食堂には人が少ない。昨日はなんだかんだで年明けテンションで朝から元気なやつもいないことはなかったけれど、今日は昨日一昨日の疲れが一気に押し寄せたのだろう。なんとなくおばちゃんもお疲れ気味だったような気がする。
朝飯はあっさりめということで野菜スープをチョイス。ここしばらく暴飲暴食が多かったから、少しでも胃に優しいものを食べようと思った次第。俺のお膝の上のちゃっぴぃも、これならサラダよりかは『あーん♪』の構えを取ってくれるので、そういう意味でも都合が良かったと言えよう。
あと、ロザリィちゃんが『パぁパ、私も!』って甘えてきてくれてちょう幸せ。ちゃっぴぃの隣に並んでお口を『あーん♪』って開けるところなんて最高に可愛い。しかもそれでいて恥ずかしいのか、『……あ、あんまりまじまじとは見ないで?』って上目づかいで懇願してくるところがもうマジプリティ。
『最近もう、止めても無駄なんじゃないかなって思うようになってきた』ってアルテアちゃんが妙に達観した瞳でこっちを見てきていたのが気にかかる。この溢れる愛を止めるなんて、最初から不可能だってわかりきってるじゃん?
ギルは今日も『うめえうめえ!』ってジャガイモ食ってた。『そういや今年はまだ食べさせてないの』ってミーシャちゃんもクレイジーリボンにジャガイモ食わせていた。ヤバいリボンほどジャガイモを食べられるギルがヤバいのか、ギルほどジャガイモを食べられるリボンのほうがヤバいのか、判断に困るところだ。
朝食の後はクラスルームでのんびり。どうせ今日もやる気なんてあるはずもない。まだまだ新年二日目だし、のんびりできる時はのんびりするに限る。
……なんて思っていたところで、『──くん、いる?』ってステラ先生がやってきた。うっひょう。
『──くん、今日の夕方とか空いてる? ……ううん、一生のお願いだから、空けてくれない?』……ってステラ先生に涙目&上目づかいで頼まれたときはもう、俺の心臓だいぶヤバいことになっていたよね。
これはもう、間違いなく夜のデートのお誘い……ひいては、ディナーを一緒に楽しみましょうというお誘いに他ならない。そして朝からこんなにも決心した表情で俺に会いに来たということは、とうとうステラ先生が俺の気持ちに気づいて、人生最大の告白をしてくるという事実を示している。
『パパのそのポジティブすぎるところは、ヴィヴィディナに見習わせたい成り』ってパレッタちゃんにヴィヴィディナをけしかけられたのが解せぬ。『なんか普通によからぬ邪念を感じた』とのこと。このピュアな俺の一体どこに邪な心があるというのか。
ともあれワクワクしながら了承の意を返す。が、次の瞬間に『よかったあ……! 実はね、今日先生方の新年会……飲み会があって……!』とステラ先生は心底ホッとした表情。
デートのお誘いかと思ったら、まさかのサバトのお誘いだった。『骨は拾ってやるよ』、『どうした、先生からのお誘いだぞ。喜べよ』って、クラスメイトの大半から煽られたことをここに記しておこう。
ちなみに、今回は組長権限でポポルを巻き込むことに。『酒は俺が飲むから、飯はお前に任せる。美味い肉とかいっぱいあるぞ』って言ったら、『じゃあ俺も行く!』ってあいつも乗り気になってくれた。他の連中なら酒気だけでダウンするだろうけど、ザルのあいつなら処理係のお供として申し分ない。
『お土産よろしくなの!』、『おっきめのお皿何枚持てる?』って、ポポルはミーシャちゃんとパレッタちゃんにお土産をお願いされていた。彼女らもなかなか強かだと思う。
そんなわけで、夕方くらいに俺、ポポル、ステラ先生で職員用の豪華な食堂へ。あ、クラスルームを発つとき、ロザリィちゃんに『おねがい……! 無事に戻ってきてね……!』って涙ぐみながらハグされて、そして情熱的なキスをされた。これがあるから先生方の飲み会に参加するのはやめられねえぜ。
肝心の飲み会だけれども、今回も割とそうそうたるメンツ。ステラ先生、ピアナ先生、グレイベル先生、キート先生、ミラジフ、ヨキ、シューン先生……というおなじみのメンツはもちろん、テオキマ先生、アラヒム先生、ポシム先生と言った偉い先生方も。いつぞやのおじいちゃん先生もいたし、どっかの研究室の若手の先生たちも。
そして、『いやあ、今年も無事に新年会を開催することができて、実にめでたいですなあ!』って始まる前からテンションマックスのシキラ先生も。さすが諸悪の根源は違うなって思ったよね。
用意されていたメニューはもちろん豪華。名前も知らない肉のすごいやつとか、なんか高そうな魚のすごいやつとか。ステーキ、サンドイッチ、ムニエル、グラタン、カルパッチョ、ロースト、ガチっぽいスープ、揚げ物その他……と、バリエーションが豊富なのはもちろん、一つ一つのクオリティが段違い。
学生向けのそれって質より量だけど、こっちは質を確保したうえで量もすごい。名前は知らない料理がたくさんあって、思わず俺のおなか鳴っちゃいそう。
あとやっぱり酒の種類が凄まじかった。ボトルも樽もばっちり完備。ワインにウィスキー……なんかいろんな銘柄のがいっぱい。たぶん全部高級品。学生が飲むような安っぽいのなんて一本たりともなかった。
毎度のことながら、マジで先生たちの飲み会には金がかけられていると思う。その金をほんの少しでも、実習や実験の備品に回してくれと思わずにいられない。
なんだかんだで飲み会開始。この前と同じおじーちゃん先生が始まりの挨拶。『進級や卒業が危ない生徒……まだ進路が決まってない生徒もいますが、それを何とかする活力を得るために、今だけはそれを忘れて無礼講で楽しみましょう。明日は明日の自分が何とかしてくれるはずだと、そう信じるのが我々の強みだと思います』……という、色々心配になってくる文言ながらも、全体で和やかに乾杯。
乾杯直後に、ステラ先生をはじめとした若手の先生たちが俺にぴったりと付き添ってきた。『動けるうちに安全地帯を確保しておかないと』、『外聞なんて真っ先に捨て去るものですよね』、『ここに君がいるのを見て、心の底からホッとした』などなど、とても飲み会に来たとは思えないことを口走っていたっけか。
『と……隣は渡しませんからねっ! 彼は私の受け持ちの教え子ですからねっ!』ってステラ先生ってば必死になって俺の腕を取ってくれて最高に幸せだった。『じゃ、せっかくだし私も』ってピアナ先生まで反対の腕を取ってくれた時はもう、この世の天国かと思ったよね。
そんな感じで、若手は若手同士で固まって食事を楽しむ。『先生、お食事をお持ちしましょうか』ってキート先生がふざけて(?)動けない俺の代わりに食事を持ってきてくれたことをきっかけに、『先生、飲み物のおかわりはいかがです?』、『先生、今度代わりに授業をお願いできませんか?』って感じで何人かの先生にからかわれた。
ちなみにそのあおりを受けたグレイベル先生は【ボス】って呼ばれてた。もちろんそっちの意味である。
あと、俺があくまで付き添いとして先生たちと和やかに話していたのに、ポポルはそんなのお構いなしに会場をうろちょろして好きなモンを好きなだけガツガツ食いまくっていた。『付き添いってそういうことか!』って若手の先生の一人が感心していたのを覚えている。
そうこうしていたところ、『盛り上がってるねえ!』っておじーちゃん先生の登場。『君たち、気持ちはわかるけどこうも押し寄せたら彼の息が詰まってしまうよ』ってやんわり注意。さすがにおじーちゃん先生の言葉には逆らえないのか、みんな二歩だけ俺から離れた。二歩しか離れなかったともいう。
んで、『今日も付き合わせてしまって悪いね……。この前のカチコミ、すごかったよォ!』っておじーちゃん先生に褒められた。職員室でもあのカチコミは結構注目していたらしく、しばらくは話題がつきなかったのだとか。『今までいろんな生徒を見てきたけれど、酒瓶で止めを刺したのは君がはじめてだ』とのお言葉も。
そしてポポルは、おじーちゃん先生の皿にいつまでも残っている肉を見て、『じーちゃん、その肉食わないなら俺貰うね』って普通に肉を貰ってた。ホントこいつ怖いもの知らずだなって思ったよね。
おじーちゃん先生の方は『いいよいいよ、たくさん食べな……正直、本当に脂物がキツくて……』ってお皿ごと明け渡していた。もしかしたら、自分の孫の姿と重ねたのかもしれない。
『キミたちみたいな生徒がいるなら、わが校も安泰だ』……なーんて言って、おじーちゃん先生は俺とポポルの背中を優しく叩いて離脱。どこかの先生と違って、必要以上に構ってきたりはしない。『いい機会だから、好きなだけ飲み食いしちゃいなよォ!』って、割としっかりした足取りで偉い先生たちの方へと戻っていった。
で、だ。
和やかに飲んで、穏やかに食って……ってのがしばらく続き、とうとう終わりの時間へ。『我々はもうお暇させていただくから、あとは若い人たち同士で好きに……節度を守って楽しんでね!』って、おじーちゃん先生ほか偉い先生たちが帰っていく。
テオキマ先生、ポシム先生、アラヒム先生。チラッと見かけた女の先生……要は、忙しい先生や偉い先生だ。
ぱたん、と扉が閉まった瞬間、『ッしゃ二次会始めんぞぉぉぉぉッ!』、『無礼講の始まりだぁぁぁ!』って嬉しそうな声が響く。知ってた。
『なんだよ、他の先生とは仲良く話すのに俺には挨拶無しってかあ?』、『こんなに囲まれてちやほやされるだなんて、先生ちょっと妬いちゃうぞ!』……と、シキラ先生とシューン先生が絡みだしてくる。『ひえっ』って何人かの先生が後ずさりした。
『おかげさまで、楽しい時間を過ごせています』ってにこやかに微笑んだら、『ガキが変な遠慮なんてしてんじゃねーよ! 本当のお楽しみっつったらこれからだろうが!』って目の前にバカでかい樽が。一応扉を確認しに行ったピアナ先生からは『今日もガチガチに封印されてる……』って絶望の宣告。『下っ端同士、一年の始まりに相応しく盛り上がっていきましょうや!』ってシキラ先生がグラスを高く掲げでサバトの宣言。
そんなわけでさっそく酒バトルに。すでにほかの先生たちは俺にすべてを委ねることを決定しており、『我々はここで応援させてもらいます』って傍観の構え。『そんなこと言わずに一緒に飲みましょうよ~!』ってなお食い下がるシューン先生にはポポルを当たらせる。
ついでに、『そういえば、以前の飲み比べの報酬ってまだ受け取ってませんでしたよね?』ってシキラ先生を煽ってみた。『この野郎……!』って割とマジに睨まれたっけか。
書いていてくどくなるのでだいぶはしょるけど、とにもかくにも飲みまくったと思う。俺についてはすでに前回の飲み会でその実力が知れ渡っていたからいいとして、ポポルの方は『あの子……あの見た目ですごい酒豪……!』、『これ、下手したらグレイベル先生以上の逸材か……!?』ってすんげえ驚かれていた。
肝心のポポルは『にがい』、『うまくない』、『匂いが変』って終始眉間の皺を隠せてなかったけどね。『口直しになんか肉ちょうだい!』って顎で他の先生を使っていた気がする。つくづくあいつは怖いもの知らずだと思う。
俺のほうはぼちぼち。シキラ先生に付き合って延々と飲み続けていただけ。『さ、さすが……!』ってステラ先生の尊敬のまなざしが非常に心地よく、『ぎゅーっ! ってしてくれたらもっと頑張れると思うのですが』ってお願いしたくらい。『余裕ぶっこきやがってよぉ……ッ!』ってシキラ先生がさらにヒートアップしてしまったのがちょっと失敗だった。
割とどうでもいいけど、ほろ酔いのシューン先生とキート先生がアホみたいな話題で盛り上がっていたのを覚えている。『珍しいシマシマバトルしましょう!』とか言って二人で盛り上がり、結構マイナーなシマシマのうんちくを語りまくっていたような。
『知ってます? 最近メスしか生まれない、他種のシマシマでさえ自身の子のように愛情をもって育てる……ママシマシマが発見されたんですよ!』、『なんの! こっちは……獰猛で勇敢、そして他のシマシマにはない立派な鬣が特徴的な……獅子シマシマのサンプルをもらえることになってるもんね!』……などなど、悪酔いしたとしか思えない会話も聞こえてきた。
『…また学会の連中が大騒ぎだろうな』ってグレイベル先生は静かにグラスを傾ける。ママシマシマとシシシマシマが発見されたってことは、それに関連してまた新たなシマシマが累乗の形で増えていくのだろう。たぶん今この瞬間も、マシシマシママシマシマシマママシシシマシマくらいが生まれているのかもしれない。
なんだかんだで割と早めの時間にシキラ先生を潰すことに成功。正直なところ、他の先生たちのお話を適当に聞きながら飲んでいたせいで、肝心のシキラ先生の相手はほとんどしていなかった。おそらく、それが余計にシキラ先生を煽る結果となり、ペースを崩したシキラ先生は本来ならあり得ないタイミングで潰れた……のだと思う。
『潰れた人がいない飲み会だなんて……!』、『シューン先生も普通に起きてるぞ……!?』って凄まじいざわめき。『あるぇ? シキラ先生、夜はまだまだこれからでしょうよぉ~!』ってシューン先生が呻くシキラ先生を揺さぶってケラケラ笑っていたのを覚えている。
ステラ先生からは、『……ホントにだいじょうぶ? お水もらおっか?』って聞かれた。あとになって気づいたけど、俺も結構な量を飲んでいたっぽい。空瓶のラベルを確認していたキート先生が、『人間だったら三、四回くらいは死んでる量ですね』ってコメント。照れるぜ。
結局のところ、先生方の飲み会史上初めての被害者無しを達成。学生がいる手前魔法をぶっ放す乱痴気騒ぎにもならず、そもそもとして元凶の悪魔は一人に固執するあまり他に魔の手が及ばない……限りなく理想的なそれだったと言えるのだろう。
シューン先生自体はお酒にそんな強くないみたいだし、ポポルと言うちょうどよい処理係もいる以上、余裕とゆとりを確保した若手先生たちであれば楽勝で大勝できるってわけだ。
『次もお願いしますね、先生!』、『むしろ招待させていただきますね、先生!』……なんて和やかな冗談の言葉と共に、みんなで食堂を後にする。なんか思ったよりもあっけなく終わって拍子抜け。約束通り、お土産として余った料理を皿ごとクラスルームに持って帰る余裕まであった。『みんなも喜んでくれると嬉しいな!』ってにこにこしながらお皿を持つステラ先生が最高に可愛かったです。
あと、クラスルームに戻ったら遅い時間だというのにロザリィちゃんが寝間着姿で普通に起きていた。『……ん、おつかれ!』って生還の喜びのキスも。『……ちょっとお酒臭いけど、たまにはこれもいいかも』とのこと。まだまだ結構酒気が残っていたのか、ロザリィちゃんすっげえ真っ赤になっていたっけ。
ゆうめ……じゃない、風呂入って雑談して今に至る。結局ピアナ先生とグレイベル先生は普通に戻って、ステラ先生はそのままロザリィちゃんの部屋にお泊りすることになっていた。先生もお酒のせいで甘えんぼモードだったし、ロザリィちゃんが誘わなくてもそうなっていたことだろう。
ギルは今日もぐっすりと大きなイビキをかいている。今日も腹筋モロ出し。そういやこいつ、夜にトイレに起きているところを見たことが無い。体冷やしたりしないのかな?
ギルの鼻には……料理の飾りについていたフラッグでも刺しておこう。なんかついついポケットに入れちゃったんだけど、今になってどうして自分がそんなことをしたのかよくわからん。俺も酔っていた……そんなわけないか。
最後にトイレに行ってから寝ることにする。おやすみ。