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275日目 最強☆ギル

275日目


 なんでまだギル大人なの?


 あれ、俺昨日途中で寝ちゃった? でもベッドで寝てたよな?


 ギルを起こそう……とした瞬間に普通に目覚められた。腹立たしいことに『この感覚、本当に久しぶりだ』って、あいつ起きてるのに俺に起こされるのを待っていやがった。いい加減人を使って懐かしむの止めない?


 その後は普通に食堂へ。ギルの奴、『よーしよしよしよし……!』ってめっちゃグッドビールの顎のところをわしわしとかいてあげていた。『このころのお前はまだ小さいな……色もちょっと黄色味が強いか?』って抱っこしてかまってあげていたりもしていた。大人になったグッドビールはもっとデカいとかちょう怖い。


 『普通に大人なのがいまだに信じられないんだけど、それはそれとしてなんであいつまだ大人なの?』ってゼクトに聞かれた。そんなのこっちの方が聞きたいくらいだ。


 朝飯はなんとなくお野菜たっぷりサラダをチョイス。冬なのにこれだけの野菜を食えるとかこの学校はマジで食事にだけは手を抜いていない。それ以外の予算はめちゃくちゃ悲惨だけど。


 俺のお膝の上のちゃっぴぃに『あーん♪』したのに、あいつは『きゅ!』ってそっぽを向くばかり。でも、ギルが『ちゃんと今のうちからしっかり野菜を食べておけば、将来もっと美人になって親友に喜んでもらえるぜ?』って諭した瞬間、俺の指まで食う勢いでサラダに食らいついてきやがった。マジなんなのあいつ。


 『やっぱりそっくりだ……いや、あいつの方がこっちに似ているってほうが正しいか?』ってギルは意味深なことを。あと、なんでかロザリィちゃんがちょっと赤くなっていた。


 そしてやっぱり、『……うめえうめえ!』ってギルは噛み締めるようにジャガイモを味わう。『なんだかんだで、みんなで食う飯が一番美味いな……!』とも言っていた。今日はそういう気分だったのか、普通に俺たちと一緒に食堂に来ていたステラ先生も『それ、わかる……!』ってすんげえ勢いで頷きまくっていた。もしかしたら大人共通の悩みなのかもしれない。


 朝食の後はやっぱりクラスルームでダラダラ。『久しぶりにこっちでゆっくりさせてくれよ……』ってギルはソファを独り占めして寝転がっていた。ヒナたちの首根っこを掴んで自身の腹筋の上に乗せたりもしていた気がする。『そこそこの重さが腹に掛かってないと、逆に落ち着かないんだよ』とのこと。何気に結構わかってしまったのは何故だろう。


 『なんか……お休みの日のパパみたいなこと言ってる……!』ってステラ先生が嬉しそう。教え子の立派になった姿を見られて感慨深いのだろう。たしかに、同じようにソファでダラけるにしても、この大人ギルとフィルラドやポポルとではカッコよさに歴然の違いがあるのは否めない。


 『ちなみにいつもは何を乗せてるんだ?』って聞いてみる。『そりゃまぁ……おっと、こいつも言わないほうがいいな?』ってギルはにっこり。俺たちの知っている名前もあれば、知らない名前もあるらしい。一人はミーシャちゃんだとして、残りは何だろうね?


 さて、そんな感じでダラダラしていたところ、唐突に事件が。


 まぁある意味いつも通り、なんかヤバそげな魔法の気配がふっと強くなったかと思うと、外の方で大きな音が。硬いものをこすり合わせたかのような金切り音(?)に、悍ましい悪魔が地獄の底から咽び泣いているような怨念の籠った声、そしてやたらめったらと地面を叩きつけているような地鳴りを伴う音……と、ヤバいのが暴れているのは確定的に明らか。


 とりあえずみんなで外に出てみる。アエルノ寮の近くで、骨だけのドラゴン(尻尾のみ)が暴れていた。ヤバい。


 この尻尾の骨だけドラゴン、なんかやたらと奇妙と言うか、悍ましい感じがいっぱい。まず肝心の骨が変質していて邪悪な魔力を纏って黒ずんでいるし、妙にトゲトゲしく、武骨な感じになっている。刃のようなヤスリのような質感を鑑みるに、少しでも触れたらあっという間にズタズタになってしまうだろう。


 そんな骨が蛇みたいに暴れ狂っている。しかも、違和感はそれだけじゃない。『……なんか、見えない?』ってアルテアちゃんの指摘によくよく目を凝らしてみれば、骨から先……要は、本来なら胴体とか頭とかがあるところが丸ごと怨霊化している。怖い。


 『ふざけんなよこの野郎!』って対処に当たっていたラフォイドルが暗黒の刃をぶっ放す。怨霊部分は普通にすり抜けた。でもって骨尻尾の部分で普通に打ち砕かれた。その他アエルノの連中の魔法も、骨は丈夫で砕けないし、怨霊のところはスカスカすり抜けて干渉ができない。


 なのに向こうの攻撃は実体を伴ってこっちに効いてくる。怨霊部分に触れた瞬間に体がヤバい魔力に侵食されたり、逆に魔力をごっそり持っていかれたり。そして骨の部分は単純に物理的な攻撃能力がヤバい。元々生きていないしくっついてる大本(?)が怨霊なものだから、本来ならあり得ない不可思議な軌道で襲ってくる。マジ怖い。


 当然、被害は甚大。地面がボロボロで荒れ放題。幸いにして建屋にはまだ被害はなかったけど、それも時間の問題。


 『コイツと俺は相性悪いんだよ! どうせまたてめえらだろうが! 見てないで手伝え!』ってラフォイドルが怒鳴ってきたのでしょうがなくルマルマ……というか、駆け付けたティキータやバルトも助太刀に入る。


 というかあいつ、なんでルマルマのせいにしたのか。アエルノのほうに出てきたんだからアエルノのやらかしに決まっているのに。あいつらの悪逆非道な行いに心当たりは多すぎるとはいえ、まったくやんなっちゃう。


 ただ、骨だけドラゴンの方はそうも言ってられない感じ。ラフォイドルの暗黒が効果薄いってんで光魔法や神聖魔法を試してみたけど、それすらあまり効かず。怨霊部分にちょっとは効果あったけど、基本的に骨尻尾で迎撃されたし、骨尻尾に効きそうな魔法は怨霊部分でスルーされる。こんなのどうしろってんだ。


 連射魔法、射撃魔法は怨霊スルーおよび骨でやられた。呪、光魔法、神聖魔法は骨でやられた。罠魔法、具現魔法、クレイジーリボンは怨霊でスカる。……書いてて思ったけど、結局大抵の魔法は骨も怨霊も突破できないんじゃね?


 ちなみに俺の吸収魔法もあんまり効かず。吸い尽くしてやろうとしたのにしゃぶりつくしたジャーキーのように中身が無くてほとんど何も吸い取れない。ひどくない?


 物理的にも魔法的にも弱点らしい弱点がないヤバい奴。これはもう足止めに徹し、先生方や上級生に任せるべきか、せめてこの場に引き付けておくくらいはしないとな……って思ったところで、『……そろそろ俺の出番かな?』ってギルが躍り出た。


 『ここはいっちょ、大人の実力ってものをみせてやるか』って、ギルは俺たち全員に下がるように告げる。霊体ゆえに物理的に殴れないし、実体と霊体……そもそもアンデッドという体の分離ができる、寄生魔法が効果的とも思えない相手。なのにギルはめっちゃ余裕そうで、不敵な笑みさえ浮かべている。


 で、だ。


 ギルの奴、骨だけドラゴンを目の前に、構えを取るどころか……ポケットに手を突っ込んだ。今からおっぱじめようって言うのに、イキったガキみたいに得意げな様子。そのまま、『……どうした、来いよ。ハンデとしちゃちょうどいいだろ?』って挑発。


 『せめて拳は構えろよこのバカ!』って思わず叫んじゃった俺。それでもギルはその大きな背中で、『せっかくだ、親友たちに今から良いものを見せてやろう──大人からのちょっとしたプレゼントだ』……って、骨だけドラゴンが目の前に迫り来ているというのに語る。


 次の瞬間、なんか心臓を鷲掴みにされたような悪寒が。


 ぞくり、と空気そのものが震えた気がする。


 そしてそれは、俺だけじゃなかったらしい。ポポルも、フィルラドも、アルテアちゃんもロザリィちゃんも……なんかみんな、『うっ』ってなって心臓を押さえていた。『どうしたの!?』ってライラちゃんが心配するくらいに、ルマルマみんなの顔が青ざめていたと思う。


 『あ──! ギルくん、まさか──!』ってステラ先生の声。この時にはもう、勝負は決まっていたのだろう。


 『──魔神RumaRuma:ディアボリ・カルネス』の囁きが聞こえた瞬間、骨だけドラゴンの巨体が吹っ飛ばされた。


 俺たちには、何も見えなかった。ただわかっているのは、ギルがポケットに手を突っ込んでいるのに、骨だけドラゴンは圧倒的な力を持つ何者かに思いきりぶん殴られたということだけだ。


 『どれ、もういっぱつ……今度はお前ら、よく見とけよ』ってギルはそのままゆっくり進む。立ち上がり再び襲い掛かってきた骨だけドラゴンが、またしても何かにぶん殴られ、その頭蓋がヤバい感じにベコベコにへこむ。霊体のはずのそれなのに、こっちが見ていて気の毒になるほどのダメージであった。


 この時になってようやく、ギルの背後に何かがいることがわかった。あのギルよりも二回りほど大きい、筋肉質な……異形の人型だ。それはギル自身と魔力の霧……霧なのか? なんかともかく魔力で繋がっていて、恐ろしいことにギルの魔力とほとんど同じ気配がした。


 ……ほんの少し、全く別の魔力も混じっていた。異質で、異常な……いつもの異常魔力雰囲気と同じ魔力だ。


 『見えたか?』ってみんなに聞いてみる。『人っぽいのがいる……?』、『全体がぼやけてるけど、右腕だけ少しはっきり見える……』、『大体同じだけど、左足の方がしっかり見える』……などなど、ルマルマの人たちなら割とそれが見えていたっぽい。どういうわけか、人によってしっかり見える場所が違ったみたいだけど。


 そしてティキータやアエルノの連中は『何かいるのはわかるが、見えない』、『うっすらは見えるような気がするけど、それだけだ』……って、まるで見えていない感じ。


 『ま、二年生だしな。こんなもんだろ』ってギルはここにきてようやくポケットから手を出した。『──行くぜ?』って呟いた瞬間には、すでに骨だけドラゴンの懐の中に。


 『オラァッ!!』って盛大な腹パン。あの巨体が綺麗に真上に吹っ飛んだ。魔力の衝撃が、打点を中心に円形の波紋として広がったのが俺たちにもわかった。


 成す術もなく吹っ飛んでいく骨だけドラゴン。そして、またしても不可解なことが。


 吹っ飛ばされたはずの骨だけドラゴンが、見えない何かによって盛大に叩き落された。見えない何かがギルを離れて空中に先回りし、そのゲンコツで叩き落した……ってのが、俺にかろうじて見えた光景。


 そして叩き落された骨が地面に激突する直前、『ふんッッ!!』ってギルがさらにそいつを蹴り飛ばす。蹴り飛ばされて吹っ飛んでいったその先には、やっぱり見えない異形の人型が。こう……右手と左手を組み合わせて、上から振り下ろすアレで骨だけドラゴンは叩きつけられ、首が変な方向にへし折れた上、地面に盛大な地割れが。


 わずかでも見えていた俺たちでさえ驚愕を隠せない。ほとんど見えていなかった連中にとっては、吹っ飛ばされた骨だけドラゴンがさらにいきなり変な方向に吹っ飛び、勝手に叩き潰されたようにしか見えなかったことだろう。


 ギルは一人で戦っているんじゃない。見えない何かと協力して戦っている。……今にして思えば、ギル一人でも楽勝だったような気がするけど。


 最後にギルは、『あまりいたぶるのも俺の趣味じゃないんでな。……ここらで終わらせてもらう』って宣言。朧げな異形はギルの体の中に戻っていく。


 『……これが、使い方の一つだ。よくよく覚えておくといい』ってギルの中で魔力が異常反応。いや、爆発していると言ってもいい。


 『──魔神RumaRuma:ディアボリ・カルネス』って囁きが再び呟かれ……ここでようやく、俺たちはギルの顔をしっかりみることができた。


 ギルの左目に、ルマルマの紋章が光り輝いている。神々しくて、なぜか懐かしささえも覚えるのに、ずっと見ていると飲み込まれて戻ってこれなくなるような……そんな、深い魔力の光だった。


 そして、ギルの右腕が変質。異形化……なのだろう。黒く禍々しい異常魔力を宿し、寄生魔法要素に変質寄生された影響か、黒く硬質化している。金属のように煌めいていて、魔力があまりにもあふれてしまったのが、一部が魔晶化して析出していた。


 『じゃあな』って、ギルは軽く腕を一振り。


 たったそれだけで、骨だけドラゴンは断末魔の叫びすら残さず消え去った。


 終わってみればあっという間。骨だけドラゴンの気配は欠片も残っていなかったし、ギルから発せられる奇妙な魔力も霧散。破壊の跡が残っていなければ、そこでヤバい化け物が暴れていただなんてとても信じられなかったことだろう。


 何より、ギルが使ったあの使い魔(?)が非常に気にかかる。あいつ確かに魔神ルマルマって言ってたし、それにギルがあんな魔法を使える……使えるようになるとはとても思えないというのに。


 『ギルくん……! そっか、第三段階まで進んでるんだね!』ってステラ先生だけはいろいろ事情を解っている模様。『左目もカッコよかったねえ……!』って、ルマルマの紋章が浮かんだことについても特に疑問を持っていない。


 『今から思えばちょっとミーハーだなって思うんですけど、俺の場合、ここからしか入れられなくて』ってギルは言っていた……マジでいったい何があるんだ?


 クラスルームに戻った後に問い質してみる。『そのうちわかるさ。嫌でも向き合うことになる』ってギルははぐらかすばかり。『ただ、俺たちみんな、あのステージまでは行けるぞ。いや、行かざるを得なかった』という意味深な発言も。『むしろ俺なんかは単純な威力だけしかないからな。お前たちの方がはるかにすごいぞ』……なんて、ちょっと信じられないことも。


 『力、か……男なら憧れるよな』、『なんかそう言われてもあんな強くなれる想像ができないんだけど』ってクーラスとポポルが呟く。女子も大体似たり寄ったり。『歯が立たなかった相手を一方的にボコボコにしたのにそんなこと言うなんて、ギルじゃなきゃ皮肉か嫌味だって思うわ』とも。俺もそう思う。


 一応、ギルはヒントだけはくれた。『俺の背後にいたアレは、俺自身であり……そして、俺たちだ。ルマルマそのものと言ってもいい』、『気づけ。もっと周りに目を光らせて、あらゆることに疑問を持て。俺たちが生きているのは現実であり、魔系の世界だ』、『人ってのは、案外身近なことにこそ気づかないもんだぜ?』とのこと。


 『そ、それ以上はダメぇーっ!』って慌ててギルの口を塞ぐステラ先生が最高に可愛かったです。


 結局、それ以上はギルは何も答えてくれなかった。『バカな俺でさえ何とかなったんだから、お前たちなら大丈夫だ』って笑うだけ。 ギルのくせに俺に隠し事するとか、本当にマジでどうなってやがる。


 なんだかんだでそんな感じで一日を過ごす。夕飯もギルはしっかり食べて、風呂も『久しぶりにアクアカーニバルやるか! 今の俺は学生だもんな!』って堪能。やっぱ頭の中身は変わってないのか?


 でも、雑談の時だけは違った。『んじゃ、そろそろ帰る。……楽しかったぜ!』って普通に言ったのね。


 『色々話したいし、正直まだもう少し学生気分を味わいたいが……大人はそうはいかないんだ』ってなんか俺たち一人一人の肩を叩いてきた。男子はもちろん、女子も、ステラ先生にも。使い魔たちの頭も撫でていて、別れを惜しんでいた。


 『たった一言だけ、覚えておいてほしい……【今を、全力で楽しめ】。たぶん、俺以外の誰かがこうして学生時代に戻ったとしても、みんな同じこと言うはずだぜ?』ってギルは笑ってた。


 最後にギルは、『……じゃあな、ハニー』ってミーシャちゃんのほっぺにキス。『あんまり刺激的なのは、こっちの時代の俺に妬かれちゃうからな』っていらずらっぽく笑う。


 寂しそうにしていたミーシャちゃんは、『……ん!』ってギルのおでこにキスして





 ちくしょうあの野郎起きてやがった。普通に肩叩かれてビビった。


 というか日記書いているところガン見しやがってた。完全に気配を消して……気配そのものを寄生魔法で喰らっていやがっ




 それがわかるってのはさすがだな。あと、恥ずかしいことは書かないでくれよ。


 夜遅くまで勉強しているのはしってたけど、本当にこんなにしっかり日記書いてたんだな。


 ひどくねえ? 親友、お前俺の鼻になんてことしてるんだよ。


 俺バカだからさ。親友が日記付けているのを知ったのは……いや、内緒にしておくか。


 すげえな、さすが親友。体押さえつけているのにめっちゃ抵抗している。俺が相手じゃなきゃ部屋ごと吹っ飛んでたんじゃないか?


 じっくり読みたいが……そんな時間もなさそうだ。やっぱ俺、親友みたいに魔法を使いながら別のことするのは苦手だよ。


 とりあえず、俺は俺の時代に戻る。そのためには……【異界の門鈴の音色を染みわたらせ、ヴィヴィディナの鱗粉と四属性の友陣砂を混ぜたものを塗したジャガイモ】を鼻に突っ込めばいいらしい。


 あった、これか。親友の奴、ちゃんと瓶詰めしてきちんと保管してるじゃん。月も満月、星の並びも……問題なし。


 今更机を漁ることくらい許してくれ……と、こっちには書いておこう。あと、あんまり暴れると隣の奴らを起こしちまうぜ?


 ちなみに上のレシピは未来の親友が教えてくれた奴だ。たぶん、親友は……この日記のおかげで、未来において俺がいつこの時代に飛ばされるか理解していたんだろうな。だから、【あんまり変なこと言いふらすな】だとか、色々諸々忠告してくれたんだろう。


 やっぱすげえよ親友は。この日記と自分の記憶だけで、十五年後のいつがその日なのか、きっちり当てちまうんだから。読み返してみても、俺じゃ全然特定できないのに。


 えーと、今読んでる親友へ。


 その証拠に、ここに未来の親友から今の親友に向けた手紙がある。『骨は倒さなくてもいいし、最悪魔神も見せなくていいが、これだけは渡せ』って言われた奴だ。


 だけど、ちょっとわがままさせてもらうぜ?


 ああ、床に押さえつけてる親友が変な顔してる。そりゃあ、目の前で取り出した未開封の手紙をビリビリに破って消し飛ばしたんだから、そう思わないはずがないか。


 やっぱさ、何でもかんでもアドバイスしたり、思い通りにするってのは面白くないだろ? 今日と言うこの日を俺は伝聞でしか聞いていなかったけど、若い俺たちに未来を教えるような真似は……選択肢を狭めるような真似は良くないって俺は思ったんだ。


 だからこそ、親友は俺にああいう忠告をしたわけだろ? 自分に都合のいいメッセージだけを送るってのは、フェアじゃないよな?


 もしかしたら、俺のこの行いのせいで未来は変わるかもしれない。でも、それはそれで一つの可能性として、俺たちとは違う俺たちが、俺たちらしく生きてくれるんじゃないかな。


 何が書いてあったのかは俺にもわからない。未来なんて本来そんなもんだ。


 一つだけ、確かなのは……


 未来はすっげえ楽しいぞってことと、それに負けないくらいこの学校生活はかけがえのないものになるぞってことだけだ。


 ああ、文章を書くのも疲れた。親友は毎晩もっとたくさんの文章を何年も書いていたんだよな。やっぱすげえよ。授業の後も化け物退治のあとも欠かさずやっていたとか、俺じゃ三日で投げ出すな。


 そうだ、一つだけ気になっていることがある。


 俺の鼻に↑のやつを突っ込めば、今の俺が未来に還れる……ってのは、未来の親友が教えてくれたことだ。


 その未来の親友は、こうしてこの日記に書き込まれたからこそそれを知ることができたんだろう。


 でも、この日記を書いた俺は、その事実を未来の親友から教えてもらったからこそ書けたわけで……。


 つまるところ、この方法を一番最初に見つけたのは誰なんだろうな? 初めて聞いた時から、ずっと不思議に思ってたんだよ。


 一応書いておこう。明日にはこの時代の俺が戻ってくる。


 だけど、あんまり詮索してやるな。男として。


 尤も、答えようとしても答えられないけど。


 大丈夫。この時代の俺は未来で刺激的な体験をして楽しんでいるから……俺自身にその記憶があるしな。


 “だいぶ長くなったけど、こんなもんだろう。そろそろ筆をおくことにする”……どうだ、親友っぽい締めになったか?


 俺バカだから、親友みたいにカッコよくは終わらせられない。だから、シンプルに俺自身の飾らない言葉で終わりにするな。



 ──楽しかったぜ、親友。またいつか、未来で会おう。またな! 【ギル】

 





※明日が大晦日だよな? ゴミは全部捨てとけよ。たぶんベッドの下の秘蔵のジャガイモの底にあるほう全部腐ってるわ。鼻に突っ込んだのは良いけどすごい変な匂いする。

※明日が大晦日とのことなので、明日の投稿時間はちょっと変則的となります。一年目の日記の後からそのまま休まず投稿していれば、たぶんこっちでの大晦日の時とタイミングが合ったのかな……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一年目でステラ先生が出していた纖天使もこの類いですかね?ただの得意魔法かも知れませんが…。 しつこい質問にお付き合いいただきありがとうございます。
[気になる点] ↓と思ったけどそもそもクラスの名前自体が実際の魔神の名前を元にしてるのか?
[気になる点] そもそもとしてクラス構成に何かしらの仕掛けがあるってことか。ティアトもやってるわけだし。最終的に何かしらのリミッターを外して解放したそれを自分の得意魔法を軸に紋章に封印、的なことを魔系…
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